September 24, 2010

ラップと自転車が惹きつける

世の中に、道を誤ってしまう青少年は少なくありません。


いじめなどで不登校になったり、家出をして非行に走ったり、そのきっかけはいろいろでしょう。何らかの理由で、学校や家庭に居場所がなくなり、深夜の繁華街などで悪い仲間と知り合い、暴力や犯罪、薬物やギャンブルなどに手を染めることになります。

親は、昔はいい子だったのにと言います。なんで、そんな危険な連中と付き合ってしまうのか不思議です。しかし、いじめや家庭内暴力、その他諸々の事情で、学校にも家庭にも居場所を無くした少年にとって、悪い仲間と過ごす場所が自分の「居場所」になってしまうわけです。

おそらく少年も、最初はそうした連中に警戒もするし、悪いことに手を出すのに躊躇もするでしょう。しかし、やがてそうしたグループからも仲間外れにされることを恐れたり、あるいは何かで抜け出せないようにさせられて、悪の道へと引きずり込まれることになるに違いありません。

最初から犯罪の道に入ろうと思っていたわけではないでしょう。しかし、一旦そうした危険なコミュニティに加わり、その中で過ごすようになると、居心地もよくなるのかも知れません。特段、他に興味のあるものが無ければ、グループから抜ける理由もありません。

もちろん、最初から一人で犯罪に走る少年もあるとは思いますが、多くは、周囲の影響が道を誤るきっかけになるものと推察されます。それは、何も日本に限ったことではありません。アメリカでも多くの都市に、そんなグループがたむろする「地区」があり、危険なコミュニティが存在しています。

アメリカの場合は、日本と違う点、すなわち不法移民や貧困の問題、人種や言葉の違い、根強く残る偏見や社会の構造的な問題などもあって、もっと深刻な面もあります。生まれてからずっと、危険なコミュニティと隣り合わせで生きているような子供たちもいます。

Scraper Bike, www.myscraperbike.com
Scraper Bike, www.myscraperbike.com

カリフォルニア州のオークランドも例外ではありません。でも、ここでは危険なコミュニティや、その近辺で生きている少年たちを惹きつけるプロジェクト、“Scraper Bike Project”が大きな効果をあげています。写真にあるような派手な車輪の自転車が“Scraper Bike”です。

“Scraper Bike”の“Scraper”は、クルマの車高を下げたり、オーバーサイズリムと呼ばれる、タイヤに対してホイール部分を不釣り合いに大きくするような改造をする、一種の流行に関する俗語から来ていると言います。日本でも、似たような改造車を一部で見かけます。

Scraper Bike, www.myscraperbike.comScraper Bike, www.myscraperbike.com

何が「カッコイイか」という主観は、国や世代によっても違いますし、文化や流行など、さまざまな要素が影響します。日本人には必ずしも「クール」に見えないかも知れませんが、アメリカの若者には、自転車のカスタムのトレンドとして大きく広がりつつあります。

このプロジェクトは、少年たちに自転車のカスタマイズをさせます。それはアートや表現の題材です。表現することを通して楽しみを与え、創造力を刺激します。同時に仲間をつくり、社会的な関係を持つ機会を提供し、持続可能で環境負荷の低い、健康的な生活スタイルを促すものでもあるのです。

Scraper Bike, www.myscraperbike.comScraper Bike, www.myscraperbike.com

日本人には、ピンと来ない部分もありますが、地域で数百人もの若者を呼び込み、教育的な効果も含めて驚くべき成果を上げています。自転車を改造する活動を通して、環境保護活動に対する啓発にも力を入れ、地元のマスコミや教育機関などからも高く評価されています。


大勢で集まってライドイベントを行い、少年たち自ら地域での暴力行為の終結を宣言したり、銃使用の停止を訴えたりしています。“Scraper Bike”を通して集まった少年たちが、社会的な活動を行うムーブメントにまで発展しているのです。全米から大いに注目されています。



この“Scraper Bike”のムーブメントは、若者の心を捉えています。多くのティーンエイジャーたちに、免許年齢になってもクルマに乗ることをスキップさせ、依然としてぺダリストでいさせるほどの大ヒットです。多くの若者が集まることで、更に同世代の若者を惹きつける好循環が生まれています。

このプロジェクト、地元のラップグループ“Trunk Bois”のメンバー、Baby ChampことTyrone Stevensonさんが20歳の時に立ちあげたと言います。彼は、The Scraper Bike King と呼ばれ、その活動は多くのイベント等でもフィーチャーされ、マスコミにも取り上げられました。Youtubeの視聴回数も数百万回に上っています。



若者に受け入れられる理由として、ラップミュージックも大きな要素でしょう。自転車だけでなく、音楽も青少年に対してアピールするポイントです。自転車カルチャーとヒップホップの融合であり、加えて地域社会や地球環境、持続可能な交通手段を考える活動とも捉えられています。

今後は、自転車をカスタマイズしたり、その修理・整備技術を若者に指導することに特化した自転車ショップを開業することも視野に入れています。青少年に対し、起業家精神を植え付け、文化的なイノベーションを推進することも目標にしています。

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日本の少年犯罪は万引きと共に自転車盗が大きな部分を占め、非行の入口と指摘されています。オークランドでは、自転車が逆に非行防止にも大いに役立っているわけです。このムーブメントは、自転車に興味がなかった若者をも惹きつけ、危険なコミュニティに近づくどころか、社会的な正義にも目覚めさせているのです。

Scraper Bike, www.myscraperbike.comScraper Bike, www.myscraperbike.com

自転車にしろ、ラップにしろ、何か健全な対象と、それを好きな者同士で仲間をつくれる場を、青少年が欲しているのも事実なのでしょう。居場所をなくした少年たちでも、悪いコミュニティなんかより、ずっとクールで楽しい居場所を見つけられる、そんな場があることが重要なのだと思います。

日本で、こうした自転車のカスタマイズに人気が出るかは疑問ですが、何か、興味を持てる場に青少年が集まり、結果として、その健全な育成につながるとしたら素晴らしいことだと思います。日本でも、学校や家庭以外の「居場所」を増やすことを考えるべきなのかも知れません。


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なんだか、スイッチを切ったかのように突然猛暑が終わりました。むしろ肌寒くて、体調を崩しそうなくらいですので用心ですね。

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この記事へのコメント
若者には何か集中できる夢中になるものが必要ですね。自転車はその点奥が深いですから極めるまでかなりの努力と時間が必要ですからチャレンジし甲斐がありますね。
Posted by moumou at September 25, 2010 18:30
moumouさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
夢中になれるものが、必ずしも生産的、実用的でなくてもいいわけですが、非社会的、非道徳的であっては困ります。
そうですね、その気になれば確かに奥が深いと思います。一方、身近にあって、手軽にいろいろ出来るのもいいところですね。
Posted by cycleroad at September 26, 2010 23:28

ああいった活動、なんかいいですね!
悪い道に外れた青少年。私も青少年ですが、悪いことばかりに触れず、こういった活動がいかに良い方向へ導くか。
日本も、何かとチャレンジ精神を大事にしてほしいと思います。
Posted by ウルティニア at September 27, 2010 15:00
深いですねー
居場所云々は自分もそうでしたから気持ちは痛いほど分かります
その居場所が外であろうと中であろうと健全的な場所であれば何も問題ないんですが
どちらも破壊的自滅的な場所も少なくないですからね自身も周りも気をつけなければいけません

自転車もいろいろありますね
最近日本でも有数の規模を誇る自転車屋が少し遠くにある事を知り行ってみたんですがかなりの品数で魅入ってしまいました
カーボン製ホイールを初めて持ったんですが玩具かと思うほど軽くて驚き
144000円の自転車かと思ってよく見たら0が一個多かったり
聞いたこともないメーカーや見たことも無いほど太いタイヤのMTBだったり
自転車の世界は広いですねー
Posted by ジョジョジョ at September 27, 2010 17:25
ウルティニアさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、可能性を延ばしてあげられるような機会が提供出来るといいと思います。
まだ判断力が伴わない未成年が、自らの行為で取り返しのつかない事態に陥らないようサポートするという点も、社会全体からみて重要なことだと思います。
Posted by cycleroad at September 27, 2010 23:14
ジョジョジョさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ちょっとしたコミュニティに属して活動するだけで、大きな支えになることもありますね。
青少年の非行は、治安の維持や、将来的に社会全体の損失となるわけですから、未然に防ぐことの効果は大きいと思います。
そういう観点で、他人のことと思わず、青少年の健全な育成に多くの人が関心を持つことも必要なことだと思います。
そうですね、ある分野だけに絞ってみても、いろいろとマニアックな世界が広がっていますから、広くて「深い」と思います。私も、まだまだ知らないことがたくさんあります。
軽量化の世界などは、特にお金がかかる部分でしょう。
趣味の世界ですから、一般の人が目をむくような自転車もあるわけですが、そうしたものが、最近は、身近なお店でも目にするようになってきた部分がありますね。
Posted by cycleroad at September 27, 2010 23:31
 
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