自転車で出かけた先で、何らかのアクシデントに見舞われることもあります。
前回の記事のクマとの遭遇も、アクシデントと言えばアクシデントですが、もっと見舞われる可能性の高いアクシデントは、当然ながらほかにもあります。パンクや盗難など、車体のトラブルは別にすると、一番は、やはり事故ということになるでしょうか。
事故が自分の身に起きた時には、対処できる状態かわかりませんが、同行者が事故に遭うというケースもあります。当事者でなくても、事故の現場に出くわすこともあるでしょう。そうした時には、通報や救護など、迅速で適切な対処が求められることになります。
仮に、心肺停止状態の人を前にした時、通報して救急車が到着するまでの間、適切な蘇生措置をとることが出来るかどうかが生死を分けることも充分ありえます。心臓マッサージや人工呼吸といった措置を、否応なく実行することが求められる場面に、いつ遭遇してもおかしくありません。
救護対象者の意識がなく、呼吸をしていない場合、まず通報の手配や二次被害を防ぐため周囲の安全を確認した上で、その人のアゴを上げ、気道を確保してあげる必要があります。そして忘れずに鼻をつまみ、口へと空気を吹き込み、相手の胸が軽くふくらむことを確認します。もしふくらまないなら、口の中に異物がある可能性があります。
次に心臓マッサージ(胸骨圧迫)です。もちろん知識として知っている人は多いと思いますが、実際に自分が行う立場になった時、果たして適切に出来るか自信のない人も多いのではないでしょうか。ちょっと胸を押すくらいでは、有効な心肺蘇生法にはなりません。
押さえる位置は、左胸ではなく胸の中心です。思い切り強く押す必要がありますが、経験がないと往々にして圧迫が弱くなりがちです。肋骨を折っても困ると遠慮する気持ちが働くのでしょう。しかし、押しが弱くては意味がありません。強く、そして継続して圧迫する必要があります。
対象が大人の場合は、両手で強く、胸が5センチほど沈み込むぐらい押す必要があります。1分間に100回押す程度のスピードで押します。心臓マッサージを30回したら、人工呼吸を2回はさみ、また心臓マッサージという繰り返しがよいとされています。
私も昔、心肺蘇生法の講習を受けたことがあるのですが、実践する場面に遭遇したことはないので、記憶が曖昧になっていた部分もあります。詳しい方法を知っている人は多いと思いますが、イザという時に困らないよう、改めて手順を整理して確認しておくのも無駄ではないでしょう。
こうした措置で心臓が再び動き出せば幸いですが、必ずしもうまくいくとは限りません。しかし、心臓マッサージは、止まった心臓の代わりに心臓を押してやることで、血液を脳に送る効果も見込めます。つまり、脳が酸欠となってダメージを受けるのを、少しでも緩和させる役割があるわけです。その意味でも重要なのです。
事故といってもいろいろです。対クルマだけでなく、単独で落車、つまり転倒して骨折するようなケースもあります。骨折の場合は患部を動かさないのが基本です。部位にもよりますが、何か添え木になるようなものを探し、タオルで縛るなどして固定するといいでしょう。
怪我で出血という事態も考えられます。ひどい出血の場合、患部より心臓に近い場所をきつく縛って止血しようと考える人が多いと思います。しかし、これは神経や筋肉などの組織を損傷させる可能性があるので、専門家でない限り、安易に縛るべきではないと言います。
止血するには、傷口をタオルなどで強く圧迫してやるのが基本となります。健康診断などで採血した後、ガーゼなどで注射針の刺さった後を押しますが、あれと同じことです。大きい傷もふくめ、この方法で、ほとんどの出血を止めることが可能なのだそうです。
怪我以外にも、例えばハチに刺されるといったアクシデントもあります。最近、スズメバチに刺されて病院に運ばれたり、死亡するといったニュースを聞くことも増えています。実は、例年日本ではクマに襲われて死亡する人数に比べ、スズメバチに刺されて死亡する人の数の方が桁違いに多いのです。
実際、ヘビやその他の毒のある動物と比べても被害を受けて死亡する人数は断トツであり、攻撃的で、日本における一番危険な野生生物と言っても過言ではないでしょう。秋は繁殖の時期なので、特に攻撃性を増すと言われており、被害が増える時期でもあるので充分な注意が必要です。
うっかり巣に近づいてしまい「カチカチ」という威嚇音を聞いたら、出来るだけ早く離れる必要があります。黒い色に反応して襲う性質があり、頭部を刺される人が少なくありません。スズメバチがいるような場所へ出かける場合は、黒い色の服装は避け、白い帽子をかぶるなどしたほうが無難です。
人間の黒い部分、つまり頭や目玉を狙ってきますので、手で隠しながら逃げますが、スズメバチを手で払うのは禁物です。また、毒は針で刺すだけでなく、空中から飛ばす場合もあり、その毒液が目に入ると失明する恐れもあります。ミツバチと違って、何度でも刺すことが出来る点も厄介です。
巣に接近するつもりはなくても、知らずに近づいてしまうことがありますし、種類によっては、接近しただけで突然攻撃してくるものもあります。香水にも反応すると言われており、つけていると危険です。ジュースやアルコールなどの飲料に寄って来る場合もあるので、注意が必要です。
もし刺された場合には、傷を摘まんで毒を出し、流水で洗います。吸引器などがある場合は利用しますが、口で吸い出すのは避けるべきとされています。よく、映画やテレビドラマなどで、毒蛇などの毒を口で吸い出すシーンがありますが、実際には吸引力が弱く、ほとんど意味もないのだそうです。
死亡する例もあるくらいですから、速やかに病院へ行ったほうがいいのは間違いありません。特に過去に刺されたことがあると、前回につくられた免疫が過剰に反応し、いわゆるアナフィラキシーショックを起こす可能性があり、危険と言われています。実は、私も過去に2度も刺されたことがあるので注意しています。
毒蛇などの毒もそうですが、そのまま走って病院に行こうとすると、血流が良くなって毒が回ることになってしまいます。焦らず、出来れば他の手段で病院に行くべきでしょう。直後に、あまり痛みがなくても、時間が立って症状が出たり、麻痺や最悪呼吸困難に至る恐れもあるので、侮ってはいけません。
ハチに刺されたら、アンモニアが有効だと思っている人も多いと思います。しかし、実はこれは全くの誤りだそうです。ハチの毒にアンモニアが有効ということはなく、また、尿に含まれているのは尿素であり、アンモニアではありません。つまり、尿をかけるのは、まるで意味がないということになります。
ほかに、熱中症なども注意すべきアクシデントです。水分補給などの予防が大切ですが、なってしまった場合の処置も知っておいて損はありません。これからの時期は少ないと思いますが、実は、涼しい日が続いた後の暑い日に、身体が暑さに適応しきれず、熱中症になることが意外に多いと言われているので、油断はできません。
まず涼しい場所に移動し、服を緩め、スポーツドリンクなどで水分や塩分を補給させます。体温を下げるため、わきの下や太ももの付け根など、太い血管のある場所を冷たい缶入り飲料などで冷やすのも有効です。風を送ったり、水を口に含んで霧状にして吹きかけ、気化熱で体温を下げるのも手です。
自分で熱中症だと自覚することは少なく、おかしいと思った時には手遅れになる可能性もあります。同行者を介抱する場合でも、なるべく速やかに病院などへ連れて行くべきでしょう。場合によっては、救急車を呼ぶことも躊躇すべきではありません。
強い日ざしも脅威ですが、逆に悪天候が脅威になる場合もあります。これからの時期は少ないかも知れませんが、例えば、雷が鳴り始めた時、河川敷のような、周囲に高いものがない場所は非常に危険です。そのまま走行するのではなく、河川敷から離れる必要があります。即座に実行しているでしょうか。
雷が鳴っているのに、木陰で雨宿りをするのも危険です。木から3メートル以上離れないと、木から雷が伝ってしまう恐れがあります。雷が鳴っているのに、ほかに適当な場所がないからと、漫然と木陰で雨宿りをしている人は、単に今まで、運が良かっただけかも知れません。まず危険を冒していることに気づかなければ意味がないのです。
それではと、橋の下などに避難した場合、小さな川だと上流のゲリラ豪雨で急に増水する可能性があります。雨宿りのつもりが、川の増水で流されてしまう危険があるわけで、実際にそうした事故が起きています。天気の急変によるアクシデントに遭わないようにする知恵も求められます。
ほかにも、考えられるアクシデントは多々あるでしょう。さまざまなアクシデントへの対処法を、あらかじめ知っておくことも大事ですが、知識として持っているだけでなく、イザという時にそれを実践出来なければ意味がありません。とっさの時に、どうすべきか適切な判断を下す冷静さも必要でしょう。
そして必要とあらば、果敢に行動する勇気も重要なポイントになるかも知れません。とかく、これくらい大丈夫だろうと、根拠もないのに甘く見てしまいがちですが、大事をとって行動できるかが結果を左右することもあります。そのあたりも充分認識しておく必要がありそうです。
やはり谷垣さんでしたか。彼はサイクリストなので親近感があるのですが、「みんなでやろうぜ。」って子供のセリフみたいなスローガンは、どうなんでしょうね。
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