3月28日に開通が予定されているのは、首都高速の中央環状線の4号新宿線と3号渋谷線を結ぶ部分、4号線の西新宿ジャンクションから3号線の大橋ジャンクションの間をつなぐ山手トンネルの4.3kmの区間です。これで東名高速から、都心環状線を通らずに東北道や常磐道へ抜けることが出来るようになります。

この開通により、ルートの選択肢が増えて、都心部の迂回や渋滞緩和の効果があり、首都圏の交通の流れが大きく変わるといわれています。都心を通過する車両も所要時間が短縮されますし、交通の流れがよくなり渋滞が緩和されることで、二酸化炭素の排出量削減も見込まれています。
この開通で、もう一つ注目されるのが大橋ジャンクションです。4層のループ構造という特殊な形をしています。普通のジャンクションと比べるとコンパクトで、建物のように外壁で覆われています。都心の限られた用地の中で最大高低差70mを接続するため、2回転ループしながら合流させるジャンクションです。
開通を間近に控え、ローマのコロッセオを思わせるような建物が姿を現しています。この大橋ジャンクションは屋上部分が緑化され、周辺の再開発と合わせて公園となって、再来年に供用が開始される予定です。「グリーンジャンクション」としてヒートアイランド対策と共に、周辺環境への配慮も盛り込まれています。
都心の人口密集地に出来るジャンクションですから、交通量が増えることによる排気ガス対策が必要です。接続する中央環状新宿線がトンネルという事情もあって、通常はオープンな構造のループ橋を巨大な建物の中に収める形にしたわけです。排気ガスはループ内に設置される換気所に集められ、有害物質を除去して排出されます。

この周辺環境への配慮が、同時にジャンクションに「屋上」がある構造をもたらし、緑化して公園にすることが出来るようになったわけです。もちろん、屋根のあるジャンクションも、その屋上に公園を整備するのも全国初です。都心に憩いの場、ちょっとしたオアシスが出現することになります。
最近は都心のビルなどでも屋上緑化が進められていますし、このスペースを公園として利用するのは順当な判断だと思います。この場合は大橋ジャンクションが、たまたま周辺環境対策からこうした構造になったから実現したわけですが、海外には、大胆なアイディアを披露している人がいます。
カナダの建築家、
les klienさんは、カナダ最大の都市トロントにかかる高架の高速道路の7キロの区間に天井をつけ、その上を緑化して帯状の公園にしようという
構想を発表しています。その名も“
green ribbon”です。まるで空中庭園ですが、庭園、公園と言うより緑道、もしくは遊歩道と言ったほうがいいでしょうか。
ここには、歩行者用の遊歩道だけでなく、自転車用のサイクリングロードも設置されます。高架の高速道路の上、屋根の部分になりますから、傾斜路や階段、もしくはエレベーターなどで上る形になります。照明などの電力は、風力や太陽電池でまかなうことを想定しています。
都市部の高速道路の上空も貴重な空間です。高架道路を支えている支柱を少し伸ばして屋根をつけ、都市を緑化すると共に有効に活用しようという大胆なアイディアです。これが実現すれば、憩いの場としての公園、人々が散策する遊歩道としてだけでなく、高速道路に沿った自転車道としても使えることになります。
ただ、カナダでは否定的な意見も多いようです。トロントに初めて高速道路が出来たのは1965年ですが、当時から目ざわりと嫌う人も多かったと言います。歩行者が不便な場所へ押しやられるのではなく、高速道路を撤去し、地下に潜らせるなどして、人間が本来の地表レベルを取り戻すのが本筋ではないかと主張する人もいます。
当然、相当の重量を支える構造が必要ですので、数百億円単位と見られるコストの問題もあります。土壌の維持などメンテナンスの問題もあるでしょう。果たして、わざわざ高速道路の屋上まで登ってまで人々が歩くようになるか、無駄になるのではないかと疑問を呈する人もあります。景観を壊しているのに変わりはないというわけです。
トロントでの議論はともかくとして、これが日本だったらどうでしょう。以前、当時の小泉首相が言及したことで、東京の日本橋の上空に架かる首都高を撤去し地下に埋設する構想が脚光を浴びたことがあります。しかし、日本の道路の起点であり、歴史的な場所であるにもかかわらず、必ずしも賛同する声ばかりではありませんでした。
中世からの街並みを大切に保存するなど、都市の景観を大事にするヨーロッパなどの国と違い、日本の場合、日本橋の上空に首都高が通ろうと、それが合理的なら許容する人も少なくないようです。景観を回復するため多額のコストをかけるのは無駄だと考える人が多いのは、一向に撤去が具体化しないことを見ても確かなようです。
石造りの建物が多いヨーロッパなどと比べ、歴史的に木造の建物だった日本は、大火事や大地震のたびに、新しい街をつくってきました。コンクリートの構造物が街の景観を損なうことに対する違和感、嫌悪感は、トロントの人たちより小さいのでしょう。都市部では再開発で街並みが大きく変わることも珍しくありません。
空間をうまく利用して、狭い土地を活かすのが合理的で望ましいと考える日本人は多そうです。“green ribbon”のような構想は、もしかすると、日本だったら受け入れられやすいのかも知れません。むしろ都市の緑化につながり、環境が改善されると歓迎される可能性があります。大橋ジャンクションの公園に異を唱える声も聞きません。
ただ、実際に計画するとなると、誰がコストを負担するかが問題となります。散歩する人から料金はとれませんし、高速道路会社が利益にもならないのに自主的に設置することも期待しにくいでしょう。公共性の高い建造物として緑化を義務化し、クルマの通行料収入から拠出させるか、公共事業としての支出が必要となりそうです。
おりしも首都高速道路会社は、使用開始から40年以上が経過して、老朽化した路線を架け替える検討に入ったことが
報じられています。大型車の通行量増加などにより、予想以上に損傷が進行しているので、まず1号羽田線の一部区間を対象に2013年度にも工事を始めることが検討されています。
この機会に、周辺への環境対策、都市のヒートアイランド対策、温暖化ガスの削減などを目的に、日本版グリーンリボンを検討してはどうでしょうか。同時に自転車レーンを設置することで、都市交通として自転車の活用を推進することも出来ます。言ってみれば空中自転車道です。
現在ある大きな河川沿いのサイクリングロードなどでは、歩行者と自転車の混在で、事故が問題になっています。緑地帯の中に設置する場合、遊歩道と自転車レーンは分離する必要がありますが、もし実現すれば、信号のない高速自転車道が構築されることにもなります。
もっと発展させるなら、鉄道の上空も利用できるかも知れません。自転車道の山手線や中央線が出来ることになります。鉄道を地下化して、地表レベルに設置するより費用は小さいでしょうし、都心の地下は、既に地下鉄や地下街、そのほか多くの構築物があるので、地下化は困難です。
ただ、すでにあるビルの屋上を緑化するのと違って、多額の建設費用が発生することになります。日本でも賛否があるでしょうし、そう簡単には実現しそうにありません。しかし、実現すれば観光資源にもなり、さまざまな経済波及効果も期待できるのではないでしょうか。もちろん、大阪などでも同様に検討の余地があります。
都市の高速道路が、今後掛け替え時期に入っていく今こそ検討するチャンスです。都市の緑化をビルだけでなく、高架道路にも広げていく絶好の機会です。大橋ジャンクションも出来ることですし、これを突破口に、高架道路を緑化しようという議論が出てくることを期待したいものです。

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素人の浅はかさに任せて新銀行につぎ込んでしまった膨大な資金や、大阪や福岡に譲ればいいものを、都民に支持されない五輪招致で散財した資金を使えば、相当の距離が実現してたのに、と思ってしまいます。
そう言えば、招致に失敗したら責任をとると公言していました。新銀行でも責任逃れに終始しましたし、ふだん偉そうにしてますが、言行不一致に恥ずかしくないんでしょうかね。
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ベロシティという都市の理想
トロントでは、さらに夢のような構想を提案している人が他にもいる。
夢から覚めた現実的未来都市
案外、自転車専用高架道路の実現の可能性はあるかも知れない。
速くて危険のない自転車通勤
グリーンリボンはないが、高速道路を利用してしまう自転車乗りも。
目的のために何でも利用する
ロンドンで、実際に自転車高速道路を整備する計画が進んでいる。