百年に一度というフレーズも盛んに耳にするようになりましたが、未曾有の金融危機が実体経済の深刻な悪化にまで至り、世界同時不況の形相を呈しています。わが国でも、かつてないスピードで景気が後退し、企業業績の悪化も急です。派遣だけでなく正社員削減の動きが出るなど、雇用への影響も深刻になっています。
今、政府には景気対策と共に雇用の悪化に早急な対応が求められています。一説によれば、春までに数十万という失業者が出るとも言われています。雇用が深刻な状態に陥り、それがまた経済に跳ね返る悪循環が目に見えているのに、手をこまねいていていいのでしょうか。
もちろん早急な雇用対策と言っても、政府や地方自治体に人を雇えと言うわけではありません。時々、不況の時には公務員を増やして雇用を確保すべきと主張する人がいます。一理あるとは思いますが、私は疑問です。例えば、ここのところ緊急の雇用対策として、全国の自治体で臨時の職員などを募集する動きがあります。
急場しのぎとしての働き口の提供は否定しませんが、必ずしも応募が順調とは限らないようです。ある自治体では、100人の募集に8人しか来なかったそうです。派遣切りに懲りて、なるべく安定した職を求めたいのが本音でしょうし、臨時職員では、また結局失業するだけだという思いもあるのでしょう。
かといって、正規採用の公務員を増やせば、景気が回復しても減らすのは困難です。政策によって産業を振興し、雇用を創出することは求められても、無理やり作り出した直接の公的雇用は税金の無駄遣いになるだけです。過去にも、不要になった失業対策事業が、なかなかやめられなくなった教訓を忘れるべきではありません。
ただでさえ公務員改革が課題となっている時期です。地方の出先機関の職員など、数万人単位の余剰人員があるとされています。中期的には、財政の健全化も求められていますし、自治体の財政も余裕があるとは言えません。失業者に対する支援ならともかく、緊急避難とは言え、直接雇用を増やすのには疑問を抱かざるを得ません。
日本は諸外国に比べて公務員の比率が低いという主張もあります。確かに充実させるべき公的なサービスもあるでしょう。でも、公務員を増やしても国が豊かになるわけではありません。基本的には、国民の稼いだお金を使うだけの人が増えれば増えるほど、国民の負担が重くなるのは自明ですから、なるべくなら減らすべきでしょう。
雇用創出や職業訓練などの対策も必要ですが、私は今こそ雇用法制も見直したらどうかと思います。一言でいうと、いわゆるサービス残業を「本当に」なくすべきです。この深刻な雇用情勢の悪化を受け、企業のトップからもワークシェフリングの検討などの発言が相次いでいます。ある意味チャンスでしょう。
今回の雇用情勢の悪化、特に派遣切りと呼ばれる解雇が横行した背景には、労働者派遣法の改正があるのは間違いありません。当然その改正は焦点です。具体的には、日雇い派遣の禁止などが挙がっています。しかし、これは諸刃の剣で、ただでさえ働き口を無くしている非正規雇用の人を更に追い込む危険もあります。
派遣労働など非正規雇用で働く人が全就労人口の3分の1に達し、欧米と比べても高くなっているのを問題視する人が多いのは確かです。ただ一方で、グローバル化した世界での競争に日本の企業が勝ち残っていくためにも、必要な変革だと考える人もいます。
非正規雇用という形態が作られなければ、早晩日本の企業、特に製造業は日本から中国や東南アジアに出て行ってしまうか、コスト競争で新興国の企業に負けてしまい、雇用そのものが失われていたはずだとする意見もあります。確かにそうかも知れません。このあたりは意見の分かれるところであり、難しい部分です。
雇用に関しては、ヨーロッパのような労働者に手厚い雇用環境を構築する代わりに、社会福祉の負担が高くなることを容認する考え方もあります。一方、アメリカのように、社会福祉の負担は軽いが失業すると厳しい環境を容認し、企業の国際競争力を重視することで雇用の拡大を狙うとの選択もあるでしょう。
これまでは構造改革路線により、どちらかと言えばアメリカ型の新自由主義的な雇用環境へと進んできました。しかし、問題はアメリカ型のように見えながら、日本には大きく違う面があります。それがサービス残業のような勤務です。手当が出なくても、残業や休日出勤で長時間労働せざるを得ない労働者の立場です。
最近は、アメリカも日本と同じように長時間労働になってきています。しかし、そのぶん報酬がもらえるシステムにもなっています。原則として残業代は当然の対価として、きちんと支払われますし、手当のない管理職などは、成果主義的なインセンティブや昇給などによって、働いた分に見合った報酬が得られるような形が普通です。
アメリカの場合、働いた分だけ報酬が手に入るので、不本意な長時間労働をしている人の割合は日本と比べて大幅に少ないことが調査で明らかになっています。日本では、正社員として雇用が安定する代わりに、サービス残業、すなわち賃金が払われない残業を強いられるような雇用慣行が厳然として残っているのが問題です。
米国では労働力に見合った人件費が発生するのが当然で、雇用を調整する場合でも、必要な労働力を確保するためには、当然必要以上の人員を解雇出来ません。これに比べ日本の場合、今まで派遣社員がこなしていた仕事を正社員にサービス残業させて穴埋めさせることで、より多くの派遣切りが出来て、コストも削減出来ます。
もちろん、製造業の現場などでは、売上の大幅な減少に見舞われて、操業の短縮などを余儀なくされているところもあります。しかし、非正規雇用の働き手が減らされる一方で、正社員に大きなしわ寄せがいき、大幅なサービス残業を余儀なくされている例は少なくないはずです。
今でもサービス残業は違法ですが、実際には常態化している企業は多いと思われます。昨年、コンビニやファミレス、ファーストフードや紳士服販売などの業界で、実質的には管理職でない社員に無報酬での長時間労働を強いる雇用形態が、「名ばかり管理職」と呼ばれて問題になりました。
しかし、このような形で問題が明るみに出るほうが稀です。不当な労働条件や、サービス残業の強制は、労働者が労働基準監督署に駆け込めば、企業は罰則を受けますし、不払い分の賃金を遡って請求できます。でも、報復人事を受けるため、失業を恐れれば告発出来ないのが普通でしょう。
このサービス残業を本当になくし、労働基準法を遵守させたらどうなるでしょう。企業は必要な労働力の分、見合った人件費が発生するという、ごく当たり前の状態になります。今までサービス残業させていた正社員には時間外手当を払い、法定労働時間以上は働かせられないので、非正規雇用などを増やさなければならなくなるでしょう。
つまり雇用が増えることになります。目下の不況で、仕事量が減っているところは別としても、サービス残業でまかなわれている仕事量は小さくないでしょう。これが一切無くなれば、相応の量の雇用が発生するはずです。つまり、ワークシェアリングです。こうでもしないと、シェアすべきワークは出てこないでしょう。
正社員の正規の残業を奪うわけではありません。残業が法定労働時間内に抑えられても、残業手当が正当に支払われれば、手取りが増える場合もあるでしょう。長時間労働で過労死や「うつ」、自殺なども減り、救われる人も少なくないはずです。働き盛りの人材を過労死や自殺などで失う社会的損失が減るだけでも大きな効果です。
また、いわゆるワークライフバランスが改善され、自分の時間が大きく増えます。今まで、お金はあっても忙しくて飲みにも行けなかった人が街へ出かけ、あるいはスポーツジムや習い事などに通い、出勤していた休日も、行楽などに出かけられるようになるかも知れません。消費は促進され、景気浮揚にも一定の効果が期待できます。
企業のコストは増えますが、これが本来の姿です。新自由主義的なアメリカですら、必要な賃金は支払われているのですから、日本がイレギュラーな状態だったのです。規制緩和で、非正規雇用を雇用の調整弁として使えるようになった上に、更に正社員にサービス残業を強いることでコストを吸収させている雇用慣行がおかしいのです。
過去の終身雇用の下では、社員を簡単に解雇出来ない分、簡単には社員を増やせませんでした。そのため仕事が増えた時、社員は雇用の安定の代償としてサービス残業を受け入れる慣行があったわけです。今や終身雇用は過去のものとなりつつありますが、サービス残業だけ残るのは不合理です。あくまでサービス残業は違法なのです。
不況の今こそ、ワークライフバランスの改善に取り組む絶好の機会と考えることも出来ます。サービス残業の禁止を徹底し、過去の悪しき雇用慣行と決別すべき時です。いわゆる派遣切りで、正社員にしわ寄せがいっている状態を是正すべきでしょう。疲労困憊していた社員が元気になり、日本も少しは明るくなるかも知れません。
労働者派遣法がある以上、派遣契約の満了には文句を言えません。企業を非難する声もありますが法的には無力です。でもサービス残業は違法で、社員の生命や健康を奪い、個人の時間を奪って消費も減らし、更に少子化まで加速させる社会悪と言ってもいいでしょう。CSR(企業の社会的責任)どころかコンプライアンスの問題です。
つい少し前まで、いざなぎ越えの景気拡大で史上空前の利益を上げ、配当を増やし、大幅に内部留保を積み増してきた企業は少なくありません。本来なら企業は雇用の安定を図り、労働分配率を向上させ、収益を家計にも移転し、景気の下支えをする立場です。経営の問題ですが、せめて正規の労働コストくらい払わせるべきでしょう。
景気対策として、従来型の公共事業を増やしても、もはやその効果が薄いのは周知の事実です。建設業には雇用の吸収効果も期待できなくなりました。今までとは違った形の財政出動による景気対策が求められますが、それと共に雇用慣行を是正することも、景気対策としての効果が期待できるのではないでしょうか。
問題はこうした改革を行う政治のリーダーシップですが、残念ながら麻生内閣には到底期待できそうにありません。そもそも「政・官・財」の癒着構造と言われる中、自民党政権ではダメかも知れません。経団連会長の会社が平気で偽装請負をやり、それを正当化すべく法律の改正を迫っているようでは、雇用慣行の是正など望み薄です。
景気対策にしても、世紀の愚策と酷評される定額給付金にこだわっているようでは、あまり期待できないでしょう。確かに所得再配分の効果はありますが、一度税金として集めたお金を、また莫大な事務費用や振込手数料などをかけて配るのは、いかにも愚策です。そんな内閣に機敏な景気対策が期待できるわけがありません。
定額給付金は、そもそも公明党が、自民党に定額減税案を飲ませたことを手柄として選挙運動したいために出てきた政策と言われています。減税だと恩恵が行き渡らない層があるので給付金となり、そのあと混迷を深めたのは周知の通りですが、最初から選挙対策のバラマキでしかありません。
支給時期にしても、最初麻生総理は年末に向けての生活、家計支援と言っていましたが、いつの間にか年度末になり、今やその年度末も無理そうです。国民にすれば、貰えるものは貰おうと考えるのは当然ですが、それを国民が支持していると言い張る一方、高額所得者が貰うのは「さもしい」と言って、自らの首を絞めています。
さらに消費税増税とセットにして、消費を促進させようという景気対策としての効果を半減させる筋の悪さです。自民党内からも疑問の声が上がるのは当然でしょう。国民は2次補正予算の提出を先送りしたことも見ています。政府の景気対策に期待が持てると感じれば、内閣の支持率が20%以下にまで低迷することはないはずです。
もちろん、かと言って民主党にどれだけ期待出来るのか疑問もあります。自民党の支持率が落ちているにも関わらず、民主党の支持率が伸び悩んでいるのが、国民の気持ちを表していると言えるでしょう。それでも、ここは新しい政治体制を期待するしかないような気がします。
政局よりも政策、解散より景気対策などと言って、麻生総理は政権にしがみついています。私は、この内閣が続くほうが景気にとってマイナスであり、国民にとって不幸だと感じます。雇用情勢も、このままでは悪化の一途を辿るのは間違いなさそうです。まず必要な景気対策、雇用対策は、衆議院の解散かも知れません。
たまに自転車以外の記事を入れています。今回ふだん思うことを書いてみたら、ずいぶん長くなってしまいました。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ところで、ここのところ影を潜めていた麻生総理のK・Y(漢字が読めない)、先日のダボス会議では係りの人がふりがなを振り忘れたのでしょう。「決然」を「けんぜん」、「見地」を「かんか」「基盤(」は「きはん」と読む始末です。盟友の中川財務・金融担当相まで、衆院の財政演説で「渦中(かちゅう)」を「うずちゅう」と読むなど、この内閣でレベルが低いのは首相だけではないようです。まだまだ、恥をさらし続けるつもりなのでしょうかね。
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笑い話で済ます事は出来ない
麻生首相がなぜ今よく聞く言葉も読めないのか不思議なくらいだ。
日本の明日に期待するために
自民党を再生させる為にも、一度政権交代したほうがいいのでは。
対策・現状政府の動きは 非常になるほど!!と思います。ただ今回の景気後退は非常に 疑問な点が多く 私はちょっと角度から見てます。 エネルギー交代が根底に 潜むこの世界的大恐慌は 各社の 対応策が非常に早い 事 まるで以前から知ってたような?対応のスピード そしてTV等のマスメディアの 異常名までの 報道 まるでコントロールされているような?? 本当の実態は もしかしたら ぜんぜん違っているような 気がして しょうがありません 以前オイルショックの時 後20年でオイルの資源が無くなる の情報で 国民は買占めに その後10年後又 オイルの無くなる報道では あと30年????のテレビ放映 計算が合わない 今回もある一定の時間をの軸から眺めて 判断しないと まずいと考えてますが 私の考えすぎでしょうか?? 取り合えず 年単位の時間軸から見てみようと考えてます。