ご存じのように、対象の家電製品を買うとエコポイントがもらえるというものです。エアコン、冷蔵庫、地上デジタル放送対応テレビの3品目のうち、省エネ性能が原則として4つ星以上のものが該当します。家電量販店などでは来客数が増え、売り上げも大幅に伸びるなど順調なスタートを切ったと報じられています。
ただ、ポイントの使い道などの制度の詳細は未定のままで、販売現場や消費者からは戸惑いの声も出ています。エコポイント実施を待って、買い控えが起きないようにとの理由もわからないではないですが、何に交換できるかや、交換方法も決まっていない中での見切り発車、拙速という印象もぬぐえません。
この制度、私は大いに疑問です。以前から、エコカー減税などに対しても同じようなことを書いてきましたが、ちっともエコとは言えないのが問題だと思います。省エネ性能に劣る製品を廃棄して新しい製品に買い換えることで、温暖化ガスの排出削減になると政府は説明していますが、その効果は甚だ疑問です。
まだ使えるのに買い替えを迫るという点もそうですが、エコポイントは価格が高い製品ほど、つまり大型で消費電力の大きな製品ほど点数が大きくなっています。この点数の付け方では、より消費電力の大きな製品を推奨しているようなものです。省エネと逆行しています。
今まで、400リットルの冷蔵庫を使っていた人が、温暖化防止に貢献するため、買い替えを機に300リットルにするというのであれば、確かに省エネでしょう。例え省エネ性能の進んだ製品だったとしても、今までより大きな製品を買う場合は、ポイントで減点してもいいくらいです。
たたでさえ、家電を買い替える時には、前よりも大きなものを買いがちです。家族が増えたなど物理的な理由がなくても、もう少し大きいものが欲しいとか、ついショップのセールストークに乗せられてとかで、1ランク大きなものを買ってしまうことは多いでしょう。
個人の消費行動にケチをつけるつもりはありませんが、政府まで一体となって、「エコ」を名乗りながら、省エネに逆行する行為を後押しするのは疑問です。景気浮揚のため、個人消費を刺激する役割はわかりますが、エコの名を借りてそれをやるのは、消費者の目を眩ませて煽っていると言われても仕方ありません。
家電の平均的な買い替え期間は7年程度だそうですが、2002年頃の製品だって、省エネをうたっていたはずです。大きなサイズのものに買い替えさせるインセンティブは別として、同じ大きさの製品で比べても、今の製品と比べて省エネ性能が大きく劣っていて、すぐに買い替える必要性が高いものばかりとは思えません。
3品目のうち、ブラウン管テレビは、薄型テレビに買い替えたら省エネになりそうな気がしますが、そうとも限りません。毎日新聞に、財団法人「省エネルギーセンター」のデータに基づいて計算した例が載っていましたが、その試算を見ても、ブラウン管から薄型テレビにして、省エネになるとは限らないのです。
2003年当時に最も消費電力が少なかった29型ブラウン管テレビを、エコポイント対象の2008年冬製の地デジ対応テレビに買い替えるとします。元のテレビの年間消費電力は約130キロワット時です。これを46型液晶テレビに買い替えた場合、最も消費電力の少ない製品でも年間185キロワット時になると言います。
29型から46型は大きくしすぎのような気がしますが、必ずしもそうとは言えません。既に買い替えた方ならおわかりだと思いますが、4対3の従来型の画面に比べ、新しいテレビは16対9で横長になっています。そのため29型だと、最低37V型くらいの大きさがないと、画面の縦の長さの関係で小さくなったように見えるのです。
一般に、大画面テレビなどとも呼ばれていますので、薄型テレビにしたら、大きな画面のものが欲しいと思っている人は多いでしょう。仮に今まで29型だったのなら、46型にしてもおかしくありません。すると、省エネどころか消費電力は大きくなってしまうわけです。
また、50型プラズマテレビにしたならば、291キロワット時に跳ね上がってしまいます。サイズを37型に落としたとしても、液晶で143キロワット時、プラズマ195キロワット時で、現在のブラウン管テレビの方が消費電力が少ないのです。32型と小さくしても、最大149キロワット時のものまであるなどバラツキがあります。
この時、エコポイントは、46型以上だと3万6000点(1点は1円換算になる見込み。)、37型だと1万7000点、32型なら1万2000点になってしまいます。エコポイントのお得感から言っても、少し大き目を選んでしまう点数の付け方であり、まさしく、省エネに逆行する行動へ誘導するわけです。
ブラウン管から液晶と言うと、一般的に省電力化しているように感じますが、この有様です。冷蔵庫やエアコンも推して知るべしです。技術は進歩しているでしょうが、そのぶん多様な機能がプラスされています。そうでないと売れません。宣伝では電気代がこんなにお得!などとなっていますが、これをそのまま信じるのも危険です。
以前問題になった例では、日本消費者協会が行った商品テストで、検査した冷蔵庫すべての消費電力量がカタログ表示の約2〜4倍もあったそうです。つい先日も、日立の冷蔵庫でエコ偽装と言うべき不正が発覚したのも記憶に新しいところです。
全ての表示が詐欺とは言いませんが、いろいろと理由をつけて、非常識な使用実態で消費電力を比べたりする例もあります。例えば、エアコンを24時間365日連続運転というような前提条件です。普通、春と秋の過ごしやすい季節はエアコンを使わないと思いますが、そりゃ毎日運転したと仮定すれば、差額も大きくなるでしょう。
日立の冷蔵庫も単なるミスのように言っていましたが、到底信じられるものではありません。日立の例は悪質としても、売らんがためのギリギリのカモフラージュ、あるいはトリックがふんだんに使われていると見たほうが無難でしょう。細かい前提まで見ないことも多いですし、見てもわからない説明も少なくありません。
省エネ性能に優れているかどうかの数値は、4つ星や5つ星などのラベル表示でなされますが、実はすべてメーカーからの自己申告によります。メーカーが嘘を申告するとは言いませんが、提供データに「誤り」がないことが前提となっているのです。
全機種を政府がいちいち審査するのは到底無理ですので、自己申告なのは仕方がありません。しかし、正しいかどうかをチェックする第三者機関もないのです。競争が激しい世界なので、相互監視が見込めそうな気もしますが、古紙業界では、どの企業も軒並み“エコ偽装”に手を染めていた例も忘れてはなりません。
いや、実はエコポイントの「エコ」はエコロジーのエコではなくて、エコノミーのエコでした、なんてオチはないと思いますが、エコロジーではなくても、景気浮揚効果は見込めるだろうという意見もあります。「エコ」でないのに「エコ」を語るのは問題としても、確かに消費刺激策としての役割はあります。
これについては、もう少し経ってからでないと評価は出来ないと思いますが、今、家電店が盛況だからと言って、消費者に大好評とは限りません。定額給付金と一緒で、どうせ家電を買い替える必要があるのなら、もらえるものは、もらっておかなければ損だと待っていた人も多いはずです。
一定の景気刺激効果はあると思いますが、まだ何に使えるかも決まっておらず、ポイント制度を運用する事務局も決まっていません。こんな状態で見切り発車するなんて、国民をバカにしていると感じる人も少なくないでしょう。さらに効率という面でも疑問です。
今後、エコポイントを受け取って、何かの製品と交換するなど権利を行使するためには、事務局へ申請を行なう必要があります。その際、購入した製品の保証書、領収証やレシート、「家電リサイクル券の排出者控え」などの提出が必要とされています。それまでは自分で保管しておかなければなりません。
コピーでは偽造されたり、虚偽の申請が起こりかねませんから、原本を送るのはわかります。でも、保証書や領収証は、故障などの際にも必要になりますから、返却してもらう必要が出てくるはずです。途中で紛失されても困りますし、事務手続きだけでも手間がかかることになりそうです。
当然、事務局も人件費などに大きなコストがかかるでしょう。エコポイント分の財源だけでなく、こうしたコストも結局は我々の税金から出るわけです。たかだか家電の割引をするだけで、かなりの無駄な費用が発生する可能性があります。景気の刺激は必要としても、こんな回りくどい方法が、果たして政策として妥当なのか疑問です。
おそらく、民間のポイントカードに習って取り入れた政策なのでしょう。確かにポイントなら割引分が貯蓄されず消費に回るはずです。しかし、民間と違ってコスト意識のない官僚が主導すると、例え民間委託であっても、予算の執行段階で多大な費用が注ぎ込まれる例も少なくありません。
エコポイントとは関係ありませんが、今回の補正予算の中には、117億円もの予算が付けられている「国立メディア芸術総合センター」なども含まれています。なんで国が「マンガ喫茶」を作る必要があるのかと批判の的となっている施設です。「私の仕事館」であれだけ批判されたのに、全く懲りていないようです。
最近、こうした官僚主導で疑問の多い政策が多すぎではないでしようか。黙っていれば、役人ばかりがのさばり、省庁ごとの権益や予算が増大し、利権や官僚の天下り先を増やすような政策ばかりが増えていきます。本来なら政治がリードすべき部分ですが、今の麻生政権は、霞が関から完全に馬鹿にされているように見えます。
温暖化対策にしても、政府が先頭を切って、こうした見せかけだけの対策を進めているのでは、その本質を誤ります。政府がこれでは、企業もエコに名を借りて、その実、売り上げを上げるのが目的のマーケティングを改めないでしょう。このままでは、排出権の取得などで、近い将来の大きなツケとなって戻ってくるに違いありません。
高速道路1000円乗り放題、定額給付金、エコポイント、全て選挙対策のバラマキに見えるのは私だけではないと思います。「政局より政策。」などと言いながら、支持率回復に向けて、なりふり構わず予算をバラまいているようにも見えてしまいます。財政収支から言っても、全て、後の増税につながっていくのは確実です。
ご本人は、4段ロケットと称して悦に入っているようです。補正予算も効果が上がるのであればいいですが、そのあたりも懐疑的にならざるを得ません。もちろん景気対策が重要なのは言うまでもありません。しかし無駄に使われたものも、将来の我々の負担です。麻生首相は、既に消費税増税にも言及しています。
メディアでも、エコポイントに対しては肯定的な見方ばかりかと思いましたが、調べてみるとそうでもないようです。定額給付金にしても、エコポイントにしても、もらえば悪い気はしませんが、そのデメリットも合わせて考えるならば決して喜べたものではありません。専門家を含め、疑問に感じている人は少なくないようです。
新型インフルエンザが日本で拡大しているようなのが不安ですね。
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