でも国や地域によって、よく使われる自転車は少しずつ違います。もちろん、同じ都市でも用途や使い方によって乗る自転車は変わってくるでしょうが、全体的には、その土地独特の特徴や傾向が見られる場合もあります。ローカルな自転車が人気だったりすることもあるでしょう。
例えば、日本では最近スポーツバイクが流行していますが、その割合は僅か数パーセントに過ぎません。圧倒的多数は、いわゆるママチャリです。日本では、これぞ自転車だと考えている人も多いと思いますが、海外では日本のママチャリのような自転車がほとんど走っていないところも少なくありません。
世界では、自転車は車道を通るのが当たり前、常識です。しかし日本では、自転車に歩道を走らせるという独自の道路行政が行われてきた結果、重量が重くてスピードは出ないものの、足つき性がよく、低速でも安定する独特の自転車が市場を席巻することになりました。
それが、スタンドに前かご、チェーンカバーや泥除けなどが装備され、買い物や近距離のアシとして便利なママチャリです。日本全体では8千6百万台以上を有する自転車大国ですが、比較的、鉄道などの公共交通網が整備されているので、自転車に乗る距離が長くないという事情もあるのでしょう。
最近人気が高まり、急速に普及しつつある電動アシスト自転車も特徴的と言えるかも知れません。ママチャリの延長ということもあるでしょうが、全般的に海の間近まで山が迫っている地形が多く、関東平野のようなところでも、意外に小さな起伏が多いということも背景にありそうです。
アメリカ西海岸なら、ビーチクルーザーが特徴的と言えるでしょう。サーフボードも運べるくらい頑丈で、砂地にも強い太めのタイヤです。もちろんビーチクルーザーばかりが走っているわけではありませんが、西海岸生まれのマウンテンバイクも、この自転車から生まれたものですし、この地独特の自転車と言えるでしょう。
オランダのアムステルダムあたりに行きますと、昔ながらのダッチバイクがたくさんとめてあります。これが自転車王国の首都かと思うほど、失礼ながら古くてボロい自転車が多くて驚くのですが、これには理由があります。なにしろ盗難が多いので、盗まれてもいいように古くて汚い自転車を通勤に使う人が多いのです。
国土も平坦なオランダでは、当然のように複数の自転車を持っている人が多く、平日の通勤などには古いダッチバイクを使っていても、週末は最新型のスポーツバイクに乗って楽しんだりするわけです。ちなみに、このダッチバイク、私も現地で乗ったことがありますが、初めてだと乗りにくい自転車です。
武骨で頑丈な感じの自転車ですが、後輪には、日本で見るようなブレーキがついていません。足で後輪を逆回転させて止めます。つまり、フリーホイールではないので、ペダルが空回りしないのです。こぎ出しにも戸惑います。最近のものは、前輪だけ普通のブレーキがついていたりしますが、前ばかりブレーキをかけてしまうと危険です。
ヨーロッパでは自転車競技が盛んなので、ロードバイクが多いのかと思えば、必ずしもそうとは限りません。ドイツなどでは、中世から続く古い石畳の道路が残っているような街も多く、意外とマウンテンバイクを多く見かけたりします。確かに、そのほうが便利なのでしょう。
さて、このように地域によって、地形やその街独特の事情などを反映し、使われる自転車が違ってくるわけですが、中国は湖北省の省都、武漢ではどうでしょう。湖北省は、「千湖之省」と呼ばれるくらい湖の多い省で、武漢は長江と漢水というふたつの大河が交わる場所でもあります。
つまり地形は平坦で、自転車に乗るには適していますが、なんと言っても川や湖などが多い街なのが、地図を見てもわかります。ここ武漢で自転車に乗るなら、なんと言っても水陸両用自転車だろうと自分で作ってしまったのが、李衛国さんです。先月末に発表されたこの自転車、定年退職後にコツコツ開発してきたそうです。
ちなみに水上で乗っているのは彼の娘さんです。このニュースを報じている“
china.org.cn”には何枚か写真が載せられているのですが、陸上での走行は別として、なぜか水上で試走するのは娘さんばかりです。体重の関係ではないと思いますが、もしかしたら衛国さん、泳ぎが苦手なのかも知れません(笑)。
大きな8本の空のボトルによるフロートで浮力を得ます。陸上を走行する時は、このフロートをはね上げる形になります。後輪に推進力を得るための羽根がつけられており、なるほど単純明快です。ユニークな自転車ですが、となりを通る武漢の通行人の表情が微妙な感じがしないでもありません(笑)。
陸上走行時には多少重いものの、さほど不便ではないそうです。でも、空気抵抗もあるでしょうし、見た目にはちょっと邪魔そうです。しかし、水陸両用自転車というと、往々にしてこういう形になるのかも知れません。よく似た形のものが、既に商品化されているのを見たことがあります。
そちらのフロートは風船式で膨らませる方式でしたが、いちいち組み立てるのは面倒です。頻繁に水陸を行き来するなら、こちらのほうが便利かも知れません。実は、既にスポンサーも見つかり、量産が実現する見込みだと言います。武漢のような水面の多い街ならでは、と言うことなのでしょう。
調べてみると、別の人、河南省邯鄲市在住の張哲鋒さんという方も、以前に武漢で水陸両用自転車を発表しています。武漢では、水上を自転車で渡りたいと考える人が多いのかも知れません。ただ、武漢は、重慶、南京と並んで中国三大ボイラー(三大火炉)と呼ばれるくらい暑い街で、実は以前から自転車に乗る人が少ない街でもあります。
果たして、この水陸両用車がブレイクするか、個人的には微妙な気がしないでもありません。いくら湖が多いとは言え、迂回したり橋を渡ったほうが、スピード的には、よっぽど速いでしょう(笑)。実際には、どうなるかわかりませんが、今後、「武漢と言えば水陸両用自転車。」となるか、気をつけて見ていきたいと思います。
全国的に梅雨に入ってしまいましたが、特に西日本などでは梅雨の晴れ間が多いようです。あまり降らないのも、水不足が心配な気もしますが、晴れの休みは有意義に使いたいものですね。
関連記事
よくばりな人や一直線な人に
水陸両用自転車は既にイタリアなどで商品化され、売られている。
サイクルさせる為のサイクル
水上自転車ということなら、様々な種類の自転車が売られている。
自転車通勤する距離とコース
海が深く切れ込むシアトルでも、水上自転車があれば便利だろう。
思いもよらない場所で楽しむ
水陸両用車も面白いが、水上走行するくらいで驚いてはいけない。