December 06, 2008

痛いと見られるのが心地よい

イタリアのクルマはどれも個性的です。


フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ、アルファロメオ、フィアット、ランチア、好き嫌いはあるでしょうが、確かに個性の強いブランドが多い気がします。そのイタリア車を表す「イタ車」にかけて、「痛車(いたしゃ)」と呼ばれるクルマがあります。

ご存じの方も多いと思うので、ここで私が説明することもないのですが、アニメのキャラクターなどのステッカーを貼ったり、ペイントしたクルマのことです。いわゆるアニメオタクの人が自分のクルマに、そうした改造を施し、自嘲をこめて「痛いクルマ、痛車」と呼んだのが始まりのようです。

朝日新聞の記事より毎日新聞の記事より

実際にそれを見て痛々しいと思うかどうかは別として、すでに痛車は、そこから派生したさまざまな現象を伴って、十分に認知される存在となりつつあります。90年代の後半から増え始めたといいますが、近年、広くオタク文化が注目されるようになったのに伴い、認知度も高まってきました。

痛車のイベントには数百台もの痛車が集まり、専門誌まで発行されるなど、もはや、「痛車文化」と呼ぶべき状況と言えそうです。もちろんオーナーは、痛いとか恥ずかしいと思っているわけではなく、自分のこだわりの「作品」が観客に見られることに喜びを感じているわけです。

毎日新聞の記事へ中には凝ったものもあり、一種のアートと呼べるものもあるようです。よくやるなという驚きや、自分はやらないにしても面白いと好意的に見る人もあるでしょう。ただ、普通の人から見れば、わざわざクルマにアニメのキャラクターを描くことが理解できない、趣味が悪いと感じる人も多いのが実際でしょうか。

今や世界中で親しまれている日本のアニメは、世界各国に熱烈なファンを生むまでになっています。本家の日本に、クルマにまで描くような熱烈なファンがいても不思議ではありません。オタク文化もそうですが、サブカルチャーが最初は市民から理解されなかったり、違和感があるのは普通のことなのかも知れません。

さて、その痛車ですが、すでにクルマだけではなく、オートバイや原付、そして自転車にまで広がってきています。ちゃんとそれぞれ呼び方があって、自動二輪の場合は「痛単車(いたんしゃ)」、自転車の場合は「痛チャリ(いたチャリ)」だそうです。

痛自転車の場合、フレーム部分に小さなステッカーを貼るのかと思えば、ホイールやフレームのチューブの間の空間などを利用しています。ママチャリもありますが、スポーツバイクに加工している人も多いようです。アニメ・マニアは、案外スポーツバイクに乗っている人の割合が高いのかも知れません。

アキバOSよりアキバOSより

必ずしも痛チャリ仕様でいつも乗っているとは限らず、普段は普通のホイールで、秋葉原に行く時などだけ痛チャリ仕様のホイールに変えたりするようです。フレームを利用したとしても、走行中はほとんど見えないわけですから、自分で楽しむ部分を除けば、やはり駐輪中ギャラリーに見せることを意識しているのでしょう。

痛車にしろ、痛チャリにしろ、個人の趣味ですし、周囲に迷惑をかけるわけではありません。普通のカーマニアや、自転車乗りからすると、たしかに異質の世界ではありますが、凝る人、こだわる人はどの分野でもいるわけで、取り立てて不思議とも言えません。



私も自分でやる気はしませんが、社会現象としては、ちょっと面白いなと感じます。最近、電車などの公共物や商店街のシャッターなど他人の財産に、アートと称して落書きする犯罪が報じられたりしますが、自分の所有物を飾り立てる分には基本的にその人の勝手ですし、異質のものへの許容が新しい文化を育むのも事実です。

周囲の人に「痛い人」と思われるのが、むしろマニアとして潔いという価値観があるように思えます。周りに何と思われようと、自分のこだわりを追求することで、他人に迷惑をかけたり、犯罪につながったりするような形にエスカレートするなら問題ですが、サブカルチャーは、こうした強いこだわりから生まれるものなのでしょう。

ニュー速クォリティよりニュー速クォリティより

痛車も、一部台湾などへ広がり始めているようです。日本のアニメ文化は世界へ広がりつつありますので、海外で「メイド喫茶」が出来たりしているのと同じで、本場日本での流行として、痛車や痛自転車を海外で目にするようになるかも知れません。古くはカラオケボックスなどと同じで、日本文化の輸出と言えるでしょう。

ちょっと系統は違うかも知れませんが、既に海外ではキティちゃんのパターンの入った自転車用のタイヤまで発売されています。どちらかと言うと、日本人は自転車にノーマルで乗る人が多いですが、海外ではハンドメイドで自分だけのオリジナル仕様の自転車にする人も珍しくありません。むしろ海外でブレークする可能性もありそうです。



日本では、なかなか自転車にペイントしたりステッカーを貼るのが広がるとは思えませんが、ブームというのは何が来るかわかりません。携帯電話を飾り立てるのが一部で流行ったかと思えば、今はデコ電として市民権を得ていますし、メーカーも自分だけのケータイデザインを楽しめるような仕様を盛り込んだりしています。

自転車を飾り立てたり、ペイントしたりして、自分だけの一台を作り上げるようなブームも起こらないとは言い切れません。仮にそうしたブームが起きれば、自転車を放置したり、使い捨てにするような人も減り、盗難にも気をつけるようになるでしょう。資源の有効利用の観点からも悪くはありません。

ASCII.JPよりASCII.JPより

アニメのキャラクターのステッカーを貼るのは一部の人の趣味としても、海外に比べると日本人は、あまり自分の自転車を改造したり、手作りしたり、あるいは、なんらかの方法で個性を持たせるような人の割合が少ない気がします。もっと、自分の自転車をカスタマイズする人が増えてもよさそうなものです。

駅前の駐輪場などへ行くと、見事に無個性で似たようなママチャリが延々と並んでいます。自転車なんて日用品だと考えている人にとっては、当たり前で合理的なことでしょう。しかし、趣味の自転車人としては、もう少し個性的な自転車が並ぶようになったら楽しいだろうなと思わないでもありません。



関東ローカルな話題ですが、昨日の季節はずれの嵐のような雷と突風と土砂降りの雨は凄かったですね、居合わせた場所が悪く、久し振りにずぶ濡れになってしまいました。

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ハローキティーのキャラクターのパターン入りタイヤは実在する。

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2005年くらいの段階では、あまり痛チャリは見なかったのだが。

流行するモノなじみがない物
今やアニメやコミックは世界に冠たる日本文化の一つと言えよう。


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この記事へのコメント
イタ車から痛車,そして痛チャリと,これは新たなビジネスのチャンスでもありますね。
ニッチですが,本当に思い入れのある作品とは何らかの形で生活をともにしたいと考える方も多いと思います。
そして,それを周囲に伝えたいという気持ちにもなるのでしょう。
きっと,コミック・マーケットなどで売り出せば人気のグッズになると思います。

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Posted by nekki5149 at December 07, 2008 15:44
nekki5149さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
すでに専門誌がいくつか発行されたり、プラモデルなどの関連商品が発売されたり、イベントにも大勢の人が集まっているそうなので、関連ビジネスも広がっていきそうですね。
私も詳しいわけではありませんが、痛車じたいがアニメ文化の派生のような部分がありますので、アニメファン、コミックマニアの中に痛車や痛チャリを製作して楽しむ人がいるということのようです。
応援ありがとうございます。
Posted by cycleroad at December 08, 2008 21:56
こんにちは。
楽しそうですね。
私は、このように自分の自転車に個性も持たせることには大賛成です。
見る子供達、いや大人達にも十分楽しい気分に浸れるのではないでしょうか。

私は、イタリア製クロモリのクロスバイク用フレームを求めているのですが、ニーズがなく生産していないので、”個性”を出せないのが残念です。

Posted by panag at February 29, 2012 08:51
panagさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
こういうオタク系のものだと、ひいてしまう人もあるとは思いますが、それも個性だと思います。
日本では、量販店で売られている画一なデザインのママチャリばかりが駐輪場にズラリと並んでいたりします。
欧米では、街角にズラリと自転車が並んでいることはあっても、銀色のほとんど同じようなものが並んでいるなんてことはありません。
結局、日本では自転車が日用品、汎用品になってしまっているのでしょう。もっと愛用する人が増えれば、個性が増えるということなのでしょうね。
Posted by cycleroad at February 29, 2012 23:08
 
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