August 27, 2009

自転車都市と呼ばれるために

少なくとも一歩前進したとは言えそうです。


国土交通省から発表された「自転車重点都市」と呼ばれる政策についてです。時事通信は次のように伝えています。


「自転車重点都市」選定へ=先進的ネットワークを構築−国交省

国土交通省は24日、自転車の貸し出しシステムや専用道路、駐輪場といったネットワーク構築に向けて先進的に取り組む自治体を「自転車重点都市」として認定する制度の創設を決めた。全国数十カ所を選定し、技術的な指導や財政的な支援を行う方針。2010年度予算概算要求に関連費用を盛り込む。

同制度は、限定された区間の専用道設置にとどまらず、「自転車が利用しやすいまちづくり」を都市全体で面的に整備する点が最大の特徴。欧州の先進都市を参考にしながら、駐輪場と連動させた自転車専用レーンの整備、歩行者との走行空間の分離策、自転車貸し出し拠点の整備などを進める。(2009/08/24 時事通信)(注:下線は筆者。)


今までのように、駅前とか事故が多い場所など、部分的に自転車レーンを整備したりするのではなく、都市全体での自転車の活用を考えた整備をしようというのです。これは、今まで行われてきた整備からすると画期的な変化、あるいはそれに通じる考え方の変化と言っていいでしょう。

自転車レーンの撤去?この構想は突然出てきたわけではなく、これまでに経緯があります。あまり遡っても意味はありませんが、明らかに方針が変化したと思えるのは、一昨年の道交法の改正を巡って巻き起こった論議あたりからでしょうか。その後、昨年に発表された政策でその方向性が明らかになりました。

国土交通省は昨年一月、全国で98箇所の自転車通行環境整備のモデル地区を指定しました。国と自治体が費用を分担し、自転車専用路を各地区2キロ前後新設するというものです。新たな一歩ですが、モデルと言っても1都市2キロでは、あまりに少ないのは明らかです。まだまだという感じでした。

私はこのモデル地区政策が発表された時に次のように評しました。(詳しくは下の関連記事を参照のこと。)


一箇所2キロ程度のモデルだけ作って、「将来的にはネットワークを目指すが、今はこれだけ。」では、どれも中途半端で、その効果も見えにくく、使い勝手も極めて限定的なものになる可能性が濃厚です。ネットワーク化ができてこその自転車道です。全体像とその完成へ向けての具体的な整備計画を示す必要があるでしょう。(2008年1月23日 サイクルロード)


その後、モデル地区に指定された各地で、数百メートルから2キロ程度の自転車専用レーンの設置が報道され始めたのを覚えてらっしゃる方もあると思います。そして昨年の8月に国土交通省は、2010年度から、自転車専用道路を集中的に整備する方針を発表しました。

全国の主要都市を20ヶ所程度選び、1都市当たり50キロメートル前後の自転車専用道路を整備することを検討するというものです。98ヶ所から20ヶ所に減った反面、1都市あたり2キロから50キロに増えたわけで、また一歩前進ではありますが、これでもまだ不十分です。

私はこのモデル都市計画の発表に際して次のように評しました。(詳しくは下の関連記事を参照のこと。)


この方針にしても、全国のうち20箇所の都市、1箇所あたり50キロメートルと極めて限定的であり、中途半端な印象は拭えません。例えば、これが鉄道網の整備ならば、距離で限定されることはないはずです。必要な場所を結んで計画されるでしょうし、ネットワークとして機能するよう配慮されるはずです。

もちろん予算が限られているのは理解できます。しかし、肉の量り売りではないんですから、各都市50キロずつ、はないでしょう。レクリエーション用のサイクリングロードならそれでもいいでしょうが、都市のインフラとしての自転車レーン、自転車専用道を、たった50キロずつ分配してどうしようと言うのでしょう。(2008年8月11日 サイクルロード)


放置自転車対策そして今回の「自転車重点都市」政策です。また一歩前進したのは間違いありません。ようやく、自転車レーンのネットワーク化という観点が出てきました。私は最初の政策が発表される前から、コマ切れでは意味がない、自転車道の効果は薄いと書いてきましたが、やっと都市全体を面的に整備するという発想が出てきたのは評価出来ます。

前回も韓国の自転車政策を取り上げました。私はそのほかにも諸外国の例を取り上げ、その考え方との違いを指摘し、国交省の政策や各自治体の実施例などに、いろいろとケチもつけてきました(笑)。こう言っては失礼ですが事実なので書くと、実際に「お役所仕事的」な面が色濃く出ている例が多かったからです。

その意味で、今回欧州の先進都市を参考にするという姿勢が出てきたのも前進と言えるでしょう。まだ来年度予算の概算要求に関連費用が盛り込まれただけですので、どういう形になるのか見えてくるのは先の話ですが、少し期待が持てるようになってきた気がします。

同じニュース、共同通信系の報道では次のように伝えています。

国交省、自転車の“復権”後押し 来年度に重点都市20選定

国土交通省は23日、自転車を使って安全に通勤や買い物ができるまちづくりを進める自治体を支援する新制度を来年度に創設、モデルとなる「自転車重点都市」を公募で約20自治体選ぶ方針を固めた。都市内の5キロ程度の移動はマイカーよりも自転車の方が中心になるよう専用道を整備するなどし、自転車の“復権”を目指す。

車の利用を控えることで地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)排出量を削減したり、自転車と車、歩行者との事故減少にもつなげる。新制度は、専用道や駐輪場の整備など自転車利用を促進する施策を盛り込んだ計画を市区町村が策定し、提出を受けた国交省と警察庁が重点都市を指定する仕組み。都市の規模別やレンタル自転車の活用などテーマごとに選定する考え。

指定を受ければ、専用道や駐輪場の場所を示す「自転車マップ」の作製や運転マナー向上に向けたPR活動などのソフト面の対策は国が全額補助する考え。車道の一部をカラー舗装して自転車専用レーンにするなど既存道路の活用や駐輪場の整備の一部には、通常より上乗せで支援が受けられるようにする方針だ。(2009/08/23 共同通信)


各自治体が推進する自転車政策に対して、「自転車重点都市」と指定して国が支援する形ですので、まず自治体が主体的に取り組まなければならないわけです。最近は独自の取り組みを進める自治体も各地で増えていますから、自転車活用に前向きな自治体が選ばれることになるでしょう。

これが国の資金だけで進む事業なら、地域のインフラ整備になりますし、地元経済の活性化に直結しますから、どの自治体でも跳びつきます。しかし、国の補助金の交付を受けるには、自治体自身に整備計画が必要であり、当然負担が生じます。自らの予算を計上して計画を策定する必要があります。

各自治体の財政状況も関わってくるでしょうし、自転車政策に対する考え方、取り組み方によっても変わってくるでしょう。補助金が絡むので、いろいろ政治的な意図も働くかも知れません。今後、どこの都市が手を挙げ、自転車重点都市として選定されるか、さらにどのような形で整備されていくかは予断を許しません。

環境に優しい自転車の利用自転車だけがその恩恵を享受するわけではなく、歩行者も安全になるわけですし、日本自動車工業会ですら早急な自転車レーンの整備を求めているように、クルマのドライバーにとってもメリットがあります。大方の市民の理解は得られると思いますが、中には反対する人も出てくる可能性もあります。

例えば、歩行者が道路を自由に横断出来なくなるとして、沿道の商店街などで反対の声が上がる例は、現在も見られるようです。確かに歩行者の動線が変わることで、売り上げが左右されるなどの危惧もあるでしょう。しかし、客観的にみれば公共の福祉が優先されるべき場合が多いような気がします。

サイクリストの中にも反対する意見があるかも知れません。今まで自由に車道を走行していたのに、かえって窮屈になる、移動速度が減じられる、自転車同士の事故が増える可能性があるといった理由です。サイクリストの立場からすれば理解できますが、より広い視野に立つなら、我慢すべき部分でしょう。

自転車レーンの整備が進むことで、サイクリストの安全は相対的に向上するはずです。駐車車両による危険、悪意や不注意なドライバーによる危険、交差点での左折巻き込みなどの危険、歩行者の飛び出しによる事故など、基本的にはそのリスクが減ることになると考えられます。

自転車文化の発信基地自転車レーンが設置され、通行方向が指定されることによって、車道を逆走したり、安全も確認せずに飛び出すなど、危険な乗り方が横行する現状が改善される可能性も期待出来ます。何より、今まで中途半端だった自転車の走行空間が確保されることで、自転車の利便性が高まり、都市交通の手段として魅力が高まることになるでしょう。

誰でも自転車を安全・快適に利用できる環境が確立することで、自転車を活用するための様々な施設やサービスも生まれてくる可能性があります。こういった派生効果も含め、サイクリストは有形無形のメリットや恩恵を受けることになるはずです。少なくとも都市部で自転車レーンの整備が進むことはマイナスではないと思います。

これまで、国や自治体の打ち出す自転車政策、自転車レーンと言うと、歩行者と分離するため歩道に色を塗ったり、事故防止のためクルマに注意を促すようなものが主体でした。もちろん予算も限られているのでしょうが、ごく一部の道路に補修や改修を行うにとどまっていました。

言わば対処療法的であり、悪く言えばお茶を濁すようなものも多く見られたのは事実です。実際に走行する立場に立っていないものも多々見受けられます。一区間か二区間だけ整備しても、自転車道としての価値はありません。私も、海外の例を取り上げながら、見習えと批判ばかりしてきたような気がします。

自転車乗りのお祭り都市全体で面的に整備し、自転車道がネットワークとして構築されてこそ、自転車を利用して移動出来る環境が生まれます。自転車を活用するため、本当に意味のある環境を整えるならば当たり前のことですが、国の考え方の中に、ようやく変化が出てきたのは歓迎すべき傾向です。

ただ、国土交通省の方針には、こうした変化が読み取れるものの、実際の「自転車都市」が誕生するには紆余曲折も予想されます。実際に整備主体となる自治体の意識は、まだ旧態依然としているところも多いに違いありません。自治体の考え方も変えてもらう必要があります。

欧州の先進都市を見習い、整備の考え方の本質を理解してもらうためには、地方分権の流れとは逆行しますが、報道にあるような国の指導も必要でしょう。当然各地の特色や環境に応じた整備になるべきですが、従来の歩道に色を塗ってお茶を濁すようなもの、こま切れで価値のないものにはしてほしくありません。

都市全体に自転車道のネットワークを張り巡らせて初めて、自転車を活用しやすい便利な都市、暮らしやすい都市、あるいは観光地として魅力的な都市が実現します。また、そうでなくては今と何も変わっていきません。まだどの都市が選ばれるかわかりませんが、全国各地で真の自転車都市が誕生することを期待したいと思います。


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またパチンコ店の駐車場のクルマの中で乳児が死亡する事件がおきています。これだけ全国で頻繁に同種の事件が起きているのに、なんで未だに放置する母親がいるんでしょうか。しかも夏だと言うのに..。

関連記事

完成させなければ効果は薄い
2008年1月に発表された、自転車通行環境整備モデル地区政策。

少しずつでも前進することで
2008年8月明らかになった自転車専用道路を集中整備する政策。

こんな少しでは評価できない
その後、各地のモデル地区に自転車レーンが整備され始めたが。


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この記事へのコメント
外国を参考にするという言葉にわずかですが期待してます。

あと頼むから役所の人たちは外国の例をそっくりそのままマネしてほしいです
良かれと思って日本オリジナル要素(出会い頭の原因になる景観維持のための生垣とかガードレールとか)を組み込むと悪い方向になってしまいますから。

今月号の雑誌「自転車生活」の疋田智さんの連載に載ってた自転車レーンは自転車一台がやっと通れる幅を棒で囲って対面通行にしていました。
役所は自転車は自転車専用の場所しか走れないようにする予定なので向こうから自転車が来ても車道や歩道によけて道を譲ることすらできなくなるみたいです
Posted by 職人気取り at August 29, 2009 10:26
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
海外と日本とでは、道路の構造とか交通ルールなどに違う部分がありますから、必ずしもそのまま使えない場合もあると思います。
しかし、おっしゃるように、日本のお役所仕事については、自転車に乗らない人が担当しているとしか思えないものが多いのは私も感じますね。もっと利用者の声を聞き、取り入れてほしいと思います。
そうですか、雑誌は見てませんでしたので、チェックしてみようと思います。
今後、中には信じられないような自転車レーンも、全国各地に生まれてしまうかも知れませんね。
Posted by cycleroad at August 30, 2009 11:17
>例えば、歩行者が道路を自由に横断出来なくなるとして、沿道の商店街などで反対の声が上がる例は、現在も見られるようです。確かに歩行者の動線が変わることで、売り上げが左右されるなどの危惧もあるでしょう。しかし、客観的にみれば公共の福祉が優先されるべき場合が多いような気がします。

商店街の衰退も立派な社会問題ですので、「公共の福祉」という名の盾によって無視されてしまうのはどうかと思います。自転車専用道路の整備がそれほど優先度の高いこととは限りませんので。自転車ばかり見ていてはダメですよ。





この政策は「移動手段としての自転車」を支援しているようなので、趣味で自転車を楽しんでいる人や、レースに出場している人たちにとっては都合が悪いかもしれませんね。極めて少数派なのでそこは我慢すべきでしょうが。まぁ、本来そういった人たちが避ける交通量の多い都市部が政策の対象となりそうなので、それほど影響はないかもしれません。
歩行者対自転車の事故やマイカー利用者の減少が実現されれば喜ばしいことです。
Posted by 初心者 at August 30, 2009 19:39
初心者さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、警察庁とも共同で進めているようですので、あくまでも都市のインフラ整備として、交通政策としてということだと思います。
郊外の道まで整備するのは無理でしょうが、自転車も車道を走るものという認識が一般的になることは、マイナスではないでしょう。
自転車の市民権の確立という点にも貢献すると思います。
Posted by cycleroad at September 01, 2009 20:24
 
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