日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカの特に西海岸では人気のある自転車です。もともとあった実用タイプの自転車を、アメリカ西海岸のサーファー達がビーチへ行くための気軽なアシにするため改造したものが由来とされています。砂地にも強い太めのタイヤが特徴です。
実はマウンテンバイクの元になった自転車でもあります。このビーチクルーザーで山道を駆け下りて遊んでいた人たちが、だんだん改良を重ねて誕生したのがMTBです。MTBより古いばかりか、いろいろな自転車のルーツであるという意味でも、伝統のある自転車なわけです。
アメリカ西海岸へ行くと多いですし、今でもアメリカ人には人気があります。フレームのトップチューブ部分が、オートバイのタンクを思わせるようなデザインも多く、おそらくデザイン的に意識しているのでしょう。オートバイの中でも、ハーレーダビッドソンのようなタイプを連想させます。
つまり、前傾姿勢で乗るようなヨーロピアンタイプのオートバイではなく、どっかりと腰を下ろすような姿勢で乗るアメリカンタイプ、ホースパックライディングと言われるようなタイプのオートバイです。アメリカの西部開拓時代からの乗馬の姿勢の伝統から来ているのでしょう。
前輪のサスペンションや、ハンドルを大きく伸ばし、シートに背もたれをつけて反り返った姿勢で乗るような、いわゆるチョッパータイプに自転車を改造するのを好むのもアメリカ人独特と言えるかも知れません。アメリカンタイプのオートバイのデザインの影響がその中に見出せる気がします。
こちら、“
Derringer Cycle”は、少しイメージが違って、1920年代のオートバイに似せたデザインです。ペダルやB.B、チェーンなどがありますから自転車とわかりますが、タンクにエンジンまであって、まさにオートバイかと見まごうようなデザインです。
たまにオートバイに似せた子供用の自転車などがありますが、これもそのような、いわゆるフェイクの自転車かと思えば、実はそうではありません。1920年代のオートバイに似たデザインですが、実は本当にオートバイなのです。つまり、ガソリンエンジンでも動く自転車です。
ペダルをこいで人力でも走れますし、50CCのエンジンだけで走行することも出来る、言わばハイブリッド自転車です。よく見ると、エンジンの方からもチェーンが伸びています。切り替えて、どちらとしても使える自転車、もしくはオートバイというわけです。ちなみにエンジンはホンダ製などが使われています。
オートバイは、元々自転車にモーターを載せるところから始まったわけですから、先祖がえりと見ることも出来ますが、オートバイにペダルをつけたと考えてもユニークです。普段は自転車として乗り、疲れた時とか、向かい風の厳しい時、坂道を登るときだけオートバイとして乗る、なんて乗り方も出来ます。
電動アシスト自転車は、あくまでペダルをこぐ必要がありますが、こちらはエンジンだけでも走れます。自転車は疲れるからイヤだと敬遠している人でも、これなら気が向いた時だけ自転車として乗ることも出来ます。見ようによっては、省エネ型のオートバイと考えることも可能でしょう。
ただし、いくらペダルだけで走行出来たとしても、日本では原動機付き自転車の扱いになります。このままでは公道を走れません。原付免許が必要ですし、ナンバーを取得し、ヘッドライトやウィンカー、バックミラーなど必要な装備を装着する必要があります。また、自転車モードであっても歩道は走れません。
このユニークなコンセプトの“Derringer Cycle”、レトロなデザインですが、新しく出来たブランドです。しかし、実はこうしたスタイル自体は、決して新しいわけではなく、昔からあったものなのです。日本では現在ほとんど普及していませんが、モペット(モペッド)とか、ペダル付きオートバイとして、以前からあったカテゴリーです。
私は生まれていないので詳しくは知りませんが、日本でも1950年代頃には、自転車にエンジンをつけたモペットと呼ばれる、ペダル付きの自転車が流行っていたそうです。ただ、その後本格的な原付バイクが主流となって廃れてしまいました。現在は海外からの輸入と、日本のメーカーの欧州への輸出向けが一部国内販売されています。
欧米では免許が不要な国などもあって、モペットが身近な国もありますが、日本ではペダル付きオートバイも原付自転車としてナンバー取得が必要になります。自賠責保険の加入も必要になるので、原付と比べてメリットがあるわけではないのも普及しない原因でしょう。
最近、大阪などではペダル付電動オートバイが海外から輸入されて、一部で出回っているようです。モペットの電動モーター版です。これも電動だけで走行出来ますので原付バイクなのですが、無登録で公道走行する人があって問題となっています。大阪府警が、全国初の本格的取締りに乗り出したと報道されています。
こうして違法に使われるのでは問題ですが、例えば通勤にクルマを使っていた人がオートバイや原付に乗り換えるのであれば、環境負荷を減らすことになります。もちろん自転車に乗り換えるほうが効果は高いとしても、誰もが自転車通勤できるわけではありません。ペダル付きオートバイという選択肢があっても悪くはないでしょう。
電動のモペットなら、ガソリンエンジンより環境負荷が低くていいわけですが、やはり航続距離などの点に難があります。電動アシスト自転車もそうですが航続距離が短く、バッテリーが切れると、ただの重い自転車になってしまいます。近場で使うにはいいですが、すこし遠くなると使えません。
電気自動車がなかなか普及しないのも、バッテリーの能力や大きさがネックです。実際、ガソリン燃料とバッテリーの体積あたりのエネルギー効率の違いには、まだ大きな差があります。クルマメーカーも、ガソリン燃料の持つエネルギー的なポテンシャルに、まだまだバッテリーがかなわないことがわかっています。
将来的に電気自転車をにらみつつも、ハイブリッドカーを開発しているのは、そのあたりの事情があるわけです。オートバイにもバッテリーの性能が向上するまでは、ハイブリッドという手が考えられます。そしてオートバイのハイブリッドは、ガソリンと電気ではなく、ガソリンと人力でいいのかも知れません。
事業仕分けが終わりました。いろいろと問題も指摘されていますが、国民の関心を集めたのも事実でしょう。何千と存在する「独立法人仕分け」も是非やってほしいところです。
関連記事
手軽にハイブリッド自転車を
普通の自転車を、後からハイブリッドにしてしまうという製品もある。
ハイブリッドは一つじゃない
電動と人力のハイブリッドという考え方はオートバイだけではない。
フォローの風を起こすパワー
自転車を簡単にハイブリッドにするアイディアにも、いろいろとある。