サイクルロード 〜自転車への道
世界の都市で自転車が選ばれ始めている。さまざまな角度から自転車の話題を。
July 16, 2009
パーキングをパークにする日
自転車で通行中に、路上駐車のクルマが邪魔に感じることもあると思います。
違法駐車、迷惑駐車は事故を誘発し、自転車だけでなく歩行者も危険にさらす場合があります。渋滞をひき起こすなど、通行するクルマにとっても迷惑でしょう。ただ、路上駐車は違法駐車ばかりとは限りません。合法に駐車出来る場所、例えば白い枠線がひかれ、パーキングメーターが設置されている場所もあります。
こうした場所に駐車する限りは何ら咎められるものではありません。しかし、世界的に見ても、都市へ流入するクルマの台数が増え、慢性的な渋滞が起きています。交通事故の増加や、排気ガスによる大気汚染や温暖化ガスの排出増加も問題です。クルマに依存した都市交通を見直す都市も増えつつあります。
クルマの都市への流入を制限したり、路面電車などの整備を進めたり、自転車の活用を推進するなどの動きも出てきています。従来のクルマ中心の道路整備や、都市の構造に疑問を感じる人も増えてきています。そうした流れでクルマの利用を減らしていくならば、パーキングメーターの必要性も減ることになります。
世界の都市では今まで、当たり前のようにパーキングメーターが設置されてきました。でも、特に都市部では、貴重な公共の土地を相対的に少ない人々、つまり一部のドライバーの為だけに確保し、僅かな料金で占有させることが果たして合理的なのか、疑問に思う人もあるに違いありません。
都市の中心部でマイカーを使わないことで、都市交通や環境、都市生活とクルマの使い方について考える日にカーフリーデーなどがありますが、それに似たムーブメントとして、アメリカのサンフランシスコなどでは、パーキングメーターなどの駐車スペースについて考える日が行われています。その名も“
PARK(ing) Day
”です。
PARK(ing) Dayは、アーティストや活動家、そして市民が中心となって、路上のパーキングスペース(Parking)のいくつかを使って、公園(Park)をつくろうという日、イベントです。公園といっても、パーキングスペース一台分、もしくは数台分の小さなものです。
つまり、路上のパーキングスペースを、この日だけいくつか占領して公園のように使ってしまおうというのです。もちろんパーキングメーターに必要な料金を入れておくので、違法ではありません。アメリカの場合、パーキングメーターの料金は、日本よりはるかに安いところが多いので、いくらでもないでしょう。
写真は、歩道から車道へ植え込みがせり出しているように見えますが、実は違います。もとは前後と同じ駐車スペースです。ビニールシートなどを敷いて、その上に芝生などを敷きつめ、ベンチなどを置いてミニ公園にしているのです。芝や樹木やベンチなどの資材を運ぶにも、もちろんクルマは使わず、自転車などを使います。
この日“PARK(ing) Day”は、皆で資材を運んで、自分達の手で作った公園でくつろいだり、仲間と楽しんだりして盛り上がろうという日なのです。小さな一日だけの公園に、わざわざこんなに手間をかけるバカバカしさも含めて楽しんでしまう、お祭りのような感覚なのでしょう。
もちろん、クルマ優先の都市構造への批判、アンチテーゼであり、市民としてのコミットメントでもあります。例えばサンフランシスコでは、ダウンタウンの公的空間のうち7割以上がクルマの為に取られていると言います。誰でも参加できる気軽な遊びであると共に、人間のための空間や緑を求めるアピールでもあるのです。
(ロサンジェルスなどの米国内の他の都市ばかりか、ミュンヘン、リオデジャネイロなど世界へ広がっている。)
今年の“PARK(ing) Day”は9月18日ですが、金曜日というのも特徴的です。平日でなく日曜日だと、街にクルマも少なく、パーキングスペースを奪って公園にする意味が薄れるのでしょう。少なくともパーキングメーターがなくなるまで続けたいとしています。
2005年から始まったこのイベント、全米各地と、いくつかの世界の都市でも同時に行われるまでに広がりつつあります。カーフリーデーなどと比べれば、まだまだマイナーですが、デモをするでもない、そのユニークな手法といい、皆で楽しもうというスタンスといい、これからも広がっていきそうです。
そして2007年には、なんと移動式の公園まで登場しました。芝や樹木、ベンチなどの資材をいちいち設置したり撤去することなく、公園のまま移動出来るものです。もちろん駐車スペース一台分ですから、クルマ一台分くらいの大きさです。駐車すれば、即、緑のオープンペースです。
樹木や芝ごと運べるクルマなのかと思いきや、なんと自転車です。“The PARKcycle”と名付けられた、動く公園型自転車なのです。“PARK(ing) Day”に参加するために製作された自転車ですが、そのまま公園になる自転車なんて、世界広しと言えども、そうはないでしょう。
面白いことを考える人たちがいるものです。この“The PARKcycle”があれば、どこかへ出かけて行ってアピールすることも出来ます。実際、彼らはサンフランシスコ市庁舎前の市長の個人の駐車スペースに止めに行きました。出てきた市長もウケているのが笑えます。
しかし、クルマ社会と言われるアメリカで、こうしたムーブメントが広がっているというのは興味深いところです。都市部とは言え、日本よりは道も広いですし、道路の端に設置されたパーキングメーターなんて、きわめてありふれた光景のはずです。見慣れた存在で、今さら疑問もわかないような気がしますが、そうではないようです。
折しも先日、GMとクライスラーという、いわゆるビッグ3の2つまでが破産法の適用を受けました。もちろん未曾有の経済危機と販売不振のあおりを受けたのは間違いないでしょう。利幅の多い大型車にこだわったとか、変革の機会は何度もあったのに、変わるのを拒否したとか、破たんの理由はいろいろと指摘されています。
おそらく原因は多々あるのだと思います。でも百年の時を経て、アメリカ人の中にも、環境のことや化石燃料を大量に消費するライフスタイル、クルマに依存する都市交通への疑問、クルマの利用を抑制できるところでは抑制しようという考え方が、都市部を中心に広がってきたことも、背景にあるのかも知れません。
依然としてクルマが必需品であることは間違いないとしても、今まで、あまりにクルマ優先だったことに徐々に気づきつつあるのでしょう。日本でも若者のクルマ離れが言われ、クルマは憧れの存在ではなくなってきています。特別だったために許されてきた、あるいは気にならなかったことが、そうではなくなりつつあるのかも知れません。
むしろ、道端に止めてあれば邪魔な存在、都市部では渋滞を引き起こすだけの役に立たない存在、公共の空間を無駄に占有する存在、交通事故をもたらす憎むべき存在、ヒートアイランド現象を加速させ、排気ガスや温暖化ガスを出すだけの厄介な存在と意識されることも増えているのでしょう。
今まで、自動車メーカーは、クルマのデザイン、スピードや加速などの性能、運転の楽しさ、ステイタスとしての見栄え、所有の喜びなどをアピールしながら売ってきました。もちろん最近は、便利さや燃費の良さ、環境性能なども前面に打ち出しています。
しかし、これからは、クルマが公共に対してかける迷惑の大きさを自覚し、それを低減するアプローチが、より一層求められるのかも知れません。排気ガスや温暖化ガスを減らし、あるいは出さないことはもちろんですが、渋滞、交通事故、駐車スペース、他にも社会への影響は小さくありません。
道端でアイドリングしたまま停車しているクルマやトラックも少なくありません。一義的には所有者の行為ですが、オーナーに対し、なるべく周囲への迷惑な行為をさせなくて済む工夫もあっていいはずです。駐車していても邪魔にならず、むしろ周囲に何かのメリットを提供するクルマなど、コンセプトはいろいろ考えられます。
例えば、都市に駐車するクルマには、ビルの屋上緑化ならぬ車上緑化が推進されてもいいでしょう。照り返しを防ぐとか、熱をまき散らさない車体などの工夫があっても悪くありません。PARKcycleのように芝でなくても、苔やツタをまとったボディなら、都市に緑を提供できるかも知れません。
メーカーは、今後エコカーなど環境への対応が求められるのは必至です。先進国では、“PARK(ing) Day”のようなムーブメントが裏付けるように、クルマを取り巻く環境が変わりつつあるのも事実でしょう。従来のようにはクルマが売れなくなっていくとも言われています。
そんな中でクルマを売るためには、今後、駐車することで周囲の邪魔になったり、社会に迷惑をかけないようなクルマという視点があってもいいような気がします。PARKcycleを見習えとは言いませんが、止めておくだけで都市に貢献するようなクルマなんていうコンセプトがあってもいいのかも知れません。
関東などでは梅雨が開け、いきなり暑くなっています。甲子園の地方予選も始まっていますし、夏が来たという感じになってきましたね。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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この記事へのコメント
自転車乗りからすると「路上駐車は邪魔だ!」と一方的に文句を言ってしまいますがこういう風に邪魔にならないように停めるという考えがあってもいいかもしれませんね。
それとTBSラジオで日曜日の8時過ぎから自転車ツーキニストの疋田智さんが自転車番組をやるそうですよ
Posted by 職人気取り at July 18, 2009 10:50
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自転車とクルマの共存、あるいは住み分けという点で、もっと都市の形を見なおしてみてもいいと思います。
人々に、そのことを気付かせる意味でも、このイベントは意味があると思います。
ラジオ番組ですか、それは知りませんでした。情報ありがとうございます。
Posted by
cycleroad
at July 19, 2009 21:41
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