6月28日付日本経済新聞の夕刊です。大見出しに「マンション駐輪、大混雑」とあります。「健康・自転車ブームに難問」とも書かれています。少し長いのですが引用します。
自転車ブームで「マンション困った」 足りない駐輪場
健康や環境を意識して自転車に乗る人が増えてきた。そこで浮かび上がってきた問題が、マンションなど集合住宅での駐輪場不足だ。駐輪場に入りきらず、玄関先に放置されたり、廊下などの共有部分に置かれたりする自転車に多くの管理組合が頭を悩ませている。
「これはひどいな」。東京都杉並区のマンションで管理組合の理事をしている男性(42)は最近、駐輪場からあふれている自転車を見て驚いた。玄関ポーチや歩道にざっと数十台。チェーンで歩道の柵に固定したものもある。マンションの景観が悪くなるだけでなく歩行者に迷惑で、近所の住民から苦情が出ていた。
原因は駐輪場の不足だ。もともと37世帯のマンションに27台分しかない。複数の自転車を持っている家族世帯があるし、最近は1人で何台か保有している人がいる。「お気に入りの自転車を駐輪場に置いて、普段乗る『ママチャリ』を外に放置している」と理事の男性は嘆く。
通勤用の高級なスポーツタイプの自転車を部屋の中に持ち込む人がいて、エレベーターや廊下が汚れることを嫌がる住民との間でトラブルになったこともある。
駐輪料金の不公平の声もあるが…
駐輪場に収まらない自転車はマンション内になだれ込む。東京都内にある別の分譲マンションの駐輪場は160台。1世帯に2台分あるが、それでも足りない。自転車を自分のフロアまで運び、廊下に置く住民が現れた。管理組合が注意すると、「駐輪場は空きがない」と反論する。
同マンションの駐輪場の利用料金は月200円。廊下に無料で持ち込まれては正規に支払う人と不公平になる。それでも現状に対応するため昨年、住民総会を開いて緊急時の避難経路の邪魔にならないことなどを条件に「廊下駐輪」を認めた。「敷地内に駐輪場を増設できないので仕方ない」と管理人は複雑な表情だ。
自転車雑誌「サイクリングライフ」の松坂佳彦編集長は「数年前から健康や節約目的で通勤などに自転車を使う人が目立つようになった」と話す。業界の2009年の統計では通勤などに使われるスポーツ車が前年比8%、電動アシスト車は16%増えた。各世帯の2台目、3台目の需要が高まっている。
渋々廊下に/レンタルで解決策探る
月に150円で25台
駐輪場不足を住民が貸自転車を共有して乗り切るマンションが出てきた。横浜市のマンション「ララヒルズ」は3年前に導入した。426世帯で駐輪台数は703台。当時、住民が保有する自転車は900台を超えていた。「玄関ポーチだけでなく、ベランダ部分などに置く人がいて困った」と管理組合の理事長、河内八洲男さんは話す。
災害時に急いで避難するのに邪魔になるほか、建物内に自転車を持ち込むことで壁のタイルがかけたり、廊下に傷がついたりした。そこで管理組合は半分は住民が乗らなくなった自転車を買い取り、残りは新しく購入して25台の貸自転車を用意した。
登録した人は月額150円で利用できる。「月に数回しか乗らないのでレンタルで十分」(40代の男性)という住民が多く、使わない自転車の処分が進んだという。
貸自転車は都心のタワーマンションなどで導入が相次いでいる。三井不動産は03年から、無人の宅配用ロッカーでカギとバッテリーを管理するシステムを採用。電動自転車のレンタルを首都圏の20カ所のマンションに導入した。「都心では十分な駐輪場所を確保するのが難しい」(同社)からだ。駐輪場の有効利用で自転車の保有数を抑える。
マンションからあふれた自転車は歩道に放置されることが多く、自治体でも対応を迫られている。政令指定都市で放置自転車の台数が最多の大阪市は4月、新設マンションなどに駐輪場の設置を義務付ける条例を施行した。
「放置自転車が道をふさいで緊急車両が立ち往生したことがあった」と同市。条例は新築のワンルームマンション1戸につき0.7台分の駐輪場設置を義務付け、そのほかのマンションも1戸につき1台を義務付けた。
管理組合の相談に乗る東京都マンション管理士会の品田政彦副理事長は「駐輪場に入りきらない自転車が乱雑に置かれていると管理ができていないと思われ、マンションの資産価値を下げる恐れがある。『たかが自転車』とあなどることなく、住民は意識を高めていくべきだ」と話す。
ガラガラ駐車場、改修問題ぼっ発
マンションの駐輪場が足りなくなる一方で、マイカーをとめる駐車場は余っている。車の所有者が減っているからだ。とりわけ1980年代から普及した機械式駐車場の存在はマンションにとって頭の痛い問題になりつつある。駐車場の使用料が減って維持管理ができなくなる事例が相次いでいる。
川崎市にある築13年の分譲マンションは昨年の大規模改修の際、3つある機械式駐車場の1つを取り壊し、通常の駐車場に改装した。地上3階、地下1階で25台を収容する機械式の稼働率は70%程度だった。「維持管理費が年間200万円ほど。使われない駐車場は負担になっていた」(管理組合)
機械式駐車場の寿命は二十数年といわれ、多くのマンションが更新時期を迎えている。修繕積立金が足りず、値上げを迫られるマンションも少なくない。特定非営利活動法人(NPO法人)集合住宅管理組合センター(東京・新宿)の常務理事、有馬百江さんは「車に乗らない住民が修繕に負担を強いられたら反発は必至で、これから各地のマンションが直面する問題になる」と指摘する。(日本経済新聞夕刊 2010年6月28日)
駅前の駐輪場の不足や放置自転車の問題はよく報じられます。言わば到着地が混んでいるわけですから、出発地である住宅側でも駐輪場の混雑が起きていても不思議ではありません。自転車の販売も伸びている中で、集合住宅などでの駐輪場不足が、新聞に載るほど一般的になっているということなのでしょう。
集合住宅にしても、個々に見ればいろいろと事情はあると思います。世帯数に対する収容台数の割合が少なかったり、古くて使えない自転車が置かれたままになっているのが問題かも知れません。近隣の交通事情に変化があったり、子供が成長して自転車に乗るようになったなど、住民の年齢構成の変化もあるかも知れません。
スポーツバイクを部屋に持ち込むような、一般から見ればマニアックな人は、あまり駐輪場の不足とは関係ないでしょう。記事にも一部触れられていますが、エレベーターへの持ち込みなどが住民とトラブルになる例はあるとしても、スポーツバイクブームも全部が駐輪場不足の原因とはなりません。
ただ、部屋に持ち込むような人は一部であり、クロスバイクなどを駐輪場にとめている人も多いはずです。通勤などに毎日使う場合は、利便性の面からもそうなるでしょう。電動アシスト自転車も大幅に伸びていますし、全体として自転車ブームで世帯ごとの所有台数が増え、駐輪場不足になっているようです。
もともと日本は日常的に自転車に乗る人が多い国です。その日本で、駐輪場不足が顕在化するのですから、自転車がブームなのは間違いないでしょう。しかし、果たして、単なるブームだけなのでしょうか。海外でも自転車は見直されています。自転車を活用する人が増えているのは、何も日本に限ったことではありません。
もともと自転車先進国とされるヨーロッパの国はもちろんですが、世界各国で自転車が大いに見直され始めています。クルマ大国とされてきたアメリカなどでも、都市によって温度差はあるものの、自転車の活用を進めるため、自治体が自転車レーンなどのインフラ整備に取り組んでいます。
駐輪場の充実についても、踏み込んだ具体策を打ち出すところが増えています。例えば、新しく建てられるビルには駐輪場とシャワーの設置を義務化したり、駐車場を設置する場合には駐輪場の併設を義務づけたり、集合住宅などの駐輪場の設置割合を決めるといった規制が新たに条例化されています。
ちなみに、こうした規制は朝令暮改に改変すれば、大きな不公平につながります。そう簡単には変えられないぶん、新たに規制するのも慎重にならざるを得ません。言いかえれば、議会や行政当局は、この傾向は変わらないと考えているわけで、自転車インフラの充実にかける本気度が測れる政策と言っても過言ではないでしょう。
クルマのほうを一時停止させる、言わば自転車の高速道路の設置を進めるロンドンや、市内全域の自転車交通網として今や有名になったヴェリブを導入したパリなど、本気で取り組んでいる例は多々あります。広く地球温暖化防止対策の一環でもあり、世界では、都市部での自転車の活用は、もはやトレンドと言っても差し支えありません。
ただ日本では、自転車が歩道を通り、太いタイヤで速度の遅いママチャリが圧倒的多数を占めるという特殊な要因があって、多くの人が自転車本来のポテンシャルを理解していないという事情があります。自転車に対する見方が、世界とは異なっているのです。その意味で、日本では独自の展開を見せる可能性はあります。
しかし、日本の自転車ブームの底流にも、やはり世界的なトレンドと同じように、都市部での移動については、クルマから自転車へシフトしている部分があるのではないでしょうか。実は自転車でも都市部に限れば、電車利用と同じくらいの時間で移動でき、あるいは遠くまで行けて、充分交通手段として有効だと気づく人も増えています。
若い人のクルマ離れが言われ、免許を取らない人も増えていると言います。もちろん、不況やガソリン高などの要因もあるでしょうが、クルマ離れは一時的な現象のようには思えません。集合住宅で駐車場が余る一方で、駐輪場が足りなくなっているのは、結果としてクルマから自転車へシフトしつつある証拠のようにも見えます。
環境面の意識もあるでしょうし、健康志向もあるでしょう。自転車に乗ってみたら意外に楽しかったなどということもあるかも知れません。クルマは維持費も高く、渋滞や駐車する場所を探す手間など面倒もあります。自転車で移動出来る部分は、自転車で充分ではないかと多くの人が思い始めているのではないでしょうか。
そうだとするならば、新聞が書くように単なるブームではなく、むしろトレンドとして捉える必要があります。もちろん極端な部分、まさしくブームと言うべき部分はあるとしても、全体をブームとして見て、いつかは終息する、ブームが去ると見ていると判断を誤る可能性があります。
一過性のブームであるなら、今後建設する施設や集合住宅に駐輪場を増やしても無駄になります。わざわざ道路に自転車レーンをつくっても無駄ですから、歩道に色を塗るくらいでいいでしょう。駅前の駐輪場も無理して増やす必要はありません。とりあえず放置自転車を撤去するなど、対処療法を実施すれば充分です。
つまり、単なる自転車ブームという見方が蔓延することで、その底流にあるトレンドを見逃していることが対応を遅らせ、さまざまな面で混乱や問題を拡大させているような気がします。多少の振幅はあるにせよ、自転車の利用が拡大し、インフラの必要性が増していくならば、本腰を入れて抜本的な対策を立てるべきではないでしょうか。
一人ひとりは、たまたま新しい自転車を買っただけ、不況や家計の事情からクルマを手放しただけかも知れません。自転車へシフトするのが世界的なトレンドだなんて意識もしないでしょうし、都市基盤や交通インフラの整備について考えることもないでしょう。
しかし、全体としてみれば、着実に自転車の利用は拡大しています。駐輪場の不足だけでなく、マナーの悪化や歩行者との事故も急増しています。放置自転車の問題も相変わらずあります。ブームという言葉に惑わされず、また海外の事例なども踏まえ、その本質を冷静に判断し、根本的に見直すべき時に来ている気がします。
真面目に取り組んでいる力士もいるわけですから、名古屋場所開催はいいとしても、このまま野球賭博問題の処分だけで終わるのならば、反社会的な組織との癒着の構造は断ち切れず、またいずれ問題が発覚するのは目に見えている気がしますね。
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