厚労省は、これまでの感染状況を踏まえ、患者や濃厚接触者が活動した地域のある兵庫県や大阪府に対し、政府の対処方針に基づいて、地域や職場、学校などにおける感染防止策を実施するよう要請しました。中学、高校については、両府県全域での臨時休校を求めています。
事業所に対する要請の内容では、時差通勤や
自転車通勤を認める など感染機会を減らす工夫や、保育施設が臨時休業になった場合に従業員への配慮をすることなどが含まれています。思わぬところで自転車通勤が奨励される事態となっていますが、確かに満員電車で通勤するよりは、感染する確率を減らせるでしょう。
一般的には、時差通勤のほうが取りやすい対策だと思いますが、両府県以外の地域の事業所でも、今後の感染の拡大に備え、社員の感染リスクを減らすため、自転車通勤の検討に入っているところもあると思われます。もしかしたら、これを機会に自転車通勤する人が広がるかも知れません。
最近、そうでなくても自転車通勤をする人が増えています。平日の朝夕に都心を走行するビジネスマンを見ることも増えました。もちろん通勤者全体に占める割合からすれば僅かですが、テレビや新聞などで自転車通勤が取り上げられることも増え、注目が高まっていることは間違いありません。
自転車協会の調査などによると、まだ始めて間もない人が少なくないと言いますが、逆にいえば急激に増加しているということなのでしょう。今までだって自転車に乗る人は多かったわけですが、この自転車ブームでスポーツバイクなどに乗って、自転車本来のポテンシャルに気づいた人が会社まで直接通勤し始めているのかも知れません。
調査によれば、比較的通勤距離の短い人が交通手段を自転車にすることが多いようですが、今まで自転車通勤なんて考えたことがなかった遠い人でも、充分通勤可能だと気づく例もあるようです。何かの機会に、思い切って自転車で会社まで行ってみたら、思ったより近かった、意外に早く着いたなんて場合もあるでしょう。
結構行けるものだと実感し、またその爽快感に、案外自転車通勤っていいかも、なんて感想を持つ場合もあるに違いありません。イギリスでも、地下鉄とバスを狙った例の同時爆破テロを機会に、自転車通勤が増えたという話も聞きます。何がきっかけになるか分かりません。
もちろん、新型インフルエンザ感染拡大という非常時の話ですから、自転車通勤の部分だけ取り上げて、どうのこうの言うのは不謹慎と怒られそうです。ただ、自転車通勤のメリット、デメリットはいろいろありますが、意外な側面が明らかになった感じがします。
さて、そんな自転車通勤ですが、日本だけでブームになっているわけではありません。クルマ大国のアメリカでも、5月は自転車月間です。全米各地で“Bike to Work”つまり自転車通勤の普及を推進する、さまざまなイベントが行われています。
ニューヨーク市では、2008年に自転車で通勤する人が35%という劇的な増加をみたそうです。そのニューヨークでも先週は自転車通勤週間、“Bike to Work week”の催しが行われ、市の交通局長官が自ら先頭に立って自転車通勤をアピールしています。
アメリカのテレビ局、CNNでもネット上で特集を組み、自転車通勤の写真や動画を募集してサイトで公開するなど、大きく取り上げています。イベントも大勢の参加者を集め盛況だったようです。ニューヨーカーの自転車通勤ブームの盛り上がりを感じます。
Embedded video from CNN Video
以前にも取り上げましたが、ニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長は、かねてより自転車専用レーンの大幅拡充などに積極的に取り組む姿勢を表明しています。地球温暖化防止策としてだけでなく、渋滞対策や交通事故の減少を目指し、官民一体となって取り組んでいるのです。
日本でもNPO法人、
B.E.J(Bicycle Ecology Japan) などが“Bike to Work”のイベントを各地で開催しています。B.E.Jは、サンフランシスコで“Bike to Work Day”を主催する“San Francisco Bicycle Coalition”というNPOから直接アドバイスを受けているそうです。
全米各都市や、以前より自転車通勤者の多いオランダ、ドイツ、デンマークなどのヨーロッパの都市も含め、“Bike to Work”は、もはやブームというより、トレンドとして広がりつつあると言ってもいいでしょう。自転車で仕事へ行く、つまり日常の移動に自転車を使うのは、もはや一部の趣味人のものではなくなりつつあります。
欧米での“Bike to Work”(B2Wとも略される)のムーブメントは、温暖化対策や都市の渋滞対策に取り組む行政にとってもベクトルが一致します。安全で安心して歩ける都市を目指す上でも好都合です。多くの人が、都市の中心部まで個人のプライベートなクルマが入り込む必要があるのか、疑問に感じ始めてもいるようです。
もちろん物流や公共交通などもあるのでクルマは必要です。しかし、たった一人の移動の為に、何トンもの重量を動かすためのエネルギーを消費したり、貴重な都市の道路や駐車場で、人間の何倍もの面積を占有し、渋滞して時間をロスし、大気を汚染し、時に人を傷つけ、ヒートアイランドを加速し、温暖化ガスを排出するのは、どう見ても合理性に欠けます。
市民や行政にも、こうしたコンセンサスが醸成されつつあります。都市によっては、自転車のためのインフラ整備にも積極的に取り組み始めています。このあたり、自転車走行空間の整備が進むというのは、うらやましい部分で、日本とは多少温度差がある気がします。
日本では、自転車というと、どうしてもママチャリのイメージがあって、近場のアシならともかく、立派な都市交通の手段足り得るとは思っていない行政マンは少なくないようです。むしろ放置自転車対策、歩道を暴走するようなマナーの悪い自転車への対処などに主眼が行っています。
ディーゼル車の排気ガスに含まれる粒子状物質を問題にし、その規制で大きな成果をあげた某知事ですら、自転車と言うと、邪魔で危険で危なっかしくて、目障りな存在としか思っていないようです。そうした趣旨の発言をしているのを聞いたことがあります。
確かに自転車に歩道を走らせるという、世界では非常識な道路行政が進められてきた歴史的な背景もあるでしょう。既に世界有数の自転車保有台数を誇る国でありながら、その圧倒的多数がママチャリであるがために、人々の自転車での移動距離が短いという特殊要因もあります。放置自転車の問題も小さくありません。
このあたりが日本では、金融危機による節約や健康志向の産物として、自転車通勤が単なるブームとして捉えられる背景にあると思われます。行政が、この自転車通勤ブームを契機に、都市交通のあり方を見直し、温暖化対策を進めようという流れにならない要因でもあるでしょう。
新型インフルエンザの流行をきっかけに期待するのは不謹慎としても、今後、日本でも自転車通勤をする人が増えていくことで、誰が見ても一時的なブームでなく、温暖化対策や公害防止、渋滞解消、健康促進、満員電車の緩和などさまざまなメリットがあり、現実的でリーズナブルな手段との認識が、広く浸透していくことを期待したいところです。
滋賀や首都圏でも確認され、各方面への影響が懸念されています。ちなみに、先週のアメリカでのバイクウィークも、新型インフルエンザの感染拡大の中です。自転車通勤とは言え、イベントで集まったり、あまり密集して走行すれば感染の確率も高まるでしょう。ただ、マスク姿もなく、あまり過敏にはなっていないようですね。
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