国交省がモデル地区を指定したのは今年の1月でした。
全国で98箇所を自転車通行環境整備のモデル地区にしたわけですが、その後各地のモデル地区で歩行者と自転車の分離が進められ、自転車レーンなどが整備されつつあります。富山市の富山駅南口でも、このたび自転車レーンが設置され、今月にも運用が始まると報じられています。
3車線の車道のうち1車線を使って設けられたので、幅2m80cmもあり、そのうち1m50cmは青く塗装されています。特に決まりはないようですが、自転車レーンと言うと各地で青く塗られる場合が多いようです。自転車専用通行帯ですので、クルマは侵入することが出来ず、歩行者も歩けません。
よくある歩道の一部を色分けして区切ったものでないことは評価出来ます。歩道に色を塗っただけでは、実際問題として利用者の注意を喚起せず、歩行者と自転車が分離されないで、結局混在したままになっています。ラインが駐輪場のように見なされてしまうことも珍しくありません。
自転車に歩道上を走行させると、交差点でクルマとの出合い頭の事故や、左折巻き込みの事故を誘発すると言われています。自転車が車道を走行している場合に比べ、歩道を通る自転車はドライバーの視野に入らず、交差点でいきなり飛び出してくるような形になるからです。その意味でも車道を通すことは好ましいと言えます。
ただ、富山に限った話ではありませんが、歩行者と分離するために設けられた、このような車道を通す自転車レーンが必ずしも好評とは限らないようです。報道されているところによれば、ふだん歩道を通っている利用者の中には、クルマの近くを通ると怖く感じる人があると言います。
一方、ドライバーには自転車専用レーンの設置が徹底されておらず、知らずに進入してしまう人もいます。一応標識は設置されているものの、わずかな区間だけ、突然始まって突然終わるので、何なのか知らずに通っているドライバーも多いようです。特に路面の表示は識別しにくいことが指摘されています。
車道と同じ高さを通るからか、あるいはドライバーが間違って進入してくるからか、車道との間に仕切りが欲しいという意見もあるようです。地元以外の地区でも説明会を開いてくれないと利用方法がわからないなどの声もあると言います。説明会まで必要かと思ってしまいますが、戸惑いもあるのでしょう。
法律上は、当然ながら左側通行の方向に一方通行です。でも、歩道の延長のような感じで逆行してしまう人もあるに違いありません。自転車専用通行帯となっているので、双方向に通ってよいものとの誤解もあるようです。半分だけ青くペイントされているのも中途半端で、双方向通れるような誤解を与えるのかも知れません。
一車線すべて自転車レーンなのに、このように中途半端に外側だけ青く塗ったのには、なるべく外側を走行してほしいとの意図があったようです。隣のクルマの車線との間隔をとらせることで安全を確保しようということなのでしょう。しかし、そんなことは言われなければわかりません。
結局とのところ、レーンは、この450mの間だけであり、自転車専用通行帯じたいが一般的でなく、周知されていないというところも問題なのだと思います。よほど関心をもっている人か、いつも通る人でなければ地元でも知らない人は多いかも知れません。まだまだ、「モデル地区」での試験段階ということなのでしょう。
もちろん予算もあることですから、いきなり全面的に導入することは出来ないと思います。しかし、もう少し広い範囲に導入しなければ、なかなかその効果も実感できないのではないでしょうか。「少し試してみましたが、事故防止に効果はありませんでした」との結論を導き出すお膳立てではないかと勘繰りたくもなります。
国交省は「モデル地区を拠点に、自転車と歩行者が『共存』できるような道路のネットワークを作っていきたい」と、今後拡大していくことを表明しています。その前に、周知不足による利用者の勘違いや戸惑い、それによる不評やトラブルなどで、不要と判断されたり、尻すぼみになっていつの間にか消滅とならないよう願いたいものです。
もう一つ、国交省が音頭をとっているにも関わらず、地域によって形状に差異が見られるのも不思議です。まだ全体から見れば、ほんの僅かなわけですが、今後拡大を目指すなら、全国で統一の規格を定めてもいいような気がします。そのほうが、広く周知徹底をはかる上でも有利なのではないでしょうか。
道路の形状自体が、場所によって違っているという事情はあるでしょう。ただ、仕切りなどの設置はともかくとして、せめて表示方法などを統一し、一方通行や並走禁止、レーン内での左側通行などの原則、クルマの進入禁止や駐停車禁止といったルールを定めてもいいのではないでしょうか。
このような規定は、ふつう道路交通法や道路構造令などによって細かく規定されています。ただ、いわゆるサイクリングロードのような自転車専用道路についての規定はありますが、今回のような車道に設置する自転車専用通行帯の細かい規定はまだ無いようです。
今回のモデル地区へ設置が進められている自転車専用レーンについて、都道府県によっても形状などに若干のばらつきがあるのは、そのせいなのでしょう。クルマのドライバーを含めて周知徹底することで利用者の混乱を無くし、安全を図るためにも、レーンは標準化してなるべく体裁を統一していくべきでしょう。
今のうちに、専用レーンの仕様や形状、適用ルールも決めておくべきです。一車線使えるならば、左側通行の一方通行を原則に、さらにレーン内で走行レーンと追い越しレーンがとれれば言うことありません。両側で一車線づつとれれば理想ですが、無理ならば、半車線ずつでも左右両側に設置し、左側通行は徹底すべきだと思います。
こういった自転車レーンは、わずかな区間だけ整備しても、ほとんど実質的な効果は上がらないと思うので、国交省は可能な限り早急な拡大を図ってほしいとも思います。場合によっては、景気対策として予算を組み、全国で集中的に整備してもいいくらいだと個人的には思いますが、なかなかそうもいかないのでしょう。
しかし、地球温暖化防止の観点から言っても、クルマ用の車線を減らして自転車専用にするというのは、理にかなっています。可能な限り、この富山のように一車線を自転車用に転用し、専用レーンを設置していくスタイルが広がって欲しいものです。そして自治体同士、環境対策として専用レーンの拡大を競っていってほしいものです。
それにしても、今年の初めのころには考えられなかったような景気の急減速です。株価も為替も原油価格も、想像しなかった水準になっています。今年の漢字は「変」だそうですけど、今年はずいぶんいろいろ変わった感じがします。
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今年初め、国土交通省がモデル地区指定を発表したときの記事。
少しずつでも前進することで
国交省は、自転車専用道路を集中的に整備する方針も表明した。