通常、社会保障費も防衛費も地方交付税も、教育や公共事業や国債の利払いも、全て国のサイフである一般会計の中でやりくりされるわけですが、それとは別に分けられたサイフが特別会計です。合計ではメインのサイフより大きく、それぞれ所管する省庁が自分たちのサイフのように使っています。
かつて、塩爺こと塩川正十郎元財務相が、「母屋(一般会計)がおかゆをすすっているのに、離れ(特別会計)ではすき焼きを食っている」と言いましたが、このサイフが官僚による利権の温床と指摘されています。一般会計と比べて、その内容がチェックされづらく、大きな無駄が隠れていると見られます。

省庁は無駄など無いと反発していますが、そんなはずがありません。省庁から見れば無駄に見えないだけです。例えば、以前話題になった「私のしごと館」などは、誰が見ても過剰な設備と予算と運営費のわりに、全く役に立っていない無駄のお手本のような事業です。そしてこれは特別会計の、ほんの氷山の一角に過ぎません。
空港整備特別会計もそうです。いわゆる空港特会は、空港の着陸料などの収入を元に空港の整備等を行う勘定ですが、特別会計だったために、全国に100近い空港が出来てしまいました。地域振興のために空港が欲しくなる気持ちは理解できますが、ほとんど全て赤字空港です。黒字は羽田など3つくらいしかありません。
日本全国にくまなく空港が出来てしまった結果、各空港は競合し、利用者は伸びず、路線は赤字となって廃止され、不便になって更に客が減る悪循環です。また、空港を分散して整備してしまった結果、国際便への乗り継ぎに便利な韓国の仁川空港に、日本のハブ空港の座をとられてしまっている有様です。

別のサイフをいいことに、空港をつくり続けた結果、定期便の少ない閑散とした空港の山が築かれ、地方財政を圧迫するお荷物になっています。着陸料は航空会社の払うものですが、結局は利用者に転嫁されるわけで、多くの国民が航空機を利用する近年では、言わば税金のようなものです。
航空機の燃料税などの形で、一般会計に入った歳入も空港特会にそのまま支出されていますし、特別会計も我々の税金には違いありません。税収の不足で社会保障費などは削られても、特会という別会計になっている無駄な空港整備は削られることはなく、膨大な無駄が止まらないというわけです。
さて、特別会計の中にはいろいろありますが、先日、蓮舫行政刷新担当大臣が視察したことで、高規格堤防、いわゆるスーパー堤防も、無駄の象徴としてやり玉にあがっています。この堤防の整備は、利根川、荒川、多摩川、淀川など首都圏と関西圏の6河川が対象です。
これらの大きな河川の河川敷にあるサイクリングロードを走っている人は、スーパー堤防と聞いて、あの広々とした河川敷のある堤防のことかと思うかも知れませんが、ちょっと違います。スーパー堤防は、河川敷側は同じですが、堤防の市街地側に設けられる構造のことです。

河川に接する市街地を、川から数百メートルの幅で盛り土をして、とてつもなく幅の広い堤防にしてしまおうというものなのです。堤防に接する地域を町ごと「かさ上げ」してしまうという遠大な計画です。これによって堤防の強度をあげ、決壊しないようにするというわけです。
数百メートルの幅で地域の再開発が必要になります。用地は買収せず、盛り土をしたら、また元の所有者が利用できますが、何年も仮住まいが必要になりますし、そう簡単には工事が進みません。87年から事業が進められていますが、約872キロの整備計画のうち完成したのは6%弱、50キロほどに過ぎません。
整備が完了するのに、最低4百年、一説には千年かかると言われています。もちろん、とてつもない資金が必要になります。しかし、全て完成しないと堤防としての意味はありません。これでは、蓮舫大臣でなくても、「意味ないんじゃないですか?」と言いたくなります。もちろん多くの識者が無駄だと指摘しています。
洪水の甚大な被害を防ぎ、国民の命を救う、こうした国家百年の計は、目先の利害にとらわれるべきでないと言われれば、そんな気もしてしまいます。しかし、400年も経てば世界も大きく変わっていることでしょう。それまでの備えをどうするかという点も含め、疑問と言わざるを得ません。
スーパー堤防を1キロつくるのに約140億かかるそうです。そのかわり、3万2千年に1度の大雨に耐えうると言います。バブル時代の立案だけあって、官僚は、たいそう長期的な視野で考えてくれたようですが、逆に言うと、この財政の厳しい折ですから、そんな話は3万1千6百年くらい後回しにしてほしいものです。
専門家は、治水対策としても疑問を呈しています。はるかに安く済む方法がいくらでもあると言います。実際、そうした方法で、現状の堤防を強化するような工事も行われています。やはり、特別会計を隠れ蓑に利権や癒着、そして壮大なムダが埋め込まれた事業と言えるでしょう。
スーパー堤防のような社会資本整備以外にも、年金やエネルギーなど、さまざまな分野に特別会計があります。どれも大きな無駄が指摘されながら、今までなかなか手がつけられてこなかった部分です。特別会計の事業仕分けで、そこに巣食う既得権に鋭く切り込み、無駄が削減されることを期待したいところです。
ちなみに、個人的には、スーパー堤防の数千分の一の予算でもいいですから、今の河川敷のサイクリングロードの整備に使って欲しいものだと思います。現在ある堤防の補強で、はるかに安く、また十分に効果が上がるのなら、余った分の、ごく僅かでいいからまわしてもらえないものでしょうか。
現在の河川敷のサイクリングロードは自歩道と同じ、すなわち自転車も通れる歩道のような扱いとなっているところが多いと思います。例え自転車専用だったとしても、川沿いの堤防の上の道は見晴らしも良く、散歩にもってこいですから、歩行者も通ることになるでしょう。ペットの散歩なんかも多いかも知れません。
サイクリングロードだと思ってスピードを出している自転車と歩行者とが混在すれば、重大な事故も起きます。実際、死亡事故も起きています。管理する自治体は、サイクリングロードにペイントしたり、ハンプを設けてスピードを抑制しようとするなど、その対応に苦慮しています。

河川敷の道がどういう扱いであるにせよ、歩行者がいるのにスピードを出して事故をおこせば、自転車の過失が問われるのは間違いありません。しかし、危険なスピードを出す人は後を絶たず、危ない状態が解消されているとは言えない状況です。やはり、ここでも自転車と歩行者は分離すべきです。
自治体には、歩行者と自転車を分離するため自転車道を新設するような予算はないと言います。確かに、自治体の事業の中での優先順位は低いでしょう。出来ることならスーパー堤防を仕分けして残った予算の一部で、歩行者と分離した自転車専用道、サイクリングロードを整備してほしいものです。
堤防の上は幅が足りないということであれば、堤防の上でなく河川敷でもかまいません。自転車は風の強い堤防上でないほうが、むしろいいかも知れません。スーパー堤防に比べれば、微々たる予算でも整備出来ると思います。400年後の安心も必要かも知れませんが、今の市民の安全を考えてもいいはずです。
国交省は、地球温暖化で今までにないような大洪水が起きる可能性があるとして、スーパー堤防の必要性を主張しているようです。もう一つ私が思うのは、それを言うなら、昨今増えているゲリラ豪雨の被害の対応のほうが急がれるのではないかということです。むしろ、もっと小さな河川の対策のほうが急務に思えます。
これについては、面白いアイディアを見つけました。下の
画像のような装置を堤防に取り付けるというものです。川の増水時には、水平の部分が立ち上がって堤防が高くなります。しかも、電動や油圧式などではなく、増水すれば浮力によって立ち上がるので、動力が不要なのです。
ふだんは、川沿いの道として機能します。従来からある、地上の川沿いの道幅を増やすのは困難でしょう。でも、これならば、川沿いの道幅を増やすのと同じです。歩道と自転車道を分離するのにも使えるのではないでしょうか。もちろん増水時には使えませんが、大雨の時ぐらい使えなくても問題ないと思います。
このシステム、土木工学的に果たして実用的なのか、専門家ではないのでよくわかりません。しかし、こうした堤防の延長も、何年かに1度しか使われないとするならば、ふだんは別の用途に使うという考え方は合理的です。まともに堤防を高くするのと比べ、視界を遮らず、鬱陶しくないのも利点です。
納税者と違い、税金を使うだけの官僚にしてみれば、スーパー堤防のような長大な建造物をつくりたくなるのでしょう。しかし、現実的で無駄を少なくするためにも、また防災だけでなく、他の課題にも併せて柔軟に対応出来るようにするためにも、資金の用途を限定する特別会計は見直すべきだと思います。

日本シリーズ1、2戦の地上波の全国放送はないそうです。野球人気の凋落ということなのでしょうかね。
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