誰もが使いたくなるインフラ
日本の道路にも少しずつ自転車レーンが出来始めています。
全体からすれば、まだごく僅かに過ぎませんが、少し前まで自転車レーンの話がメディアで取り上げられることなど、ほとんど無かったことを思えば、大きな様変わりです。今まで「車道」と「歩道」の区別しかなかった道路に、「自転車道」、あるいは自転車レーンも必要ではないかという考え方が広がり始めています。
クルマは車道、歩行者には歩道があります。でも日本には、既に8千万台以上の自転車が存在し、多くの人の日常の足となっているのに、自転車レーンがごく僅かしかなかったというのも、考えてみれば大きな不備です。ここへきて、ようやくその充実へ向けた動きが始まりつつあります。
国土交通省や警察庁が打ち出している方針もあって、この動きは全国に広がっていますが、報道などを見ていますと、設置される自転車レーンについては、地域ごとに大きく異なったものになっているようです。形状や幅、設置場所、色、柵や植え込みなどの分離手段も含め、さまざまです。
場所によって道路幅や歩道の形状がそれぞれ違うので、その道路に設置される自転車レーンが、全く同じようには設置出来ない場合もあると思います。各自治体が設置するものですし、それぞれの裁量ということもあるでしょう。しかし、それにしても場所によって違い過ぎるのは、やはり問題があると思います。
まず、いまだに歩道上に設置する自治体が絶えません。これまでも他の自治体が施工し、歩行者と分離されずに失敗だった歩道への設置例が山ほどあるのに、全く参考にしていないとしか思えません。この点は理解に苦しみます。車道に設置するところ出始めていますが、まだ多くの自治体で歩道設置です。
人と自転車の分離柵 「かえって危険」の声
自転車利用者半数が訴え 改善へ意見交換会
JR徳島駅周辺の歩道に設けられた歩行者と自転車の分離柵(さく)について、自転車利用者の約半数が「かえって危険な状況になっている」と感じていたことが、徳島大大学院都市デザイン研究室(山中英生教授)の調査で分かった。9日、国土交通省、県警、地元の人らが集まって意見交換会を開き、改善に向けて動き出した。(以下略)(朝日新聞 2009年09月10日)
自転車レーン利用3割…富山市に昨年、整備
歩行者と自転車の衝突事故防止のため、昨年12月に県内で初めて富山市に整備された「自転車専用通行帯(自転車レーン)」の利用が、全通行台数の約3割にとどまるなど、限定的なことが分かった。県は周知活動により効果が上がっているとしているが、通行帯を走る自動車もあり、利用者からは「危険で使いにくい」という声も上がっている。(以下略)(2009年9月7日 読売新聞)
これまでもさんざん書いてきましたが、歩道に色を塗ったり分離柵を設けたくらいでは、何の足しにもならないことは、多くの事例が証明しています。自転車は歩道部分も通りますし、歩行者も自転車レーン部分を歩いています。柵などで各レーンが狭まることで、すれ違いが危険になるなど、かえって弊害が出ています。
多くの人は、これまでのように、歩道上で自転車と歩行者が混然一体となっているのが普通の状態だと思っています。色分けしてあっても、ほとんど気づく人はいません。柵などがあれば、その意図は理解したとしても、その区分けが守られるとは思っていないでしょう。実際、相変わらずの無秩序状態となっています。
私は、これはマナーやモラルの問題だけではないと思います。やはり、自転車レーンの設置方法にも問題があるのは明らかです。個人的には、歩道上に色分けなど簡易な方法で自転車レーンとするのは論外だと思っています。今までの歩道と、ほとんど変わらないからです。
日本では、これまで何十年も歩道上で自転車と歩行者が行きかってきました。今もそうです。この状態を、人々の意識も含めて一変させなければ、自転車と歩行者の分離など出来ないのではないでしょうか。最低でも自転車レーンは車道に設置し、その余地が少なければ、歩道を削るくらいの工事が必要だと思います。
当然費用はプラスになるでしょうが、結局無駄になるものを造るのに比べれば、決して高くありません。歩行者と自転車を歩道上で分離するのではなく、自転車は車道に戻すべきなのです。ただ、それだと危険を感じる人が多いですから、クルマにも注意を促す仕組みを施した自転車レーンを設置して、車道を通すべきでしょう。
自転車を歩道から下ろして初めて分離も可能になります。今でも自転車は車道走行が原則ですが、これも知らない人が大勢います。自転車レーンの出来た道路から、自転車の歩道走行禁止(幼児と高齢者を除く)を徹底し、車道走行の原則を浸透させていくしかありません。
そのためにも、ある程度全国で統一された仕様が必要になります。自転車に乗れば、市町村の境を超える場合は少なくありません。通る場所によって、自転車レーンが違うのでは混乱します。でも、仕様を統一する意味は、それだけではありません。
「地元の自治体が、自転車の通る場所を指定したがっている。」のではなく、「全国的に新しい道路のカタチが出来ていく。」ことを明確にするためにも必要です。今後、車道に自転車レーンを作っていきますから、自転車は自転車レーンを通ってもらい、歩道は通行禁止にしていきますという明確なメッセージを打ち出すべきです。
自転車通行のルールが変わることを、ある程度集中的に広報する必要もあるでしょう。その場合にも全国で統一したものであれば認知度も上がり、効果も高まるはずです。現状でも道路やそれに付帯する設備は、ある程度全国共通の規定の中で設置されているわけですから、自転車レーンについての統一基準も早急に定めるべきです。
具体的には、例えば植え込みなどを使って、歩道から自転車レーンへ出られないような形状が求められます。物陰から突然横断されたら事故になるのは間違いありません。また、自転車のほうも、自転車レーン内に気軽に駐輪したまま、容易に歩道に出られると、自転車レーンが駐輪場になってしまう可能性があります。
クルマのレーンとの間に柵が必要かどうかは、意見の分かれるところかも知れません。ただ、どちらにしても、クルマが自転車レーン内に進入できないような構造か、交通ルールにすべきです。そうでなければ、誰でも安心して通ることが出来ませんし、自転車レーンは違法駐車にふさがれてしまう可能性もあります。
ただし、柵や縁石などで仕切るのはいいですが、植栽などを間に持ってきて相互に見えなくするのは危険です。クルマから見えないと、交差点での事故につながることは、これまでにも証明されています。歩道を走って来た自転車が交差点で左折巻き込みに遭うのも、歩道を走るとクルマから確認されにくいのが大きな要因と言われています。
そして何より、自転車レーン内の一方通行を徹底すべきです。今も車道の右側を平気で通行している人が少なくなく、大いに迷惑で危険となっています。それを排除する意味でも、また、左側通行を習慣にさせるためにも、明確に一方通行や、逆からの進入禁止を表示し、車道の左側通行を徹底させるべきだと思います。
今の自転車マナーから言って、果たして一方通行が守られるか疑問という意見もあるでしょう。しかし、私は日本人が必ずしも無秩序な民族だとは思えません。諸外国の例と比べても、例えば、駅などではきちんと整列乗車しますし、何も言われなくても、順番待ちの列に素直に並び、それを乱す人は稀です。
例としては、あまり適当でないかも知れませんが、エスカレーターに乗れば、いつの間にか片側を空けで、急ぐ人に配慮しています。関東と関西で逆を空けるのは有名ですが、誰が決めたわけでもないのに、自然と秩序が出来ています。つまり、それが合理的と誰もが思えば、秩序は形成されるのではないでしょうか。
今、自転車のマナーが悪いと指摘される原因の中には、誰もが合理的と思えるようなスタイルが確立されていないという面があると思います。自転車レーンを決められた方向に沿って走行すればラクだし、安全だし、目的地に速く着けるとなれば、わざわざ逆行したりせずに、誰でも秩序を守るようになるのではないでしょうか。
その意味でも、誰が見ても自転車レーンだと一目でわかるものにすべきです。地域の個性や景観を無視してまで、厳密に全国で統一すべきとは言いませんが、地域独自のルールに惑わされることなく、だれもが自転車レーンと認知し、あればそこを通るのが、速くて安全という評価が確立するようになることが期待されます。
そう考えると、自転車レーンの設置のメリットは自転車と歩行者の事故防止だけではありません。自転車がルールを無視して歩道を暴走したり、車道を逆走しているような、現在の無秩序な状態を変えていくチャンスとも言えます。私は、是非そうなってほしいと願いますし、そうすべきだと思います。
今、各地で自転車レーンが設置されつつありますが、あまりにバラバラな形に設置が進むと、このせっかくの機会も失うことになりかねません。自転車レーンを歩道に設置するのでは、自転車の無秩序状態を改善できずし、中途半端な車道設置も、歩道と簡単に行き来できれば、かえって危険で、やはり秩序の形成に役立たないでしょう。
各地に住む人の自転車ブログなどを見ても、全国で自転車レーンが出来始めているようです。しかし、以前から存在していたものも含めて、必ずしも評判がいいものばかりとは限りません。走りにくさ、わかりにくさ、危険性など、地元で自転車に乗っている人が酷評するようなレーンも残念ながら存在しています。
ふだん自転車に乗らない、各自治体の道路課か土木課の頭の固い役人が造った、独りよがりの酷いレーンや、くだらないところにこだわって、利用者にとって使い勝手の悪いものも少なくありません。せっかく自転車レーンの整備がされても、誰も通らないものまであると言います。これでは、なんにもなりません。
このままでは、全国に使えない自転車レーンが溢れることが懸念されます。結局、市民からクレームが出て、意味がなかった、無駄だったということになり、危険だと撤去されたり、やがて整備が止まってしまうに違いありません。もちろん、これを機に自転車の通行に秩序がもたらされることも期待出来ません。
国土交通省には、この件に関しては地方主権の声に惑わされることなく、その整備に指導力を発揮することを期待したいところです。試行錯誤が必要な部分もあるでしょうが、車道に設置する標準的なモデルを設定し、車道や歩道との分離方法、最低限必要な機能やルール、スペックに基準を設けるなども必要となるでしょう。
いまだに歩道に色を塗り、かえって危険と市民からクレームが出ているような状況は大いに問題です。せっかく自転車レーンを整備するわけですから、真に使えるもの、本当に歩行者と分離されるもの、自転車通行に秩序をもたらすものにすべきです。今こそ日本の自転車レーンのあり方を考えるべき時なのではないでしょうか。
今日は9月11日、もうあれから8年も経ったんですね。はやいものです。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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こんにちは。
民主党が「CO2削減25%」と言っていますね。
それなら是非、自転車インフラを整備して欲しいですね。
歩行者も、クルマも、自転車も安心して通れる環境になれば良いんですけど・・・
それって、そんなに難しい事ではないですよね。
ところで最近、都内では「車道の左側を走る "白チャリ" のお巡りさん」を見るようになりました。
嬉しいですね〜、こんなお巡りさん達カッコイイです。
・・・自分の住むS区は、相変わらず「白チャリ」は歩道をフラフラ走ってますけど (^^;
youshookmeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、欧米では温暖化対策として、自転車の活用を真剣に考えている国が増えていますから、日本もぜひ見習って重点的に取り組んでほしいものです。
そうでなくても自転車が歩道を暴走しているなんて、世界の常識からすると、まったくの野蛮な発展途上国です。日本に来て驚く外国人も多いと言いますから、せめて歩道くらい安心して歩けるようにしてくれるよう願いたいです。
これから高齢化社会に向かうわけですし、自転車にはねられて高齢者が亡くなるなんて悲劇が増えないようにして欲しいですね。
本当は当たり前の話ですが、確かに、歩道を通っているのが普通でしたからね。警察官の意識も変わりつつあるということなのでしょう。
地域ごとにばらばらに設計するんじゃなくてある程度同じ設計にするのは重要ですね
点字ブロックなんかも地域によって色や柄が違ってかえって目が不自由な人が使いにくいそうです(目が不自由な人の中には完全に目が見えないんじゃなくて色の判別くらいはできる人も多いらしいです)
その反省も生かしてよいものを作ってくれるといいな〜
あと子供を乗せる新型の三人乗り自転車を見る機会が増えました。
割合からすればまだまだ少ないですがこのまま普及してくれれば事故が減るかな。
はじめまして。
キャンプ道具マニア@五百蔵です。
自転車専用の道ができているとは
知らなかったです。
今後もこのような道が
どんどん増えると便利になりますね
もっと普及してほしいと思いました。
はじめまして、こんにちわ。motoというものです。
自転車ブログで記事を発見しました。とても興味深い内容ばかりのもので、とても勉強になります。これからcycleroadさんの記事を楽しみにしていきますのでよろしくお願いします。
自転車専用道ですが、整備されていくことは賛成です。むしろどんどんしてくださいと思っています。ただ、例えばそこにママチャリの一般の人とロードレーサーが同じ道(自転車専用道)を走るという状況になることがあると思うんです。逆に自転車同士の接触事故やトラブルが増えるのではないかと思いました。
自転車もそれに乗る人も千差万別なので自転車専用道の細分化は必要なんじゃないかと考えました。(ただ、細分化できるスペースがあるのかという疑問も生じました。)
cycleroadさんの意見を聞かせてください。
職人気取りさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
全国的に自転車レーンを整備していくのであれば、当然全国で、ある程度共通したものであるべきだと思います。
点字ブロックもそういう事情があったんですか。目の不自由な人にとって、重要な問題ですね。
自転車レーンも、色くらいはバラバラでいいと考える人もあるかも知れませんが、やはりパッと見てすぐわかるという点で、色は重要な要素だと思います。特にクルマに注意を促す点でも効果は大きいと思いますね。
新型3人乗り、見ますか。一部を除いて、古いタイプとよく見ないと見分けがつかないですよね。私は、あまり気付きませんでした。増えていけば、価格も安くなるでしょうし、普及にもはずみがつくでしょうね。
キャンプ道具マニア@五百蔵さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
まだまだ、ごく一部ですからね。近くに無いと、知らない人が大多数だと思います。
そうですね、便利なだけではなく、安全になるでしょうし、歩行者との事故、クルマとの事故も減ることが期待されます。
ぜひ、多くの人が、もっと整備してほしいと思うような、「使える」レーンをつくってもらいたいものです。
motoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、その問題はあるでしょうね。細分化と言うより、追い越し用のレーン、あるいは、その余地が必要になるのではないかと思います。低速の自転車と、より高速な自転車の共存が必要ということでしょう。
その意味から言うと、今まで歩道を通っていたママチャリが車道に出で来ることになるので、ロードバイクに乗る人にとっては、ある意味有り難くない面があるのは事実だと思います。
ただ、今でもサイクリングロードなどでは見られることですし、あまり狭いレーン、物理的に追い越せないようなレーンでなければ、案外大丈夫なのではないでしょうか。
欧米などでも、共存しています。一部のロードバイク乗りにとっては、我慢すべき面が出てくるかも知れませんが、このまま自転車が歩道を暴走するような状態のままだと、自転車全体の首を絞めるようなことになる可能性は否めないような気がします。
発見していただき、ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。
日本国民に欧州みたいなマナーのいい走り方ができるとは思えない。
車道側に自転車道をなるべる多く増やして免許制を導入して車と共に罰則と取締りを強化するしかない。
でも道路の方は財政的な面からやめたほうがいい。
現実的にさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
現状では、おっしゃるとおりでしょう。しかし、それはいろいろな事情が絡んでの話もあると思います。
欧米にも、国によって事情や歴史的な経緯などもあって、必ずしも日本よりいい面ばかりとは限りません。日本のほうが秩序があったり、マナーが良かったり、治安が良かったり、綺麗だったりする面もあります。
クルマの運転なんかを見てもそうですが、海外よりずっとマナーが良い面もあります。やり方によっては、日本のマナーも改善する可能性があるのではないでしょうか。
エスカレータ上の歩行を推奨するような記事はできれば控えていただけませんか?
エスカレータ上の歩行は非常に危険です。
Hエレベータサービスさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
エスカレータ上の歩行を推奨するつもりはありません。ただ、現実に、そのような状況が現出しているということを指摘しているだけです。そうした秩序が、誰に指摘されるでもなく、出来ていることを例に引いただけです。
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