ETCを利用する乗用車に限って、土日祝日に都市近郊を除く高速道路の料金を上限1,000円にするという割引制度です。一部先行した東京湾アクアラインなどを除き、初日となった先週末ですが、予想されたほどの混雑はありませんでした。GW並みの態勢で待ち受けた観光施設などでは空振りに終わったところもあったようです。

春休み中の週末だったにも関わらず、ふだんの人出とあまり変わらなかったのは、大渋滞を予測した人、様子見を決め込んだ人が多かったからでしょうか。あるいは、ETCの車載器の売り切れが全国的に続出し、装着が間に合わなかった人が多かったということがあるのかも知れません。
ETCの装着について言えば、この政策に便乗してETCの装着率を上げようとする、国交省の天下り団体の意図が見え見えです。別にETC装着車でなくても、料金所で千円までしか受け取らなければいいだけの話です。ETCでなければ割引出来ない理由はないと思います。
ETCを一台装着させる毎に数千円のセットアップ料なるものを徴収する財団法人をはじめ、いくつかの天下り団体に言わせれば、料金収受のシステム云々と言うに違いありません。しかし、ETCのシステムだって、これまで長い準備期間があったにも関わらず、システム変更が間に合っていません。

その結果、来月末までは料金を二重取りする始末です。料金所のシステムだって、上限千円のキャップをかければいいだけで、そんなに難しいことではないはずです。手間だって、千円ポッキリのほうが、かえってお釣りを渡す機会が減って手間が省けるくらいでしょう。ETC限定にする理由にはなりません。
いずれにせよ、心配されたほどの渋滞は発生せず、ふだんより少し多い程度で比較的スムースだったと報じられています。まだ初日と2日目だけですので、今後は渋滞も増えるのかも知れませんが、受け入れる観光地のほうは、特需に沸くところ、逆にかえって素通りされるところなど悲喜こもごもだったようです。
政府の景気対策としての期待され、その目玉とも呼ばれた今回の高速料金値下げですが、果たして思惑通りにいくのかは予断を許しません。鉄道やバス、航空機やフェリーなど他の交通手段は対抗上値下げせざるを得ませんし、人の流れが変わる可能性はありますが、全体として景気にどれほどの波及効果があるか未知の部分です。

もともとは、原油価格高騰に対する家計支援から出てきた政策だったような気がします。民主党の掲げる高速料金無料化に対抗する政治的な意味合いもあったのでしょう。そう考えると、今は完全に景気対策ととらえられていますが、必ずしも筋のいい政策とは言えません。
高速代が浮いた分、多少は期待できるにしても、ただでさえ家計は財布のヒモを固くしているわけですから、必ずしも観光地に落とすお金が増えるとは限らないでしょう。結局、人々の移動距離が多少増え、人出が今までより遠くに広がるものの、バスや鉄道の利用が減ってガソリンを余計に使うだけに終わる可能性もないとは言えません。
そもそも、いずれ無料になるはずだった高速道路ですし、料金値下げ自体は悪い話ではありません。ただ、少し前なら地球温暖化対策に明らかに逆行すると反対する声も大きくなったのではないでしょうか。リーマンショック以降の金融危機と世界同時不況と言われる急速な景気の悪化で、そうした声はかき消されてしまった感があります。
温暖化ガスの排出削減なんかより、当面の景気対策が焦眉の急だというのはわかります。確かに失業や倒産が増え、国民生活が窮乏し、生命の危機に至る人まで出ます。税収が落ち込み、社会不安が増大し、将来的に国家財政が危機的状況に陥り、社会保障などが滞りかねません。環境対策に使う予算も到底出せなくなります。

その意味で、景気対策を否定するつもりは毛頭ありませんが、即効性のあるように見える対策が、すなわち効果があるとは限らないのが問題です。高速道路代が安くなったからと言って、すぐ人々がお金を使うようになるかと言えば、そうとも思えません。
人々が節約したり、貯金にまわしたりしてお金を使わなくなるのは、この不透明な時代に生活防衛の意図があるのは間違いないでしょう。そして、将来に対する不安が、財布のヒモを固くさせているのだと思います。もっと具体的に言えば、将来の年金や医療、介護などに不安を感じているわけです。
一連の消えた年金の問題が拍車をかけましたが、それがなくても少子高齢化が進み、年金の未納率が高まっていけば、年金制度が立ち行かなくなるのは自明です。少なくとも、今の給付水準が維持できるとする厚労省の試算を信じる人がいるとは思えません。

このままいけば、医療や介護も含め、将来の社会保障費が危機的状況になるのは目に見えています。その意味でも国の財政の早急な健全化が求められますが、これは景気対策のための財政出動とは相反します。今、財政出動をしても、将来、長期的には健全化すると信じられなければ、人々は安心してお金を使えないでしょう。
政府の信頼感の問題もありますが、根本的にはやはり出生率を回復させ、少子高齢化の進展を喰い止めなければなりません。年金や医療、介護などを支える現役世代が減っていくのに、高齢者ばかり増えていけば、社会保障の破たんは必至です。人口が安定的に推移していくよう、少なくとも激変を避ける政策が必要です。
簡単に言うけど、そんなことは無理だと考える人は多いと思います。でも必ずしもそうとは限りません。と言っても、移民を受け入れようというのではありません。移民を単に労働力としてしか見ないような現在のようなやり方で移民を増やしていけば、問題が多数噴出するのは目に見えています。苦悩する諸外国の例を見ても明らかです。

その意味で、移民によって人口が増えているアメリカは参考になりません。多くの先進国が少子化する中で、参考にすべきはフランスです。先進国が軒並み出生率1点台前半に沈む中、2点台を超えています。フランスも政治的な問題は多く抱えていますが、こと人口動態に関しては明るい未来が開けています。
フランスの例を見れば、出生率の回復が日本でも決して不可能ではないことがわかります。例えば、女性の社会進出が進む今日、出生率の低下は避けられないとする考え方が当たり前になっていますが、フランスの女性の就業率は日本よりも上です。きちんとした子育て支援や、出産後の職場復帰保証を進めれば、出生率は回復するのです。
日本のように晩婚化が進み、初産の年齢が高くなっている状態では少子化が避けられないと考える人も多いでしょう。しかし、フランス人の結婚の平均年齢や出産の年齢は、やはりどちらも日本より上なのです。こうした実例がある以上、晩婚化や出産年齢の高齢化は、少子化の避けられない理由とは言えません。

そもそも結婚しない人が増えている中で、少子化は避けられないとの考え方もあるでしょう。しかし、フランスも婚姻数は減っているのです。つまり、婚外出産が増えているわけです。この点については、文化的な背景もあるので、日本では無理だろうとする意見もあるでしょうが、そうとも限らないと思います。
キリスト教的社会通念より、日本の儒教的社会通念のほうがハードルが高いとはとても思えません。必ずしもシングルマザーを推奨するわけではありませんが、時代と共に家族観や家庭像が変わってくるのも明らかです。婚外子であろうと子育て支援に関して差をもうける必要はないでしょう。日本の社会通念は過去にも大きく変わってきています。
フランスでも、最初から高い出生率を誇っていたわけではありません。明確な意図をもって、地道に出生率を上げる政策を続けてきた成果です。今となっては、日本と大きな差がついてしまいましたが、日本にもやって出来ないことではありません。

出生率が上がり、少子高齢化でいびつな人口構成になることが避けられれば、将来に対する人々の不安のいくつかは解消に向かうはずです。もちろん、若い世代が増える分、住宅にせよ消費にせよ、膨大な需要が生まれるわけで、確実に内需拡大に結びつきます。
例の定額給付金の2兆円もの予算があれば、充分推進出来た政策は多数あります。それくらい膨大な金額なわけで、経費をかけて配る無駄と能のなさが嘆かれます。ハコモノや道路建設と違って、有力な圧力団体がないだけで、出産や子育てなどに対する支援政策が経済波及効果を生まないわけでは決してありません。
迂遠なようでも、確実に経済規模を拡大するだけでなく、将来に対する構造的不安を払拭することで、現在の消費につながる効果も期待できます。子供を持つことによる経済的負担を軽減することで家族の人数を増やすことが出来、社会にも子供が増えてもっと明るくなるかも知れません。
これからジリ貧になるという暗い予測より、子供を増やし、将来の日本の繁栄を築いていこうということになれば、未来に希望が持て、世の中ももっと活気づくでしょう。ETC割引が悪いと言うつもりはありませんが、景気対策については、短期的な目先の政策ばかりでなく、こうした長期的な視点も望まれるのではないでしょうか。
週末出かけたら、東京のサクラはまだまだですね。仕方がないので、昼間っから店に入って飲んでしまいました(笑)。結局、夜まで飲んでしまったので頭がいたい..。
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