
前回は自転車デザインのコンペ作品を取り上げました。
個人的に、こうしたコンペの応募作を眺めるのは好きなのですが、それは単に自転車だからだけではありません。斬新なデザインに触発されたり、思わぬアイディアにハッとするのも面白かったりします。目からウロコが落ちたり、自分の固定観念に気づかされるような発想に触れ、脳が刺激される部分もあります。
未来の自転車のデザインがどうなるかは別として、世界の人々が、どんなことを考えているか知るのも興味深いところです。前回取り上げたのは、ソウルデザイン財団が共催するソウルを冠したデザインコンペなので、当然韓国の作品が多いのですが、世界各国からも多数の作品が集まっています。
韓国以外では、やはりヨーロッパです。イタリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、スペイン、ポルトガル、スイス、オーストリア、ハンガリー、デンマーク、ベルギー、アイルランド、ルーマニア、ブルガリア、セルビア、ポーランド、チェコ、ラトビアとたくさんの国からエントリーがあります。
南北アメリカ大陸からは、アメリカ、カナダ、アルゼンチン、ブラジル、ペルー、グアテマラ、アジアからは、ほかに中国、フィリピン、インドネシア、シンガポール、タイ、マレーシア、そして日本、ほかにもオーストラリア、ニュージーランド、イラン、イスラエル、南アフリカなどからも応募があります。
前回は、そのうち最終選考に残ったものの一部を取り上げたのですが、全体では3千以上の作品の応募があったと言います。自転車の進化とか新機軸といったことは別にして、海外の人がどんなことを考えているのか、折角なので、もう少し取り上げてみたいと思います。

国によっても気候が違い、雨の降り方も違うと思います。でも、降水量が極端に少ないような国を除けば、雨が降った時のことは、誰もが考えるところでしょう。よくあるのは、ピザ屋の配達の原付バイクにも似た、こんな形でしょうか。少し横から雨が降るとお手上げなのが難点です。

電動アシスト機構などを利用して、こんなトライクにフードを取り付けることも考えられます。ただ、重量も増えて小回りがきかなくなりますし、駐輪するときに場所をとるのも悩ましいところです。重いと坂道も大変ですし、モーターが欲しくなって、自転車以外のカテゴリーに向かうことになりそうです。

いろいろなことを考える人がいますが、いまいちという感じです。何か雨天用に画期的なアイディアやデザインが出てこないものでしょうか。もし、軽くて使いやすく、機能的にも優れたアイディアが出てきたら、自転車の使い勝手は飛躍的に向上するに違いありません。

こちら、いちいち橋まで行くのは遠いので、川を渡れたら通勤したりするのに便利、などという場所にはいいかも知れません。まだまだ橋が整備されていない地域もあるでしょうし、いちいち渡し船を待たずに漕ぎ出せます。もちろん、レジャー用としても使えます。

自転車用のヘルメットにも、もっと安全性を求める人があっても不思議ではありません。フルフェイスとまではいきませんが、あごの部分も、それなりにカバーします。言われてみれば、自転車用はキャップ型ばかりですので、違ったタイプがあってもいいかも知れません。
駐輪場などにとめて置くとき、サドルが雨に濡れたり、土ぼこりなどで汚れるのを嫌う人は多いと思います。ちょっとした工夫ですが、これなら服まで汚さずにすみます。いちいちレジ袋なんかを持って行かなくてもいいですし、荷台の上側も濡れないので便利でしょう。

これも誰もが考えそうなアイディアです。手袋を忘れて、寒い思いをすることもありませんし、いちいち持ち歩かなくても済むというわけです。よくあるハンドルカバーと違い、収納できるのがスマートです。ただ、手袋がハンドルバーに固定されているので、イザと言う時に手が外れなくて危険のような気もします。

自転車便やメッセンジャーが、かさばる荷物を抱えて運ばなくてはならないこともあるでしょう。なるべくスピードは落とさずに、多少かさばる荷物でも運べるという自転車があってもいいはずです。郵便配達などにも使えるでしょうし、案外用途は広いかも知れません。

普通の買い物カゴでは、たいして荷物が入りませんが、こちらは大容量です。しかも、荷物のない時にはカゴの部分が収納されているのもスマートです。カゴを広げて荷物を積んだ時には、ハンドルをとられてフラつかないよう、二つの前輪の幅が広がって安定するというのも優れています。

自転車のフレームを、パイプを溶接してつくるのではなく、一枚のパネルのようにしたらどうだろうと考える人は、意外に多いようです。これならプレス機で簡単に製造可能ですし、リサイクルも容易だとしています。デザイン的にも目新しい感じがします。

フレーム部分を面にすることで、もっとデザイン的な自由度が広がると考える人もいます。広告を入れたりすることも出来るでしょう。確かに、自転車のフレームだからと言って、必ずしもダイヤモンドフレームにこだわる必要はありません。

ただ、金属で出来ていても、自転車のフレームは「しなる」ことで衝撃を吸収したり、乗り心地を良くしている部分もあります。そのおかげで疲れにくいということもあります。面状にすると、そのあたりがどうなるのか気になるところです。こちらは、ハンドルが折れてロックになるというアイディアもあります。

パリやロンドンをはじめ、世界各都市で自転車をシェアする試みが始まっています。市内のなるべく多くの場所で自転車を借りたり返したり出来れば便利ですが、そのための拠点を整備するのは大変です。こちらは、それをユニットにして、置くだけで可能にしてしまうというアイディアです。回収や移動も容易です。

最近の電車の車両は、座席の下のスチームが無く、空間となっているデザインのものもあります。こちらは、そのスペースを利用して、自転車を電車に持ち込んで運んでしまおうというアイディアです。あまりタイヤの径は大きく出来ないと思いますが、面白い目の付けどころです。

自転車のシェアリングはいいが、歴史の古い都市など、道が狭くて、なかなか自転車の貸し出し拠点を設置するスペースがないという悩みもあるでしょう。でも、この薄型のパネル型の自転車を使えば、ガードレールや地下鉄の出入り口の壁など、案外設置場所は考えられるかも知れません。

都市を訪れる観光客も自転車が使えれば、便利に移動出来て観光するのもラクという場合があります。しかし、大きな都市で、観光スポットも広範囲に点在していたりすると、移動距離も長くなって大変です。アップダウンもあるなど、全部自転車で移動するには向かない都市もあるわけです。
この作品は、電動カートと自転車を組み合わせることで、それを解決しています。観光スポット間は、バスのような電気自動車に自転車が固定された状態で移動します。観光客は自転車にまたがったまま、観光案内でも聞きながら、ペダルをこがずに連れて行ってもらえます。
スポットについたら、自転車は切り離され、そのエリアは各々自由に自転車で移動して、好きに観光出来るというわけです。次のエリアに向かう時間になったら、また集合します。なるほど、これは面白い発想です。バスによる観光と自転車での観光、それぞれの利点のいいとこどりです。
最近は、観光客の消費が大きな経済効果をもたらすことがクローズアップされ、多くの国や地域で、訪問客の増加に真剣に取り組むようになっています。日本はこの点で大きく遅れているわけですが、こうしたシステムを整備するのも、戦略的に訪問客を増やすための大きな助けになる可能性があるでしょう。
今回のコンペ、優勝したのはイタリアの作品で前回の最初に取り上げました。国はイタリアとなっていますが、実は日本人とイタリア人のデザインチームによるものです。ただ、日本としての応募作は、200近い予備選考の中に2作品だけで、どちらも自転車に取り付けるアクセサリーに関するものでした。
このコンペの選考だけで判断する必要はありませんが、お隣の国のコンペなのに、ヨーロッパの国はもとより、イランやイスラエルなどよりも少ないというのは、少々さびしい感じがします。自転車の台数、乗る人の人数で言えば、日本は間違いなく自転車大国ですが、自転車について考える人は多くないようです。
各作品の説明文などを読んでいると、環境のことを考えたら、これからは間違いなく自転車の有効活用が必要だ、と力の入ったものも少なくありません。それに比べ、日本での自転車は単なる日用品に過ぎず、あまり興味の対象となっていないということなのかも知れません。
日本での自転車の使われ方、都市交通の中での位置付けといったものも影響しているのでしょう。歩道を通らせるような交通政策、あるいは重くて遅い格安のママチャリが市場を席巻している事情も背景にあると思います。自転車に対する考え方、スタンスに、少し世界と温度差があるように思えるのが気になるところです。

最近、各地でちょっと地震が多いのが気になります。これで、たまった地震のエネルギーが分散してくれるならいいんですが..。
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自由な発想から、優れたデザインが生まれて来ることも多いと思う。
共有自転車が生む機能と造形
シェアリングシステム向きの自転車デザインを考えるコンペもある。
実に興味深いですねえ。雨対策の自転車やヘルメットのアイデアも面白いです。自分でも少し考えてみましょうかね。実はSPDペダルで自分の不注意のため骨折してしまいました。もっと安全なビンディングペダルを考案したいですね。