法案には、温室効果ガス排出量を2020年までに1990年比で25%削減する中期目標が盛り込まれています。しかし、この削減目標には反発も大きく、経済、雇用に与える影響や実現可能性が不透明との批判もあります。野党が反発し、審議の難航は必至の情勢となっています。
鳩山首相は、「社会のあり方を変えよう」と呼びかけました。この法律が政治的にどう決着するかはわかりませんが、目標の数値はどうであれ、脱化石燃料、低炭素社会を目指していかなければならないであろうことは、多くの人が感じているところだと思います。
地球温暖化が具体的に、我々の生活へどのような影響をもたらすかは別としても、産業革命以後のわずかな期間で、急激に化石燃料を燃やし、大量のエネルギーを消費するようになったのは間違いありません。地球環境への負荷を減らし、いわゆる持続可能な社会を実現するために、このまま化石燃料を燃やし続けていていいとは思えません。
そのために、新しいエネルギーへの転換が求められています。例えば原子力です。ウランも埋蔵された資源には違いないですが、発電時に全く二酸化炭素を排出しない原子力発電に、あらためて注目が集まるのも当然の成り行きです。原子力には別の問題もありますが、すでに世界各国で原子力発電所の建設が始まっています。
風力発電や太陽光発電もクリーンエネルギーとして、今後成長が見込まれる有望な分野でしょう。天候に左右され、発電量が不安定などの短所はあるものの、これを克服する次世代の送電技術、スマートグリッドと共に期待が高まっています。アメリカのオバマ政権もグリーンニューディール政策の目玉に据えています。
世界的な金融危機と不況もあいまって、経済の回復や雇用の創出の面からも、新しいエネルギーに対する投資には期待が集まります。発電に関しては、風力、太陽光以外にも、太陽熱やバイオマス、地熱などの温度差利用、燃料電池や天然ガスコージェネレーションなど、さまざまな技術開発が進められています。
バイオマスは、燃料の分野でもカギを握ります。植物由来のバイオエタノールは、化石燃料と違ってカーボンニュートラルとされています。しかし、食糧生産と直接競合するため、世界的に食糧需給がひっ迫し、各国で暴動などが起こったのも記憶に新しいところです。
そこで、食糧と競合しない次世代のバイオエタノールの研究が進んでいます。今までと同量の砂糖を生産した上で、
従来比5倍のエタノールが製造できるサトウキビが日本の技術として開発され、ニュースとなっています。そのほか、間伐材や廃材、もみ殻、稲わらなどからエタノールを生産する技術の開発も進められています。
海草や藻などの植物を利用する研究も注目を集めています。陸上の植物と比べて繁殖力が高く、速く育つのが利点です。同じ面積当たりの収量で比較すると、トウモロコシやサトウキビの数十倍のバイオエタノールが生産できて、圧倒的な価格競争力が期待できるものもあると言います。
また、藻を従来のように発酵させてエタノールを製造するのではなく、
藻が光合成により直接石油や天然ガスの主成分である炭化水素を発生させる種類もあるそうです。まさに天然の製油装置です。もともと藻類は、光合成で炭化水素などを排出する種類が多く、数億年前に浅い海に生息していた藻類が石油の起源だとも言われています。
しかも、この仕組みで生産されたエタノールは、従来の方法で精製されたエタノールのように、ガソリンに混ぜて使用する必要がなく、そのまま使えると言うから驚きます。すでにこのエタノールをジェット燃料として、旅客機を飛ばすことにも成功しています。
つまり、藻のエタノールなどの生産技術が確立すれば、日本が「産油国」になれる可能性もあるわけです。このほか、電気自動車や燃料電池車も含め、これら次世代のエネルギー技術の開発には大いに期待が集まります。温暖化ガス削減だけでなく、経済を担う新しい産業として、多くの雇用を生むことも期待されます。
しかし、こうした新しい技術の開発にはどうしても時間がかかります。大量のエネルギーを産み出す態勢を確立するために資金も必要ですし、価格競争力を獲得しなければ普及も見込めません。また新しいインフラの整備が必要となるものも多く、社会として受け入れる準備にも時間が必要となります。
化石燃料からエネルギーの転換を図るため、次世代の技術による新しいビジネスが立ち上がっていくことを期待しますが、一方で、もっと手っ取り早く簡単に始められることもあります。身近で出来ることはいろいろありますが、当然ながら自転車の活用もその一つです。
自転車の活用と言うと、新エネルギーのような華々しさはなく、その効果についても、あまりパッとしないように思われがちですが、そうとは限りません。例えば、今のガソリン車による通勤をやめて自転車通勤にしたとしたら、その日からすぐ、温暖化ガス削減が実現します。
それも、ガソリン車を電気自動車に置き換えたのと同等以上の効果です。日本では電力の過半数を相変わらず化石燃料を燃やす火力発電に頼っていますから、発電段階ではCO2が発生しています。クルマの製造などに伴うエネルギーを考えても、自転車のほうが圧倒的に温暖化ガスの削減効果は高いことになります。
もちろん、自転車だけで全てのエネルギー問題を解決することは出来ません。新しいエネルギー技術の確立は必要です。しかし、クルマを代替するだけなら、すぐにも出来て、しかも温暖化ガス削減効果については、新エネルギーにひけはとりません。利用できる部分があるなら、これを利用しない手はありません。
そう考えると、オーストラリアのベンチャー企業、“
Penny Farthings”のような会社はもっと出てきていいと思います。企業や団体に対して、自転車通勤支援用の自転車モジュールを販売しています。“Green Pods”は、自転車通勤・通学する人の更衣室、シャワー、駐輪スタンドが一体となったモジュールです。
しかも、わずかクルマ一台分という省スペース設計です。一台分の駐車スペースをつぶせば、10人分の自転車通勤用施設が設置出来ます。1つのユニットで、基本的に1台のシャワーと10台の駐輪スタンド、10個のロッカーを設置することが出来ます。
屋外に設置する場合には、屋根に取り付けられた太陽光発電装置で、LED照明や温水シャワー、排水装置などの電力を得ることも出来ます。また毎日清掃する必要のない、セルフ洗浄システムを備えています。シャワー室が自動的に丸ごと洗浄されるシステムです。
わずかクルマ一台分のスペースです。会社にシャワー室が無い、ロッカーがない、駐輪スペースがないなどを、社員に自転車通勤をさせない理由に出来なくなるわけです。オーストラリアでも近年、自転車通勤に対する関心が高まっており、すでに企業や大学などで導入され始めていると言います。
日本でも、一部の役所や意識の高い企業を中心に、社員の自転車通勤を奨励するところが出始めています。企業として、温暖化ガス削減に取り組む姿勢をアピールする上でも、今後自転車通勤などを導入するところは増えるはずです。こうした商品の需要も高まっていくのではないでしょうか。
東京のような鉄道網が発達した都市では電車通勤が多いですが、実はクルマ通勤も少なくありません。朝夕の道路の渋滞を見れば明らかですが、都内にもクルマを使う商売や駐車スペースのある事業所を中心に、クルマで通勤する人は多く、営業車の持ち帰り自粛も呼び掛けられています。自転車に代替出来る余地はあるはずです。
そのほかこの会社は自転車ラックや駐輪機などを販売することで、企業や団体、大学などの自転車通勤、自転車の活用を支援しています。地味ではありますが、クルマを代替するための自転車の活用を支援することで、クリーンエネルギーと同様に地球環境に貢献する会社というわけです。
新しい技術を確立するまでもなく、自転車は明日から、すぐにでも使えます。すでに人類のお腹に蓄えられた、脂肪という名のエネルギーを利用するわけですから、大きなインフラ投資も燃料の輸送の必要もありません。自転車通勤に変えたその人の健康にも貢献するという嬉しいおまけ付きです。
新エネルギーへの転換という中長期的な取り組みは大切です。化石燃料への依存脱却は安全保障上の問題でもあります。日本の環境技術を生かした分野として、その将来を託す産業としても大いに期待されます。一方で、地味ではありますが、今すぐ出来ることにも目を向けたいものです。
高速料金について、二転三転しているようです。こうも揺れ動いているようでは、高速無料化で流通コストが下がり、経済が活性化するとしていた民主党の政策理念自体、何だったのかということになりそうですね。
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どれだけ効果が見込めるのか
果たして自転車の活用でどれだけの温暖化ガスが削減できるのか。
自転車にも便利な駅がほしい
自転車の活用を図るため公共のインフラとして整備する動きもある。
バイクステーションの代名詞
意外な企業が温暖化ガス削減の為、自転車の活用支援をしている。
誰もやらないなら自分がやる
この会社と同じ豪州のブリスベンでは、別の形で取り組む人もいる。