
何かを買う時、判断の材料となるものがあると思います。
ファッション性やブランド、価格などいろいろでしょうが、実用品なら機能面の仕様も重要な要素となるはずです。最近人気の電動アシスト自転車であれば、アシストパワーはどれも2対1と決まっていますから、後はアシストが続く時間、すなわち航続距離がポイントになるのではないでしょうか。
ほかにも耐久性や充電に要する時間など、参考にすべきスペックはいくつかありますが、電動アシスト自転車の一番のウリは、なんと言っても電動でペダルがアシストされることですから、航続距離は一番メインの機能についての性能ということになると思います。
その航続距離、すなわちアシストが続く走行距離は、最近ずいぶん伸びてきたので、そろそろ実用に耐えるのではと購入を検討している方もあるかも知れません。例えば、回生充電しながらの航続距離が100キロに及ぶようなモデルもあります。これなら少し遠くへも行けそうです。
ところがこのモデル、今年の4月から航続距離が百キロから三十数キロと3分の1になってしまいました。特に部品や電池容量などが変わったわけではありません。別のモデルや他のメーカーのモデルも一様に大幅ダウンし、50キロのものであれば十数キロになるなど、やはり3分の1程度になってしまっています。

部品が変わったり、性能が変化したわけではなく、電動アシスト自転車の仕様表示に関する業界基準が、この4月から厳しくなったのが原因です。走行距離の測定条件が変更され、大幅に数字が出なくなったわけです。わざわざ性能を低く見せる変更がなされたのには理由があります。
利用者から、カタログや説明書に書かれているほどの距離が走れない、おかしいというクレームが多数寄せられたのです。このままではユーザーのためにならないばかりか、商品全般に対する不信感が広がりかねないと、大手メーカーが加盟する業界団体が、基準を変更せざるを得なくなったわけです。
100キロの航続距離ならば、話八分としても80キロ、悪くても60キロは走るだろうと考えても不思議ではありません。それが実際は40キロそこそこだったとしたらユーザーも怒るはずです。新しいカタログ値で三十数キロですから、走行環境によっては、もっと短かかったのかも知れません。
回生充電が出来る高性能モデルでなく、カタログ値が50キロほどのモデルならば十数キロです。最寄駅までの利用くらいなら何とかなっても、これでは少し足を延ばしたらアッと言う間に充電切れです。充電が切れても普通の自転車として乗れないわけではありませんが、わざわざ重い自転車をこぐ羽目になってしまいます。
クルマの燃費などと同じで、テストコースと実走行では条件が違い、数値が変わってしまうのは、ある程度仕方がありません。利用者がメーカーの想定より急な坂を登ったり、体重が重かったり、信号などでの発進・停止が多ければ、当然航続距離は短くなります。ただ、あまりに乖離が大きいなら、基準が現実的でないのは明らかです。

特に電動アシスト自転車にとって、航続距離は実用に耐えるかどうかの大きな判断基準になるので、なおさら問題でしょう。業界の自主規制は当然と言えますが、距離表示が大幅に短くなるだけに、難色を示すメーカーも多かったと言います。そして案の定、必ずしも自主規制が功を奏しているとは言えないようです。
メーカーのサイトを見ますと、混乱を避けるため当面は従来表示を併用すると断りながら、実際の商品のページには従来の距離だけしか表示していないところもあります。自主規制を事実上なし崩しにしているのは、日本人なら誰でも知っている有名メーカーです。せっかくの業界の自浄作用より、企業の都合が優先されているわけです。
こうしたカタログの数値の問題は、なにも電動アシスト自転車に限ったことではありません。家電などでは、カタログの数値に虚偽の記載があって大きな問題になったこともあります。意図的な虚偽ではなくても、消費者を惑わすような記載や宣伝が行われている例は枚挙にいとまが無いでしょう。
例えば、エアコンの消費電力が従来モデルより年間何万円もお得、などという広告は今さら目新しくもありません。新しく買いかえれば、すぐに元が取れるとアピールするわけです。しかし、毎年新しいモデルが発売される中で、本当に毎年そんなに得になっていくのか不思議ではないでしょうか。
メーカーとしても、全くのウソの数字では詐欺になってしまいますから、何らかの根拠はあるでしょう。よく見ると、カタログの隅に比較の条件が書かれています。しかし、一日20時間、365日の運転などと現実的でない条件で比べています。なるほど、夜中もエアコンをつけっ放しで寝る人は少なくないのかも知れません。

しかし、それでも一日20時間平均も使うでしょうか。夏冬はともかく、春や秋のちょうどいい気温の時にも20時間運転する前提です。これだけ長い時間で比べれば、差が大きくなるのは当たり前です。しかも、比較の対象は当社旧モデルとあるだけで、具体的でなかったりします。いわゆる「当社比」というヤツです。
どの業界でも過当競争が厳しく、不況で売り上げが落ち込んでいることもあって必死なのはわかります。なんだかんだ言っても、企業は利潤を生みださなければ存続出来ませんから、少しでも他社より良く見せたり、消費者にお買い得と思ってもらうために、あらゆる努力をするのも当然でしょう。
しかし、それが行き過ぎて、詐欺とは言いませんが、結果として消費者を惑わすような形になっていることは少なくありません。なかには、消費者が知らないのをいいことに、かなり悪質なケースも見られます。もちろん、以前問題となった食品偽装のような悪人たちもいるわけです。
本来は、業界を指導すべき監督官庁が、結果として不正に手を貸す形になった汚染米の不正転売事件などもあります。農政事務所が検査日時をあらかじめ通告するなどしていたため、検査が意味をなさなくなり、汚染米が食用に転売されていた事件です。農政事務所の責任や癒着の構造が指摘され、大臣や事務次官が辞任に追い込まれました。
不正を正すべき監督官庁まで信じられないとしたら、消費者は何を頼りにすればいいのでしょう。最近はトレーサビリティの確保ということで、生産者の顔が見えることを売りにした農産物なども売られていますが、肝心のその生産者の写真が偽装されていたケースもあります。
こうした状況を受けて誕生したのが消費者庁です。厚労省の食品衛生法や農水省のJAS法、公取委の景品表示法など、製品の表示に関する法律が消費者庁へ移管、または共同管轄とされました。他に金融庁の貸金業法や経産省の消費生活用製品安全法などもそうです。

消費者庁は、まだ発足して1年も経たないので、さほど目立った動きはありません。でも内部では、さまざまな商品の表示に関して、見直しや新たな規制の検討などの議論が始まっているようです。新たな課題も増えていますが、生産者に対する監視を強める方針です。
もちろん、まず消費者庁が、消費者の味方として真に信頼される役所となれるかが問われることになるでしょう。今までは生産者や企業の立場に立つ官庁しか無かったわけですが、本当に消費者の立場から考えていくことが出来るか、行政の視点を転換できるのかが注目されます。
ただ、不正な表示や紛らわしい広告などを調査し、監視するにはコストもかかります。また、例えば加工食品の多岐にわたる原材料の原産国を全て調査して表示ざせることは、生産者に多大のコストをかけさせることになり、結局は消費者に転嫁されます。それが果たして消費者の利益か意見が分かれるところでしょう。
工業製品でも、日本製と表示するため、わざわざ1工程だけ残して輸入し、最後だけ日本で組み立てることで日本製をうたう商品もあります。今の時代、全ての部品が最初から最後まで国内産なんて現実的ではありませんから、ルールのつくり方が問題となりますし、その抜け穴をかいくぐるような企業とのいたちごっこも考えられます。
これまでにも消費者を欺く悪質な事例で刑事罰が下され、企業が倒産・廃業した例もあります。しかし、身売りや組織変更によって新しい社名になり、素知らぬ顔で今までと同じ食品を製造販売しているような場合もあります。市場から退場すべき企業が淘汰されず、消費者の保護にならないケースもあるわけです。

私が思うのは、規制や監視、罰則といった従来の発想だけでは、いたちごっこが繰り返されるだけ、新たな手法や抜け道を使った手口が出てきて、いつまでたっても同じことの繰り返しではないか、ということです。浜の真砂は尽きるとも、売らんがために消費者の目を眩ますような手口は尽きまじ、というわけです。
例えば、悪質な企業の社名を公表したり、ペナルティを課したりするだけでなく、逆に、本当に消費者の為に情報を開示し、正直な商売をしている企業を評価する指標を設けたらどうでしょうか。他社とは一線を画し、正直に商品情報の表示を行った企業を積極的に評価するわけです。
過去の違反やペナルティの無い実績や、誤解を招く表現を排した成果を表彰してもいいでしょう。信用がおける企業であるという指標を設けることで、消費者の商品の選択に供するわけです。これによって、企業は、消費者の目をくらますような売り方を競うより、正直な商売を展開する選択肢をとる可能性があります。
消費者も売らんが為のカラクリに惑わされることなく、企業の姿勢を見て商品の購入の判断をするようにしなければなりません。もし、こうした仕組みが定着するならば、企業は目先のテクニックに頼るより、消費者の信頼を勝ち得たほうが得策だと判断するようになり、延々と続くモグラ叩きから抜けられるかも知れません。
消費者庁は、消費者の権利や利益を守るため企業を監視するだけではなく、更にその先の役割を意識してほしいと思うのです。すなわち、真に消費者のことを考えて商売することが、結局企業にも利益となり、消費者も得をする社会、それが実感されるような社会の実現を目指してほしいと思います。
企業も消費者は余計なコストが節約でき、消費者庁もいたちごっこを避けられます。消費者が、何かを買って失敗した、馬鹿な買い物をしたと思わされることが無くなれば、もう少し消費も促進され、景気も良くなるでしょう。そのあたりから、消費者行政の考え方を転換してみる手はあるのではないでしょうか。


相撲界も救いようがないですね。国技ということにあぐらをかいています。実は両国の施設の竣工時に国技館という命名をしたので、国技と言われるようになっただけだと言います。別に文科省が正式に認定しているわけではありません。一度、
相撲協会を解体し、大相撲を廃止するくらいでないと、この体質は変わらないと思います。
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