October 06, 2010

理不尽にも奪われてしまう命

見知らぬ人に、突然切りつけられる事件が相次いでいます。


今月4日、神戸で高校2年生が理不尽にも刺されて死亡するという事件が起きました。顔見知りではない人に刺されたと見られています。先月18日にも、東京調布で女子高生が突然首に切りつけられる事件が起きていますし、21日には、大阪の会社員が見ず知らずの男に切り付けられ大怪我を負うなど、事件が相次いでいます。

今年6月、広島のマツダ工場で起きた無差別殺傷事件も、まだ記憶に新しいところですが、先月追送検が行われて、捜査はほぼ終結しました。その犯人に影響を与えた秋葉原通り魔事件は、今月の5日の公判で22回目です。茨城県土浦の連続殺傷事件は今年、自身で控訴を取り下げ、死刑が確定しています。

刺殺事件神戸の事件は、まだ犯人像が明らかでないのでわかりませんが、通り魔殺人や無差別殺傷事件によって、突然、命を奪われた人の恐怖や無念は想像するに余りあります。何の落ち度もない人が、ある日突然、人生を終わらせられてしまう不合理さは、単に不運だけで済ますことが出来ないものがあります。

無差別殺人、あるいは通り魔殺人は、誰もが被害者になる可能性があります。家族や友人、身近な人が巻き込まれるという悲劇が、誰の身にも起こりえるわけです。しかも、殺さた上に誰でもよかったなどと供述されたのでは、死んだ人も浮かばれません。身勝手で憎むべき犯罪であることは論を待ちません。

このような、世の中を震撼させるような事件が、近年増えているように思えますが、さすがにそう頻繁に起こるわけではありません。しかし、よく考えると、もっと頻繁に、かつ身近に、全国各地で不合理な無差別殺人とも言うべき事件は起きています。

高校生の自転車事故増加それは、交通事故です。ある日突然、多くの場合で何の落ち度もない人が、たまたま通りがかっただけで、見ず知らずの人に、無差別に、クルマという凶器によって命を奪われています。たいていは、ドライバーの不注意や無謀な運転などが原因で、理不尽に命を奪われていい理由はないはずです。

もちろん、殺人事件と交通事故を一緒にするわけではありません。一方は明確な殺意をもった殺人ですし、もう一方は、故意に人を殺そうとしたわけではなく、あくまでも事故です。しかし、被害者にとって、ある日突然、見ず知らずの人に、理由も無く理不尽にも殺されてしまうことにはかわりありません。

交通安全を呼びかけあまりに日常茶飯事なので、無差別殺人と違って、世間を震撼させるようなことはありません。しかし、酒酔い運転のクルマにはねられたとか、交差点を青信号で横断中に左折してきた大型車に巻き込まれたとか、横断歩道を渡っている時にひき逃げされたなんていう話が、毎日のように起きています。

事故には間違いありませんが、酒酔いや脇見、信号無視、居眠り、スピードの出し過ぎなど、ドライバーに大きな過失があることも少なくありません。例え殺意はなかったとしても、身勝手な理由で、事故を起こすべくして起こしたような人は、強く糾弾されてしかるべきでしょう。

横断歩道に歩行者が立っていたら、クルマは止まらなくてはなりません。しかし、今どき止まるドライバーがどれだけいるでしょうか。横断歩道を歩いている歩行者を蹴散らさんばかりに強引に右左折したり、狭い道で徒歩や自転車で通っている人の脇、ギリギリを猛スピードで通り抜けるような人も少なくありません。

事故の怖さあわやという経験は、誰にもあるでしょう。まことに無謀で、不注意で身勝手、安全運転の義務や、交通弱者優先どころか、歩行者や自転車を邪魔者扱いし、自分が一番優先されるべきと勘違いしているような不届きモノもいます。捕まりさえしなければ交通ルールも無視し、自分だけは事故を起こさないと思っています。

そんな輩に、理不尽にも尊い命が奪われ、その家族が深い悲しみや苦しみに直面することになります。何人殺しても、事故である限り加害者が死刑になることはありません。最近でこそ危険運転致死罪が出来ましたが適用例は少なく、自転車運転過失致死で7年、それまでは業務上過失致死で5年です。

もちろん警察も取締りを行っています。しかし、相変わらず無謀な運転や不注意なドライバーが絶えることはありません。取締り以外にも打つべき手があるのではないでしょうか。新しく道路を建設したり、拡幅するのも必要ですが、本当は、まず交通事故という悲劇を無くすことに、真っ先に取り組むべきではないでしょうか。

秋の全国交通安全運動いつ殺人マシーンと化すかわからないクルマという不完全な機械は、21世紀になっても、まだそのままで、むしろパワーが増しています。事故が起きるという事実に、社会としても感覚が麻痺しています。技術は飛躍的に進歩していますが、本当はまず第一に人を殺さないようにしなければならないのではないでしょうか。

道路についても同じことが言えます。道路を新設したり、道幅を広げたり、舗装を直したり、騒音防止や街路樹を植えるのも必要ですが、まず、人の命が奪われない道路の構造にしていくほうが、優先順位が高いのではないでしょうか。利便性も大事ですが、道路の構造が、人を不幸にしていないでしょうか。

人身事故の多くが交差点や横断歩道など、クルマと人間が交差する場所で起きるのは自明です。歩行者や自転車が、安全に道路を横断出来るようにすれば、人身事故は大幅に減るに違いありません。立体交差などで、直接交錯しないように出来れば一番ですが、予算的な制約があります。

それならば、HANYOUNG LEEさんという人の考える、“Virtual Wall”のような設備を検討してはどうでしょう。信号のない横断歩道はもちろん、交差点でも信号に加えて、このような装置を取り付けるのです。道路を立体交差などにするよりは、はるかに少ない予算で可能なはずです。

Virtual Wall, www.leehanyoung.com

このバーチャルウォールは、歩行者が横断していることを強調して知らせる装置ですが、道路交通法を改正して、赤信号と同じ扱いにしてはどうでしょうか。現状では、歩行者用信号が青でも、右左折車が横切る可能性があります。その場合でも、このバーチャルウォールが点灯中は横切ってはいけないことにするわけです。

これが有効に機能するならば、横断者がいるのに強引に右左折するような人は排除され、左折巻き込みのような事故も、基本的には起きなくなるはずです。信号と連動して横断者の存在を強調する一方で、横断者が無い時は、それを感知して消灯させることも技術的には可能でしょう。

本来、信号機だけでも、歩行者とクルマが交差しない歩車分離式信号にすることで、安全性は向上します。左折レーンのある交差点なら、歩行者信号が赤になってから、左折を開始させることも可能でしょう。しかし、そんな広い道ばかりではありませんし、歩車分離式信号も、どこでも設置するのが合理的とは言えません。

Virtual Wall, www.leehanyoung.com

横断する歩行者、自転車がある場合に限って点灯するような「仮想壁」があれば、安全を確保しつつ、クルマの流れの阻害も最小限で済みます。夜間や雨天など、歩行者が視認しにくく事故が起きやすい時でも、ドライバーに注意を促し、事故の防止につながるはずです。

本来は、こんな装置が無くても、ドライバーは歩行者の安全、事故の回避を最優先にして細心の注意を払うべきです。でも実際問題として、それが疎かになっており、遵守させることが出来ない以上、何か人間の生命を守るための、具体的、物理的な仕組みが必要なのではないでしょうか。

このレーザー光を横切ったら、ナンバーを読み取るなどして、例え事故にならなくても罰則を課してもいいでしょう。あるいは、クルマのほうでブレーキがかかり、横切れないようにする手もあります。最近は、自動でブレーキをかける技術も聞きますので、充分考えられると思います。

Virtual Wall, www.leehanyoung.com

無差別殺人、通り魔事件などを減らすためには、社会の病理に深くメスを入れることが必要なのでしょう。一方、日常の無差別殺人とも言うべき交通死亡事故も、警察の取り締まりなどだけでは撲滅できない、構造的な部分がどうしてもあります。

交通人身事故を防止するため、歩道や信号の整備なども行われて来ました。しかし、それだけでは足りないこともまた明らかです。事故が起きることに慣れ、それが当たり前になっていないでしょうか。道路の安全性を、さらに向上させるため、もう一段の工夫を考えてみてもいいような気がします。


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亡くなった高校生は、まだ若いのに本当に気の毒で言葉もありません。心よりご冥福をお祈りしたいと思います。

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この記事へのコメント
飲酒運転福岡幼児3人死亡事故の一審判決理由を聞くとがっくりきます。事故直前の細い路地を事故らずに運転出来たから、飲酒による重大な影響が無かったと有りました。これじゃ、裁判所自ら飲酒運転しても大丈夫と言っている様に聞こえます。

 運転免許交付の時に、飲酒運転の怖さを学ばせます。飲酒運転の怖さを認識している人だけに免許を与えれば、危険運転致死傷罪の適用が簡単になると思います。

Posted by ジャムおばさん at October 07, 2010 17:16
こんにちは。また刺激をいただきました。
理不尽、不合理、無謀、不注意。起きて欲しくはない惨事。あえて共通性を探せば、健全な意識や判断の欠如 でしょうか。
社会で共に生きて活動していくために大切なルールや知恵があるはずだけれど、
忘れられ勝ちなもの、ひょっとしたら誤解されているものを、常日頃あるいは必要な時に、想起させ行動を律してくれる
そんな工夫がもっとできれば、悔しさが減らせるかもしれませんね。
人間、正しい知識を共有し染み込ませておくことも、やはり大事だと思います。
Posted by 七九爺 at October 07, 2010 20:16
Virtual Wall と言うのは、面白い発想ですね!

しかしながら、日本では実現が困難でしょう?
価値観とか、生きる哲学みたいなものが、違うんでしょうね?

欧州では、安全上必要とあれば、試行します。
予算が掛かっても、もっと価値が高いものがあると、多くの国民が納得しているんですよね。

Posted by ヨッシー at October 07, 2010 23:20
よく多摩川サイクリングに行くのですが 途中の向ヶ丘遊園近くの府中街道に交差点があります。
以前は 青信号で歩行者と左折車が交差するしくみ(たいていの交差点と同様)で更に強引に右折する車が横断歩道につっこんでくることも多く 歩行者にとって危険を感じる場所でした。
しかも横断する歩行者も多くそのため左折車の停止状態が長、く渋滞のため交差点を通過するのに運転手が15分以上待たされる場所でもありました。
2年ほど前 この交差点が「歩車分離」方式になりました。歩行者は対角線にも渡れますし、自動車が完全に止められているので安全です。
自動車にとっても左折車がスムースに走行できるので渋滞がなくなり 双方にとってメリットのある状況となりました。
大きな通りの交差点は原則「歩車分離」にする方が 歩行者にとっても自動車にとってもメリットが多いように思われます。信号のプログラムを変えるだけですし 投資額は無視できるほど小さいでしょう。
Posted by 隠居@川崎 at October 08, 2010 06:51
信号のない横断歩道でクルマが道を譲らないと、新しく信号が作られたり、歩行者が横断歩道を渡っても車が道を譲ってくれないからといって横断歩道以外のところを渡ったり、クルマのほうが不便で危険な思いをすることに気付かずにいることが不思議です


最近、近所の信号がない横断歩道や交差点に押しボタン信号が取りつけられたり歩者分離信号に切り替わったりして歩行者優先の考えが広まったと思ったら、押しボタンが片側の歩道にしか無いから反対側に回らなければいけなかったり、
斜め横断を禁止してあるため以前より歩行者の横断に時間がかかったりしているのでまだまだクルマ優先の意識が強いみたいです
Posted by 職人気取 at October 08, 2010 21:17
ジャムおばさんさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
バーチャルウォールも、飲酒運転や居眠り運転で、認識できずに突っ込んでくるクルマには効果がないでしょう。
それを回避するには、やはりクルマのほうで、自動でブレーキがかけるなどの仕組みが必要になります。
飲酒運転の怖さを学ばせるのはいいですが、飲酒運転の怖さを認識している人だけに免許を与えると言っても、飲んでしまえば、重々承知している警察官でさえ飲酒運転を起こすのですから、果たして状況が変わるでしょうか。
Posted by cycleroad at October 08, 2010 23:03
七九爺さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、健全な意識や判断が出来なくなるような人が増えている、現代社会の歪みとか社会の病理のようなものが背景にある気がしますね。
そうした健全な精神を思い起こさせるどころか、人間関係や社会生活の中でプレッシャーを与えたり、ストレスを加えたり、強迫観念を増させるような環境になっているのが、現代の社会なのかも知れません。
正しい判断を下せるように知識を共有することは大事だと思いますが、人々のモラルや良識を期待するだけでは、社会の秩序が維持できない、コストのかかる社会になってきているというのも確かかもしれません。
Posted by cycleroad at October 08, 2010 23:15
ヨッシーさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私もユニークだと思います。いちいち踏切のような遮断機を設置するわけにもいきませんから、仮想壁のほうが、かえって現実的と言えるかも知れません。
確かに、日本では、そこまで費用をかけて歩行者の安全を守るということに対して、コンセンサスが得られない可能性があると思います。
おっしゃるように、ヨーロッパなどとは価値観が違うというのもあるでしょうね。
Posted by cycleroad at October 08, 2010 23:23
隠居@川崎さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
歩車分離式信号については、過去の記事で書いたことがありますが、おっしゃるように私も有効だと思います。
単純に言うと、通行時間が減ることになるので、渋滞が増えそうに思えますが、かえって渋滞が解消する場合も多いと言われています。
歩車分離式信号については、ずいぶん前から積極的な導入が求められていて、そうした運動もあるのですが、なかなか進まないという現実があります。
歩行者が多い時間帯が限られていたり、不規則だったりして、歩行者がいないのに、どちらの方向のクルマも止められているという状態に、理解が得られないということがあるのかも知れません。
それならば、バーチャルウォールのような仕組みを考えてもいいような気もします。
Posted by cycleroad at October 08, 2010 23:35
職人気取さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
皆で交通ルールを守るのが、一番コストのかからない方法ですね。おっしゃるように、それが自分たちのためにもなることを理解しない人、自分のことしか考えない身勝手な人が多いということなのでしょう。
バリアフリーの観点からも最近は少しずつ変わってはきているようですが、歩行者に、わざわざ歩道橋を渡って遠回りさせるような交差点もまだまだあります。
そのほうが、社会全体でみれば効率的な場合もあるでしょうが、歩行者優先という考え方から遠いのは間違いありませんね。
Posted by cycleroad at October 08, 2010 23:47
基本は歩車分離なんでしょうね。停滞時間が減って結局は効率が良いようなきがします。
Posted by moumou at October 10, 2010 12:32
moumouさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね。ただ、必ずしも歩行者が多くない交差点もありますから、歩車分離式が、理解されにくい場所もあるかも知れません。
Posted by cycleroad at October 11, 2010 21:12
 
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