各地で好天に恵まれ、行楽地はどこも大賑わいです。天気がいいので、ツーリングに出かけるサイクリストも多いに違いありません。最近は、観光地でもレンタサイクルを整備するところが増えていますので、旅先で自転車を利用する人も多いのではないでしょうか。
ここのところの自転車ブームにより、趣味でスポーツバイクに乗る人が増えています。エコで健康にもいいと関心が高まり、自転車の販売も好調に推移しています。関連商品や自転車向けファッションなども売れているようです。この連休は自転車ショップへ出かける人も多いかも知れません。
スポーツバイクに乗る人が増え、これだけ注目度がアップしていますから、自転車や関連商品を売る店でなくても、自転車利用者を意識する商売が増えても不思議ではありません。自転車とは直接関係のない業種であっても、サイクリスト向けをアピールすることで、売り上げにつながることもあるはずです。
駐輪スペースを設け、自転車で立ち寄りやすくするのは基本です。特にスポーツバイクの場合、基本的にはママチャリのようなスタンドや鍵が付いていないので、よくある、ただ白線をひいただけのものでなく、自立させなくても駐輪出来て、施錠しやすくなっていれば助かります。
ただ、それだけでは普通なので、何か目新しいもの、例えばカフェやファーストフードの店に、下の写真のようなスタンドを設けるなんていうのはどうでしょう。わざわざ駐輪して施錠し、歩きにくいビンディングシューズで歩いて席に着かなくてもすむ、自転車用スタンドです。サイクリスト用の専用席というわけです。
これは、東京デザインウィークというイベントに出展された作品で、飲食施設用にデザインされたわけではありません。ほかの用途も考えられますが、カフェなどの店先に設置するのも一案でしょう。自転車に乗ったまま席に着き、飲食することが出来て便利です。
写真のようなロケーションだと、必ずしも飲食店向きとは言えませんが、店としては、一般のテーブル席とは別に、店先にオープンエアの形で設置するならばスペース活用にもなります。場合によっては駐輪場も営業スペースとして使えます。昼食時など、混雑する時間帯に座席数を増やせて、店の売り上げアップに貢献するかも知れません。
もちろん、自転車で来たからと言って、必ずしも急いでいる人ばかりではありません。駐輪して一般席で落ち着いて飲食してもいいわけですが、サイクリスト向けの席として店先に設置すれば目をひきます。アイキャッチ、あるいはシンボルとして、自転車客を呼び込む効果が見込めそうです。
もう一つ、もっと大がかりな例を挙げましょう。こちら、崖から突き出たように見える建物は、なんとホテルです。眼下に湖が一望出来て景色も抜群ですが、ホテル自体の奇抜なデザインが目をひきます。“
hiding in triangles”と名付けられたホテルのパースデザインです。
よく見ると、ホテルへアプローチする道路が細く描かれています。舗装されてもいないので、クルマで行くのは難しそうです。そう、何を隠そうこのホテル、実はマウンテンバイカー向けのホテルなのです。つまり、山間部に建てられた、マウンテンバイクでアクセスするホテルなのです。
崖から張り出して湖を見下ろす建物の形も奇抜ですが、実はユニークなことに、道からそのままホテルの建物内を走り、マウンテンバイクにまたがったまま各部屋までアプローチ出来るという構造になっています。まさに自転車乗りの為のホテルというわけです。
このホテル、個性的ゆえに、人によって評価は分かれると思います。面白い、ユニーク、独創的といった評価がある一方で、不可解、非実用的、無駄が多い、景観を損なうなど、疑問を呈する声も多いに違いありません。人によって見方が違うのは当然ですが、現実的でないと感じる人も多そうです。
パースでは、イタリア北部の湖を見下ろす山の上に建てることを想定しています。しかし、崖から張り出して、基礎は強度的に問題ないのか、建設時の資材の搬入はどうするのか、山の上で、電気や水道、ガスなどのライフラインはどうするのか、マウンテンバイクはいいとしても、アクセスが不便過ぎないか、いろいろ疑問がわきます。
多くの人は、泥だらけのマウンテンバイクを部屋の中まで持ち込ませる意味があるのかと思うでしょう。建物の形に無駄が多すぎて、イニシャルコストや維持費が高くなり過ぎないか、そもそもお客は集まるのか、採算はとれるのかといった部分にも疑問を感じてしまいます。
奇をてらった、採算性など現実を無視したデザイン、机上の空論と見る人も多いでしょう。でも、必ずしもそうとは限りません。むしろそれは素人考えで、他に類を見ないコンセプトこそが評判を呼び、話題性でお客を集めるという可能性だってあります。誰でも考えつく平凡なホテルでは、後々集客に苦労するだけです。
世の中には、万人向けではないものの、熱狂的な一部のファンから支持を受けるホテル、ずっと先まで予約が取れない、知る人ぞ知る人気ホテルもあります。限られた客層ではあっても確実な支持を集めるホテルが強い集客力を持つこともあります。極端な言い方をすると、黙っていてもお客が来てくれるホテルです。
観光地の便利な場所にあるホテルなら、一定の需要が見込めるでしょう。しかし、そういった場所には多くのホテルが開業し、過当競争になります。集客するため、他といかに差別化するかに苦労することになるわけです。便利だがありふれたホテルより、不便に見えても他にない強い魅力を持ったホテルが優位に立つ可能性があります。
もちろんデザインだけで、人気を確立出来るとは限りませんが、他にないホテル、ターゲットを絞ったニッチなホテル、一度泊まってみたいと思わせるホテル、何かが突き抜けているホテルというのはユニークな存在です。このデザインがいいかどうかは別としても、マウンテンバイカー御用達ホテルというのは面白いアイディアです。
日本だけでなく、世界的に自転車に目が向き始めています。その背景には、温暖化ガス削減や渋滞など都市交通の問題、原油高、健康など時代のトレンドがあります。そんな事情も活かしながら、自転車乗りにターゲットを絞った商売、サービスが、もっと出てきてもいいような気がします。
ホテルと言えば、あの「赤プリ」が閉館するとは驚きました。個人的には、たまにしか行きませんでしたが、あんな一等地にあっても厳しいものなんですね。
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駐輪する為のラックは、もう少し街中に増やしてほしいものだと思う。
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まだごく少数だが、サイクリスト向けのマンションなんかも出ている。
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サイクリスト向けのキオスクというアイディアもすでに実現している。
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公共インフラとして、街角にサイクリスト向けの施設があってもいい。
作家の高千穂遙さんみたいに数十万のロードレーサーを公衆便所にも引き込んで眼を離さず用を足すって人たちはカウンター付き自転車スタンドを使うかもしれませんが、スポーツバイク乗り全体では固いサドルに掛けたまま路上で飲食しようという人はかなり少ないと思います。
自分ならロードレーサーに乗ってこんなスタンドが設置された店に来合わせても絶対使いません。