
魚をよく食べるほうなので、ここのところの魚の値段が気になります。
豪雨や台風の影響などもあって漁獲量が減り、価格が上がっているようです。野菜も豪雨による被災や日照不足などの影響で高くなっていますが、生鮮食品の場合、天候不順による価格変動はある程度仕方のないところです。シケが続きましたから、漁に出られない船も多かったに違いありません。
最近の日本近海の悪天候だけでなく、今年はエルニーニョ現象による海水温の変化があったり、海流の流れが変わるなどして、夏なのに春の魚が獲れたりということもあったようです。そうした広い範囲を含めた天候不順以外にも、乱獲で漁獲量が減ってしまったもの、厳しく漁獲量が制限されて価格が上昇しているものもあります。
もしかしたら、「幽霊」の影響もあるかも知れません。いいえ、タイプミスではありません。もちろん、この時期だからといって怪談話をしようというわけでもありません(笑)。ご存知の方もあると思いますが、幽霊漁業、ゴーストフィッシングと言われる現象のことです。

ゴーストフィッシングとは、漁師の使う網などの漁具が、海中に誤って残留したり、あるいは投棄されたりすることにより、海産物に大きな影響を与える現象のことです。例えば韓国で盛んなアナゴ漁では、一度に1万から1万5千個もの籠のような漁具を連ねた全長150キロにもなる仕掛けを海中に下ろします。
この漁具の一つ一つはプラスチックで出来た筒状の容器です。この中にエサが仕掛けられており、アナゴが一度入ると、外には出られないような仕組みになっています。これを引き上げてアナゴを捕獲するわけですが、その際、1万5千のうち1割ほどは、海底の岩に引っ掛かるなどして失われると言います。
つまり、この漁具が海底に放置されることになります。アナゴは漁具の中から出られず、いずれ死にます。その死骸がまたエサとなって、アナゴや他の魚をおびき寄せることになります。この海中に放置された漁具は、半永久的に漁獲を繰り返すことになるわけです。
人間の手を離れた後も、まるで漁業が続けられているような状況です。目に見えない幽霊が漁業をしているかのような形になることから、ゴーストフィッシングと呼ばれているのです。ちなみに、日本では、こうした被害を防ぐためアナゴ用の漁具は1千3百個までに規制されているそうです。

山陰地方などには、アナゴ用の漁具が山のように漂着しています。もちろん、ゴーストフィッシングは、アナゴ獲り用の漁具に限りません。流れの急な外洋で操業すれば、アクシデントも当然あるでしょう。刺し網などが何らかの理由で海中に投棄されれば、海産物に大きなダメージを与えることになるのです。
耐久性に優れた最近の漁具が、長い期間に渡って残留するであろうことは容易に想像がつきます。どんどん蓄積していき、その数は累積的に増えていくはずです。また特定の魚種が減れば生態系にも影響し、直接捕獲されない魚種にも影響が及ぶ可能性があるでしょう。
現在まででも相当な量の被害が発生していると推測されています。一説には、人間による水揚げ量と同等とか、倍以上の量ではないかとも言われています。しかし、海底を全て調べるのは不可能ですから、正確な実態はつかめていません。どれだけの幽霊が海底で操業しているのか、考えてみると恐ろしい話です。
水揚げ量の減少したため、漁獲割り当てを減らして水産資源の回復を図っているものの、一向に回復しない魚や海産物もあるそうです。その原因を特定することは容易ではありませんが、こうした人為的な要素が影響している可能性があります。エチゼンクラゲとかエイ、ウニやヒトデなどの大発生の原因も気になるところです。

海産物への影響という点では、漁具だけにとどまりません。時々、日本海などの海岸に漂着する大量の海洋ゴミの問題がニュースなどで報じられています。海外から漂着するゴミがある一方で、日本のゴミも広く太平洋や日本海に拡散していると言われています。こうした海洋ゴミは、養殖を含めた漁業にも大きな影響を与えています。
また、ビニールなどを海生生物が飲み込んだり、海岸に堆積した有害物質が汚染をひき起こしたり、海底の廃棄物が漁具に引っ掛かって漁具の破損や残留をひき起こすこともあるようです。実際に漁業がおこなわれている海域で、相当量の廃棄物の残留が確認されている場所もあると言います。
この時期、海岸沿いや河川敷などを自転車で走っていると、海岸や川岸でバーベキューなどをしているグループを見かけます。暑い時期ですから、水辺で遊びたい気持ちはよくわかります。しかし、バーベキューをして、ゴミをそのまま放置して帰るような輩が後を絶ちません。

実際に、海岸や河川を管理している自治体は、その処理に苦慮しています。夏場は特に大量のゴミが放置、投棄され、近隣の苦情もひきを切らないそうです。食べ残しの生ゴミばかりか、網やコンロなどの道具まで使い捨てにして、その場に放置して行くようなモラルの欠如した人が年々増えていると言います。
自治体も予算がありますから、不法に投棄されたゴミの始末までは、なかなか手が回らないのが実態です。こうしたゴミは、風に吹かれたり、波にさらわれたり、豪雨の時の増水によって、結局は海に流出することになるでしょう。驚くほど遠く、はるか太平洋の彼方まで運ばれて堆積する場合もあるそうです。
モラルが低いのは個人とは限りません。日本を代表する鉄鋼メーカー・JFEが、シアン化合物を違法に海へ排水した上、データを改ざんして隠ぺいするというような信じられない事件もありました。JR東日本が40年以上に渡って汚水を川に流し続けていた事件も記憶に新しいところです。玉川高島屋も汚水を流出させていました。

産業廃棄物などを不法投棄する悪質業者も、時々ニュースになります。産業廃棄物にしろゴミにしろ、地上にある場合は、いずれ発見され問題となります。でも、海に流してしまったものは、見えないだけに厄介です。もし地上にあったら大問題となるくらいの量のゴミが放出されていたとしても不思議ではありません。
漁具の残留をいたずらに許したり、海辺や川にゴミを捨てたり、海や河川を汚染すれば、それは天に唾するようなものであり、いずれは我が身に返ってくるものであることは、水俣病などの例を挙げるまでもないことです。ゴミを堆積させているのに、見えないからと言って無視し続けることも許されないはずです。
昔のように木や紙ならまだしも、現代のゴミは容易に土にかえりませんから、自然の再生能力に安易に頼るわけにも行きません。バーベキューだけでなく、海辺や山や河川敷などに不法投棄されたゴミを見るたびに思います。平気でゴミを捨てるような人が多すぎではないでしょうか。
日本人が魚を食べる量は年々減っています。でも魚食は日本の文化であり、貴重な食料資源でもあります。欧米人と比べて腸の長い日本人の肉食は健康に対するリスクであり、魚食を増やすべきとも言われています。うまい魚を食えなくなってからでは遅すぎます。海にゴミを出さず、海に溜めないような工夫を考えていくべきだと思います。


真夏の選挙がいよいよ公示されました。庶民派のアピールか、有権者との距離の近さか、自転車で走り回る候補も少なくないようですね。
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