March 21, 2009

私を自転車で野球に行かせて

WBCの熱戦が続いています。


日本も決勝トーナメント進出を果たしました。準決勝の試合が楽しみです。ただ、昨日の日韓戦は祝日でしたが、ここまでの2次予選は日本時間の平日の昼間なので、リアルタイムに観戦して盛り上がれなかった人も多かったと思います。録画で楽しもうにも帰宅する頃には結果がわかってしまいます。

WBC1次予選とは違って、2次予選と決勝トーナメントはアメリカで行われるので、この時差は仕方のないところです。次回くらいには2次予選以降の舞台を日本に誘致し、日本のゴールデンタイムに試合をやってほしいものですが、WBC組織委員会が大リーグ関係者中心となっているところを見ると難しいのかも知れません。

言うまでもなく、アメリカでベースボールと言えばナショナルパスタイム、国民的娯楽です。なるほど野球好きの国民は多く、足繁く球場に通って地元チームを応援するファンも大勢いて、球団はそのフランチャイズを置く都市に密着した存在となっています。

アメリカはベースボールの発祥の地でもあります。野球観戦に行くことが生活の一部と言っていいほど日常の中に組み込まれている市民も少なくありません。もちろん日本でも野球人気は高いですが、観客動員数などでもまだ開きがありますし、伝統といい、国民からの支持といい、やはり一段上と言えそうです。

サンフランシスコ・ジャイアンツサンフランシスコ・ジャイアンツも、そんな市民に愛される球団の一つです。本拠地はカリフォルニア州サンフランシスコにあるAT&Tパークです。そのAT&Tパークでは、自転車で球場へ来る人に対し自転車用のパレットパーキングを提供しています。

バレットパーキングは、ホテルなどでよく見られるサービスです。正面にクルマで乗りつけると、そのまま係員がクルマを預かって、代わりに駐車しておいてくれる、あれです。しかし自転車に対してバレットパーキングというのは、あまり聞いたことがありません。

Valet bike parking動画で見る限り、実際にはパレットパーキングと言うよりクローク、手荷物一時預かりのようなスタイルにも見えますが、いずれにせよ単なる駐輪場ではなく、係員が自転車を預かってくれるサービスなのです。しかも、なんと無料です。利用客にも好評を得ています。

駐輪場に自分でとめるより、バレットパーキングのほうが顧客として丁寧に扱われている気がするのは間違いないでしょう。まして自転車に対して、こうしたサービスというのはあまり例がありません。良くて駐輪場があるくらいで、必ずしも優遇されているとは言えない自転車利用者にとって悪い気はしないはずです。



日本と違い、アメリカの都市では鍵をかけていても自転車の盗難が多いという事情もあります。野球観戦を終えて出てきたら、とめておいた自転車が消えているなんてことも珍しくありません。これなら盗難の心配もなく、安心して観戦出来ます。この点が一番の理由として喜ばれているのでしょう。

自転車で来るお客は近隣のお客、ほとんど地元のファンでしょうから、お得意様へのサービスの一環でもあります。でも、それだけではありません。自転車で来場するお客が増えれば、どうしても試合の前後の時間に集中する駐車場の入退場待ちの渋滞も減り、クルマのお客の待ち時間も減らせます。

Valet Bicycle Parking実際、試合に詰めかける観客による渋滞がひどくなる場合があったと言います。サンフランシスコ・ジャイアンツは地元団体の協力も得て、年間81試合のホームゲーム全てと他のイベントなどの開催時に、このバレットパーキングを導入しています。大リーグ球団初です。

日本でも野球場に限らず、駐車場の収容が少なかったり、利用が集中しての渋滞対策に苦慮している施設は多いと思います。サッカー場などでも、試合のある日は球場と関係のない近隣の公共施設や商業施設などの駐車場までが観客に占領されて苦情が出、その防止策に追われているという話も聞きます。

サンフランシスコ・ジャイアンツは、こうした取り組みで、観客の半数以上をクルマ以外の方法で来場してもらうことに成功しています。自転車ならスペース的にもクルマより圧倒的に少なくてすみます。渋滞などの不便の解消に貢献するだけでなく、環境に配慮する姿勢も評価されます。球団のイメージにとっても悪いことではないでしょう。

自転車バレットパーキングメジャーリーグの球団が地球温暖化対策と言うのも、あまり結びつかないような気がしますが、そうとは限りません。少なくともサンフランシスコ・ジャイアンツは、むしろ世論の動向や地元の声を敏感に察知し、それを反映していかなければならないと考えているようです。

クルマ社会とは言え、アメリカでも環境への意識が高まっています。サンフランシスコは街中をケーブルカーが走ることで有名ですが、それほどきつい坂の多い街であるにもかかわらず、自転車を利用する人はここ10年で倍増していると言います。自転車に対する優遇策がとられるのは、こうした流れにも添っています。

AT&Tパークでは、多くの球場で駐車場はあるのに、自転車で来てもらうために安心して駐輪出来る設備がないのはおかしいとの考え方に立っています。人々の移動を大量に生み出す施設として、結果的に温暖化ガス排出を促進してしまうことの責任も明確に自覚しています。

温暖化対策としてカリフォルニア州は、連邦政府よりも厳しい環境基準を打ち出すなど先進的な環境対策を推進し、その意識も高い州としてよく知られています。そのカリフォルニア州に本拠を置く5球団の中でも、こうした有人の駐輪サービスを展開しているのはサンフランシスコ・ジャイアンツだけです。

球場へ足を運ぶのは、地元ファンにとって生活の一部と言ってもいい行動です。この自転車パレットパーキングを利用している人の中には、自転車で行かれるようになったおかげで、野球場への行き帰りも楽しくなったと感じている人も少なくないようです。

あの坂の街、サンフランシスコですら自転車です。立地にもよるので一概には言えませんが、パレットパーキングでなくても、何らかの方法で特別待遇にするなど、日本でも地元のお客にもっと自転車で来てもらう手はあるはずです。公共交通の利用を盛んに呼びかけている施設もありますが、それだけが選択肢ではないでしょう。



“TAKE ME OUT TO THE BALL GAME”(私を野球に連れてって)というMLBの有名なテーマソングがあります。メジャーリーグの試合では、この愛唱歌を7回表が終わった時に歌う習わしになっています。このフレーズを借りて言うなら、“BIKE ME OUT TO THE BALL GAME”(私を自転車で野球に行かせて)といったところでしょうか。



韓国と対戦成績を五分にしたのは良かったですが、村田選手が負傷してしまったのは残念でした。あと2つ、何とか勝ってほしいものです。

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この記事へのコメント
こんにちは、いつもユニークな視点のサイクルニュースを楽しんでいます。
自分たちもアースデイ東京2009というイベントで「Bike to Earthday!」という企画を準備をしているので参考になります。

動画は知らなかったなぁ〜
Posted by kuni at March 22, 2009 22:56
kuniさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
アースデイでの企画ですか。何か参考にしていただける部分があったのであれば、幸いです。アースデイもそうですが、こうしたムーブメントが世界中で広がりつつあるのを感じますね。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
Posted by cycleroad at March 23, 2009 22:44
 
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