果たして自転車重点都市とは、どんな形になるのでしょうか。
前々回、国土交通省の発表した自転車政策について取り上げました。まだ来年度予算の概算要求に関連費用が盛り込まれることが決まっただけです。この段階であれこれ言うのも時期尚早だとは思いますが、興味のある話題なので、もう少しこの政策について考えてみたいと思います。
前々回取り上げた、共同通信系の報道を再掲します。
国交省、自転車の“復権”後押し 来年度に重点都市20選定
国土交通省は23日、自転車を使って安全に通勤や買い物ができるまちづくりを進める自治体を支援する新制度を来年度に創設、モデルとなる「自転車重点都市」を公募で約20自治体選ぶ方針を固めた。都市内の5キロ程度の移動はマイカーよりも自転車の方が中心になるよう専用道を整備するなどし、自転車の“復権”を目指す。
車の利用を控えることで地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)排出量を削減したり、自転車と車、歩行者との事故減少にもつなげる。新制度は、専用道や駐輪場の整備など自転車利用を促進する施策を盛り込んだ計画を市区町村が策定し、提出を受けた国交省と警察庁が重点都市を指定する仕組み。都市の規模別やレンタル自転車の活用などテーマごとに選定する考え。
指定を受ければ、専用道や駐輪場の場所を示す「自転車マップ」の作製や運転マナー向上に向けたPR活動などのソフト面の対策は国が全額補助する考え。車道の一部をカラー舗装して自転車専用レーンにするなど既存道路の活用や駐輪場の整備の一部には、通常より上乗せで支援が受けられるようにする方針だ。(2009/08/23 共同通信)
問題は、どのような考え方で、自転車走行環境を整備するかということです。上の文章に出てくる「自転車の復権」というフレーズ、これが国土交通省のプレスリリースにあるものなのか、あるいは共同通信の記者の見方なのかはっきりしませんが、このキャッチフレーズには少し引っ掛かるものがあります。
自転車の復権というと、自転車からクルマへと庶民のアシが変遷してきた流れに逆らって、自転車に戻そうという雰囲気があります。もちろん自転車の価値を再評価するという点は悪くないのですが、私はむしろ、昔とは違う新しい自転車の価値を見出すべきだと思うのです。
昔と今では自転車の性能が違うというのではなく(違う部分もありますが)、何より、日本ではママチャリが圧倒的多数を占めるという状態であるため、日本人の多くが自転車というものに対する見方を誤っている部分があると思います。もちろん場面によってはママチャリも便利ですが、ママチャリだけが自転車ではありません。
今まで歪んだ道路行政が行われてきた結果、驚くことに日本では自転車は歩道を通るものと思っている人が、いまだに多数を占めています。歩道を走るために低速でも安定するように進化してきたママチャリですが、自転車のうちの、ほんの一例であるにもかかわらず、これこそ自転車だと思っている人が少なくありません。
重くてスピードも出ませんし、坂を登るのも大変です。アップライトな姿勢なので、長い距離を乗るとお尻も痛くなります。ママチャリだと駅までしか行く気にならないのも仕方ありません。距離にもよりますが、本来なら駅を経由して電車を利用するより、目的地まで自転車で行ったほうが速かったりするはずです。
つまり、ママチャリばかりだからこそ、駅前に自転車があふれてしまう面もあります。既に日本には8千万台を超える自転車が存在し、自転車の利用率は高いわけですから、相変わらず最寄駅まで行くためだけであれば、今までと何も変わらず、自転車道がネットワークされても充分に活かすことにならないでしょう。
価格が安いママチャリが氾濫したこともあり、使い捨てのようになって放置自転車などの問題も拡大しています。歩道を通らされてきたことにより、自転車を徒歩の延長のように感じているため、ケータイを使いながら乗るような人も増え、今の無秩序な状況をもたらした面も否めません。
従来の自転車の復権、すなわち今まで通り、単にママチャリに乗りやすくするためだけの環境整備では、自転車の活用が大して広がるわけではなく、ただ安全対策ということだけになってしまいます。むしろ、さらに駅前の放置自転車を増やすだけの結果になってしまうことも危惧されます。
レンタル自転車の活用もいいのですが、これも、観光客など来訪者の多い街ならともかく、必ずしもどこでも有効とは言えません。住民の自転車所有率が高い場合、さらに稼働していない自転車を街に溢れさせることになってしまう場合もありえます。
レンタル自転車の活用とった文言が入る背景には、有名になったパリのレンタル自転車、ヴェリブが意識されているのではないかと思います。もちろん成功例には違いないと思いますが、いい面ばかり報じられていて、あまり明らかにはなっていない部分もあるようです。
現地の人に聞いたりしますと、返却せずにそのまま盗まれたり、川に捨てられるなど返却場所とは違うところへ遺棄されたり、街中の貸出用の機械などが破壊されたりする例もあると言います。全体としてどうなのかはわかりませんが、当局が苦慮している部分もあるようです。まだ稼働して日が浅いことも注意すべきです。
欧米の先進都市に学ぶ部分は大きいですが、それがそのまま日本に当てはまるとは限らないのは当然です。日本の中でも、公共交通機関の充実度や、平均的な通勤距離とか、商業施設の分布とか、都市ごとにいろいろ事情が違うでしょう。住民の考え方、生活スタイルも違うはずです。
いずれにせよ、従来のような自転車利用の仕方のままでは今と変わらず、大して温暖化防止にも寄与しません。現状でも自転車に乗る人は多いわけですから、その距離を延ばし、機会を増やすような方策が求められます。今まで通り、近い距離を自転車で行くのではなく、クルマで行く距離を自転車に代えるくらいでなくてはなりません。
もちろんママチャリを排除するつもりはありませんが、人々の意識が変化し、その自転車の使い方が変わるような環境整備が求められると思うのです。利用者の意識転換をも促し、自転車本来のポテンシャルを生かすための自転車道ネットワークにすべきではないでしょうか。
そのための具体論もあります。長くなるのでここでは省き、おいおい書いていくことにしますが、要は従来のような考え方で自転車環境を整備するのではなく、もっと根本的な部分から変えていくべきです。つまり「自転車の復権」ではなく、新たな自転車の価値の創造であり、むしろ自転車の使い方の革新であるべきです。
たかが自転車走行環境の整備でも、慢性的な渋滞が解消されたり、都市の空洞化を防いだり、安心して歩けるので街の賑わいが増し、商業の振興にも寄与し経済が活性化するなどの効果が期待出来るかも知れません。都市部の空気がきれいになったり、ヒートアイランド現象が緩和するなどの効果が見込める可能性もあります。
健康的で暮らしやすい街、コンパクトで高齢になっても歩いて暮らせる街、空気がきれいで緑の多い街、安全性が高く交通死亡事故の少ない街などが実現するかも知れません。観光地なら、効率的に観光スポットを周遊出来たり、自転車道ネットワーク自体が観光資源となる可能性も秘めています。
そのためにも、自転車重点都市を目指す自治体には、自転車の復権を目指して、ただ画一的に自転車レーンだけ立派にするのではなく、総合的な都市計画の中に自転車政策を位置づけてほしいと思います。整備しても利用されなくては、ネットワークの意味がありません。自転車の活用を街づくりや、その活性化にも生かすべきです。
せっかくの環境整備をもったいないものにしないため、自転車重点都市は、単なる自転車走行空間の整備を重点的に行う都市というだけではなく、自転車が重点的に使われるような都市になってほしいと思います。その為にも人々の意識を変え、新たな自転車の活用の可能性が開けるような都市が求められているのではないでしょうか。
そう言えば、昨日は防災の日だったわけですが、最近は地震や豪雨などの災害が多いので、より現実味を帯びた感じがありますね。インフルエンザなんかもありますし..。
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