October 01, 2008

エコだけで満足していないか

つい先日、低炭素社会を目指すとスピーチしていた福田氏は首相の座を去りました。


その前の“Cool Earth 50”を表明した安倍氏と続けて1年足らずで日本の首相が変わりました。2代続けての無責任な政権放り出しには非難が集まっていますが、国内的にだけでなく、世界からも日本の政治に対し不信感を持たれる事態であることには間違いありません。

洞爺湖サミットに向け、環境保護と気候変動の討議を先導すると世界に対して大見栄をきった安倍氏は、そのサミットにはいませんでした。後を受けた福田氏もサミットの議長総括の中で、新興国とも長期目標を共有し、国連交渉で採択されるようリーダーシップを発揮したいと言いましたが、何もすることなくあっさり辞めてしまいました。

もちろん、首相だけが外交を行うわけではありませんが、こんなにも簡単に政権を放り出してしまって、外務大臣も環境大臣もコロコロと代わるようでは、温暖化対策で世界をリードするどころではありません。相手にしても、腰を据えて話し合う気にならないでしょう。

低炭素社会..さて、その2012年に期限が切れる京都議定書後の国際的な枠組みづくりですが、EUが主張するような、国ごとに数値目標を盛り込む方法で合意を得るのは容易なことではありません。アメリカは具体的な削減量を割り当てられることに抵抗していますし、もちろんアメリカが入らなければ意味がありません。

仮に先進国で合意できたとしても、途上国はまず先進国が削減すべきとして、途上国が数値目標を課せられることを受け入れようとしていません。このような状態では、よくて妥協の産物が生まれるだけ、悪くすれば決裂、実効性のある国際的枠組みがスタートして、現実に温室効果ガスが減っていくことにはなりそうにありません。

高い危機意識を持ち、必要な削減量を達成するため野心的な目標を掲げることは、理念として間違ってはいません。しかし、あまりにハードルが高ければ交渉はまとまりませんし、無理やり決めても、結局は京都議定書の米国のように離脱したり、カナダのように断念する国がでて、実効性が上がらないのは目に見えています。

京都議定書で削減義務を負う国の排出量合計は、世界の総排出量の3割にしかなりません。強硬に数値目標を拒否する途上国に義務を負わせず、先進国にだけ大きな数値を課すならば、先進国の製造業は、削減義務のない途上国に出ていくだけです。結果として京都議定書と同じように実効のあるものとはならないのは自明です。

削減のための手段として排出権取引の導入を主張していますが、これも疑問と言わざるを得ません。取引の前提となる国ごとの割り当ての決め方も問題でしょうし、排出権をやりとりするだけでは、排出量に余裕がある国から排出権が移転するだけで、実際に排出が削減することにならない可能性があります。

莫大な投資をして省エネ技術の開発をするより、排出権を買ってくる方が安くつくので、研究開発が停滞する恐れもあります。そして、現状なら原油や商品先物と同じように、排出権取引市場に投機的資金が入り込むのは必至です。バブルが発生し、それが崩壊する恐れも充分にあるでしょう。

日本人だから言うわけではありませんが、やはり日本が主張しているセクター別アプローチを入れるべきだと思います。鉄鋼や電力、ビルや運輸といった部門分野別に、実際にある技術を導入してエネルギー効率を上げることで削減可能なCO2の量を算出し、それを積みあげて各国の削減可能な量を割り出す方式です。

現実に技術的裏付けのある数字を積み重ねることで、実際に実現可能な削減量が導かれます。例えば、日本並みの技術が世界中で導入されるならば、鉄鋼なら3億トン、電力なら19億トンのCO2が削減されることになります。これは、世界の実際の排出量263億トンと比較しても、充分に意味のある量なことが分かります。

地球規模の課題日本が提唱するこの方式は、確かに日本に有利な方式かも知れません。しかし、過去の省エネ努力が反映された公平な方式と言えるのも事実です。何の裏付けもなしに、ただ必要だからと言って、あなたの国は何年までに何パーセント削減しなさいと言われるより、削減方法が見えている分、よっぽど現実的なことは間違いないでしょう。

部門別なら、国が違っても比較しやすく、それを積み重ねれば、どこの国に削減余地が大きく、また削減効果が大きいかも明確になります。効率よく資金も投入することが出来、実際に効果の高い順に温室効果ガスを削減していくことも可能でしょう。

途上国や新興国にとっても、先進国からの援助の形で自国への設備投資が期待でき、経済波及効果も見込めます。自国の産業のエネルギー効率が向上すれば、コストの削減になって国際競争力も増します。途上国にも受け入れやすい方式であり、現に中国なども、日本のこの提案を評価しています。

途上国や新興国にもメリットがあって、今まで削減義務のなかった韓国やシンガポールなどの事実上の先進国も含め、全ての国に参加させることが出来る可能性があります。先にも述べたように、削減義務のない国を作ったのでは、製造業などは移転すれば済んでしまうわけですから、この全員参加は重要な意味があります。

EUは、この方式では必要な削減量に届かないと言います。しかし、理想にこだわり、いたずらに時間を費やすのも得策とは言えません。実現可能な土台を築いた上でどれだけ上乗せ可能かを考えた方が現実的でしょう。現在ではその排出量が半分以上を占めていることを考えても、途上国が参加出来なければ意味がありません。

もちろん、途上国もセクター別と言いながら国別削減義務を負わせることに反発もあるでしょう。日本が厳しい削減目標から逃れようとしていると見る向きもあります。セクター別アプローチであっても国際的な合意を得るのは容易なことではありません。しかし、全ての国に参加を促し、合意を得る上で有効な考え方だと思います。

今後予測される人口増加や新興国の経済発展を含めて考えると、2050年までに地球規模で排出半減を実現するには、仮に先進国の排出量をゼロにしたとしても、途上国の排出量を60%も削減しなければならないという厳しさです。確かにセクター別アプローチでは不足ですが、まず出来ることを一刻も早く始めるべきです。

こうしたアプローチを進めながら、更なる技術革新を目指すべきでしょう。いずれにせよ大幅な技術革新がなければ、50年で半減は不可能です。最初から不可能な数値目標を定めて離脱国が続出したり、先進国から製造業が移転して雇用が失われるような事態になっては、その技術開発も不可能になってしまいます。

中国が米国抜いて第1位地球温暖化の問題については、今や世界の関心事であり、日本国民の間にもその重要性が浸透してきています。身の回りでも、冷房温度を上げたり、シャワーで使う水を節約したり、アイドリングストップをしたり、クルマをやめて自転車にするなどの話が日常的に出たりします。

マイバッグを使ったりすることで、少しでも温暖化ガスの排出削減に貢献しようと心がける人も増えてきました。そうした一人ひとりの心がけは、とても大切なことですが、我々が微々たる排出削減に努める一方で、お隣の中国では膨大な温暖化ガス排出を増やし続けて、とうとう世界一の排出国になっています。

アメリカに行けば、日本人には寒くて信じられないほど冷房を効かせた建物はいくらでもありますし、相変わらず燃費の悪い大型車も大量に走っています。私たちが、シャワーの水をこまめに止めて涙ぐましい努力をしているのが馬鹿らしくなるほど、エネルギーを無駄に使っています。

意識の高い日本人の地道な努力を無駄だと言うつもりはありませんが、問題は世界レベルでの話です。我々がいくら努力しても、他の国で湯水のようにエネルギーを消費して二酸化炭素を排出すれば、温暖化ガスなど減るはずがありません。実際に世界のCO2排出量は2000年以降、際立って増加しています。

例えば、町内をきれいにしようというレベルの話であれば、地道にゴミ拾いをするのも無駄ではないでしょう。ゴミを拾おうという人も増えてくるかも知れませんし、いつかゴミを捨てる人も気づいて、捨てないようになってくれるかも知れません。チリも積もれば山となります。

しかし、温暖化ガス削減は待ったなしです。いつか他の国の人も見習ってくれるだろうなどと悠長なことを言っているヒマはありません。こうしている間にも世界の温暖化ガス排出が増え続けているわけで、そんな時にシャワーを短くしようとかやっていても、全く埒があかないどころか、努力の方向が間違っていると思えてきます。

削減量などを抜きに、エコな心がけというだけで満足している人もいますが、私たちが多少心がける程度では、地球規模での温暖化ガスの削減が達成できないのは明らかです。日本だけの取り組みでは無理ですし、我々の取り組みにしても、到底充分と言えるレベルではありません。

温暖化ガスを削減しようという心意気は買いますが、方法論はもっと考える必要があります。仮に、イヤになるほど努力をして、日本だけ削減目標をクリアしたとしても、他でそれ以上に増えていれば、「地球の温暖化」は止まらないのです。本当の目的は温暖化ガス削減割当てを達成することではなく温暖化を止めることなのです。

果たして?日本でも、実際には京都議定書の6%削減すら達成できず、むしろ8%増えていると言います。そもそも既にエネルギー効率の高い日本では排出削減余地に乏しいわけで、同じ金額をかけるのであれば、それを途上国での対策に使えば、はるかに大きな効果が得られるのは明らかです。

まず世界で温暖化ガス削減の枠組みをつくり、少しでも早く始めなくてはなりません。そしてその中で有効な手立てや、効果の高いことから優先して実施し、地球全体で少しでも多くの温暖化ガスの削減を実現しなければなりません。国ごとのエゴや利益で対立していれば、地球の利益が損なわれるのは間違いないのです。

そう考えると、国際的な枠組みづくりを真剣に進め、早く合意を達成することがまず求められます。日本政府には、その為のあらゆる努力が求められるわけです。本当なら、来るべき衆議院議員選挙で、その努力が重要な争点の一つになっていても良さそうなものです。

今、小手先の景気対策では、あまり効果が上がらないだろうと多くの人がウスウス感じています。無駄で中途半端なバラマキは、結局は将来にツケ回しされ、我々が税金として負担するだけです。しかし、温暖化ガス削減のツケ回しは、それとは比べものにならないくらいの莫大な負担となって、将来我々にかえってくるでしょう。

具体的な省エネと違って、国際的合意を進捗させるため、我々が出来ることは多くありません。しかし、政府や国会は世論によって動きます。少なくとも議員や大臣は選挙がありますから、有権者の意向に沿わないわけにはいきません。つまり我々有権者一人一人が、このことを強く求めていく必要があるのです。

日々の省エネをしなくていいとは言いません。しかし、少しだけでも省エネをしていることに満足し、あるいは企業の省エネという宣伝に踊らされているだけの人も少なくありません。もっと物事の本質を見て、本当の目的は何か、その実現には何が効果的で、何がほとんど意味がないか、もっと認識すべきではないでしょうか。



麻生首相は、閣僚発表の記者会見で、地球温暖化に関して、「今年はまだ台風が一度も上陸していない。こんなことは過去に例がない。」と台風上陸を例にあげました。しかし、実際には過去30年で3回も上陸ゼロの年があります。おそらく思いつきで口にしたのでしょうけど、調べればすぐにわかるのに、いい加減な発言です。
台風の進路なんて、むしろ複雑な気象現象が影響するので、直接温暖化と結びつける科学的な根拠はありません。例としては 『甚だ』 適切ではないことを 『なんとなく』 口にするのも 『いかがなものか』 と思うんですけど(笑)。

関連記事

日本のカタチを考えるべき時
もちろん国内でも、将来の国のあり方を考えていくことは重要だ。

どれだけ効果が見込めるのか
もちろん、さまさまな温暖化ガス削減策が無駄なわけではない。

本当に有効な行動がとれるか
少なくとも、企業のうわべだけの宣伝に惑わされるべきではない。


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