今年は円高傾向なので、海外旅行へ出かける人も多いかも知れません。やっぱりお盆は帰省してのんびり過ごすという人、国内の避暑地などに出かける人、過ごし方はいろいろだと思います。相変わらず、お盆の期間に休む人が集中して、高速道路は大渋滞、飛行機や鉄道も大混雑になるのは例年通りでしょう。
これがヨーロッパあたりだとバカンスで、夏は1カ月前後の長い休暇をとって出かけるのが慣習になっているという国も少なくありません。ビジネスマンだろうと、商店主だろうと、学生だろうと、皆当たり前の権利としてバカンスに出かけます。夏休みが1ヶ月もあるなんて日本人にとっては、うらやましい習慣です。
短い期間で忙しく観光地巡りをする日本人と違って、バカンスというと地中海沿岸などへ出かけ、のんびりビーチで寝そべって過ごすというイメージがあります。確かに、バカンス中は毎日ビーチで寝そべり、何もしないことこそが最高の贅沢なんだ、というヨーロッパ人は少なくないのでしょう。
そんなイメージがあるのは確かですが、当然のことながら皆が皆、そんな人ばかりではありません。実際には、もっと活動的にマリンスポーツを楽しんだり、山に登ったり、ふだんの生活の中では、なかなか出来ないスポーツや遊び、そして旅行をして過ごすという人もたくさんいます。
リゾート地などの一か所に長期滞在するのがバカンスのイメージですが、これもそうとは限りません。行きたかった場所を巡って、周遊型の旅行をする人も少なくありません。一か所滞在型でなく移動型の旅行も当然人気があり、バカンスの時期にも大勢の人が出かけます。
そんな中、最近ヨーロッパでは自転車旅行の人気が高まっています。バカンスは自転車で旅行しようという人たちが増えているのです。自転車旅行と言っても、昔からあるような、学生がお金がかからないからと自転車を使って野宿しながら放浪するような旅ではありません。
近頃は中高年を中心に、クルマや飛行機、鉄道の代わりに、移動手段に自転車を使う旅行が、ちょっとしたブームになっているそうです。一日にのんびり数十キロずつ、それでもトータルでは何百キロも移動して、ヨーロッパ大陸を縦横無尽に走破するような行程も人気があります。
移動しながら景色を楽しんだり、寄り道をしたり、地元の人と触れ合ったりするのに自転車は持って来いです。初めて自転車旅行をした人にも、クルマと違って、『移動自体が楽しい。』ことが好評だと言います。速すぎず、遅すぎず、自転車で移動することで運動になるという点も人気のポイントです。
ヨーロッパでも自転車がブームで見直されていることも背景にあるようです。特に中高年の人にとっては、自転車が健康にいいという点が大きくアピールしています。身体を動かさず、美味しいものばかり食べて太ってしまうより、美味しいものは食べても、運動をして健康的に、というわけです。
自転車を駅までの短い距離しか使わないという人だとピンとこないかも知れませんが、趣味でスポーツバイクに乗っているような人なら、移動自体が楽しいと、自転車旅行が人気になるというのは、よくわかるところではないかと思います。バカンスで1ヶ月も休めるなら、自分もぜひ出かけたいという人も多いでしょう。
しかし、ここで疑問もわきます。自転車で、そう何日間も旅行するのは大変なのではないかということです。自転車だと荷物はさほど運べません。もちろん中には、ランドナーやキャンピング車と呼ばれるような自転車で、多くの荷物を積んで走行する人もいますが、一部の人に限られます。一般的な人に人気が出るとは思えません。
実は、専門のサービスを提供する旅行会社が存在するのです。旅行者が自転車で次の宿へ向かって走行している間に、クルマで旅行鞄などの荷物を先回りして運んでくれるのです。お客は貴重品や身の回り品、それに飲料や若干の食料などを持つだけで、身軽に出かけられるというわけです。
この、
自転車旅行専門の旅行会社を使うことで、あまり自転車に慣れていない人でも簡単に自転車旅行に出かけられることになります。自転車旅行だからと言って、荷物を減らして、シャツを宿で自分で洗濯したりする必要はありません。普通に旅行するスタイルで出かけられます。
宿泊するのも、普通の旅行者が泊まるホテルです。3つ星4つ星のホテルもあります。ホテル側もこうした傾向を受けて、ホテルの中庭を旅行者の駐輪場に解放しています。中庭ならば、自転車の盗難の心配も減ります。この時期、中庭が大量の自転車で埋めつくされてしまう人気ホテルもあるようです。
個人旅行で荷物の運搬を頼むことも出来ますし、あらかじめコースプランが組まれたツアーに申し込んで、途中の走行だけ各自で自由に楽しむことも出来ます。EU圏とは言え、外国の地理に不慣れな人も多いに違いありません。グループでツアーガイドを雇って出かけたりすることも出来るようになっています。
もちろん、自転車を借りることも可能です。電動アシストもあります。ほかに自転車関連のグッズ貸し出しや保険なども扱っています。そして、イザ途中でパンクなどのトラブルに見舞われたら、電話一本でスタッフが駆けつけてくれるサービスもあります。なるほど、これなら至れり尽くせりです。
自転車にあまり慣れていない人でも気軽に出かけられますし、「いいとこどり」のような形で、自転車旅行の楽しい部分だけ満喫出来るでしょう。これなら人気が出るのも頷けます。自力で全てやる自転車旅行を否定するわけではありませんが、自転車旅行の裾野を広げる効果も見込めるでしょう。
自転車旅行専門の旅行会社の一つ、“
Eurobike”では、この10年で利用者が3倍になる人気だと言います。こうした業者の存在が、自転車旅行人気に拍車をかけているのは間違いありません。自転車が、長距離でも移動できる、充分に実用的な交通手段として認知されているヨーロッパならではのサービスです。
もう一つ、見逃せないことがあります。それはインフラです。ヨーロッパを網羅するように自転車専用道が整備されています。道幅や傾斜などの基準が決められた、誰でも走りやすい高規格の自転車専用道だけでもヨーロッパ全土で6万キロにも及びます。たいていの国の観光地、人気コースは、この専用道だけ使っても行けるほどです。
さらに、もっと網の目のように自転車道が整備されている国もあります。途中で鉄道に自転車を載せて移動することも出来ますし、川を運行している遊覧船やフェリーボートにも、当たり前のように自転車が載せられます。自転車走行に飽きたら、区間によっては、自転車ごと船旅も出来たりするわけです。
もちろん、これらのインフラはバカンスのためだけではありません。ふだんから健康に寄与するだけでなく、温暖化ガスを排出しない移動インフラとして市民からも認知されています。ヨーロッパでもバカンスの時期は、クルマの移動で大渋滞がおこりますが、通常時も含め、渋滞に巻き込まれないで済む移動手段でもあります。
日本に1ヶ月のバカンスを定着させるのは無理かも知れませんが、こうしたインフラ整備を進める手はあると思います。誰でも安全・快適に、自転車で遠距離を移動出来るインフラがあれば、旅行から普段の移動まで、その利用範囲は小さくないはずです。クリーンな交通手段として温暖化ガス対策にも貢献します。
健康に寄与し、事故を減らし、渋滞も回避出来ます。日本の美しい自然の中を旅行出来るインフラとして、海外からも旅行客を集めるかも知れません。インフラが充実すれば、自転車旅行専門業者も出てくるでしょう。誰でも手軽に自転車旅行出来るようになって、今度のお盆の帰省は自転車で、なんて時代が来るかも知れません。
100歳以上のお年寄りの行方不明が連日報道されています。100歳以上の人口が何万人を超えた、おめでたいなどと報道されていたこと自体、おめでたかったのでしょうか。
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逆に、荷物を全て持ったまま自転車で旅行しようと考える人もいる。
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誰でも安全に、日本国内を自転車で旅行できるようになってほしい。
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ドイツでは年間5百万人超の人が宿泊を伴った自転車の旅をする。
自分の人生だと胸を張れるか
自転車旅行と言っても、なかには想像を超えるような旅をする人も。
育児休暇と並んで”自転車旅行休暇”と言ったものが取得できる世の中になって欲しいですね。同時に、日本人の持っている自転車=ママチャリのイメージを払拭する事も必要でしょうね。
町並みをながめながらヴァカンスを楽しむというヨーロッパの文化と日本の自転車事情とのレベルの差を感じずにはいられませんね。仕事をはなれて余生を楽しもうとする父や母には日本の道路は危なくってしょうがないです。自転車は本来とても有意義なツールなのにそれを活かせられないのはもったいないですね。