例年ならば、太平洋側特有の冬の乾燥した天気の続く季節に、梅雨のような天気となっています。今週いっぱいは雨がちの予報ですが、聞けば、これは季節はずれの菜種梅雨(本来は3月下旬から4月上旬)なのだそうです。南西諸島では記録的な高温になっていると言いますし、この時期には異例の気圧配置なのでしょう。

雨が降る時期に降らないのも困りますが、ふだん雨の少ない時期に降り続く冷たい雨も憂鬱なものです。自転車通勤している人には想定外の時期の雨でしょうし、自転車で出かけられない日が続いてフラストレーションがたまっている人もあるかも知れません。
しかし、雨が降るのは“Water Cycle”、つまり「水の循環」ですから仕方ありません。海から蒸発した水蒸気が雲をつくり、発達して地表に雨を降らせ、川となって海へ注ぐ地球規模の水の循環、ウォーターサイクルのおかげで、我々は生きるために必要な水を得ているわけですから、文句は言えません。
オーストラリアなどでは雨が降らずに乾燥して山火事が発生し、死者まで出ています。降らないのも困ります。むしろ乾燥する冬の太平洋側にはいい「お湿り」と言えるでしょう。スギ花粉の飛散も少なくなり、花粉症の方は一息つけるかも知れません。
“Water Cycle”と言うと、一般的には水の循環(hydrologic circle)のことを指すと思いますが、水上自転車の意味もあります。よく、公園の池などに白鳥型をしたポートがあったりしますが、あれもペダルをこいで推進するウォーターサイクルということになります。

“paddle boat”とか“pedalo”などとも呼ばれます。観光用だけでなく、レジャー用などいろいろなタイプのものが販売されています。オールを使って漕ぐ普通のポートは、慣れないと結構難しくて進まなかったりしますので、水上自転車、ペダル式ボートのほうが万人向けと言えます。
腕より足のほうがパワーがありますし、自転車型のポートは慣れなくても長く漕ぐことが出来ます。初心者でも扱いやすいのは間違いないでしょう。日本でも池や湖などに行けば、“Water Cycle”を見ることが出来ますが、なぜか白鳥型をしているものが多く、画一的でつまらない気がするのは私だけでしょうか。

ところで、その名も“
WaterCycle”と名づけられたNPOが、陸上で使う自転車“WaterCycle”を使って発展途上国の人々に対する支援を行っています。ここでのウォーターサイクルは、自転車をこぐことで動くポンプの役割をしています。水を送るための自転車なのです。
貧困に苦しむアフリカの国々では、水道はもちろん、農業用水などのインフラが整備されておらず、灌漑が進んでいない場所が少なくありません。テレビなどで、アフリカの女性たちが頭に大きなバケツや瓶などを載せて、歩いて水を運んでいるシーンを見たことのある人も多いと思いますが、人が人力で水を運ばざるを得ないのです。
それも短い距離ではなく、何キロも運ばなければならない地域も少なくありません。飲料水や炊事用などの生活用水だけで精一杯で、農業用にはとても回らない地域も多いはずです。水がないために作物が育たず、水を運ぶだけで労働力、労働時間の多くをとられてしまえば、貧困からの脱出どころではありません。
そうした地域では、自転車が真に有効な手段として使われ、大いに貢献していることは過去にも取り上げました。輸送力が、いかに重要であるか思い知らされます。(下の関連記事参照。)この“WaterCycle”のプロジェクトは、水を容器に入れて自転車で運ぶのではなく、ホースを使って、人力のポンプで水をひこうと言うのです。
日本人から見たら、なんと幼稚な方法かと、遊びの延長のように思えてしまうかも知れません。しかし、想像してみてください。乾いた土地で、水は遠くでしか手に入らず、水を運ぶためのインフラも資金も何もない状態です。アフリカのど真ん中で、どうやって水を運べるというのでしょうか。
本当なら用水路を掘って、恒常的に水を供給するのが一番いいでしょう。しかし、資金も道具も、技術も知識もありません。舗装路もなく、電力などの動力もないのです。歩いて延々と水を運ぶしか方法がないのも仕方ありません。そんな状態で、人力とは言えポンプとホースがあったら、夢のように感じることでしょう。

電動のポンプがあったとしても電気は来ていません。内燃機関によるポンプがあったとしても、燃料を買うお金も輸送手段も持ちません。もちろんメンテナンスなどの技術もありません。相対的にそれらのポンプより非力だとしても、自転車ポンプには他にない利点があります。構造が簡単な自転車ポンプならではの優位もあるのは明らかです。
こうした用途に開発された自転車ポンプ、“WaterCycle”が貧困に苦しむアフリカ、マラウイで動き始めています。マラウイ共和国は、HIVの蔓延で平均寿命が40歳にも満たない世界最貧国の一つです。めぼしい産業も農業しかない中で、旱魃に見舞われ収穫は減り、食糧すら国連世界食糧計画などの援助に頼らざるを得ない状況です。
“WaterCycle”は水を送る自転車であるとともに、NPOとしての“WaterCycle”は、一番水を必要としているのに、一番水が届きにくい場所へ、まさに「水を循環」させようという人たち、プロジェクトであるわけです。一瞬、水上自転車かと思う、ありふれたネーミングのようですが、“WaterCycle”、言いえて妙です。

今、世界では利用可能な淡水が枯渇し始めています。水は今世紀の戦略物資になるとも言われています。地下水位が下がり、干ばつが増え、砂漠化も進んでいます。ここのところ金融危機による価格の下落で落ち着いていますが、少し前まで穀物価格の高騰で食糧の需給がひっ迫し、食糧危機に直面した国もあったのは記憶に新しいところです。
一方、私たちは水資源に非常に恵まれた国に住んでいます。たまに夏場、渇水がおきる時もありますが、世界的に見れば降水量が豊富で、基本的に水には困りません。命の源である水に恵まれているがゆえに、逆に普段、そのありがたみを感じていないと言えるかも知れません。
しかし、これからも常に恵まれるとは限りません。ここ数日、那覇は2月に入って5日目の夏日だとか南西諸島では過去最高とか39年ぶりの気温を記録したなどと報じられています。上海では136年ぶりの高温だと言いますし、山火事のあったオーストラリアのビクトリア州も100年に一度の猛暑だそうです。
日本でも、いつ異常気象で日照りが続いても不思議ではありません。そう考えると、あまりに早い菜種梅雨も不穏な感じではあります。まあ、お天気のことを今からどうこう言っても仕方ありませんし、杞憂に終わることを願いたいですが、少なくとも水のありがたみは忘れないようにしておきたいものです。
こんどはオランダ・スキポール空港で旅客機が墜落しました。航空機事故って、一件起きると連続して起こるのはなぜなんでしょうか。
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