August 21, 2009

ブームでなくシフトの部分も

最近、テレビ番組でも自転車の特集をよく見かけます。


報道番組の特集コーナーやワイドショーなどで取り上げられるだけでなく、バラエティー番組のネタになっていたり、紀行番組でも企画が組まれるなど、かなり自転車がクローズアップされることが増えている気がします。そうした番組で、決まって言われるのが、「今や、空前の自転車ブーム。」というフレーズです。

自転車がブームになっていることは間違いありません。日本では広くママチャリが普及し、もともと自転車利用者の多い国ですが、最近はスポーツバイクに乗る人や自転車通勤を始める人、趣味やスポーツとして自転車に乗る人が増えているのは実感としてあります。

排気ガスや温暖化ガスを出さずにクリーンでエコなことが、環境面から注目を集めている部分もあるでしょう。一時期の原油高や、この不況で燃料費を節約する効果や、メタボ検診も始まって、ダイエットや健康にいいことも関心を集める要素です。電動アシスト自転車の規制緩和によるパワーアップなども注目度を高めました。

自転車、売れ行き快走 エコと健康志向が後押し同時に、歩行者との事故が急増していることもあります。相変わらず多い放置自転車や、自転車盗などの犯罪も後を絶ちません。ケータイを使いながらや傘をさしながらの自転車走行が禁止されたり、子供乗せの3人乗り自転車が解禁されたことなども、自転車が話題となるきっかけになりました。

私などは、この自転車ブームによって、本来の自転車のポテンシャルが知られ、自転車が正しく理解されることにつながることはプラスだと思っています。それによって都市交通として見直されたり、自転車走行空間の整備の必要性が認識されたり、事故防止や安全向上のための方策が議論されるようになっていくことを期待します。

しかし、自転車ブームに対する見方は、当然のことながら人それぞれです。以前から自転車を趣味としていたような人と、自転車なんて全く関心がない人とでは、自転車ブームと言っても、ずいぶん印象が違うのは確かでしょう。単なる一過性のブーム、盛り上がりだと考えている人も少なくないようです。

一般的にみれば、それが普通かも知れません。つまり、例えばテニスブームで、ある一時期、猫も杓子もラケットを握り、競ってテニスに興じるような現象です。ブームが去って熱が冷めたら、嘘のようにテニスをやる人が激減してしまい、多くの家では、ラケットやウェアが押入れで眠るというパターンです。

一時的な流行、ファッションのようなものというわけです。この見方が間違っているとは思いません。もともとブームは、そういうものですし、今のような状態が未来永劫続くと考える方が変です。そのうち熱が冷めて、スポーツバイクも部屋の飾りか、ベランダや庭の隅の物置で眠らせることになる人も少なくないはずです。

自転車通勤にしたって、日本の都市の場合は海外とは事情が違います。クルマで通勤すると渋滞で時間がかかって仕方がないものの、自転車以外にクルマしか手段がないような場所ならともかく、鉄道網が整備された日本の都市では、自転車通勤に疲れたり、飽きたりして電車通勤に戻る人も出てくるに違いありません。

もちろん、それを責めるわけではありません。でも、自転車通勤が爽快で速くて、満員電車に乗らずに済む一方で、疲れたり、雨の影響を受けたり、暑かったり寒くなったりでメゲルこともあるでしょう。混雑さえ我慢すれば、電車の中で本も読めるし、寝てても着くし、ラクだと電車通勤に戻っても不思議ではありません。

自転車ブームが下火になれば、自転車通勤する人も減り、スポーツバイクに乗る人が減るのは間違いないでしょう。ならば、元々趣味で自転車に乗っていたごく一部の人を除けば、自転車に乗るのは、駅までなどの足として仕方なくママチャリに乗るだけになってしまうのでしょうか。

少なくとも、海外では違います。このブログでも多数取り上げてきましたので、詳しくは過去の記事を見ていただくとして、欧米の都市では、自転車を単なる一過性のブームだけとは見ていません。ブームというより、トレンド、クルマから自転車へのシフトとする見方が一般的でしょう。

例えば、火力発電をやめて、太陽光発電や風力発電などグリーンエネルギーに転換していこうとするムーブメントと同じです。交通も、化石燃料を消費するものから、温暖化ガスを出さない、クリーンでエコなものに変えていこうとしています。次世代のエコカーもありますが、自転車で済む移動ならば自転車にしようと考えています。

欧米の多くの都市では、自転車に乗るのは一過性のブームだからではありません。以前から利用されてきましたが、それを改めて評価し、都市交通の手段として広く活用していこうとしています。そのため、自転車道を整備するなど、インフラにも力を入れています。ただのブームなら、インフラ建設まではしないでしょう。

クルマ社会と見られるアメリカでも変化が起きつつあるのも、これまでに取り上げてきた通りです。例えばニューヨークでも、ブルームバーグ市長がインフラ整備に力を入れています。そればかりか、先日の報道では、なんと自転車通勤を奨励するため、ビルに荷物用のエレベーターを設置するよう義務付ける動きまで出ています。


ニューヨークも自転車通勤者急増 市議会で「駐輪」2条例可決ニューヨークも自転車通勤者急増 市議会で「駐輪」2条例可決

ニューヨーク市議会は7月末、市内の駐輪用設備に関する2つの条例を可決した。

1つはテナント従業員が職場に通勤用自転車を持ち込めるよう、市内の約1600人のビルオーナーらに貨物用エレベーターの設置を義務づける条例。クリスティーナ・クイン議長によれば、全商業ビルの約25%が対象という。

もう1つは施行から1年以内に、駐車スペース10台分ごとに自転車200台以上の有料駐輪場の確保するという条例だ。同議長は「これらの条例により公衆衛生、二酸化炭素(CO2)排出量は劇的に改善するだろう。持続可能な交通インフラを確保できる。市民は健康で自由な通勤スタイルを通じて経済的メリットも享受できる」と述べた。議会は両条例とも賛成46、反対1で可決した。

市の運輸委員会によれば、自転車通勤は同市が自転車専用レーンを倍増させた2007年以降45%増加しているが、それに合わせて駐輪場の確保が難しくなっている。米国内の自転車通勤者の数は200万人で、そのうち18万5000人がニューヨーカーだ。

ニューヨークの都市計画局が行った07年の調査で、サイクリストが自転車通勤をためらう理由のトップは盗難やいたずらに対する懸念だった。同市では毎年7万件の自転車盗難被害が報告されている。条例は例外事項を設けており、貨物エレベーターの使用が安全上の問題を引き起こす場合、3ブロック、または229メートル以内にセキュリティー問題をクリアした駐輪場を確保できる場合は設置が免除される。

また、条例はビル所有者に保管場所を設けるよう求めているわけではなく、通勤者はそれぞれの勤務先企業が提供する場所に自転車を置くことになる。新築ビルと大規模な改築を行うビルは、4月に成立した条例によって屋内に駐輪スペースを設けることが定められている。

今回の条例は、ブルームバーグ市長が目指す交通渋滞、大気汚染の緩和や市民の健康改善への取り組みに沿ったもの。1997年に自転車通勤用インフラの拡大と整備を目標に掲げた市の運輸委員会は自転車通勤者を2015年までに2倍、20年までに3倍にする計画だ。(2009.8.18 産経ニュース)


来年も会いたい 「ママチャリ12時間」に全国4500人ニューヨークでは、厳重に施錠していても自転車が盗まれてしまうことが少なくなく、就業中にオフィスの前の道路に止めておけるような状況ではありません。このことが、自転車通勤の普及を阻害する大きな要因となっているのです。ビル内の駐輪場か、階上のオフィス内まで持って上がって保管できるようにするための措置です。

日本では、一部で前向きな取り組みが見られるものの、多くは事故対策がメインであり、インフラの整備もごく僅かな箇所で、試験的に導入するなどしているに過ぎません。世界では、自転車の積極的な活用にシフトしつつあるという認識や今後の都市交通のあり方に対するコンセンサスを共有しているとは、とても思えない状況です。

こういうことを書くと、日本ではクルマメーカーの政治力が強いから、自転車専用レーンなどのインフラ整備を期待するのは無理だよと言う人がいます。しかし、前にも取り上げましたが、最近はクルマメーカーの団体である日本自動車工業会でも、今や自転車レーンの整備を求めているのです。

自工会は、「自転車との安全な共存のために」という文書を発表していますが、その中で、安全に通行できる道路整備と意識改革が必要だと説いています。そして日本自動車工業会からの提言として、安全・円滑な自転車通行空間を迅速に確保するため、自転車レーンの速やかな整備を要望する、と明記しています。

もちろん、その前提として、自転車の車道通行の徹底を求めています。注意すべきなのは、歩道走行を求めているわけでないことです。そのことは、「自転車も車道を走る仲間です」のキャッチフレーズのもと、クルマ、自転車それぞれの利用者に対して啓発活動を行っていることでも明らかです。

ぼくとママの黄色い自転車自転車の走行空間の整備は、歩行者にとってもメリットがありますし、クルマのドライバーにとっても事故を減らす上で重要な要素です。もちろん自転車利用者にとっても好都合なわけで、道路を利用する、ほとんどの立場の人にとって望まれることと言えるでしょう。

にも関わらず、日本で自転車インフラの整備が進まないのは、長い間、市民に自転車は歩道を通るものだと思い込ませてきた道路行政の問題もありますが、当局者や、何より市民に都市交通としての自転車の活用に対する認識が決定的に不足しているように思えます。

そのためにも、テレビなどのメディアは、国内の自転車ブームの面だけではなく、もっと世界の状況も紹介してほしいものです。もちろん日本では「空前のブーム」でもあるわけですが、世界では太陽光発電や風力発電などと同じように、時代のトレンドとして自転車にシフトしつつあることを、もっと多くの人に知らせてほしいと思います。


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気がつけば、もう8月も残り少なくなってきました。そろそろ宿題で憂鬱になっている小学生も少なくなさそうです(笑)。しかし、ポルトは凄かったですね。

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この記事へのコメント
自転車をやめる人はいると思いますが続く人も多いんじゃないかと思います
昔のMTBブームと違って今回はスポーツ的なブームと違って日常移動手段として乗る人が多いから長距離用ママチャリとして使い続ける人もいるはず

日常の移動手段に使うならロードよりシクロクロスがお勧めです
ロードは路面に気を使うから面倒で乗らなくなる人がいると思いますがシクロならタイヤが太いから気を使わずに気楽に乗れます
Posted by 職人気取り at August 23, 2009 09:28
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ちょっと言葉足らずでしたが、もちろん、私もやめてしまう人ばかりだとは思っていません。おっしゃるように、今回のブームで、そのポテンシャルに気付いて使い方が変わり、今までのように駅までのアシではなくなった人も多いでしょう。乗り続ける人も少なくないと思います。
そうですね、シクロクロスもそうですが、最近はクロスバイク系の人気が高いようです。一度、これらの自転車に乗ってしまうと、ママチャリには戻れない人も多いでしょうね。
Posted by cycleroad at August 24, 2009 23:53
自転車歴史は西欧にあっても、大都会ニューヨークが自転車インフラに取り組む姿勢には大いに見習うべきものがあるようですね。
米国は、歴史浅い国ですので、ルート66の街並みのように国民の間にも新しい文化を根強く保護しようとする姿勢が見られます。
我が国は、残念ながら”流行の立役者的な組織的なもの?”が存在し、一過性なものが多いようです。
しかし、今時の若者を観ていると、自己のコンセプトをしっかりと持っている人も多くなってきているように思われ、行政も真摯に受け止めざるを得なくなってきていると思います。
まだまだ時間はかかるでしょうが、個人が尊重される良き時代を造るためにも、若者に期待と声援を送ります。
Posted by panag at February 29, 2012 09:16
panagさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
アメリカでも、東海岸と西海岸で、それぞれ独特の自転車文化みたいなものがあって、若者を中心に根付いている部分があります。
ニューヨークでも、メッセンジャーなどが先駆けとなり、それをクールと思う人がきっかけを作り、都市部で自転車を活用する人が増えた部分もあるようです。もちろん、それだけではないですが..。
ニューヨークが自転車インフラに取り組む姿勢には市長の個人的な姿勢に拠るところも大きいと思いますが、やはり市民の意識に、渋滞や事故、環境負荷、大気汚染、肥満と健康といった現状、クルマ依存に対する反省、ガソリン価格やテロの脅威といった、さまざまな要素があって、市政に対して影響を与えているのだと思います。
Posted by cycleroad at February 29, 2012 23:15
 
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