November 24, 2008

自転車にも使いたい自然素材

いつの間にか、知らないうちに持っているものがあります。


「先入観」もその一つでしょう。そして、それは時として、その先入観をもった対象について、よく知るチャンスを奪います。個人的に、最近もあらためてそう感じたことがありました。先日も記事にしたサイクルモードで、その名の通り、竹で出来た自転車Bamboo Bikeを見た時のことです。

Bamboo Cross実は、過去にも竹でできた自転車を何度か取り上げたことがありますが、ユニークではあるものの、実際に市販されるような自転車ではないと思っていました。今のような金属加工技術の無かった時代に例外的に作られた過去の自転車、あるいは、特殊で特別な自転車だと考えていました。

過去にあった竹製の自転車は、博物館に展示されるような過去のものや、個人が趣味で作ったもの、フレームメーカーなどが技術力を誇るためのもの、展示会などで観客の目をくためにアイキャッチ的に使われるもの、コンセプトモデルなどとして試験的に製作されたものがほとんどではないかと思います。少なくとも以前はそうでした。

素材として安く手に入り、軽くてしなやかだが十分な剛性を持ち、振動をよく吸収する特性があるなど、決してナンセンスなものではないとしても、加工の難しさなどから、実際に一般の人が乗るような自転車ではないとの先入観がありました。そしてその先入観のために、あまり興味を惹かれなかったわけです。

Bamboo Bikeを見た時に、ああ、また竹製の自転車が制作されたんだな、くらいにしか思いませんでした。先日も記事にしたように、試乗したり多くの展示を見るのに忙しく、チラリと見て通り過ぎてしまいました。実際、後であらためてこの自転車の存在を知った時、そう言えばあったな、くらいの記憶しかありませんでした。

しかし、この竹製の自転車、オーダーメイドで販売台数は多くありませんが、立派に市販されている製品なのです。さすがにいい値段がしますし、誰もがチョイスするような自転車ではないものの、一部にコアな支持者を持つマニアックなスポーツバイクなのです。

Bamboo BikeBamboo Mountain Bike

重さは、最新素材のモデルと比べると決して軽いとは言えませんが、トライアスロンのトップ選手が最新素材のモデルから乗り換えるほどの魅力を持つと言います。路面からの振動を吸収して疲れにくいからか、このバンブーバイクのほうが最新素材のバイクより速いタイムが出ることもあるそうです。

ご存じの方も多いと思いますが、このBamboo Bikeを製造したCalfee Design社は、カーボンフレームのモデルで有名なアメリカのメーカーです。同社のフレームはツール・ド・フランスも制しています。ほかにも、アイアンマンレースなどの世界レベルの大会で一流選手が使用していることでも知られています。

同社の代表、Craig Calfee氏は、知る人ぞ知る自転車製造のオーソリティで、カーボンフレームのフロンティアでもあります。ちなみに、彼が竹で自転車を作ることを思いついたのは、彼の愛犬のお陰だそうです。つまり、何でも噛みつき、噛み砕いてしまう飼い犬のルナが、竹には全く歯が立たないのを見たのがきっかけだと言います。

カルフィーデザイン社でも、やはり最初は宣伝活動のために竹製自転車を製作しました。そして当初は、同社の従業員や親類や友人などの一部の関係者しか乗る機会がありませんでした。ところが、その性能は無視するには惜しいくらい優れていたので、製品として生産されることになったわけです。

Ken Runyan's Ironman BikeBamboo Bikeは、オーダーメイドなので台数は限られますが、竹に熱処理を加え、エポキシ樹脂などを使って仕上げてあります。実際に竹は自転車のフレームとして理想的な材料だと言います。大部分の金属より強く、道路からの振動を非常によく吸収します。重さもアルミニウムに匹敵する軽さです。

素材として、金属よりはるかに環境負荷が小さいことも、昨今の消費者の志向に合致しています。走行性能、乗り心地とともに、グリーンでエコな素材としてアピールしています。ただ、今のところ大量生産には向いていません。そのため、現在量産に向けた実験が行われています。

その実験とは、竹の生育を慎重に配置された障害物によって阻害することにより、フレームとして理想的な形、カーブを持った竹を育てようとしているのです。彼らは、これを日本の盆栽に例えています。なんと、竹の生育段階で成形してしまおうという発想により、量産を目指しているのです。

盆栽は、小さな鉢の中で、自然の樹木と同じような景観を表現するため、木々の枝に針金を巻くなどして、思い通りの枝ぶりをつくろうとします。その成長をコントロールするわけです。これと同じような考え方で、本来まっすぐ伸びるはずの竹をカーブさせようというわけです。実現すれば、量産可能になるとともにデザインも向上します。

The Bamboo Bike Projectさらに、同社では発展途上国で竹から自転車を製造するための援助も行っています。発展途上国において、自転車は極めて重要かつ貴重な輸送・交通手段です(関連記事参照)。人々の移動や水や食料などの輸送に徒歩の6倍もの効率をもたらします。この竹製自転車、実際に西アフリカのガーナでプログラムが始動しています。

竹は多くの国で原料として輸入する必要がなく、栽培も簡単で、乾燥した場所でも最小限の灌漑で育ちます。工場も電動工具が不要なので、エネルギーや設備に大きな投資を必要とせずに途上国の人々に雇用を生み出します。大工場で量産出来ないので、先進工業国との間でも競争上不利にならず、労働集約的なぶん雇用も大きくなります。

過去にもアフリカで自転車を活かそうとする試みについて、いくつか取り上げたことがあります(関連記事参照)。先進国の人々にはなかなか実感できませんが、それらの取り組みと同じように、このプロジェクトが発展途上国の人々にもたらすものは、重要で貴重なものであるのは間違いありません。



その素材の奇抜さ、量産化への実験、ガーナで活躍する竹製自転車の社会的意義も含め、Bamboo Bike、とてもユニークな存在です。スポーツバイクとしては、まだ一部のマニアックなファンの関心を集めるに過ぎないかも知れませんが、もはや単なるアイキャッチや、面白自転車ではありません。

サイクルモードで展示されていたBamboo Bikeも、初めて竹製自転車の存在を知った人なら、その独創性に驚き、よく見た人も多かったことでしょう。私は竹でつくられる自転車について多少の知識があり、知らないうちに先入観が出来ていたために、見逃してしまいました。

せっかくの「市販されている竹製自転車」をナマでよく見る機会を失い、それが決して、単なるコンセプトモデルや試験製作でないことを知る機会を逃すところでした。たまたま他で知ったからいいようなものの、何事も先入観だけで迂闊に判断してはいけないと改めて思い知らさました。

話は飛びますが、先日、自転車協会が新基準を導入するというニュースがありました。


「安全・環境基準適合車」認定証マーク廃棄しても環境に優しく 自転車協会が新基準導入


自転車メーカーや輸入業者などで組織する自転車協会は3日、安全基準を満たした自転車に付けている認定証「BAAマーク(自転車協会認証)」に、環境負荷の高い物質の使用を制限する新たな基準を導入し、来年4月から本格実施することを明らかにした。

地球温暖化防止の機運を追い風に、自転車は環境に優しく、手軽な乗り物として注目されている。それだけに自転車協会は「乗っている時も、廃棄される際も環境に配慮した乗り物にしたい」と環境基準導入の狙いを説明する。

新たな環境基準では、自転車の原則すべての部品に水銀や鉛、カドミウムなど計6物質の使用を制限する。欧州連合(EU)が電気製品への使用を2006年7月から制限した指令に準拠して、使用を規制。認証の表記も、これまでの「安全基準適合車」から「安全・環境基準適合車」に変える。

自転車メーカーなどがマークの交付を希望する際、物質の使用制限を示す書類を提出。販売後も基準が守られているかどうかを確認するため、第三者機関がマークを付けた自転車の商品検査を実施する仕組みだ。現在の「BAAマーク」では、ブレーキをかけてから停止までの距離などの安全基準が設けられている。04年に同マークが導入されてから累計で1000万台超の自転車に交付されている。(日経ネット・11/4)


自転車も、その素材の環境負荷が問われる時代になっていくということでしょう。相変わらず、自転車を川などに不法投棄する人もいますし、完全にリサイクルされる体制が確立されているわけでもありません。環境を汚染するような物質を使わないに越したことはないわけです。

そうした面からも、竹のような自然素材は見直されていく余地がありそうです。もちろん、レースで速いタイムが出る可能性があるのであれば、レースシーンでも使用が拡大していく可能性は十分あります。プロの選手で使う人が増えれば、当然レースファンの間にも浸透していくでしょう。

竹林は、手入れをしないと、周辺へとすぐに拡大してしまうと言います。民家の床を突き破って伸びてくることもあります。日本でもタケノコの収穫や、十分な間伐をされない竹林が増えた結果、その拡大に手を焼いている地域があるそうです。また伐採した竹の使い道が減って、その処分に苦慮しているという話も聞いたことがあります。

昔は、竹垣や竹箒などに代表される竹製品が身近でしたが、最近は他の素材に置き換わりつつあります。日本でも竹材は十分に手に入る状況にあるばかりか、焼却する代わりに原料として使えるならば一石二鳥です。アフリカだけでなく、日本でも竹製自転車の製造は有益なプロジェクトとなるかも知れません。

乗り心地も柔らかく、長距離を乗っても疲れにくいとなれば、一般の人にも十分広がっていく可能性はあります。今はまだ竹製自転車には違和感がありますが、極力先入観を排して(笑)考えるならば、量産方法が確立され、手頃な値段になる必要はあるとしても、将来メジャーな自転車素材の一つとなっても不思議ではなさそうです。



サーバーの不調か私のミスか、予約投稿がうまくいかずに、記事が表示されていなかったようです。その間、見に来られた方、ご迷惑おかけしました。

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昨年、ふと中古の折りたたみ自転車を購入して以来 楽しく乗り回しておりました。
竹と自転車【なんくる主婦のときどきブログ】at November 25, 2008 18:19
この記事へのコメント
こんにちは
いつも楽しく読ませていただいてます。
竹製の自転車なんて素敵ですね。
塩害が強い沖縄住民ですので、
竹だと錆びないかもね♪とすごく興味持ちました。
Posted by pyo at November 25, 2008 18:44
竹製バイク,かなり衝撃を受けましたよ。

竹は成長が早く,途上国でも手に入る可能性が高いですし,加工も製鉄所や金属加工技術が無くても出来るのですから,上手くすれば大いに活躍できますね。

確かに目からうろこです。金属で出来たものという既成概念は取り払う必要がありますね。

応援ポチ!
Posted by nekki5149 at November 25, 2008 20:38
pyoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かにサビにも強そうですね。おそらく表面はコーティングされていると思うのですが、自然の素材だけに、使い込めば、使い込むほど(乗れば乗るほど)味わいが出てくるのかも知れません。
竹は、アメリカ人には馴染みの薄い素材らしく、そのぶん向こうでは最近ブームになっているそうです。我々は身近にあるぶん、強度的に頼りなげにも感じますが、こんなに適しているとは意外ですよね。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at November 26, 2008 22:23
nekki5149さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も最初に竹製バイクを知った時は驚きました。昔から、日本では、竹笛や、ほうきの柄、剣道の竹刀なんかにも使われて馴染みが深い竹ですが、まさか金属に劣らない強度が出るとは思いもよりませんでした。でも、言ってみれば、天然のカーボンファイバーみたいなものなのかも知れません。
確かに金属である必要はないわけですし、今後もハイテク技術で新しい素材が開発されていくのでしょうけど、天然素材に目を向けるのもアリなのでしょうね。
応援ありがとうございます。
Posted by cycleroad at November 26, 2008 22:40
 
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