懸案事項をかたづけてしまう

突然倒れてきた電柱が、住宅を直撃するという事件がおきました。

電柱は根元から折れたもので、断面付近が腐食していたそうです。幸い怪我人はありませんでしたが、直撃された住宅の方は、電柱が倒れてくるとは思ってもいなかったでしょう。以前にも同じ大阪で、自転車に乗った高校生が信号待ちで電柱につかまって止まっていたら、突然電柱が折れ、高校生が怪我をするという事件がありました。
今回の原因は、まだ調査中なのでわかりませんが、以前の例は犬のマーキング、つまり犬の小便が長年に渡ってかけられた結果、電柱が腐食していたようです。日本全国に電柱が何本あるのか知りませんが、中には、誰も気がつかないうちに倒壊の危機が迫っている電柱があっても不思議ではありません。
電柱と言えば、近ごろ都会のカラスが、電柱の上に金属製のハンガーで巣を作ることが増えているそうです。集合住宅のベランダの物干し竿などから集めてくるわけですが、器用に干してある洗濯物を外し、ハンガーだけを盗んでいったりすると言うので驚きます。これが漏電を起こし、各地で停電が発生する被害が出ています。

街中の電柱にカラスが巣を作り、下を通る人間を襲う事例も報告されています。5月から8月頃がカラスの子育て期間で、ヒナを守ろうとして最も攻撃的になる時期だそうですが、頭を突かれ怪我をする人も出ています。突然頭上から、しかもカラスは後方から襲うので、不意をつかれることになります。
これらの事例に絡むのは電柱の存在です。自転車に乗っていても、歩道のない狭い道路でクルマが渋滞していたりすると、電柱が邪魔なことがあります。ただでさえ景観を損ねますし、落書きや違法な貼り紙などが貼られたり、集合住宅などでは、泥棒の進入路になる場合もあるそうです。
ふだんあまり意識せず、その存在を忘れていますが、考えてみると何かと邪魔な存在です。もちろん私たちの生活を支える重要なインフラですし、その恩恵に受けているのも間違いありませんが、電線や電話線などは、必ずしも空中を通す必要はありません。つまり、地中化してもいいわけです。

電線の地中化は、20年以上前から国が取り組むプロジェクトですが、残念ながら遅々として進んでいません。パリやロンドンでは30年以上前に、既に100%地中化されています。ベルリンは99%、ニューヨークは少し低くて72%ですが、東京は、たった7%です。国内の市街地の平均は、わずか2%に過ぎません。
電線の地中化で得られるメリットは少なくありません。平時も通行空間が広がって安全で快適になり、バリアフリー化なども進みますが、震災時の避難や救援、緊急物資の輸送などにも大いに役立つと言われています。阪神大震災の時、折れて倒れた電柱から出火し、道路をふさいで車両の通行を阻むなど問題点が明らかになりました。

その阪神大震災の時には、大きな共同溝の被害は報告されておらず、電線の地中化は、電力の供給というライフラインの維持にも貢献すると見込まれています。被害を減らす減災の観点から、あるいは早期の復興のためにも有効なのです。特に都市直下型地震の場合、その莫大な経済損失を考えれば、地震への備えは重要な課題です。
もちろん、景観の向上にも大きく貢献します。景観がよくなれば、観光振興などにもつながるでしょう。共同溝の整備が進めば関連投資も誘発されます。道路をいちいち掘り返さなくてもメンテナンス出来るようになり、渋滞も減ります。次世代のインフラとして高電圧化なども可能になり、さまざまな経済波及効果も期待できます。
コストを除けば、いいことだらけです。個人的には、電柱の地中化と同時に、地上には自転車レーンの整備を進めてはどうかと思います。電柱が並んでいたぶんのスペースが広がるわけですし、どうせ地下埋設のために掘って舗装しなおすのですから、自転車レーンの設置自体には大してコストがかからないはずです。

電柱は歩道に並んでいる場合も多いので、電柱を撤去したぶん歩道を削り、車道の端と合わせて自転車レーンにするわけです。今まで自転車を通すことを想定して広くとられていた歩道の幅は狭まりますが、自転車と歩行者が混在することがなくなり、急増している自転車と歩行者の事故も減らせるはずです。
都市での自転車利用の推進は世界的な傾向ですし、地球温暖化対策であり、渋滞を減らすことにもつながります。市民の健康増進にも貢献し、生活習慣病を減らすなどの効果も期待できます。自転車での移動の利便性が高まれば、観光振興にもプラスになります。
私は景気対策として、この電線の地中化のような事業を大幅に前倒しして行うべきではないかと思います。麻生政権は、景気対策のため大型の補正予算を組んでいますが、国営マンガ喫茶と揶揄されるような「国立メディア芸術総合センター」に象徴されるように、無駄と思われる予算が多く盛り込まれています。
このメディアセンターについては、自民党内からも不要論が噴出していますが、そのほかにもバラマキとも呼べるような大盤振る舞いの予算がつけられています。確かに、この急速な景気後退には需要の創出が必要であり、政府として大きな財政出動が必要なのは理解できます。

しかし、一方で財政の健全化も求められています。国と地方を合わせた債務残高のGDP比は主要国と比べても、際立って高いレベルにあり、この状況では長期金利の上昇リスクも高まります。国民にとっても今後の増税が避けられず、将来不安にもつながります。
財政出動が必要なのは間違いありません。でも、ここぞとばかり各省から盛り込まれた予算の中には、疑問があるものも少なくありません。エコポイントのような政策も、ただ需要を先取りするだけで、将来反動で需要減を招くだけとの指摘があります。無駄な景気対策は避けるべきです。
その意味でも、将来必要になる事業を前倒しするのは有効でしょう。今実行してしまえば、将来、その分の予算は不要になるわけで、将来の財政収支の健全化にも寄与します。今財政出動が必要だからと、にわかに出てきたようなものに予算を使っても、将来の予算が減るわけではありません。

メディアセンターは、その効果が疑問なばかりか、著作権料の支払いなどで将来に渡って莫大な運営費がかかるなど問題点が少なくありません。いくら麻生首相がマンガ好きだからと言って、こういう政策を打ち出しているようでは、支持率が上がらないのも無理はありません。
もちろん、電線の地中化は一つの選択肢に過ぎません。学校の耐震化など優先度の高い事業もあるでしょう。アメリカで橋が崩落して死傷者が多数出た事故がありましたが、既存のインフラの劣化、老朽化のチェックや補修も必要でしょう。自治体の財政が苦しく、なかなかその予算がとれないのも問題です。
そうした優先度の問題はありますが、電線の地中化を進め、自転車レーンを整備するのも悪くはないと思います。麻生首相は、4段ロケットなどと言って、景気対策関連予算の成立を誇っているようですが、問題は中身です。金額の大きさだけをいたずらに誇るのではなく、より賢い政策を求めたいものです。
カラスが攻撃するのは、女性が多いという話もあるようです。最近増えている、ひったくりの被害も女性が多いと言いますし、特に女性は道を歩く時、後方にご注意を。
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いや、自転車レーンのほうを地中化するというアイディアはどうか。

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Posted by cycleroad at 23:30│
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電柱邪魔ですよね〜
自宅付近にある道路は狭いのに電柱がたくさんあって、なおかつ車がたくさん通るので怖いです。
>コストを除けば、いいことだらけです。
一概にそう言えないのが、地中化の難しい所です。
そもそも、国(と言うか国交省)は地中化にかなり積極的です。
何せ、あまり批判を受けずに出来る大型公共事業ですから、積極的にならない方がおかしいです。
日本の地中化が進まないのは、予算が少ないわけでも政策が推進されていないわけでも無く、地理的な要因や土地権利の問題、企業の非協力的な姿勢だったりします。
場所によっては、地元住民自身が地中化に反対していたりもします。
歩道を走ってる時は気にならなかったですが、
車道を走るようになったら電柱が邪魔に感じるようになりました。
端によって走れば電柱の度に右に寄るから追突しそうで怖いし常に左側に空間を開けるとクラクションを鳴らされ大変。
なっか〜さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
電柱が邪魔になることは、ままありますよね。電柱があるがために、クルマの横を通れ抜けられなかったりします。
歩道のないような狭い道路では電柱をよけて車道側に出ざるを得ず、結果として危険が増しているのも否めないところでしょうね。
通りすがりさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これだけ地中化率が低くとどまっている背景には、やはり、それなりの事情があるのだろうとは思います。しかし、理屈からいえば、地中化にメリットが多いこと、実現したら、いいことばかりなのは事実なのではないでしょうか。
素人考えだとは思いますが、基本的に公道の下に設置するなら私有地ではないので、権利問題は発生しないのではないかと思うのですが、違いますでしょうか。
地域住民の考え方はそれぞれだと思いますが、基本的に公道の下に共同溝を設置するのに、住民の反対が関係するのでしょうか。
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
電柱が邪魔になること、ありますよね。歩道が整備されていて、電柱が歩道に配置されている場所はいいですが、歩道のない狭い道路などの場合、おっしゃるように、車道側にふくらむ必要があったりして厄介です。
すっきり地中化出来れば、自転車にとっても走りやすくなりそうですね。
>基本的に公道の下に設置するなら私有地ではないので、権利問題は発生しないのではないかと思うのですが、違いますでしょうか。
ハイ、違います。
長くなるので理由は割愛しますが、共同溝は基本的に「歩道の下」に設けます。
http://www.nishi.or.jp/homepage/douroken/menu_2_4_7_ccb.html
つまり十分な幅の歩道が無い道路で地中化をしようとしたら道路の拡張工事が必要であり、十分な幅を確保するには沿道の土地を買収し、住民を立ち退きさせなければなりません。
そして、これは地中化するに当たって超えなければならない多くの壁の一つに過ぎません。
それから、『電柱が邪魔』と言う意見が目立ちますが、電柱がなくなったとしても、電柱に付属している街灯まで無くす事は出来ませんし、電柱の上に乗せられている変圧器も地中化出来ない物の一つです。
つまり無電柱化したらスペースが広くなるかといえば、かならずしもそうではないと言う事です。
通りすがりさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
幅の広い道路の場合、メンテナンスのことなどを考えても歩道の下につくるほうが便利でしょうし、実際そうなっていることは知っていました。しかし、歩道のないような狭い道路では、車道の下につくるわけにはいかないということなんですね。それは知りませんでした。なるほど、それならば基本的に拡幅が必要で、土地の収用が必要になるのは理解できます。まあ、素人的には、狭い道路なら、道路の拡幅などせずに、車道の下でも構わないようなきがしてしまいますが..。
確かに街灯の問題があるな、とは私も思っていました。中央分離帯に設置する手もありそうですが、全てそういうわけにもいかないでしょうし、もちろんなくすわけにもいきません。ただ、いわゆる電信柱よりは、細く出来ると思いますし、ガードレールの幅くらいで足りるような気もします。現に、そういう場所もあると思います。ただ変圧器が地中化出来ないというというのは知りませんでした。
いずれにせよ、いろいろ問題があって、一筋縄ではいかないのはよくわかりました。解説ありがとうございました。
>狭い道路なら、道路の拡幅などせずに、車道の下でも構わないようなきがしてしまいますが..。
この辺は匙加減が難しいところです。
生活道路のような、自動車による往来が少ない道ならそれも有りでしょうが、ある程度の交通量がある道路の下に作った場合、騒音問題の懸念があります。
浅い地下空間やアクセス口であるマンホールは、音が響きますからね。
実際問題として、既存の車道下の地下空間に対して、マンホールの撤去など騒音対策を行っている状態ですから、わざわざ騒音源となる地下空間やマンホールを新設しようと言う流れにはならないでしょう。
通りすがりさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
なるほど、騒音ですか。確かに狭い道路の場合なら、なかなか深く埋設するのも難しいでしょうし、音はしそうですね。
最近は地中化ではなく、表通りにある電線を裏通りに回すことによって、景観の改善をはかるような手法も行われていると聞きました。地中化出来れば一番いいのでしょうが、いろいろと事情があるのでしょうね。
いずれにせよ、簡単ではないということですね。解説ありがとうございます。
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