企業にとっては年末の書き入れ時ですが、世界的な金融危機以降、消費が冷え込んでいるところへ、デフレと円高が進行し、その業績は厳しいものとなっているようです。これから年末にかけて円高還元セールを打ち出すところも増えると見られますが、さらなるデフレを呼ぶことが懸念されています。
ただでさえモノが売れず、価格が下がる傾向は顕著です。千円を切るジーンズや200円台の弁当なども話題になりましたが、街に出ると、他にもさまざまな商品に驚くような激安価格が広がっています。家電などの耐久消費財も大幅に値段を下げるものが多くなっています。
分けるとすれば耐久消費財である自転車も例外ではありません。日本の自転車の大部分を占めるママチャリは、一万円をきるのが当たり前のようになっています。大型スーパーや量販店、ホームセンターなどのママチャリ売り場では、特売でなくても数千円の自転車が売られているのが、もはや珍しいことではないようです。
スポーツバイクの場合は趣味性も高く、機能やブランドで選ばれることも多いので、必ずしも価格競争になるとは限りません。しかし、ママチャリの場合は汎用品として、機能では他との差別化がしにくいので、どうしても安売りにならざるを得ないのでしょう。
自転車に限りませんが、モノを売るためにメーカーは、マーケティングや営業力、そして製品そのものの商品力を高めるために工夫をこらすことになります。素材やスペックなどの機能で勝負するか、価格競争力をつけるか、あるいはデザインを前面に打ち出す手もあります。
今の自転車のデザインが究極と言うつもりはありませんが、ある程度、成熟したものであるのは間違いないでしょう。そのため、自転車の場合なかなかデザインで差別化するのは難しく、機能か価格に偏りがちです。それでも、デザインを追求する人たちはいます。
デザインと言うと、ネット上ではデザイナーやデザイン事務所が新しいコンセプトを提案するものが目をひきます。これまでにもいろいろ取り上げてきましたが、例えばこの“
Another Inner City Bike ”などはその典型的な例でしょう。オーソドックスなダイヤモンドフレームではなく、直線が際立つ斬新なデザインです。
ペダルは後輪に直付けで、チェーンもディレイラーもないのが目をひきます。いらないものを削ぎ落とした、究極の都市での移動用バイクというコンセプトのようです。シートポストもなくて、サドルはトップチューブについています。都市の繁華街のような場所を移動するなら、スピードが出る必要はないということのようです。
確かに目をひく斬新なデザインには違いありません。しかし、ふだん自転車に乗らない人がデザインする典型で、ナンセンスなデザインと言わざるを得ません。普通に自転車に乗る人なら、誰もが失笑するのではないでしょうか。その意味で面白いと言えば面白いのですが、実用的でないのは明らかです。
百歩譲って、一輪車か子供用の三輪車と同じ、歩くような遅いスピードで移動するのでも良しとしましょう。しかし、このペダルの位置とクランクでは、ペダルを回すだけでも困難です。おまけにシートポストもないので、ペダルまでの長さも調節できません。人がまたがる写真を見ただけで、一目瞭然です。
こうしたデザインは、実際の商品設計ではなく、あくまでコンセプトモデルであり、いかに斬新なデザインを生み出せるかをアピールするための広告塔という位置づけなのでしょう。世の中の常識を打ち破る発想力があって、いかに新進気鋭のデザイン事務所であるか、ウェブ上で注目をひくのが目的としか考えられません。
だとするならば、作品の実用性云々を言うのも野暮ということになりそうです。ネット上でも、中には真に評価に値する新しいコンセプトや先進的なデザインもあるのですが、最初から生産するつもりのない(出来ない)アイキャッチ的なものも多く、玉石混交と言えます。むしろ、新しい自転車のデザインを考案する難しさがよくわかります。
それだけ自転車は成熟したデザイン、合理的な形ということになると思いますが、普通のダイヤモンドフレームを踏襲した上で、全体的なフレームデザインではなく、細かい部分でデザイン性やセンス、コンセプトをアピールする現実的な路線もあります。ファッション性や個性を強調して、オシャレさをアピールするものも見かけます。
自転車とお揃いのファッション に身を包むことについて、どう感じるかは人それぞれですが、ペットと同じ格好をするのが嬉しい人もいるわけですから、こういうのもアリでしょう。自転車も「着せ替え」ることで、日によって違った印象を持たせることが出来るという風にみれば、なるほどファッショナブルかも知れません。
クルマから洋服やバッグ、アクセサリーまで、そのブランドイメージを反映させたデザイン自転車というのは、古今東西少なくありません。こちらの“
Studio Raar ”による“
Buddha to Buddha ”というブランドのフィクシー(ピストバイク)もその一つです。銀メッキと革を使いつつ、全体はシンプルな印象です。
色使いというのも大事な要素です。“
Republic bike ”は、フレームに派手な原色を選んだり、前輪と後輪を違う色で注文をすることも出来ます。シートやグリップ、チェーンに至るまで、細かいパーツの色を自分で好きな色に指定して購入することが出来る自転車というわけです。
ここに挙げたのはごく一例ですが、やはり、いたずらに奇をてらうのではなく、自転車のフレームや全体のシンプルな機能美を損なわない、オーソドックスなものが少なくない気がします。その中で、いかにファッション性をアピールし、他と差別化した個性、オリジナリティを際立たせられるかという点がポイントと言えそうです。
自転車のパーツについても、全体のシルエットを邪魔しないオーソドックスなデザインに好感が持てるという人は少なくないでしょう。自転車に同化して、そのままでは目立たないくらいのものが、どの自転車にもマッチして、かえってデザイン性が高いと言えるのではないでしょうか。
こちらのライト 、何の変哲もない懐中電灯型の自転車用ライトですが、なんとインフレーター、空気入れ用のポンプも兼ねています。シンプルでなるべく風の抵抗を増やさず、さりげないのに荷物を減らすことにも役立っています。ユニークでスタイリッシュな製品です。
夜間の安全のためには、前方を照らすライトだけでなく、後ろにアピールするテールライトも欲しいところです。しかし、あまり小さいと周囲からよく見えず、視認性の向上に貢献しません。逆に大きいものは邪魔ですし、荷物になります。デザイン的にも好ましくないでしょう。
そこへ行くと、この“
Fibre Flare ”のポイントは高いと思います。点ではなく線にすることで、視認性をあげつつ、昼間に装着したままでもデザインを損ないません。後方だけでなく、横からの視認性アップのために使うことも出来ます。LEDなので消費電力も小さく、各色選べて、身体にも装着できます。
こうして見てくると、やはり商品の選択において、デザインは重要な位置を占めていることがわかります。自転車を買うのに、デザイン性を最優先にする人も実際に少なくありません。パーツや用具などにしても、秀逸なデザインのものを見つけると、既に持っていても欲しくなる人は多いと思います。
世の中不景気で、消費者が財布のヒモを固くしているのは間違いありません。ただ、買ってもいいが、今ひとつ買いたくなるようなものがないという人も少なくないはずです。企業やデザイナーの人には、ぜひ消費者が欲しくなるような製品をプロデュースしてもらい、デフレを止め、景気を浮揚させるためにも頑張ってほしいものです。
いろいろと安くなるのは嬉しい半面、景気や雇用を考えると手放しでは喜べませんね。2次補正も大幅に増えそうです。
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