近年の電子機器の進化には目を見張るものがあります。
世界市場の中では、その特殊さゆえにガラパゴスと揶揄される日本の携帯電話ですが、その高機能さの背景には、日本人のハイテク好き、新しいもの好きがあるのでしょう。海外であれば確実にスマートフォンに分類されるような多くの機能を持つ端末が、日本では普通のケータイとして売られています。
あんな小さな筺体の中に、メール、カメラ、ビデオ、テレビ、音楽プレーヤー、お財布、ネットアクセスなどたくさんの機能が盛り込まれています。アプリケーションを使えば、更に読書やゲームや買い物など、いろいろなツールとしても使えます。使いきれないほどの機能が、これでもかと詰め込まれています。
それを反映して、最近は老若男女、電車の中でケータイをいじるのは、ごく当たり前の行為です。中には他の電子機器を3つも4つも、入れ替わり立ち替わり取り出しては使っているような人も珍しくありません。携帯電話だけでなく、別に音楽プレーヤーや携帯ゲーム機、PDAやモバイル端末、または複数の携帯電話などを使っています。
ヘビーユーザーになると、一台のケータイではバッテリーが持たないということもあるのでしょう。用途ごとに別の機器を持ち歩き、忙しく取っ替え引っ換え使っています。機器の進化で、今まで出来なかったようなことも可能となって、台数が増えるということもあると思います。
例えば、ケータイとは別に高機能の音楽映像端末を持ち、好きなアーティストのPVとか、テレビやラジオ番組の録画・録音を電車の中で見たり聞いたりしています。昔だったら、出かけていて見られないテレビ番組を留守番録画して家で見るものでしたが、今や、家にいても見る暇のない番組を録画して、出先に持ち出して視聴するわけです。
以前なら、試験前に自分で作った英単語のカードを、電車の中でめくりながら覚えている光景も目にしました。今は、音楽プレーヤーやゲーム端末などを使えば、電車内で英会話のレッスンだって受けられてしまいます。分厚くて重い辞書を持ち歩く必要もありませんし、学習ソフトもあります。
つい十数年前まで、携帯電話なんて誰も持っていませんでした。インターネットだって、誰もその存在すら知らなかったことを思えば、隔世の感があります。今はまだ電車の中で、紙の新聞を読んだり、紙の雑誌や文庫本を読んでいる人もいますが、いずれ電子機器で読むようになっていくのでしょう。
こうした機器の進化で、出先で出来ることは飛躍的に増えています。やろうと思えば仕事だって出来ますし、実際、資料を作ったり目を通したりしている人もあるでしょう。電車内での暇つぶしと言うより、いろいろなことを済ませてしまおうと忙しくなるわけです。
電車内は仕方がないとしても、電車を降りて、自転車に乗ってまで、まだケータイなどの端末を使っている人も少なくありません。誰も注意することなく、なし崩し的に黙認されたようになっていますが、これは法律違反です。非常に危険な行為ですし、やっている本人は大丈夫だと思っていますが、深刻な事故も起きています。
今どきの中学生や高校生の中には、「携帯電話は命より大切」と真剣に答える生徒がいると言いますし、「メール返信は3分以内がルール」などと切実に考えている生徒もいると言います。彼らにしてみれば、自転車に乗っていても、当然のようにメールを打つ必要が出てくるわけです。
着信すれば、すぐにチェックしたいし、相手の機嫌を損ねないよう、すぐに返信したい気持ちもわからないではないですが、自転車に乗りながらは危険です。更に周囲に危険を及ぼします。ケータイを使うのであれば、時間は多少ロスしても、必ず止まってやるよう、社会のルールとして定着させていく必要があるのではないでしょうか。
さて、片手で端末をいじりなからの自転車は言語道断ですが、ケータイ端末で使うアプリの中には、自転車用のものも少なからずあるようです。人気のAppleの“iphone”や、加速度センサーなどを内蔵し、液晶画面にタッチして操る音楽プレーヤー、“iPod touch”でも使えるアプリの中から、いくつか見てみましょう。
各アプリの写真の下、アプリ名の横にある“iTunes”のロゴをクリックすると、iTunesのそれぞれのアプリの画面にとびます。詳細はそちらで確認してください。iTunesを使っていない場合は、iTunesのダウンロード画面になります。
CycleMeter:
Speed:
まずユニークなのは、“CycleMeter”です。速度や距離、平均時速などを表示してくれるもので、要するにサイクルコンピューターと同じ機能を実現します。スポーツバイクに乗っている人ならサイクルコンピューターをつけている人は多いでしょうから、わざわざ使う必要はありません。
専用のサイコン以上に優れた機能があるわけでもありませんが、ユニークなのはそのメカニズムです。普通、サイクルコンピューターは、スポークに取り付けたマグネットをフロントフォークに取り付けたセンサーで感知し、タイヤの回転数とその円周の長さから、速度を割り出します。
この“CycleMeter”は、マグネットの代わりに音を使うのです。スポークに取り付けたプラスチック片を、タイヤの回転のたびにフォークに当たるようにします。その音をマイクで拾い回転数を測ります。これによって、“iphone”や“iPod touch”でサイクルコンピューターの機能を実現するわけです。
サイクリストにとっては、常に何かがぶつかっている点、小さな音とは言えノイズが発生しているという点に違和感を感じるかも知れませんが、音を使うとは、よく考えたものです。専用のサイコンがあるのに、わざわざ使う必要はないでしょうが、面白いアプリです。
もちろん、そんな混み入った方法を使わずに、GPS機能を使って速度を割り出すアプリもあります。おそらく正確さは劣ると思いますが、マイクをセットしたりする必要はないので、例えばサイコンのついていないレンタサイクルで、簡易サイクルコンピューターとして臨時に使うなどが考えられるでしょう。
EveryTrail:
iTrail:
GPS機能と言えば、“EveryTrail”や“iTrail”など、走行履歴を記録するアプリもあります。GPSによる位置履歴を記録し、後から走行ルートを地図上で確認したり出来ます。これも、専用のGPS機器のほうが高機能ですが、一台でいろいろ兼用出来る点は有利でしょう。ただ、バッテリーの持ちは問題になりそうです。
RunKeeper free:
RunKeeper Pro:
やはりGPSを使ったアプリに、“RunKeeper”があります。運動としての記録を残せ、後で分析したり出来ます。途中の坂の勾配や速度から、消費カロリーなどを計算してくれます。無料のフリーバージョンと、高機能版のプロが用意されています。
BikeEnergy:
Bike Your Drive:
ルートの勾配や走行距離から消費カロリーを計算し、食べられるドーナツの数まで計算してくれるものもあります(笑)。消費カロリーだけでなく、クルマを使わないことで節約したことになる交通費や、削減したCO2の量まで計算して表示してくれるアプリまであります。
GPS Tracker:
B.iCycle - GPS cycling computer:
GPSを使ったアプリは、他にもいろいろあります。自転車用に使えると思われるものだけでも、かなりの数になるでしょう。GPSによる地図上の走行履歴ではなく、毎日の自転車での走行記録、トレーニングの記録を日記のようにつけるためのアプリもあります。
BikePRO30:
Cycling Log:
クランク長、タイヤのサイズ、スプロケットのサイズを基にギヤ比を計算したり、チェーンリングとスプロケットの歯数や速度から、一分間にクランクを回す数、ケイデンスを算出したり出来るものもあります。マニアックなアプリですが、便利な人もあると思います。
Bicycle Gear Calculator:
Cycle Calculator:
こちらもユニークです。加速度センサーを使って、ブレーキをかけたことを検出すると、赤く点灯するというアプリです。リュックやウェストポーチ、背中に直接など取り付ければ、それだけでブレーキランプになるわけです。ブレーキランプなんて、もっと単純な構造で出来るわけで、ある意味、精密機器の贅沢な使い方です。
BrakeLights:
Bicycle Back Safety Flashlight:
“Bicycle Back Safety Flashlight”のほうは、後続車にメッセージを出せます。使い方によっては、安全走行に貢献してくれるはずです。“Bicycle Blinker”は、点滅灯です。色や点滅間隔も変えられます。こちらも贅沢な使い方ですが、うっかり専用のランプを忘れてしまった時に便利かも知れません。当然ウィンカーもあります。
Bicycle Blinker:
iFlasher - Turn Signal Blinkers!:
ユニークさでは、“TestRides - Virtual Bike Fitting Room”も負けてはいません。オンラインで自転車を購入する場合など、バーチャルな「試乗」が出来るアプリです。“Sing Along”は、自転車に乗りながら歌を歌いたい人に嬉しいアプリです(笑)。
TestRides - Virtual Bike Fitting Room:
Sing Along:
自転車だと、たくさんの荷物は運べません。自転車雑誌も当然オンラインのほうがいいわけです。ちょっと休憩という時には、自転車ケームで楽しむのも一興かも知れません。まあ、このあたりまで来ると、必ずしも自転車に乗っている時向けということではありません。
PEDAL SPEED Vol.02:
Mole:
こちら「全力案内!ナビ」は、自転車乗車中の操作を想定していないと断っているので、自転車用というわけではありませんが、“iphone”をカーナビにするアプリです。パケット通信で、地図をダウンロードしながら表示します。自転車用にも、いずれ、こうしたナビケーションが実現していくのかも知れません。
自転車でも、特に知らない場所を走行する際、ナビがあれば助かることもあるでしょう。更に言うなら、ルートを案内してくれるだけでなく、周辺の道路の中から、より自転車向きのルート、走りやすいルートなどを案内してくれたら便利になるに違いありません。
全力案内!ナビ:
いろいろなアプリを見てきましたが、問題は、その操作が自転車走行中だと危険な場合があることです。利用者が増えていけば、通話やメールだけでなく、走行中の危険な行為を増やすことにもなりかねません。その意味で、否定的に捉える方、自転車に、走行以外の余計なものは不要と考える方も多いに違いありません。
なるべく余計なものを取り付けずに少しでも軽く、荷物は少なく、風の抵抗なども少ないほうがいいという考え方は当然あるでしょうし、私も共感する部分があります。これらのアプリ中にはユニークなものもありますし、面白いですが、わざわざ使うほどではないものも少なくありません。
ただ、こうしたアプリが出てくる「きっかけ」、「プラットフォーム」が用意されたという点は有意義なことと言えるでしょう。ここに取り上げたもの以外にも、無数のアプリが出ています。必ずしも必須とは言えないものも多いですが、そんな中から、将来画期的なツールが生まれてこないとも限りません。
今までのようにメーカーが用途を想定して提供するばかりではなく、ユーザーが用意された機能を使って新しい用途を考えるという自由度があります。こうしたプラットフォームが出来たことで、ユーザー側の創意工夫の幅が広がるのは悪いことではありません。
もちろん“iphone”や、“iPod touch”のプラットフォームから便利なアプリが出現し、サイクルコンピューターと同じように専用機器として普及するきっかけになることも考えられます。自転車生活を便利に、豊かにするものであって、メリットがあり、危険を増やすものでなければ、拒む理由はありません。
今後モバイルコンピューティング、ユビキタス社会の進展が、自転車の世界にも容赦なく押し寄せてくるのは間違いありません。メールしながら走行など危険な行為の増加には危惧する一方で、急速に進化する機器が、今まで思いもよらなかったライフスタイルをもたらす可能性もあります。どんなことが実現するのか楽しみです。
ちなみに、私もここで紹介したアプリの全てを試してみたわけではありません。ダウンロードしてみて、使えなかったと言われても責任はとれません(笑)ので悪しからず。
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自転車のツールとしてだけでなく、GPSを使った遊びなんかもある。
自転車用のiPhoneアプリ、たくさんありますね。非常に参考になります。僕はたまにEveryTrailで走行ログを記録してますが、やっぱり長距離ですとバッテリーが心配になります。自転車用ではありませんが、ジオキャッシングのアプリも気に入っています。