新しい自転車を生み出す基盤

一般的に自転車は、成熟した商品と言えるでしょう。
もちろんスポーツバイクなどは、毎年新しいモデルが発売されますし、新素材が開発されたり、よりハイテクな技術を投入して性能のアップが図られたりしています。その意味では進化していますし、フレームなどのデザインも、トレンドなどによって変わっていきます。
ただ、相変わらずタイヤは2つですし、金属とゴムで出来ていますし、ハンドルとサドルがあって、ペダルがついていて、大まかに言えば違いは無く、ずっと変わっていません。一般の商品としての自転車は、構造的には、ほぼ完成した製品、成熟した製品だと言ってもいいでしょう。
実際、シティサイクルなどは、例え何年式モデルと分けられていたとしても、細かい部分を除けば、長い間ほとんど変わっていないものも多いと思います。特に日本の自転車の圧倒的大多数を占めているママチャリは、どれも見分けがつかず、いわゆるコモディティ化しています。
しかし、その一方で、相変わらず新しい自転車を生み出そうというエネルギーも満ち溢れています。毎年、世界各地で新しい自転車のデザインを競うコンテストやコンペが開かれています。そうしたコンペを見ると、自転車は成熟しているようで、実はまだまだ進化を模索しているように見えます。
例えば、毎年世界各地で「新しい冷蔵庫」のデザインコンテストが開かれているという話は、聞いたことがありません。もちろん、メーカーは毎年いろいろ工夫して新製品を出しますし、他とは違う機能を打ち出したりしますが、冷蔵庫の開発に携わる人はメーカーと関連会社の人がほとんどでしょう。
自転車の場合は、既存のメーカーの開発者以外にも、新しい自転車をデザインしようとする人が大勢います。成熟した製品なので、新規参入の余地がないかと思えば、新しいアイディアを武器に会社を立ち上げて製品を売り出そうとする人たちも後を絶ちません。毎年数多く開催されるデザインコンペにも、多くの応募があります。
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SEOUL CYCLE DESIGN COMPETITION 2010”もその一つです。プロアマ問わず、自転車の新しいデザインを世界から広く募集したコンペです。優れたデザイン、ユニークなアイディアが少なくありません。その中から、いくつか取り上げてみたいと思います。
シンプルなデザインのこちらが優勝作品です。“Bike 2.0”と銘打たれています。シートチューブにバッテリーを埋め込んだ電動アシスト自転車で、チェーンのないシャフトドライブです。ホイール内にモーターを備え、シフトチェンジも電動で切りかえるようになっています。

フレームが伸び縮みし、サイズをカスタマイズすることも出来ます。メンテナンスフリーの次世代の自転車です。自転車として面白いかどうかは別として、実用性を重視したシティサイクルの進化は、確かに、こうした方向に向かっていきそうにも思えます。

相変わらず、多くの折りたたみ自転車がエントリーしています。まだまだ折りたたみ自転車には、工夫の余地が大きいということなのでしょう。

こちらの作品、荷物を運ぶ3輪車が、そのまま手押しカートにもなるというものです。荷物を運んできて、そのまま台車のように押して建物内へ運ぶという使い方も出来そうです。完成度も高いですし、これは便利そうです。

自転車の荷台や前カゴを、自由に取り付けたり、外したり出来る自転車です。必要に応じて、取り付けるパーツを変えられます。これは面白い発想です。荷物や行き先に応じてパーツを変えられ、ふだん不要なものは外しておけるのも便利でしょう。

日光浴をしに行くのに、パラソルとチェアを収納して運ぶ事が出来る自転車です。日光浴以外にも、木陰で読書をしたり、日だまりで昼寝をしたり出来ます。のんびりくつろぎに行く時用に特化した自転車というわけです。たまには、こんな自転車で出かけるのも楽しそうです。

ハブやスポークのないタイヤのデザインも時々見かけます。普通の自転車を見慣れた目には斬新に映りますが、果たしてどれだけのメリットがあるのかは疑問な気がします。フレームの重量も重くなりそうですし、スピード的にもどうなのでしょうか。

自転車用品もあります。普通、チェーンロックというと頑丈なのがいいわけで、無骨になりがちですが、これはツタを模したチェーンです。防犯性能の点は心もとない気もしますが、遊び心満点、ツタのからまった感じがオシャレです。これは発売されたら人気が出そうな気がします。

こちらのチェーンロックは実用的です。テールランプも兼ねています。どうせ乗っている時は巻いているのなら、テールランプ兼用はリーズナブルです。体積が大きいぶん目立ちますし、後方以外からの視認性にも貢献します。これも人気が出て不思議ではないグッズでしょう。

使わない時に兼用するという点は、これも同じで、チェーンロックの兼用のヘルメットです。とめておく時はヘルメットも必要ないわけで、むしろ持って歩かなくて済むぶん、便利かも知れません。ヘルメットも含めてチェーンをかけて置いておく人もあると思いますが、それなら兼用してしまえというわけです。
今まで自転車店でネクタイを買ったことはありませんが、最近は自転車通勤などで、スーツを着て乗る人も多いでしょうから、リフレクターになるネクタイなら、立派な自転車用品です。もちろん、徒歩の時でも視認性がアップして安全に貢献します。暗い夜道でネクタイだけ浮き上がっていると、ちょっと不気味かも知れませんが..(笑)。

もちろん、中には首をかしげるような作品もあります。こちらは、吹流しのような形状の中にフィルターが装着されていて、街の空気をきれいにするというものです。クルマからの視認性もアップし、街の空気の清掃をすることで、ドライバーの尊敬が得られ、追い抜きにも配慮してもらえるだろうという説明です。
しかし、空気の抵抗が大きすぎて、とても実用になるとは思えません。邪魔ですし、何かに引っかけたら落車の恐れもあって危険です。自転車は道路関連の税金を払っていないからという説明ですが、こんなことをして意味があるとも思えません。自転車に乗らない人の発想でしょう。
こちらは自転車用品ではありませんが、自転車で通るとメロディーが流れる木製の橋です。自転車の重みでバチが動いて、木琴のような音が出る仕組みです。橋でなくても設置は可能でしょう。自転車道に設置すれば、ちょっとした名所になって話題を集められるかも知れません。
こうして見てくると、やはり自転車には進化の余地、新しい製品の生まれる余地がまだまだありそうです。自転車やその活用に新しいアイディアが盛り込まれ、新機軸が提案されることで、自転車の使い方が変わったり、都市の交通や、人々の暮らしが変わる可能性も充分にあると思います。
環境問題がクローズアップされる中、このコンペでも、そのあたりを強調する作品が多数みられます。化石燃料を大量消費する時代が転換期に来ていることも背景にあるのは間違いありません。自転車はトレンドであり、新しいアイディアを盛り込む余地が大きく、デザインし甲斐のある製品でもあるのでしょう。
もちろん、単にデザインに優れていたり、目新しい形だからと言って、すぐに製品になるわけではありません。製品化されても、売れるとは限らないでしょう。しかし、こうしたコンテストがあちこちで開かれ、たくさんの作品が応募され続けていることが、自転車の進化を促していくのは間違いなさそうです。
10月2日と3日、東京の科学技術館で、最新自転車の試乗と自転車文化センターが所蔵する名車を公開するイベントが開催されるそうです。広報の方から連絡をいただきました。私は行かれませんが、興味のある方は、
こちらのリンクをどうぞ。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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こうして見ると、自転車もまだまだ進化が問われるのでしょうね。
より走りやすく、より使いやすく、デザインも多方面から気に入られるものにする。こういったものが進化への道なんでしょうか?
私としては、今の自転車、数年前からあまり変わらない自転車が好きです(ママチャリは別として)
しかし、新しいものというのは、何かと目をひくところがあります。新デザインでも、「ちょっとこれは・・」というものが多いはずです。
やはり、今までの自転車の基本的なものが無ければ自転車とは言えない気がします。
こんばんは!面白くて楽しい自転車が目白押しですね。cycleroadさんはこういう情報をどこで仕入れていらっしゃるのですか?
良いアイデアが目白押しですね!
使えそうなものが多いですね?
早く商品化されることを希望します。
雨の日に警察官が雨合羽着て、警察の帽子の上に雨避けのカバー着けて自転車で走っているのを見ました。市民に自転車に乗る時はヘルメット被りましょうと訴えても、警察官自ら被らないと普及は難しいでしょうね。ここは正式な自転車用警察官ヘルメットが欲しい所です。
白チャリに殆んど荷物乗せているのを見ません。そもそも、白チャリがママチャリスタイルである必要は無いと思います。現場に早く着ける様に、もっとスピードの出るスポーツタイプの自転車が相応しいと思います。
白バイの訓練はよく見掛けますが、白チャリの訓練もさせて、警察官自らがスピードの出る自転車に乗れば道路行政も変わるでしょうか?
軽快車と実用車を合わせてママチャリと言われるのは嫌です。
ツタのチェーンロック、欲しいです!
チェーンロック兼用のヘルメットも面白い!
こういう「装着して楽しい」装備が増えれば違反や事故も減るんじゃないかな〜と思います。
おもしろいですねぇ !!!
自転車は成熟しているようで、実はまだまだ進化を模索しているのが、とてもうれしくなります。
そして、周辺用品を含めて、またそそられます。
遊び心というのも、社会の健全さに大いに貢献すると思います。
うちの財務大臣がどう思うかも楽しみです(笑)。
ウルティニアさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も、自分が乗るスポーツバイク分野に関して、必ずしも不満があるわけではありません。もちろん、今のような自転車が好きでもあります。
ただ単純に、いろいろな用途向けの、いろいろな自転車が提案されていくのが面白いなと思うだけです。
多様な用途で自転車を使っている人の中には、不満を感じている人もあるでしょう。そもそも、自転車の種類はこれだけ多いわけですし、進化の方向はたくさんあってもいいと思います。
例えば、電動アシスト自転車が発明されて、これは便利と自転車に乗り始める人もいれば、その利点は理解しつつも、相変わらずスポーツバイクに乗る人もいる、そんな感じでしょうか。
自転車に新たな進化が必要とか、ある方向に集束していくだろうということを言いたいわけではありません。また、当然そうはならないでしょうね。
moumouさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
こういうのは、見ているだけで面白いですよね。
情報はいろいろです。こういうプログを長年やっていると、いろいろ情報を教えてくださる方も多いんです。
同じ自転車乗りの間で、広く情報を共有したいとか、いつも情報をもらっているので、などと、ご親切に知らせて下さる方もいらっしゃいます。
全て取り上げられるわけではないのですが、moumouさんも、もし何か面白い情報があったら、是非教えてください。
ヨッシーさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
さすが、世界は広いといった感じでしょうか。
売れるかどうかは別として、きっと発売されるモノもあるはずです。
ただ、日本市場が特殊なのか、必ずしも日本に上陸しない場合もあるのが残念なところですね。
ジャムおばさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
欧米には、スポーツバイクに乗って、専用のヘルメットと専用のコスチュームを着る警察官がいる都市もあるのですが、日本は昔からこのスタイルですね。
警察の自転車に対する考えが現れていると言えるのでしょう。自転車の交通ルールをよく知らないのではないかと疑うような場面を見ることもあります。
自転車で細い道までパトロールしたほうが、犯罪の抑止になって有効なのではないかと思う場所もありますが、今はみなパトロールカーが主流になってしまって、自転車による巡回は重視していないのでしょうね。
youshookmeさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
機能重視でないというところが新鮮ですよね。ヘルメットもユニークですし..。
確かに、何かの商品によって、自転車の乗り方が影響されるということもあるかも知れませんね。
七九爺さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
いろんなことを考える人がいるものですよね。私もこういうのを見るのは楽しくて好きなんです。
確かに、遊び心というのはポイントだと思いますね。ただ見慣れた商品だけでは、買う気も起きませんが、ハッとさせたり、目をひくというのも重要な要素でしょう。面白いというだけで、欲しくなってしまうこともあります。
特に女性は、カワイイというだけで財布のヒモがゆるむこともありますからね。
なるほど、経験と人脈ですね。いつも丁寧にありがとうございます。あまりにもアカデミックな雰囲気なので専門の研究家かと思っちゃいました。
moumouさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
いえいえ、経験と言えるほどの経験ではなく、人脈と呼べるほどの人脈ではありません。
単なる趣味で、勝手なことを書いているだけなので、アカデミックなどと言われると困ってしまいます(笑)。
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