2020年までに1990年比で25%削減するというものです。前の麻生総理が表明したのは、1990年比に換算すると8%であり、3倍以上という野心的な数字です。これについて、国際的には高く評価する声が上がっていますが、国内では産業界などに困惑が広がっています。
これを受けてテレビ各局では、国内の反応として大手企業のトップなどへのインタビュー場面を放送していました。目標の実現を疑問視する声や、産業界としてこれ以上の削減努力は厳しいとか、乾いたぞうきんを絞るようなものといった反発も多く聞かれたようです。
企業としての立場からすれば、経営を圧迫する要因には間違いありません。あまり厳しいノルマが課されるのは避けたいというのが本音でしょう。今まで、日本企業がオイルショックの時代から、一生懸命省エネに取り組んできたのも確かです。不満を言いたくなる気持ちもわからないではありません。
ただ、中には鳩山政権に対する反発や、苛立ち、恨み節とも言うべき感情的な意見もあります。充分な国民的議論を踏まえていないとの非難や、このままでは日本で製造現場を維持することは難しい、海外へ出て行くしかない、雇用が失われるだろうといった発言をする経営者まであります。
今までの自民党だったら、こんなに産業界が嫌がることはしなかったのにという、一種の驚きがあるのかも知れません。いわゆる政官財のもたれ合い構造で来たこれまでであれば、経済成長優先の名のもとに、こんな数字が打ち出されるなんて有り得なかったと言えば、そうなのでしょう。
しかし、民主党政権だって国内経済を考えないはずはありません。また、当然のことながら、日本だけが突出した削減義務を負うことは避けなければなりません。米中をはじめ、すべての主要排出国の参加が前提であり、公平かつ実効性のある国際的な枠組みが構築されることを前提としています。
国際交渉ですから、こうした合意が得られるかはわかりません。ただ、世界中で取り組む課題ですから、もし実現するとなれば、日本の排出規制が厳しいから、途上国へ移転すればいいということにはならないはずです。そんな抜け道を許しては、実効が上がるはずがありません。
そもそもこの数字は、新興国も参加した枠組みにする為、まず先進国が2020年までに90年比で25%から40%の削減をすべきという、これまでも言われてきた数字です。その下限に過ぎません。新興国も含むすべての主要排出国の参加を促す為には必要最低限の数字と言えるでしょう。
つまり、仮にすべての主要排出国が参加する枠組みが出来て、公平かつ実効性のある国際的な取り組みとしてスタートするならば、当然求められる数字に過ぎません。もっと低く言っておけばよかった、ということにはならないはずです。これまでの国際交渉の流れを見ていれば、おのずと明らかでしょう。
京都議定書では、日本が不利な条件を飲まされた部分があると言われています。それは、国際的な枠組みを構築する過程で、当初積極的に関与して来なかったのが災いしたとされています。その教訓から、国際交渉の主導権を握るために先手を打つのは、必ずしも悪い戦略ではないと思います。
経済界の中でも、この鳩山首相の表明を評価する声があります。国際的なイニシアチブを取る手法として認めるべきと発言しているトップもいます。環境と経済の両立を目指す必要がありますが、むしろ世界をリードして技術革新を進め、国際競争力を強化すべきとの声もあがっています。
特に製造業にとっては逆境ですが、逆にこれをビジネスチャンスにつなげ、イノベーションを起こすべきと、トップが積極的に発言している企業もあります。温暖化ガス削減は世界的な課題なのですから、国際的に公平性が確保されるなら、文句を言っているより、さっさと切り替えて対応しようというほうが前向きなのは間違いないでしょう。
トップが不満たらたらの企業も、逆に前向きに発言している企業も、今どきの常識として、ふだんは地球環境に対する配慮を前面に出して宣伝広告活動を行っているはずです。少しでも企業イメージをよくしようと、社員が日夜広報活動に励んでいるのに、下手をすると社長の一言で、その努力がぶち壊しになりかねません。
今回のような場面で、トップの発言に本音が見え隠れするのを注意深く見ている人たちもいます。最近では、機関投資家や投資ファンド、個人も含め、企業の環境への姿勢に注目が高まっています。企業の株価や、特に今後は企業の資金調達にまで影響することになると言われています。
その意味でも、真剣に温暖化対策に取り組もうとしていない企業は、今後淘汰されていく可能性があります。厳しい数字と恨みごとを言いたくなる気持ちもわからないではないですが、多くの人がトップの発言に、その企業の将来を注意深く見ていることも忘れるべきではないでしょう。
一般の消費者は、個々の発言にまでは注意していないかも知れませんが、トップの考え方や企業の姿勢は、さまざまなところにも表れるものです。最近はどんな企業でも環境への取り組みをアピールしていますが、その内容に真剣さの度合いが表れることもあります。
例えば、製造業ではありませんが、ある大手流通企業が最近まで掲げていた取り組みに、「お客様にエコ製品をお勧めしています。」というのがありました。特にその会社が各社の製品を厳密に比較評価していたわけではありません。今どきは、どの社も環境対応をうたっていますから、必ずしも大差はないでしょう。
エコを基準に選ぶかどうかは消費者が決めることであり、実際には現場でも、お客が何を求めているかにより勧める製品が変わってくるはずです。あるいは一番利幅の大きいものを勧めていたでしょう。まさに口先だけの取り組みで、中身がありません。こんなことを堂々と環境対策として大きく掲げているセンスが疑われます。
ほかには、レジ袋を薄くしたことなどを大きく打ち出していましたが、その会社の扱う商品は、レジ袋で持ち帰るより、ほとんど主力は段ボールで持ち帰るか配送するような商品です。ここまで来ると笑うか呆れるかしかありません。さすがに最近は引っ込めたみたいですが、有名な上場企業が大々的に宣伝すみ取り組みにしてこの有様です。
今までは、本当に環境対策に取り組んでいる会社と、環境対策に熱心を装っている会社は、見ればわかってしまうことも少なくありませんでした。しかし、これからは、単にポーズをとっていればいい、消費者にアピール出来ればなんでもいい、というわけにはいかないはずです。
今後は、企業が口先だけでエコエコと言っているだけでは対応できない時代になっていくと思われます。真剣に取り組んでいない企業が、今までの対応の見直しを迫られるのは当然として、全ての企業に抜本的で実効性のある対策が求められることになっていくのでしょう。
地球温暖化を憂慮し、その抑止が喫緊の課題だと、本当に考えている企業であれば、今回の鳩山首相の表明は、むしろ歓迎すべき一歩なはずです。営利企業の本音の部分でも、今後世界的な枠組みが構築されるならば、新興国の企業にも環境コストの負担が求められ、むしろ公平な競争環境の構築につながる可能性もあります。
よく言われるように、環境技術やノウハウを持つ日本の企業にとっては、ビジネスチャンスが広がることも充分考えられます。オイルショックの時は、逆境をバネに変え、むしろそのことが日本企業の飛躍につながりました。今回も企業には前向きに捉えてもらい、むしろ日本経済が明るくなるような躍進を期待したいものです。
日本の緊急援助隊がスマトラに入りました。隊員の方はご苦労なことですが、とっくにマスコミは現地から中継しているのですから、どうせなら、もっと早く派遣を決定出来ないものなのでしょうか。
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25%削減するには企業だけでなく、やはり国民一人一人が意識しなければ達成できないと思っています。企業が努力してもそれには限度があり、私達の自然環境に対する配慮がなければ、エコ製品も使えば少なからずCO2を排出しますし。意識改革が起こらない限り25%削減は厳しいと思っています。