熱中症にならないよう、こまめに水分を補給する必要があるわけですが、炎天下の屋外を歩いている時など、道路脇の飲料の自動販売機がありがたかったりします。街中ならコンビニやカフェもありますが、お店の見当たらない郊外の通りや住宅地などでも、自動販売機だけは道端に置かれていることも少なくありません。
私たち日本人には見慣れた光景ですが、海外では自動販売機は屋内や施設の構内に設置するのが普通です。屋外、ましてや店頭でもない郊外に販売機だけ設置されているなんてありえません。アメリカなども含めた治安のよくない国、特に途上国の人から見れば金庫が道端に置かれていて、持って行って下さいと言わんばかりに見えるようです。

実際、世界の中で日本の自動販売機の国内設置台数は断トツのトップです。売られているものも多様で、とれたての野菜を直売する自動販売機があったり、寺院でお守りまで自動販売機で売られている国は、そうはないでしょう。海外では時々経験しますが、通常はお金を入れて商品が出て来ないことも、まずありません。
自動販売機の起源は古いものの、現代のような電動の販売機を開発したのは20世紀初頭のアメリカです。日本では1960年代後半になってやっと設置され始めたにもかかわらず、今では世界でも群を抜いて多い5百万台以上の自販機が稼働しています。海外へ行くと実感しますが、確かにこんなに自動販売機で溢れている国はありません。
元々は人手を省けるのが自動販売機のメリットだったわけですが、販売員と会話をせずに買えるところが、店員とのコミュニケーションを煩わしいとか、面倒と感じる日本人に合っているという分析もあります。自動販売機を利用する人の男女比は9対1と男性が圧倒的に多いそうなので、特に男性に言えるのかも知れません。

いたるところに設置され、夜間も稼働していて便利な自動販売機ですが、デメリットもあります。自動販売機のうち、およそ半数の250万台が飲料の販売機ですが、この飲料の販売機の消費電力は半端ではなく、1台で普通の一般家庭1軒分に匹敵する電力を消費すると言います。
夏には商品を冷やし、冬には温め、春や秋にはその両方が求められたりします。屋外に設置されているものであれば、外気温との差も大きいですから、さらに電力が必要でしょう。買う人の少ない夜間でも一晩中、24時間保冷・保温されていなければなりません。照明などの部分も含め、日本全国で膨大な電力を使っているわけです。
缶入り飲料はアルミなどの金属を大量に消費しますし、ゴミ問題など社会的なコストも発生させます。派手な色遣いの自動販売機の筺体が、街の美観を損ねるという指摘もあります。特に古い街並みを観光資源として重要視する観光地では問題視されることが多いようです。
一方、街角に自動販売機が設置されていない海外では、飲料は人間が対面で販売することになります。ローマのように辻々にバールと呼ばれる店が軒を並べている街もあります。ニューヨークのように、キオスクのようなスタンド売店やトラックを改造した移動式販売車などが街角ごとに営業していたりするところもあります。


さて、ニューヨークのブルックリンに住む若者、Neal Olson, Peter Castelein, Aaron Davis, の3人はルームメイトで、3人とも自転車好きのサイクリストです。そして、大のコーヒー好きでもあります。彼らが何か自分たちで商売を始めようと思った時、必然的に好きなものが合わさることになりました。

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Kickstand Coffee ”と名付けられたコーヒースタンドは、サイクリスト的マインドにあふれ、可能な限り環境への負荷の低い、いわゆる持続可能な方法、よりベターな方法でコーヒーを提供する店です。自転車で移動出来るよう、折りたたみ式のコーヒースタンドになっています。
それぞれ自転車でけん引する手作りのカート2台は、1台の重さが73キロほどになりますが、これに商売道具が全て収納できます。店を開く場所に着いてセットアップされると、並べたカートに渡されたボードが店のカウンターになる仕組みです。ちなみに、ホットもアイスも1杯2ドル50セントです。

この“ Kickstand ”、いろいろなメディアにも取り上げられて好評のようです。もちろん、他の同業者との競争もあると思いますが、商売道具をトラックではなく自転車にすることで、初期費用が大幅に抑えられるだけでなく、それを特色として「売り」に出来るわけですから、上手いやり方と言えるでしょう。

元々、忙しいニューヨーカーはカフェなどの店に入るより、スタンドでコーヒーを買って歩きながら飲んだりする習慣があるわけですし、大都会ですから、需要も巨大です。若者たちが、将来自分の店を持つことを夢見て、コーヒースタンドから始める例は少なくないに違いありません。
Kickstand Coffee from Brian W. Jones on Vimeo.
日本では、郊外に設置され、さすがにそんなに売れていないだろうと思える飲料の販売機もあります。それでも一般家庭1軒分の消費電力を使い、なお採算が合うわけです。黙って置いておけば儲かるわけですから、飲料だけに限っても250万台もの自動販売機が存在するのも頷けます。

逆に言うと、そのぶん雇用を奪っていることにもなります。若者が少ない資金で起業する機会も阻まれていると言えるでしょう。高度成長期には今と違って人手不足が顕著で、省力化の面からも自動販売機の設置が進んだわけですが、これからは、省エネや景観、雇用創出の面からも、考え直してみる手はあるかも知れません。
私は海外の都市に滞在する時、朝早く起きて、よく街の散歩をします。散歩の途中では、いつも街角のスタンドなどに立ち寄ってコーヒーを飲みます。滞在が長くなると、店主が毎朝笑顔で迎えてくれたり、常連客とも顔なじみになったりします。おしゃべりしながらコーヒーを飲むのもいいものです。
日本でも朝夕の通勤途中や昼飯時など、自動販売機で飲料を買う人は多いことでしょう。しかし自販機では、店主と笑顔であいさつしたり、お客同士でおしゃべりをしたりすることはありません。自動販売機のデメリットは、そんなコミュニケーションを奪ってしまうところにもあるのかも知れません。

遭難や水の事故などが相次いでいます。自然を甘く見て、うっかりした行動をしてしまわないよう、気をつけたいものです。
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もちろんコーヒーは出先でも自分で入れて飲んだっていいわけだ。
お客を虜にする自転車屋さん
自転車屋さんの中にコーヒースタンドが設けてあってもいいだろう。
お金さえ出せば、24時間365日何時でも飲み物(食べ物)が手に入る。日本とは何て幸せな国なんだろう。そして、その状態が当たり前と思ってる日本人は何て愚かなんだろう。自販機は非常に便利な装置だがその反面、日本人から危機意識が時間と共に消えて行く。又、管理人さんも言われている通り、人とのコミュニケーションも。
自販機の消費エネルギーを数値化してそれを自販機に表示させる、又、一本のジュースに掛かっている税金を表示する。目に見えない事を数値化しそれを表示する事により、少しでも自販機が消滅する事を願う。