自転車の大通りをつくる発想
最近、各地で自転車レーンが出来始めています。
他の都市に負けじと競う部分があるのでしょうか。あるいは、我が街にもつくっておかねば、と横並び意識が出るのかも知れません。距離的には、それぞれの街の中のごく僅かな区間に過ぎませんが、全国各地で自転車レーンを設置する動きが出てきています。
ただ、設置されるレーンのスタイルはさまざまです。歩道上に色分けするだけで、相変わらず自転車に歩道通行を強いるようなものも少なくありません。最初はともかく、歩行者も自転車も区分を気にせずに通るものですから、結局歩行者と自転車が混在する形になっている道路も少なくないようです。
なまじ自転車のマークが歩道に描かれているために、駐輪スペースと勘違いされている場所も見かけます。駐輪する自転車を誘発してしまい、結果的に歩道がより狭くなって、余計に歩行者と自転車の事故が起きやすくなってしまうという、本末転倒の場所も実際にあちこちで見ます。
一方、車道に設置したものの、道路左側の自転車レーンを通行するよう徹底されていない場所もあります。右側通行を誘発し、狭い自転車レーン内で対面通行することになり、自転車同士の事故やトラブルを誘発しかねない自転車レーンもあるようです。
全国で体裁がバラバラなのも、自転車レーンという概念が国民に浸透しない要因でしょう。また交通ルールが遵守されず、秩序が確立しないことにもつながっていると思われます。自転車レーンは原則として左側通行の一方通行にすべきです。これが徹底されないと、他の道路でも右側通行を誘発してしまいます。
走り易くてこれ幸いとばかり、自転車レーンでランニングしている人もいます。自転車レーンは歩行者立ち入り禁止にないと、せっかく自転車と歩行者を分離した意味がありません。独自の形状でローカルルールを掲げるより、ある程度全国で統一することで、歩道や車道と同じように、自転車道という概念を浸透させていくべきでしょう。
せっかく自転車レーンを設置したのに、迷惑駐車に占領されてしまっていたり、バス停と重なって、パスが停まるので走りにくかったりする場合もあります。いずれにせよ、なんと言ってもごく一部にしかレーンが設置されていないのでは、自転車レーンとして有効に活用することは出来ません。
既存の自転車レーン整備に対する文句ばかり並びたてましたが、整備する担当者にしてみれば、そう簡単じゃないというところでしょう。それぞれ事情もあるでしょうし、そもそも道路幅が無いなど、自転車レーンを設置するのが難しい道路も多いに違いありません。
ならば、自転車レーンの設置にこだわらないという方法をとるところがあっても良さそうです。それぞれ形状は違うものの、みな自転車レーンです。私も以前から、もっと違うスタイルがあると何度か提案してきましたが、海外では、そうした方法が模索され始めています。
その一つが、“
Bicycle Boulevard”です。バイシクルプールバード、直訳すると「自転車大通り」とでもなるでしょうか。青い鳥のブルーバードではありません。フランス読みだとブールバール、広い並木道といった意味で、略語は“Blvd”、アメリカなどの通りの名前についていたりします。
簡単に言うと、道路に自転車レーンを付けるのではなく、道路をまるごと自転車用にしてしまうのが、自転車プールバードです。もちろん、クルマの交通量の多い幹線道路、メインの大通りというわけにはいきませんから、大通りの裏の道とか細い道を自転車用にしてしまうわけです。
ただし、クルマを一切シャットアウトするわけではありません。その通りの住人だとか、その場所に用事があるクルマは通ることが出来ます。ただ、自転車に配慮して、スピードを落として通る必要があります。日本でも住宅地などで見られますが、そこの住人や関係者以外は進入禁止の道路とするわけです。
通過するだけのクルマは通れません。当然交通量は少なくなります。スピードも制限されますので、自転車にとって通りやすい、「自転車大通り」となるわけです。自転車は車道の真ん中(もちろん、通行する車線の真ん中)を堂々と通ることが出来ます。
大通りはクルマと歩行者、自転車は裏の通りを通すことで、分離分散させることが出来ます。地図上の大通りとは別の通りが、自転車にとっての大通りとなります。必ずしも大通りに沿っている必要はありませんし、物理的には細い道になっても、その通りをつなげていくことで、街を網羅する自転車道のネットワークにするわけです。
都市によって、住宅地や商業地などの構成が違うので、一概には言えませんが、自転車は裏通りや住宅街の中の道を通るなどして目的地に向かう形になるでしょう。住宅地の住人にとっても、渋滞を迂回して入り込んで来るクルマが猛スピードで通り抜けることがなくなり、安心出来ます。
アメリカ・オレゴン州のポートランドにある州立大学のサイトには、この
自転車プールバードのつくり方が詳しく載っているので参考になるでしょう。そのガイドによれば、自転車プールバードは、自転車の走行空間を新しいレベルに持っていくことになると書かれています。
あらゆる年齢や技術レベルにあるサイクリストにとって、魅力的で、便利で、快適な自転車走行環境を実現することになります。比較的交通量の少ない道路を指定するわけですし、用のあるクルマは通れるのですから、それほどクルマに犠牲を強いることにはならないはずです。
大通りに無理やり自転車レーンを設置すると、クルマのレーンが減って渋滞したり、バス停やバスレーンとバッティングしたり、駐車スペースやパーキングメーターが邪魔になったりします。自転車プールバードなら、そうした心配はいりません。歩行者とも通りごと分離されるので、事故は少なくなるはずです。
特に、車道や歩道をつぶして舗装しなおしたりする必要はありません。自転車プールバードに指定した道の速度制限や通行制限などの規制をするだけで、すぐにでも実施可能です。あとは、そのことを表示する道路標識や、道路へのペイント、場所によっては進入を阻むポールなどを立てるだけです。
もちろん、出来れば自転車に対する配慮が欲しいところです。例えば、自転車プールバードを横切ることになる幹線道路を、自転車が横断するための交差点や専用信号を設置するなどが求められます。場合によっては、クルマの通りのほうを一時停止にする発想もあっていいはずです。
自転車ブールバードの中では、いわば自転車が優先です。クルマは徐行し、歩行者は歩道部分を通るなどの徹底が必要です。またメインストリートであれば、案内標識で行き先の方向がわかりますが、自転車大通りでは、わかりにくいので、自転車専用の行き先案内板や、距離・時間の案内があれば親切でしょう。
そのほか、詳しい部分に興味のある方は、同サイトやガイドをご覧になってみてください。考えようによっては、メインストリートに自転車レーンを設置するより合理的な部分が多いのではないでしょうか。思い切って自転車プールバードを導入してしまう手はあると思います。
最近、自転車レーンを設置する自治体が増えてきたのはいいとしても、どこも横並びで、似たような政策ばかりです。「自転車何とか都市」などと高らかに宣言しているところもありますが、その中身はありきたりでお粗末、自転車レーンを何区間か整備するだけでお茶を濁しているところも少なくありません。
そのレーンにしても、実際に自転車で通ると、いろいろ不備があったりします。見渡せば、利用されていないレーンもたくさんあるはずです。自転車で通りにくいから利用されないのです。ふだん自転車になんか乗らない「お役人さん」が机上で考えたとしか思えません。体裁だけ整えて無駄なものばかり、恥ずかしくないのでしょうか。
そもそも、ごく一部だけ自転車レーンが設置されていても、本当の意味で自転車の活用を促すことにはつながりません。都市を縦横無尽に、しかも安全快適に自転車で走行出来てこそ、誰もが自転車を活用できる都市になります。自転車レーンや自転車専用道はネットワークになってこそ意味があるのです。
その意味で、自転車プールバードの発想を取り入れることは、大いに魅力のある選択肢ではないでしょうか。全国の自治体も、横並び意識で、何とかの一つ覚えのように無駄な自転車レーンばかりつくるのではなく、少しは他と違う構想を打ち出すところに出てきてほしいものです。
まだ明日、明後日は、場所によっては花見に行けそうですね。ちょっと繰り出してみますか。
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広がりつつある気づきの記号
自転車とクルマで道路を共有しようという考え方も注目されている。
主張しなければ良くならない
ちゃんとした自転車レーンがある街でも、違法駐車は自転車の敵。
忙しくても巻き込まれぬよう
バイクボックスという試みも、ポートランドが発信基地になっている。
笑ってばかりもいられぬ現実
海外にもダメなレーンや笑える自転車レーンがないわけではない。
Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。
Posted by cycleroad at 23:30│
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近所の自転車レーンは何を目的に作られたかがよくわからないものが多いです
事故を防ぐためなら歩道に作るはずはないし、
交通手段として使うなら町から離れた河川敷にサイクリングロードを作ろうとはしないはず。
目的を明確にすればいいものが作れると思います
職人気取さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですか。やはり、「とりあえず、どこか適当なところへ自転車レーンをつくっとけ。」みたいな感じでしょうかね。
目的がはっきりしないということは、何が問題で、何が必要なのか、問題の本質を理解していないということでしょう。
設置を計画する自治体は、失礼ながら自転車政策を包括的に理解しているとは思えず、利用者のことも考えているとも思えませんね。
こんにちは。
現在、北海道函館市に住んでいるのですが、函館にも「自転車通行環境整備のモデル地区」として自転車道が整備されました。が、十分な幅を確保でいないという理由で歩道の車道寄に色を塗るだけという無意味な自転車道(?)が完成してしまいました。
僕が現地を確認したところ歩道を潰せば立派な自転車道が出来そうなくらいの幅はありました。多分予算の都合上、歩道を削ってまでは工事出来ないのでしょう。
あと、びっくりしたのは歩道上(色を塗っただけの自転車)に「止まれ」のマークがいくつも点在していたことです。これは歩道と車道の切れ目の事故が発生しやすい場所に設置したと思うのですが、これに該当しない場所にもマークが塗ってあって、意味不明でした。また、実際何台の自転車がこの止まれの意味を理解しているかと思うと、こんな工事意味ないなぁ(金の無駄遣い)と感じてしまいました。
多分、工事の責任者は普段自転車に乗らない人間でしょうね。
>独自の形状でローカルルールを掲げるより、ある程度全国で統一することで、歩道や車道と同じように、自転車道という概念を浸透させていくべきでしょう。
その通りですね。道交法で規定すべきだと思います。
うちの近くにも歩道ペイントのやっつけ自転車レーンが出来ましたが……
レーン上にはマンホールから生える多数のポールが、行く手を邪魔してます。
さすらいのクラ吹きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
函館でも歩道色塗り自転車レーンですか。函館市にも予算の制約はあると思いますが、中途半端なものをつくるくらいなら、距離を短くしてでも、意味のあるレーンをつくってほしいと思いますね。
縦割り行政の予算なので仕方がないのかも知れませんが、一方で年度末になると、毎年のように道路を掘り返しています。そうした道路の掘り返し工事の際に、歩道を自転車レーンに切り替える工事も一緒にしてしまえば、安く出来そうなものです。
ただ、そうは言っても、これまでの歩道を広げてきた整備の方針を自治体が勝手に覆すことも難しいのかも知れません。やはり、国の方でも指針をつくり、自転車道の整備という大方針を示す必要があるのでしょうね。
dendenさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
やはり歩道ペイントのやっつけ自転車レーンですか。
県道、市町村道も、いろいろな制約があって勝手に仕様を決めるわけにはいかないのでしょう。国道とも接続するわけですし、あまりに独自のスタイルでは、利用者も戸惑います。やはり、国が統一の指針を示すべきなのでしょうね。
マンホールから生える多数のポールですか。車道と仕切る親切なのでしょうか。利用者のことを考えていない、ありがた迷惑な親切も多そうですね。
>独自の形状でローカルルールを掲げるより、ある程度全国で統一することで、歩道や車道と同じように、自転車道という概念を浸透させていくべきでしょう。
>その通りですね。道交法で規定すべきだと思います。
まったくその通りだと思います。
国土交通省は「交通基本法」の制定に向けて検討会を開き意見を募集しています。
「交通基本法」は『交通政策全般にかかわる課題、将来の交通体系のあるべき姿、交通にかかる基本的な法制のあり方等』を定め、「移動の権利」を明言化するもののようです。
第6回検討会の「資料4」では自転車関連の論客・疋田氏が意見を表明しています。ぜひ御覧下さい。
この法律が目論見通りのものになる可能性は非常に低いとは思いますが、道路について意見を述べる場であります。
自転車について意見を投稿してはどうでしょうか。
(なお私は国交省の役人ではありません。通りすがりの自転車乗りです。念のため)
国土交通省「交通基本法検討会」のページは
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_fr_000040.html
です。
m68020さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も過去に記事で取り上げましたので、国土交通省が交通基本法の制定に向けてパブリックコメントを先月初めまで募集していたのは知っていました。ただ、中間整理に関する意見として、今回また別に募集を始めたのは知りませんでした。情報ありがとうございます。
パブコメに関しては、以前、道交法改正の際の募集で、自転車関連の規制の変更が一部サイクリストの間で大きな話題になったこともありました。
その際には、意見の応募が広く呼びかけられたこともありましたが、多くの人が、こうした機会に意見を寄せることで、法律に市民の声、もしくはサイクリストの声が反映するようになっていくといいですね。
疋田さんの意見は、その著書を読んだことのある方ならお馴染みの話ですが、サイクリストなら共感する部分は多いはずです。しかし、自転車を取り巻く環境や社会的な問題について、サイクリストの関心は必ずしも高いとは言えませんので、多くの人が、こうした面にも注目してほしいものです。
こんにちは。私の住む大阪市港区でも、古くから自転車レーンが設置されており、スムースな行き来が可能となっています。しかしながら、港区〜西区でレーンが途切れてしまい中途半端になっていたり、駐輪場と化しているエリアがあって生かし切れていない状況です。また、他の記事でご指摘されているように傘差し運転・ヘッドホン運転・並走・無灯火・歩行者の占拠等により相当悪化が進んでおります。特に女性に多い「並走」は何とかならないでしょうかね…(いくらルール違反でも一般人相手にブザーを鳴らす訳にもいきませんし)。
noriさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですか、やはりどこも同じような状況があるようですね。
せっかくの自転車レーンも中途半端だったり、活かしきれていなければ、無駄な投資ということになってしまいます。そのあたりにも配慮した施策が必要でしょう。
並走、困ったものです。歩行者感覚で並んでしゃべりながら走るのを、普通に思っていて、悪いとも思っていないので、余計に始末が悪いですね。
こんばんわ。BLVDはよいアイデアですね。特に都会では効果があると思います。大阪ですと中心街は碁盤目のように道が走っていますので、メイン道路の一本裏道をBLVD指定するとかなり快適な自転車大通りになります。東京の都心、中央区、江東区、江戸川区なども、そうでしょう。まずは政令指定都市くらからなら、環境整備や法令整備も容易ではないでしょうか。レンタサイクルや共用自転車を置けば、都市の観光資源にもなりますね。
kincyanさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
海外には、こうしたアイディアを導入する都市が増えているわけですから、日本に入ってきても良さそうなものですよね。従来の道路政策を見直すだけで、大がかりな建設やインフラ整備がいらないのもポイントです。
日本でも、もう少し自転車の都市交通としてのポテンシャルを理解する人が増え、市民のコンセンサスが得られるようになると、変わっていくのではないかと思います。
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