
ここのところW杯の話題に隠れた感がありますが、上海では万博が開催されています。
言うまでもなく上海万博は、中国が国家の威信をかけたプロジェクトです。途上国で史上初の万博と言われていますが、参加国、地域、機関の数は史上最多です。ただ、参加国の数を過去最高にするため、120もの途上国にパビリオンの建設支援等を行っており、ネット上では自国民からバラマキと批判されています。
一方、今年10月31日までの開催期間で、大阪万博の6千4百万人を超える史上最高の7千万人の入場者数を目指しています。中国政府はメンツにかけてこれを達成するため、上海市民などに無料入場券をバラまいたり、国営企業などに組織的な動員をかけるなど躍起になっていると言います。
万博のPRソングや中国館の建物、マスコットキャラクターなどに盗作疑惑が報じられたのも記憶に新しいところです。しかし中国国内では、住民の強制立ち退きの問題をはじめ、さまざまな混乱や不祥事など中国共産党にとって都合の悪い情報について、例によってメディアに強力な言論統制が敷かれているのは言うまでもありません。

また、全世界からの客人を迎えるにあたり、周辺の市民が外に洗濯物を乾すのを禁じたり、道に唾を吐かないとか、列に割り込みをしないなど、市民のマナーアップにも力をいれています。開発の遅れた地区、街の見せたくない部分を塀で囲ったりするなどの工事もすすめ、体裁を整えるため、いろいろと気を使っているようです。
貧しい地区などを塀で囲って見せないようにしていたのは、北京五輪の時もありました。しかし、こうした中国の行動を見栄、虚栄心と笑うことは出来ません。日本も東京オリンピックの当時は、似たような状況だったと言います。昔は、日本人も欧米人に対して精いっぱい見栄を張っていたわけです。
私はよく知りませんが、当時は東京でも下水道などがあまり整備されておらず、五輪に間に合わせるため、川に直接下水を流し、その川を突貫工事でフタをして隠してしまうなど、相当ひどいやり方もあったと聞きます。欧米人から見られたら恥ずかしい部分も、おそらくかなりあったはずです。
上海万博のテーマは、「より良い都市、より良い生活」です。このあたり、皮肉と言えなくもありません。庶民の生活を隠し、強引に市民のマナーを矯正し、海外にその経済発展ぶりを誇示したい気持ちは分かります。ただその臭いものにフタ式のやり方は、日本の場合、後に環境破壊や公害として経済成長の歪みになってしまいました。
上海などの大都市では、ここのところの発展により、昔ながらの古い街並みが急速に失われています。彼らが欧米型の近代的な都市を目指すことを批判は出来ません。日本もそうなのに、他人のことは言えません。でも、失って初めて、かけがえのないものがわかることもあります。
はたして西洋型の都市が本当に市民に幸せをもたらすかどうか、当の欧米の都市の人々が疑いはじめている部分もあります。膨大なエネルギーを使う西洋型の都市は快適な半面、地球環境への負荷を増やすことになります。東洋的な景観、生活様式、コミュニティなどを破壊して、なんでも西洋風にすることがいいとは限りません。
モータリゼーションの進展する都市ではクルマが渋滞し、騒音や大気汚染による公害病が人々を蝕み、交通事故で人の命まで奪っています。大量の熱を排出するビルと共にヒートアイランド現象を招き、それがさらにエネルギーを必要とする悪循環です。便利さを手に入れることで、失うものも多いはずです。
上海の庶民の生活では、まだまだ自転車が大いに活躍しています。しかし、経済発展でクルマが急増したことにより、上海市当局はクルマ中心の交通行政を推進するため、自転車に対する規制を強化しています。上海を行きかう自転車も、だんだん失われていくものの一つなのかも知れません。
そんな上海で活躍する自転車たちを、bricoleurbanism さんという方が写真にとって“
Goods by Bicycle in China” として公開しています。複製して転載することを許可してくれていますので、その中からいくつかピックアップしてみたいと思います。クルマの仕事のうち、多くのことが自転車で代替可能と気付かされます。

観葉植物のデリバリーも自転車で可能ですし、小規模な引っ越しも大丈夫です。

街角の野菜やフルーツ販売も自転車でOKです。そのまま移動も出来ます。

当然、郵便配達も自転車ですし、ちょっとした資材なども運搬できます。

たくさんの荷物がある娘を送っていくことも出来ますし、女性も商売の品などを満載して走っています。

街角の露店は、みな自転車を使っていますし、パイプなどの建設資材も運びます。

左は金物屋さんです。右は上海でよく見かける水のデリバリー業者です。屋根には台車を載せています。

普通に荷物を持って移動している人もいますし、自転車の修理業者も自転車で移動です。

長尺物の資材やガラスなども運びますし、段ボールの回収はもちろん自転車です。

冷蔵庫の配達だって出来ますし、穀物の入った袋など重量物も運びます。

かさばるものでも、かなりの量運べますし、ゴミの回収も自転車です。

商品を陳列したまま移動出来て便利ですし、ベッドや家具も運べます。

街角で衣料品も売りますし、右は道路の散水自転車が消火栓から水を補給しているところです。

電化製品などもデリバリーしますし、軽いものなら、2トントラック分くらいだって運べます。

重い液体のボトルも運べますし、道路の維持管理も自転車です。

街角で花を売るのもいいかも知れません。もちろんランチなど食品を販売する人もたくさんいます。
最近日本では、宅配便の業者が都市部で電動アシスト自転車とリヤカーを組み合わせて荷物を配送し始めています。一部の都市ではベロタクシーなども走り始めています。でも、上海の様子を見ると、もっとクルマを自転車で代替出来る部分は多いのではないかと思えてきます。
自転車と上手く組み合わせれば、例えば都市の中心部で、一部の大通りを除いてクルマの通行を禁止にしても、意外に物流についても困らないかも知れません。もともと大きな資材を運ぶトラックや、工場や流通センターを結ぶ大型車など、必ずしも都心を通らなくても迂回すれば済む流通もあります。
配送で都市部を走り回るトラックも、その大きな荷室に荷物が満載されているわけではありません。場合によっては自転車でも運べるはずです。多くの道路でクルマやトラックを流入禁止に出来れば、クルマの渋滞による排熱、騒音や排気ガスも大幅に減り、スペースも有効活用出来て都市の環境は大きく向上するでしょう。
上海万博では、「より良い都市、より良い生活」をテーマに、各国のパビリオンが先端技術の展示を競い合っています。でも、より良い都市を実現するのは最先端の技術だけとは限りません。目を向けてみれば、万博会場の外で走りまわっている自転車にも、より良い都市へのヒントが埋もれているのかも知れません。




3対1の快勝で決勝トーナメント進出、見事でした。なんだか大会前とは見違えるように盛り上がってきましたね。
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より強い者が優先という構造
上海を旅してみると、日本の交通事情とは違っていることも多い。
どこかで見たことがある風景
上海を歩くと、どこか懐かしい気がする光景に出会えることもある。
日本との違いをヒントにする
大都市の上海ではクルマが急増しているが郊外は自転車も多い。
臭い物には蓋をする・弱者切り捨て、どこの国でも同じ事でしょう。日本も又然り。腐った国、日本。改めて思う事、歩道の上を自転車が走るなんてどのように考えても常軌を大きく逸脱しているとしか思えない。正に、It's a crazy!!! 日本は、アホだ。
さて、人に言う事を聞かせるモノ・ルールを守らせるモノ、それは法であり罰則。これが無いと人間は言う事を聞かない。全ての人間とは言わないが殆ど大部分の人間がそうであろう。これを言い出すと性善説・性悪説になるが今は無視する。もう一つ、それはインセンティブ。こちらの方が手っ取り早いか。細かい事等今は無視するとして、国が自転車通勤者・自転車を使用して業務をこなしている者に直接インセンティブを出すと言うのであれば、四輪車は間違いなく激減すると思われる。まあ、それ以前にインフラを整備する必要があると思うが。何れにせよ、国が動かなければ何も変わらない。先ず手始めに、官僚や国会議員の連中の公用車を全て廃止するくらいの気持ちが無い限り何年経とうが何も変わっていないと思われる。