June 05, 2010

オーバースペックが当たり前

グアテマラは中米に位置する国です。


メキシコの南にあって、ホンジュラスやエルサルバドルといった国々と国境を接しています。そのグアテマラでは先月、火山の噴火に暴風雨による豪雨と相次ぐ自然災害に見舞われました。そんな中、首都のグアテマラ市内では市街地の中に突然、巨大な穴があく事態となっています。

Photo by Gobierno de Guatemala,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

市街地の真ん中にあいた穴は、直径20メートル、深さ100メートルもあろうかという、信じられないような大きさです。首都から50キロにあるバカヤ山が噴火し、市街地に火山灰が降り注いだところへの大量の雨で、灰がコンクリートのように固まり、下水道を詰まらせてしまいました。

その重さに地盤が耐えられなくなったとか、地下水流が大幅に増えた影響で、空洞が出来たからではないか、などと言われています。ただ、グアテマラ市内では2007年にも同じような穴があく被害が起きており、自然災害のせいではなく、人災も疑われていると言います。

建物ごと飲み込まれてしまった巨大な穴を含め、被災の状況は、写真共有サイト“flickr”に掲載されています。その写真を投稿しているのは、なんとグアテマラ政府です。政府がflickrを利用して被災状況を世界に発信することで、諸外国への復興支援を呼び掛けているわけです。

Photo by Gobierno de Guatemala,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

グアテマラは、経済的には中米でも中位の国ですが、国民の貧富の差は大きく、人口の6割近くは貧困層に属すると言われています。全体として国民の生活水準は低く、特に零細な農家の多い農村部の貧困は、農民の識字率の低さや最近まで続いた内戦の影響などもあり、構造的な問題を含んでいます。

中米のグアテマラを含む一帯は、かつて、あのマヤ文明が栄えた場所です。現在もグアテマラ国民の過半数はマヤ系の先住民です。マヤ王国はスペインに征服され、その後の植民地時代を経てグアテマラは独立しましたが、長いあいだ内戦が絶えず、今だに治安や政治情勢は安定していると言えない状況です。

さて、そのグアテマラでは、自転車を使って貧困に苦しむ農村への支援をしているNPOが存在します。その名もマヤ・ペダル“Maya Pedal”です。アメリカやカナダから寄付された古い自転車を再生するだけでなく、自転車を利用した機械“Bicycle Machines”を使うことで農村の生産性を上げようとしているユニークな組織です。

Image Maya Pedal, www.mayapedal.orgImage Maya Pedal, www.mayapedal.org

自転車機械、“Bicimaquinas”と言っても複雑なものではありません。ペダルをこぐ力を利用して、脱穀機を動かしたり、ミキサーを回したり、ポンプで水を汲みあげたりします。仕組みやその働きがひと目で理解でき、誰でも簡単に使えるというのが大きな長所です。

Image Maya Pedal, www.mayapedal.orgImage Maya Pedal, www.mayapedal.org

電源や燃料を必要としないので、インフラが整備されていない農村部も含めてどこでも使えます。彼らによってハンドメイドで製造される機械は、構造が単純なのでメンテナンスも容易です。農村でのニーズを充たすものであるばかりか、使っていて楽しいところが、現地で気に入られる理由でもあります。

Image Maya Pedal, www.mayapedal.orgImage Maya Pedal, www.mayapedal.org

自転車をこいで動かす機械と言うと、いかにも大変そうなイメージがあるかも知れません。我々日本人が想像するのは、汗を飛ばしながら自転車をこいで発電し、その電力で家電などを動かすシーンではないでしょうか。しかし、ここでの機械は電動によるものではなく、直接ペダルで機械を動かすので、はるかに効率がいいのです。

人間が自転車を使い、ペダルをこいで時速20キロ程度の速度を出すパワーは、およそ4分の1馬力くらいですが、フライホイール、はずみ車の構造などを使うことで、そのパワーは4倍の1馬力程度に増幅出来ると言います。この力を直接、機械的に伝えて動作させるわけです。

Image Maya Pedal, www.mayapedal.orgImage Maya Pedal, www.mayapedal.org

はずみ車は、重い円盤のような部品です。回し始めは重いですが、いったん回り始めると、慣性の法則で回り続けようとする力が働きます。この構造によって、出力を安定させる効果もあります。発電し、いったん電力にするのに比べればロスも断然少なく、原始的なようですが合理的なのです。

同じことを、近代的な方法でやることを考えてみて下さい。まず発電所を建設し、送電網や変電設備を整備し、電気製品を買いそろえなければなりません。莫大な資金も必要になります。小さな人力ですが、必要なパワーを必要な場所で生み出すこの方法なら、大規模なインフラの整備のために自然を破壊することもありません。

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自転車をこいで動かす機械なんて、原始的で非力に見られがちですが、サイクリストなら自転車がいかに人力を効率的にパワーに変えるか実感としてわかると思います。人間が一番力を出せる足の筋肉を使うということもありますが、動物や他の動力エネルギーによる機械と比較しても、元々自転車は非常に高効率な仕組みなのです。

実際に、グアテマラの農民が手作業で3週間かかっていたトウモロコシの脱穀作業が2日に短縮できると言います。この効率アップをインフラなしで、あるいは農薬や肥料による土壌汚染、水質汚濁なしに達成出来るのは画期的なことです。農民にも大きな収入アップをもたらします。

Image Maya Pedal, www.mayapedal.orgImage Maya Pedal, www.mayapedal.org

脱穀機や揚水ポンプ、ミキサーのほかにも、グラインダーや製粉機、タイル製造機、ナッツの殻剥ぎ器、地元産のアロエでシャンプーを作るためのプレンダーなど、いろいろな機械が製造、供与されています。もちろん荷物の運搬に使う為のトレイラーや3輪トライクなどもあります。

Image Maya Pedal, www.mayapedal.orgImage Maya Pedal, www.mayapedal.org

マヤペダルは、ボランティアによる自転車機械の製造や修理サービス、中古自転車の販売などだけでなく、ペダルによって動かす自転車機械の研究開発機関も自認しています。機械のデザインやデータなどを提供し、広く他の国々でも利用できるよう努めているのです。







マヤペダル自体は、アメリカやカナダなど海外の多くの組織の支援を受けています。しかし、提供するのは先進国からの、よくある最新技術や土木開発による支援ではありません。適切なテクノロジーを用いることで小規模でも持続可能な農業を通して農村の自立を助け、グアテマラの持続可能な発展というビジョンを追求しているのです。

電気が身近に、当たり前のようにある先進国の感覚からすると、苦肉の策のようにも見えます。でも、必要とするエネルギーを適切で妥当な方法、必要充分な方法で得ているに過ぎません。電動と比べて非力ですが、充分なのです。電動にするために必要なコストから環境破壊の代償まで考えれば、はるかにリーズナブルというわけです。

Image Maya Pedal, www.mayapedal.orgImage Maya Pedal, www.mayapedal.org

こうした方法を原始的と見るか、自然に調和したスタイルと見るか、見方は分かれるかも知れません。もちろん日本の農家の人に、今さら足踏み脱穀機を使えと言うのではありません。ただ、私たちの生活の中にも、使わなくていいエネルギーを使っている部分、私たちの感覚が麻痺している部分はないでしょうか。

何でも電化が進んだ結果、人力でも十分な部分、例えば運動することにまで、わざわざ電動の機器を使っていたりします。自転車で充分な移動も多いはずです。ふだん便利な家電製品に囲まれ、エネルギーを大量に消費する生活をし、たっぷりと現代文明の恩恵に浴している日本人が、むしろ見習うべき部分なのかも知れません。


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自民党に所属したこともなければ、世襲でもないという意味で、近頃にない首相が誕生しました。ある意味、本当に政権交代を実感する総理かも知れません。期待したいところです。

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この記事へのコメント
電動鉛筆削りばかり使っていると子どもが不器用になるからナイフを使わせなさいとの意見が有ります。ナイフで鉛筆削っているだけでお勉強の時間が無くなります。鉛筆削るだけで電気使うのは勿体無いとは思いますが、手動の鉛筆削り機が便利です。
 どうしても手作業か電動機械かの選択になりがちですが、手動機械も選択肢の一つでしょうね。手回し充電ラジオは停電の時に役に立ちます。
 自家用車でスポーツクラブに通い、テレビ見ながら自転車漕ぎしていた私、何とエネルギーの無駄遣いだったのでしょうね。今は自転車でスポーツクラブに行く様にしています。
Posted by ジャムおばさん at June 08, 2010 10:22
こんばんは

すごくエコだと思います。

こういう物は小学校などに設置して

物の有りがたさを分からせるべきだと思います。

自転車等で蓄電出来る物も出来ればよいですね。

実際にはもう出来ているのでしょうか?
Posted by アイテムジー at June 08, 2010 21:14
ジャムおばさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、最近はナイフを使えない子供が多いと聞きますが、怪我をするからと、使わせないのも理由なのでしょう。
時間の無駄のようですが、小さい時に手を使う、手先の器用さを養うというのは、脳の発達にも資すると聞いたことがあります。ナイフでなくてもいいですが、そのあたりも配慮したほうがいいような気がします。
エネルギーの面から言えば、手動の道具を使うのがスマートということに、これからはなっていくのでしょう。
日本の「もったいない」という思想が世界的に注目をあびたりしましたが、エネルギーの「もったいない」に気づいていないところは多々ありそうですね。
Posted by cycleroad at June 08, 2010 23:41
アイテムジーさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
今どきですから、エコと言うと太陽光発電とか、風力発電という話にはなるでしょうが、人力で、という小学校は、あまり無いんじゃないでしょうか。
発電の方法をエコにすることも重要ですが、何でも電動にしなくても、場合によっては人力でも充分ということに、まずは大人も、もう少し気付く必要があるのかも知れません。
Posted by cycleroad at June 08, 2010 23:54
頭の良い人が居るものですね!感動しました。
こう言うシンプルな活動が、本当のエコに繋がると思います。
日本は今のままでは、環境最後進国になるかもしれませんね?
Posted by ヨッシー at June 09, 2010 11:20
ヨッシーさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
便利な生活に慣れてしまうと、それが当たり前になってしまいます。しかし、言われてみれば、使わなくてもいいエネルギーを使っているものですね。
言われれば、なるほどと思いますが、なかなか自分からは、それに気付けないものです。
太陽電池や風力発電で、温暖化ガスを出さないことも大切ですが、もっと根本的なライフスタイルから、もう一度見直してみる必要がありそうですね。
Posted by cycleroad at June 09, 2010 23:55
何をするにもガソリンや電気を使うって無駄ですよね〜
Posted by 職人気取 at June 13, 2010 13:16
職人気取さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
何も無理やり使わなくても、って感じのものもありますよね。
Posted by cycleroad at June 14, 2010 22:53
はじめまして。福島県会津地方の山村で農的暮らしを模索している者です。数年前中米を旅した時に「マヤサイクル」のことを知りました。その時は行けなかったので、cycleroadさんの記事を興味深く読ませていただきました。
(事後連絡ですみませんが自分のブログにも紹介させてもらいました。http://tuchinohito.jugem.jp/?eid=91)

それにしても市街地の真ん中に空いてしまった穴があんなに大きいとは・・・
自分が旅した場所で起きた事は、もう他人事として見ることはできないのですけど、それに対し自分自身は何ができるのか・・・無力感ばかり覚えます。でも何か自分の暮らしの中から、その想いだけでも表現できればと思っている次第です。


Posted by yasu at October 27, 2010 09:26
yasuさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
素敵なことをなさっていますね。記事をご紹介いただき、ありがとうございます。
凄い穴ですよね。ネットでも相当話題となり、テレビなどでも全世界に報じられていたようです。
日本でも、亜炭の採掘跡や大谷石の採石跡などで、地面の陥没が報じられることがありますが、なぜ、あんなに丸くて深い穴があいてしまうのか不思議です。
確かに一度旅すると、行ったことがない場所とは違ってますね。その意味では、私もあちこち思い入れがあります。災害となると、胸が痛みますね。
Posted by cycleroad at October 27, 2010 23:47
 
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