自転車ブームでスポーツバイクも売れましたが、一方で電動アシスト自転車も売上を伸ばしたと言います。今年のヒット商品番付に登場するくらいの売れ行きだったようです。スポーツバイクは男性を中心に売れたのに対し、電動アシストのほうは、主婦をはじめ広い層が購入しました。
最近はだいぶ下がりましたが、今年前半、原油高騰でガソリン価格が急激に上昇したのは記憶に新しいところです。食料品なども値上がりし、主婦は生活防衛に走りました。それまで子供の送り迎えや買い物などにクルマを利用していたのをやめ、電動アシストのママチャリに乗り換えた人も多かったのでしょう。

近頃は男性向けにデザインされた電動アシストのシティサイクルなども発売されていますが、大多数はいわゆるママチャリタイプの電動アシスト自転車です。実際に日本で良く見かける電動アシストサイクルと言えば、ほぼママチャリ型と相場は決まっています。
電動アシスト自転車の1度の充電で利用できる距離、電動アシストを効かせて走れる航続距離は、メーカーやモデルによっても多少違いますが、せいぜい数十キロというところです。航続距離を長くするにはバッテリを大きくしなければならず、重量も増えてしまうので、今のところそれが限界でしょう。
ロードバイクやクロスバイクなどに乗っている人なら、ほんの2〜3時間、下手をすると1時間ちょっとの距離で電動アシストが効かなくなってしまうわけです。バッテリがある間はペダルも軽く、軽快に走れますが、充電がなくなった途端、極端に重くて遅い自転車になってしまいます。
やはり、電動アシスト自転車の用途はタウンユース、買い物や最寄駅までの行き帰りなど近距離の移動ということになりそうです。今までのママチャリより楽にペダルをこげ、坂道などがラクになるのが売りです。電動アシスト機構は、ママチャリの商品性を向上させ、その価格を数倍に引き上げるのに成功したという言い方も出来ます。
もう一つ、荷物を運ぶ場合にも利用が広がっています。電動アシスト自転車を使ってリヤカーをひく宅配便の姿が市街地で見られるようになってきました。駐車取締りの強化や燃料価格の高騰、あるいは小回りの良さが理由です。日本郵便も地球温暖化対策の一環として軽貨物自動車の一部を置き換える計画を打ち出しています。
一部特殊な例を除けば、日本での電動アシスト自転車の動向は、おおよそこのようなものだと思いますが、自転車活用先進国であるオランダでは、新たな電動アシスト自転車の開発も進められています。単に新しいモデルというより、新しいタイプ、新しいカテゴリーの自転車です。

写真を見て受ける印象は人それぞれでしょう。未来的な自転車と感じる人もあれば、奇をてらった変わり種自転車的に感じる人もあるかも知れません。ただ、この形になっていること、電動アシストシステムを採用しているのには、それなりの理由があります。
この自転車、電動アシスト機構を搭載したコミューター自転車です。コミューター、つまり通勤者用の自転車です。近年、日本でも最寄駅までではなく会社まで自転車で通勤する、いわゆる「自転車通勤」の認知度が高まりつつありますが、この自転車は、まさに自転車通勤用自転車なのです。
この
Mitka Trikeは、いくつかのオランダ企業と非営利の政府系科学技術組織、デルフト工科大学などの共同で開発されました。このプロトタイプは、ロゴが入れられていますが、ナイキ社がテストを行っています。残念ながら現在は市販されていませんが、決して奇をてらった面白自転車ではないのです。
メジャーなメディアで取り上げられたのがきっかけのようですが、その目をひく外観もあって、最近、特にヨーロッパのサイトなどで取り上げられています。私もそれで知ったのですが、調べてみると、実は2002年に開発されたもので、ごく最近になって、あらためて注目されたようです。
電気モーターのみで走行するモードでは、およそ時速24キロ、航続距離は約35キロです。電動アシストモードにして、足でペダルもこげば、さらにスピードが出せて航続距離も伸びます。ダッシュボードにはパームトップコンピューターを搭載することができ、各種のデータを表示させることも出来ます。
しかし、何と言っても特徴的なのは、悪天候時に活躍する伸縮式のフロントフードと透明な屋根が装着できることでしょう。つまり、雨の日でも通勤に使えるわけです。屋根は格納式で、不要な場合はサドルの後ろ、ライダーの背中の部分にあります。座席後ろには荷物を積載するスペースもあります。

総重量はおよそ45キロにもなってしまいますが、この車体を軽快に走行させるために電動アシストシステムを搭載しているわけです。長さは175cm、幅85cmあります。ちなみに日本の法令に照らすと、普通自転車の範囲には入りませんので、歩道を走行することは出来ません。車道のみです。
自転車通勤している人にとって、雨は悩みの種だと思います。この、Mitkaトライクなら、よほどの横なぐりの雨でない限り濡れずに走行出来るので、天候にかかわらずいつでも乗れます。もちろん他の用途でも使えますが、雨でも通勤で使わなければならないコミューター御用達の自転車というわけです。
ただ、国土が平坦で、人々に自転車が広く活用され、自転車専用レーンの整備率が非常に高いオランダでならともかく、日本にそのまま持ってきた場合には、その大きさなどから、必ずしも使い勝手がいいかどうかはわかりません。それでも全天候型という、自転車の弱点を補う魅力的なモデルであることには間違いないでしょう。
これなら自転車通勤してもいいと考える人もあると思います。東京のような都市の場合、電車網が発達していますので、クルマを使わないなら、通勤には電車を使うのが普通でしょう。しかし、電車網が整備されていない都市なら、クルマの代替として地球温暖化対策にも多いに貢献するに違いありません。
速いスピードで走行する、あるいは長い距離を乗るためであれば、重量が増えて航続距離の短い電動アシスト機構はむしろ邪魔になります。単にラクに移動したいということなら、オートバイや電動モーターを搭載した原付バイクもあるわけで、そうした意味からすると電動アシストは中途半端な存在です。
でも、全天候型の車体をスムースに走らせるために使うというのなら、電動アシスト機構にも十分な意義があります。通勤だけでなく、宅配便が配達に使う自転車などの業務用をはじめ、雨でも自転車に乗りたい場面、乗らなければならない場面で大いに役立つでしょう。

逆に言うと、バッテリー性能の向上などにより、電動アシスト機構が搭載可能になったからこそ、こうした自転車を設計できるようになったとも言えます。電動アシスト機構は、ただペダリングをラクにするものというより、新たな自転車を生み出すリソースとしての可能性に注目すべきと言えそうです。
実際のところ、スポーツバイクに乗る人は、電動アシストにあまりなじみはないでしょう。ただ、これからの自転車の新たな進化を促すパーツとして、意外に面白い存在となる可能性があります。自転車として、今は邪道、あるいは亜流とか別物と考える人も多いと思いますが、案外、将来は当たり前に乗るようになるかも知れません。
ずいぶん寒くなってきました。走り始めれば暖かくなるんですけど、気分的には、ちょっと出かけるのが億劫になる季節ですね。
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