ここのところ、テレビのCMでよく聞く言葉があります。
「エコカー減税」と「補助金」です。クルマメーカーがこぞってコマーシャルしており、聞き飽きるほど出てきます。メーカーは業績回復に懸命なのでしょうが、どのメーカーも横並びで、何とかの一つ覚えのように繰り返しです。こればかり連呼するというのも、あまりに芸がないと感じるのは私だけでしょうか。
もちろん自動車産業の裾野は広く、その業績いかんで景気回復や雇用などに与える影響は小さくありません。政府が経済対策として販売を促進するべく、減税や補助金を打ち出すのも理解できます。ただ、そんなに頻繁に買い替えるものでない以上、需要の先食いでしかないという意見には一定の説得力があります。
この政策のおかげで売り上げは回復しているようですが、今売れているのは、買い替え時期に来ている人が、お買い得なうちに前倒しして買っている分もあるに違いありません。だとすれば、減税や補助が終わったら、途端にまた販売が落ち込む可能性は小さくないでしょう。
経済対策として需要を喚起する目的は理解しますが、果たしてエコカーへの買い替えが、温暖化ガスの削減にどれだけ効果があるかは疑問もあります。買い替えによって、今と比べて燃費がどれだけ向上するのでしょうか。アメリカのGM車ならいざ知らず、もともと低燃費の日本車に改善の余地は大きくないはずです
確かに技術の向上で、省エネ性能は改善していると思います。しかし、30年前のクルマならいざ知らず、いま日本で走っているクルマなら、そこそこ省エネでしょう。その差が、わざわざ急いで買い替える必要があるほど大きなものなのか、疑問に感じる人も多いのではないでしょうか。
かなり燃費の悪い外国車とか大排気量車に乗っている人が省エネ車に乗り換えるなら、効果もあるでしょう。でも、そういう趣味の人が、減税だからとエコカーに簡単に乗り換えるとも思えません。普通は家族構成や使い方などに応じて同じようなクルマに買い替える人が多いとするなら、なおさらその差は小さいはずです。
買い替える場合に、今までより排気量の大きなクルマに買い替える傾向があるのも事実ですし、販売店も勧めるでしょう。つまり、まだ使えるのに乗り換えるのは、もったいないだけでなく排気量が増えたり、生産や流通のためのエネルギーもありますから、かえってエコではないという結果もありえます。
性能によって、減税幅や補助金の額は違ってくるようですが、減税または補助金の対象となるクルマが大半で、むしろ対象でない車種を捜すほうが難しいくらいです。つまり、より環境に大きな負荷を与える大排気量車も堂々とエコカーになっています。より大きなクルマに乗り換え、排出量が増えてもエコカーなのです。
クルマの利用をやめるなら効果もあるでしょうが、買い替えを促すだけであることに、何か違和感があるのは私だけではないはずです。相対的に多少エコかもしれない程度のものに対して、エコカーなどとエコを名乗るのこそ、おこがましいと言えます。景気対策減税、景気対策補助金か何かに変えるべきでしょう。
細かいことを言うようですが、エコカーに乗り換えたからエコに貢献していると満足している人は大勢います。よりエコを考えるなら、不要不急のクルマの利用を抑えるべきなのは明らかですが、せっかくエコカーに買い替えたのだし、割高な分、元を取る為どんどん使わなきゃ損だという、省エネには本末転倒な話が実際に起きています。
テレビなどの影響もあると思いますが、マイ箸を使っているとか、レジ袋を断っているとか、多少階段を使うようにしているといった程度の話で、自分は「エコしている」と満足し、一方で、知らずにエネルギーを無駄に消費していることに気づかない人は少なくありません。
もちろん、やらないよりはマシでしょう。心がけとしては重要です。一人ひとりの心がけが広がることにより、やがては割りばしの消費量も減り、レジ袋が使われなくなり、エスカレーターが撤去されるかも知れません。そうした努力を否定するものではありませんが、それだけでは足りないのは明らかです。
より環境に負荷を与えない生活をどう実現するかという本質にたって考える必要があります。相対的に「多少」良いことをする程度の話で問題は解決しません。経済と環境を両立させるのは難しい課題ではありますが、大してエコに貢献しないのに、エコという名で本質を見誤らせるのは疑問と言わざるを得ません。
クルマメーカーは、省エネ性能を高めるために、不断の技術革新を行っています。いまどき、環境に配慮していなければ消費者にそっぽを向かれるとは言え、その努力は認めます。しかし、いかんせん営利企業である以上、彼らの努力だけで、本当の意味で環境に優しいクルマ実現を期待するには無理があります。
欧米のライバルを引き離すハイブリッドなどの高度な技術に加え、電気自動車や燃料電池車など次世代のクルマの開発にも余念がありません。こうした開発には莫大なコストもかかっています。しかし、メーカーがとらない手法の中にも、省エネには即効性があり、しかも低コスト、素人でも考え付く方法があります。
それは、車体を小さく軽くすることです。それを技術力で達成するのではなく、乗車定員を減らして、クルマのサイズを小さくするのです。クルマは過去百年、技術も発展しましたが、装備は豪華に、サイズは大きくなってきました。それに従って重くなり、そのぶんエネルギーも余計に消費するようになって来たわけです。
街を走るクルマを見ても、多くは1人か2人しか乗っていません。曜日や場所にもよるのでしょうけど、おそらく平均をとったら、2人以下ではないでしょうか。一方乗車定員は、5人以上がほとんどです。3人分以上無駄ですし、空気を運ぶために、わざわざ無駄な車体の重量を移動させ、多くのエネルギーを消費しているわけです。
この無駄なぶんを減らせば、大きく省エネに貢献するはずです。業務用や通勤用など、1人乗りや2人乗りで済むクルマも多いでしょうし、大勢乗るのは年に数回なので、その時だけ借りれば済む人も多いかも知れません。今まで大きくなる一方だったクルマの発想を転換し、ダウンサイジングするわけです。
いらない装備は削り、乗車定員を少なくします。2シーターのスポーツカーのようにするのではなく、車体の寸法自体を小さくしてしまうのです。極端な話、クルマの幅を半分にしてしまったらどうでしょうか。1人乗り、もしくは前後1人ずつ2人乗りです。
大きさは、ピザ屋の配達用原付バイクか、大型のスクーターくらいのイメージです。この大きさでも1人乗りや2人乗りなら充分な大きさ、幅でしょう。そして、仮に都市部に限り、このタイプのクルマだけに通行を制限するなら、車線は倍に増やせます。渋滞対策にも効果を発揮するに違いありません。
車線を半分にするのは、さすがに現実的ではないかも知れませんが、今までのように、都市の貴重な道路空間にクルマが大きなスペースをとっているほうがおかしいのであり、しかも渋滞していて1人しか乗っていないことのほうがナンセンスです。この大きな無駄を考えれば、決して見当違いの話ではないはずです。
満員電車は、あんなに混んでいます。道路も、もう少しスペース効率を考えてもいいはずです。ただ、今の資本主義社会で、メーカーに自主的に販売を期待するのは酷です。何らかの規制や規格を定めるなど、社会としての方向付けが必要でしょう。そのためには、広く市民のコンセンサスが必要になってきます。
道路を使った移動に対して、人々が根本的に考え方を変えるのが前提となります。特に都市部の移動では、平均時速も遅いですし、快適装備も極力削って、原付バイクくらいの大きさのクルマでも充分だとの考え方が広まる必要があります。動力はエンジンでも、電動アシストでもいいですし、全くの人力、すなわち自転車でもいいでしょう。
今まで大型のセダンに乗っていた人が、軽自動車に乗り換えれば大きな省エネです。でも、原付バイクにするなら、その燃費向上幅は軽自動車の比ではありません。全ての人に、自転車にして燃料費ゼロにしろとは言いませんが、一人分に相応のエネルギーを使おうという話です。これぞエコカーではないでしょうか。
クルマは止まっていても場所を取ります。都市の貴重な空間が駐車場として占有されます。自転車と比較すれば、その大きさの違い、占有するスペースの大きさは歴然です。クルマ為の種々のインフラ整備、維持補修にかかるエネルギーも小さくありません。ヒトの大きさに対してリーズナブルな大きさという観点でも考えてみるべきでしょう。
次世代のクルマの開発も必要です。でも、例えば電気自動車と言っても、日本の発電量の3分の2は石炭、石油、天然ガスなどによる火力発電です。発電段階で温暖化ガスを出していますし、送電段階でも大きなロスがあります。そして、高性能のバッテリーが必要となります。
航続距離を伸ばすために、より多くのバッテリーを積む必要があり、そのぶん重くなって、重くなった分パワーが必要となって、よりバッテリーが必要となるという矛盾、あるいは悪循環を含んでいます。燃料電池車についても、水素の扱いが難しく、重くて頑丈なタンクを搭載せざるを得ません。
高性能バッテリーには希少金属が必要となり、資源の乏しい日本にとっての弱点も抱えています。しかし、バッテリーも電動バイクくらいなら小さくて済みます。実際に、日本でも原動機をモーターにしたオートバイが商品化されています。(右の写真とは別。)サイズを見直すという考え方は、次世代に向けても有効なのではないでしょうか。
技術革新を否定するつもりはありません。しかし、技術革新が更にクルマを肥大化、重量化させるならば、エコには逆行します。発電や水素の供給などにも問題が残ります。もっとクルマをシンプルにし、無駄を削って、相応のエネルギーで移動する方向に発想を転換することが必要ではないでしょうか。
右上の写真の乗り物は、読者に情報をいただいたものです。電動自転車の一種と言える乗り物です。下の動画を見ると、渋滞に並ぶよりよっぽど速いこと、都市の移動には、この程度でも充分と思えてくる人は少なくないに違いありません。こうした乗り物が出てくること自体、徐々に人々の意識も変化しつつあるのでしょう。
景気対策としての面はともかくとして、エコカー減税や補助金が地球温暖化対策としては、甘めに見ても対処療法以上のものでないことは明らかです。ネーミングに惑わされることなく、真にエネルギーの消費を抑え、温暖化ガス排出を削減し、本当の意味でのエコカーを実現する、その本質を考えていく必要があるのではないでしょうか。
いよいよ新政権が始動しました。支持率は77%という調査もありますが、果たして国民の期待に答えていけるか、その動向が注目されます。
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