自転車で道路を走っていると、やたらと駐車車両の多い場所に行きあうことがあります。
それも、エンジンをかけっぱなしのトラックが延々と駐車しているような場所があります。工場や配送センターなどへ積み下ろし待ちのトラックが周辺の道路を占拠し、長時間駐車しているような事例が全国的に問題視されています。今は携帯電話があるので、多少離れた場所でも待機場所になり得るのでしょう。
東京やその近郊にも工場や配送センターは少なくありません。しかし近くの道が狭いため、少し離れた交通量の少ない道路が、トラックの順番待ちに利用されているような事例もあります。特に平日、代休などで休みをとって自転車に乗っていると、そんなトラックが延々と駐車している場所を通ることがあります。
当然、トラックから出される排気ガス、騒音、振動、排熱など、地域住民にはとても迷惑です。大型トラックが視界を遮る形になって事故を誘発したりもします。そのような道路を通ると、自転車も含めた通行者は、排ガスを延々と吸わされながら通らなければなりません。
最近でこそ規制が強化され、ディーゼル車の排気ガス中の粒子状物質も改善されています。黒々とした排気ガスをモクモクとまき散らして走るトラックを見ることも減りました。しかし、実は更に小さな微小粒子状物質について、日本では欧米と比べて大幅に対策が遅れていることが問題となっています。
この微小粒子状物質は、その小ささから気管支や肺まで達するため、ぜんそくなどの呼吸器系疾患や肺がん、心筋梗塞などの原因になると考えられています。より健康への被害が大きいことから、その影響が懸念されているのです。また、都市部では窒素酸化物などによる大気汚染の改善も頭打ちになっています。
一義的にはトラック運転手がアイドリングをストップしないことが批難されます。しかし、彼らも仕方なく待っているわけで、一概にドライバーだけを責められない部分があります。荷主の企業に長時間待機させられれば、アイドリングをしたまま仮眠をとったりしたくなるのも理解できないことではありません。
つまり、荷主である企業や配送センターなどにも責任があって、その荷主や施設側の都合で長時間待たされるドライバーは長時間労働や過労につながっており、その点では被害者と言えます。荷主側の企業は、圧倒的に強い立場なので、待たされても基本的にはドライバーやトラック業者側は文句を言えません。
ドライバーの過労が健康被害や、居眠り運転などとなって事故を起こす可能性も否定できません。この業界で長年続く悪しき慣習、構造的な問題と言われています。実際、近年この問題が無視できなくなっており、国土交通省が呼びかけ、荷主側とトラック業者が改善策を話し合う会議が今年初めて開かれています。
長時間アイドリングしっぱなしのドライバーも褒められたものではありませんが、多くは施設側の都合が原因と国交省はみています。待ち時間が数時間から半日になることもあり、人間扱いされていないと感じているドライバーも多いようです。夜中から並んで、荷物を積めるのは昼過ぎだったりするそうです。
荷主側が大雑把な時間指定をしたり、あるいは同じ時間の必着を多くのトラックに指定したりします。積み下ろしが集中するため、ドライバーは早めに着いて待たなければならなかったりもするでしょう。積み下ろしの作業が非効率で時間がかって待ち行列に渋滞が発生したりするなど、施設によってもいろいろ原因があると思います。
こうした状態が放置される背景には、荷主や施設を運営する企業が、この状況を自らの責任と考えていないことが挙げられると思います。出入り業者、下請けの運送会社を待たせても料金が変わるわけではありません。トラック業者の都合を考慮せず、自社の利益だけを考えるので下請けや出入り業者へしわ寄せが行くという構図です。
もちろん地球温暖化の観点でも問題なのですが、トラックのアイドリングストップによって温暖化ガス排出が減っても、自社の削減量にカウントされるわけではありません。積み降ろしの時間を短縮するための投資をして、待ち行列を無くしたとしても、自社の利益にはつながりません。その費用は、見合わないコストというわけです。
荷主側、流通センターなどを持っている会社は一部上場の有名大企業であることも少なくありません。堂々と看板が出ているのに、周囲の道路はトラックで溢れていたりします。確かに、直接は責任がないかも知れませんが、あまり一般には関心を持たれていないからと言って、企業の社会責任として問題ではないでしょうか。
近年、CSR(Corporate Social Responsibility)、企業の社会的責任という言葉を聞く機会が増えています。コンプライアンス、法令遵守という言葉と共に語られることも少なくありません。営利企業であっても社会に与える影響に対して、その責任を問われる場合が増えていることが背景にあると言えるでしょう。
製品の欠陥や、成分や消費期限の虚偽の表示、法令違反などのさまざまな不正、スキャンダルが相次いだこともありますが、もともと企業は社会的な存在です。CSRは、企業がよい製品やサービスを消費者に提供し、雇用を創出し、利益を上げて納税するなど、社会全体に対する貢献を求められる立場にあるという考え方にたっています。
ほかにも、最近では地球環境への配慮もそうですし、寄付や社会貢献、地域への還元、ボランティア活動への支援などへ積極的に関与する企業が増えています。スキャンダルが直接売り上げに響くだけでなく、社会からの信頼や投資家の企業評価としても重要度を増し、株価や資金調達にも影響するようになっています。
一部上場の有名企業は当然、どこも力を入れています。しかし、この事例が示すように、まだまだその社会的責任が果たされているとは思えないような面があるのは否めません。最近は、労働基準法の観点から厚生労働省もこの問題に注目し、取り組みを始めています。
トラック到着の指定時間を細かく指定して待ち時間をなくしたり、配送センター側の処理能力を増やしたり、積み下ろしを効率化したり、時間短縮を図って待ち行列をなくすなど、出来ることはいろいろあるはずです。実際に、そうした方法で成功している海外の事例は多いと言います。
このことにより、無駄に排出される排気ガスが減って大気汚染が改善し、温暖化ガスが削減され、省エネにもつながります。荷主企業、施設側企業の社会的責任が果たされるだけでなく、トラックの安全運転やドライバーの労働環境の改善にもつながり、トラック業者の経営改善にも寄与します。
もちろん周辺住民への迷惑も解消し、安全を脅かされ、排気ガスを吸わされる通行人や自転車にとっても良い結果がもたらされることになるでしょう。トラック事故の要因が減ることは、周辺住民だけでなく国民の安全性向上にも直結します。物流の時間短縮やコスト削減は消費者にとってもプラスになるかも知れません
私たちは、もっとこうした、一般にはあまり注目されてこなかった問題にも目を向ける必要があるでしょう。「トラックドライバーをこき使うような企業」を監視し、周辺に違法にトラックを駐車させているような企業には、CSRを果たしていくよう、もっとプレッシャーをかけていくべきなのかも知れません。
秋雨前線が停滞し始めたようです。台風も近付いてくるようですし、雨が続きそうですね。
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