プロのスポーツ選手も自転車をトレーニングに使います。
自転車競技の選手は当たり前ですが、自転車以外の競技のスポーツ選手でも、オフのトレーニングなどに自転車を使う場合があるようです。ペダルをこぐことで心肺機能を高めるのは、スポーツジムなどにあるエアロバイクでもおなじみですから、さして驚くにはあたりません。
ペダルをこぐ運動自体は、直接それぞれの競技とは関係なくても、自転車はランニングなどと比べて膝への負担が小さいという利点があります。いわゆるエアロビック・エクササイズ、有酸素運動を長時間にわたって続けることが出来るという点でも優れています。ふだんの移動にも、あえてクルマなどを使わず自転車にする人もいます。
マスコミに取り上げられることの多いプロ野球などは別ですが、プロスポーツ選手のシーズンオフのトレーニングについて知る機会は多くありません。ただ、オフのトレーニングに自転車と聞いて、誰もがまず思い浮かぶのは、スピードスケートの選手でしょう。
夏場のトレーニングとして自転車を使うだけでなく、橋本聖子さんや、大菅小百合選手のように夏のオリンピックに自転車競技で出場する選手もいます。自転車のトラック競技とスピードスケートとは使う足の筋肉が共通しているということなのでしょう。
ちなみに、スピードスケートの選手がオフの自転車トレーニングで太ももを鍛えているのを見て、自転車に乗ると足が太くなると心配する女性は、相変わらず少なくないようです。しかし、一般の人は彼女たちのようにスプリント系のトレーニングをするわけではありません。
筋肉が無酸素状態になるような過酷なトレーニングによって、あれだけ太ももが発達するわけで、普通の人は、やろうと思っても出来るものではないのです。したがって、普通に乗っているぶんには贅肉がとれ、締まって細くなることこそあれ、脚が太くなることはありません。
坂道を登ったり、多少速く走ったところで、あんなに筋肉は発達せず、むしろロードレースに近い運動をすることになります。ロードレースの選手の脚は太くありません。欧米の女子選手の中にはファッションモデルを兼業する人もいるほど、スリムで締まった脚をしています。
さて、スピードスケートと自転車のトラック競技は使う筋肉が近いようですが、他のスポーツとは、筋肉の使い方が共通しない場合がほとんどでしょう。つまり、走る筋肉とペダルをこぐ筋肉は違います。多少は重なる部分もあるでしょうが、一般的に自転車でのトレーニングを重ねても、走力をアップさせるのには向かないわけです。
逆に、トレーニングで一日中ペダルをこいでいる自転車競技の選手は、歩く筋肉が衰えてしまい、歩いたり走ったりするのが苦手になってしまうそうです。おそらく、趣味で自転車に乗っている人の中にも、使う筋肉の違いが実感としてわかる人も多いのではないでしょうか。
すなわち、自転車でのトレーニングは、心肺機能を高めたりするのは可能でも、走力のアップや、ケガなどからのリハビリにおいて、歩いたり走ったりする動作の回復には向いていないことになります。少なくとも、今までの常識ではそうでした。
ところが、この“
GlideCycle”は、その常識を覆します。フレームから吊り下げられたサドルに座り、地面を蹴って進む自転車です。ペダルをこぐ運動ではないので、まさに走る筋肉を使います。一方、全体重が足にかかることがないので、膝の怪我などからのリハビリにも最適でしょう。
ハンドルやブレーキはありますが、ペダルやギヤ、チェーンはありません。普通の自転車を見慣れた目からは意外性のある形ですが、走ったり歩いたりを補助する自転車と考えれば、なるほどリーズナブルな形をしています。人間の足の補助輪と見ることも出来るでしょう。
普通のフレームの自転車で、ペダルやクランク、チェーンなどを外し、サドルにまたがって足で蹴る方法も考えられますが、やはり、フレームにまたがった形では、地面を蹴ることは出来ても、走るという感じではありません。サドルを吊ったことで、足元が自由になっているのがポイントでしょう。
用途は、スポーツ選手などのリハビリだけではありません。動画にもあるように、下肢を一部失った人でも速いスピードで移動出来るという点で画期的な乗り物と言えるでしょう。今まで車椅子しか選択肢のなかった人でも、片足で地面を蹴れれば、この“GlideCycle”に乗れるかも知れません。
脚力が弱り、足元のおぼつかない高齢者でも、このグライドサイクルなら軽快に移動出来ます。やはり、全体重が足にかからないことで、膝などに対する負担も小さくなりますし、サドルで支えられていることで、前後への転倒の危険性が減ります。3輪か4輪にすれば、横方向へ転倒にも、より安全になりそうです。
過度の肥満により、普通に走るのも困難な人は、体重を落とすために運動するのも難しくなります。このグライドサイクルなら、体重を支えてもらうことで軽快に走ることが出来るようになります。足への過度の負担が減って運動がしやすくなることで、減量にも貢献することでしょう。
足の怪我などから回復を目指す人や、歩行がおぼつかない人が使う「歩行器」という器具があります。一般的な歩行器は、基本的に腕で身体を支えることで歩行を補助しますが、このグライドサイクルを歩行器として考えると、フレームから吊り下げられたサドルで身体を支えることで、腕への負担を減らせる利点もありそうです。
動画で見ると、まさに“glide”、滑るように走っています。リハビリなどではなく、普通に乗っても楽しそうです。パッと見には、そのユニークな形状に、単なる変わり種自転車かと思いますが、いろいろな用途に使えて実用性が高いだけでなく、スポーツとして乗ってみても面白そうです。
世界の紛争地では、対人地雷やクラスター爆弾などで足を失う人が後を絶ちませんが、不幸にして脚を失くした人にも希望を与える乗り物になるかも知れません。高齢化の進む先進国でも、足の衰えた人への福音となる可能性があります。もちろん、リハビリ用に医療の現場などでも使えそうです。
自転車にもさまざまな形があります。しかし、ペダルやクランク、チェーンといった、どの自転車にも共通するパーツを外すという発想は、なかなか出てこないでしょう。フレームから吊り下げるサドルもそうですが、形に対する固定観念を壊せば、自転車には、まだまだいろいろな可能性が秘められているのかも知れません。
鳥インフルエンザへの警戒感は高まっていましたが、豚から来るとは..。
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