菅首相が就任時に掲げた最重点の政策目標は、成長と財政再建の両立です。
日本が過去20年にわたる長期の停滞から脱するために、また、少子高齢化が進む日本において増大する一方の社会保障費をまかなっていくためにも、成長戦略が重要になってくるのは言うまでもありません。一方、ギリシャ危機を受けて先進諸国がいっせいに財政再建を急ぐ中、日本だけが財政悪化を続けるわけにもいきません。
まず景気を回復させ、デフレから脱却して雇用を安定させるためにも成長路線を進めていくべきですが、同時に財政規律に対する市場の信認を確保していかなければならないという難しい舵取りを迫られているわけです。既に税収を上回る規模の国債発行を強いられている財政の窮状を考えれば、容易なことではありません。
歳出に占める義務的な経費も膨らんでいますから、単年度での収支、いわゆるプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化するだけでも大変です。支出を削減しながらも、なんとか効果的な対策を実施し、経済成長を実現するという、全く相反する目標を追求しなければならないわけです。
民主党は、昨年の総選挙の際、無駄を削減すれば財源は出来るとしていました。でも目標には遠く及ばず、財源の確保からして公約違反となっています。今回参院選で菅首相は消費増税に言及していますが、枝野幹事長は、衆院選のマニフェストで約束した事業は、消費税を充てるのではなく無駄の削減で財源を満たすと決意を述べています。
新たに成長路線を推し進めるため、これ以上国債発行を増やせないとするなら、どれだけ無駄を省けるかにかかってきます。国民感情としては、もっと徹底的に無駄をなくして欲しいですが、現実には、そう一朝一夕にいかない部分もあるでしょう。お金がすぐに出て来ないのなら、知恵でカバーするしかありません。
必ずしも大きな予算を投入しなくても、相対的に大きな経済効果が見込める政策はあります。例えば、中国人の訪日ビザの発給要件が今月から大幅に緩和され、潜在的な訪日客層はこれまでの10倍となりました。中国人観光客は欧米人観光客の数倍のお金を日本で使いますから、中国人訪日客の増加が期待されています。
従来からある規制を緩和することによって、新しい需要が生まれたり、新たな産業の発展が促されたり、人々がお金を使うようになったりする可能性はあるでしょう。経済成長を促すための知恵を出し、お金を有効に使って「元気な日本」を復活させるシナリオとして、政府は先月、新成長戦略を閣議決定しています。
菅首相は強い経済、強い財政、強い社会保障の実現を掲げています。そのための新成長戦略として、グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー、ライフ・イノベーションによる健康、ほかにもアジア経済、観光立国、地域活性化、科学・技術・情報通信立国といった項目があがっています。
その具体的な内容も、実にさまざまなものが挙げられていますが、その中の一つとして、国交省が成長戦略会議で打ち出した新たな官民連携の取り組みに、「
道路空間のオープン化」があります。道路空間のオープンカフェならわかりますが、道路のオープン化とは、ちょっと聞いたことがありません。
これまでの言い方だったら、道路空間の民間開放となるでしょうか。言い方を今風にしていますが、要するに公共のインフラである道路空間を一部解放して、民間のビジネスに使ってもらおうという試みです。政府が所有する土地や施設ならわかりますが、道路空間を民間に貸し出すとは、これまでになかった構想です。
道路の上空の空間や高架道路の下のスペースなどを開放することで、新たなビジネスチャンスを創出しようという狙いがあります。しかも、その収益を還元してもらい、道路や橋などの維持管理に充てようという目論見です。今後、公共のインフラが次々と老朽化していく中で、その更新費用の捻出も狙った一石三鳥というわけです。
これまでにも、新設される高速道路などでは、その上下の空間を利用する例はありました。主に公的なものに限られてきたわけですが、これを、既存の道路を含めて民間のビジネスにも開放し、これまで不可能だった用途にも、利用の道を開こうとしています。今回、この方針に基づき、広く国民からプロジェクトの提案を募集しています。
当然、道路法や都市計画法、建築基準法といった規制も関係してくる可能性がありますが、現状の法制度の枠組みを越えた幅広い企画、提案を受け付けるとしています。これによって、今までは考えられなかった道路の利用方法、新しいビジネスが生まれてくる可能性があります。
国交省の例示では、既存の道路の上空や、周辺スペースの活用も想定されています。発表資料には、海外での道路空間の利用例も添付されています。まだまだ構想段階ですが、この取り組みを進めるため、民間からの知恵を借りようというわけです。今月末まで、国土交通省の道路局で受け付けています。
これは興味深い動きです。もしかしたら、自転車の走行環境を改善するような利用の仕方が出てくるかも知れません。私も、これまでに海外のいろいろな構想を取り上げてきました。従来なら、そのままでは到底実現不可能だったものも、現実になる可能性が出てきます。いくつか振り返ってみましょう。
(以下の写真をクリックすると、過去の記事にとびます。)
道路の上空に自転車専用レーンを通すという構想はいろいろありましたが、法的に可能になるかも知れません。今回のようにインフラの整備ではなく、民間のビジネスとして自転車レーンを設置して採算をとるのは難しいでしょうが、建設コストいかんでは、道路の上空空間を利用した自転車有料道路という考え方はあるかも知れません。
今まで、道幅が狭くて、歩行者と自転車を物理的に分離するのが難しかった道路でも、立体的に空間を使えば、理屈の上では自転車レーンも設置可能になります。今回の、道路空間の立体的利用という構想の延長で、事故防止の観点から、自転車インフラにも空間を有効利用するという考え方が出てくれば面白いと思います。
空間を移動する自転車型モノレール“Shweeb”だったら、可能性はあると思います。道路を隔てた高層ビル同士の行き来であれば便利です。高層ビルの高い階を結んで設置するなら、空からの眺めと上空散歩を楽しむアミューズメント施設として料金をとれるかも知れません。
シャワーと駐輪場を備えた自転車ステーションも、大いに可能性があります。道路の利用料にもよりますが、需要はあるはずです。これまで都心の地価の高さから設置が進まなかった場所でも、採算がとれる可能性が出てくるでしょう。自転車通勤を後押しし、環境対策としての意義も小さくないはずです。
自転車キオスク、自転車売店も充分可能性があります。無人のスタンド売店だったら人件費もかからず、スペースも小さくて済みます。日本では、自分でパンク修理する人は少ないので、日本独自のスタイルにならざるを得ませんが、こうしたスタンドが道路脇に出来たら便利です。
ここでは、自転車に関連するものばかり取り上げましたが、当然それ以外のものも考えられます。どんなビジネスのアイディアが提案されるかわかりませんが、都市の生活が便利になったり、日本の道路の風景が劇的に変わったりするかも知れません。何か面白い、画期的なビジネスが出てくることを期待したいものです。
サッカーでの寝不足も、もうすぐ終わりだと思うと、ちょっとさびしいものがありますね。
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