November 17, 2010

ふだん使うために必要な要素

先日、とあるショッピングセンターに立ち寄りました。


買い物を済ませた後、家人が他の店を見る間、フードコートでお茶を飲みながら待つことにしました。コーヒーを買って窓際の席に座ると、ちょうど大きな駐輪場が見える場所です。大型のショッピングセンターで、人の多い時間帯なこともあってか、ひっきりなしに人が駐輪場から出入りしています。

見るともなしに見ていると、実にたくさんの荷物を自転車に載せている人が目につきます。たまたま特売日だったのかも知れませんが、前後のカゴに荷物を載せ、なかにはハンドルにまで買い物袋を提げていたりします。幼児を乗せた上に荷物を満載していたり、フラついて危なっかしい人もいます。

いわゆるママチャリのことを買い物自転車と呼ぶ人がいますが、まさにその通り、買い物の荷物を運ぶための自転車といった感じです。他の用事にも使うのでしょうが、ここでは、手では持ち切れないくらいの荷物を運ぶために自転車がある感じです。もちろん、初めて見るわけではありませんが、あらためてそう感じます。

ママチャリ



最近の食料品や日用品の流通形態を考えれば、それも仕方ないのでしょう。米は10キロの袋のほうが割安ですし、ペットボトルの飲料だって大きなほうが割安です。安売りしている時にまとめ買いしたくなるのもわかります。昔のように牛乳配達してもらっている人も少ないに違いありません。

トイレットペーパーだって、1ロールずつ買う人は少ないでしょう。いや、売っていないかも知れません。ティッシュペーパーだって、何箱もまとめて売っていますから、軽いとは言ってもかさばります。何であっても、まとめ売りが当たり前、あるいはお得となれば、いきおい荷物も増えることになります。

しかし、普通のママチャリは、そんなに多量の荷物を運ぶのには適していません。前カゴに収まるくらいの荷物ならともかく、近頃の買い物の荷物量には対応できないというのが実際のところではないでしょうか。載せられたとしても、安定して走行出来るような状態ではないでしょう。

本当は、子供を乗せるのにもママチャリは適していると言えません。事実、子供を乗せて停めた状態から自転車が転倒し、子供が大怪我を負うケースが頻発していると言います。幼児にヘルメットを着用させる努力義務が親に課せられたのも、そうした経緯があります。

カーゴバイクカーゴバイク

安全の面から考えるのであれば、ヨーロッパの国々ではポピュラーなカーゴバイクや、専用の子供乗せ用の自転車に乗せたほうがいいのは明らかです。(下の関連記事参照。)多くは3輪ですし、子供を乗せる高さも低く、安定して走行できるので安全性も高くなります。

多量の荷物を載せることが多い場合にも、カーゴバイクのような自転車が使えれば理想的ですが、日本ではそうもいかないのが現実です。歩道走行が当たり前のようになっている中、多くのカーゴバイクは法令上の普通自転車の枠におさまらないので歩道走行は出来ません。駐輪などでも場所をとって困るでしょう。

荷物を運ぶ時だけ連結すればいい自転車用のトレイラーもあります。ある面で便利ですが、やはり歩道走行は出来ませんし、長さも長くなるので、なかなか日本の道路事情で日常的に使うのには難しいものがあります。保管に場所をとるという点でも同じでしょう。

そんな日本の道路事情にこそ適しているのではないかと思える自転車を、 Christophe Machet さんというフランスのデザイナーがつくっています。“Camioncyclette”と名付けられています。カミオン自転車ですから、トラック自転車、あるいは運搬自転車とでも訳せばいいでしょうか。

Camioncyclette, www.christophemachet.com

この自転車、まるでカゴでフレームをつくってしまったような形をしています。カゴにタイヤが装着され、ハンドルやサドル、ペダルをつけたような格好です。カゴとフレームが一体どころか、カゴそのものをフレームにしたかのような自転車です。

スーパーの店内用のショッピングカートを自転車に改良したように見えなくもありません。確かに、これなら安定してモノが運べそうです。ユニークですが実用性は高く、大きさは普通の自転車と同じくらいですが、なんと150キロもの荷物を運べると言います。

フランスのデザイナーの作品のわりには、見た目が不格好と感じる人もあるでしょう。確かにスポーツバイクのような洗練されたデザインとは言えません。しかし、よく見るとなかなか工夫されています。これまで、フレームとは別だったカゴを一体化するというのは、なかなか出来そうで出来ない発想です。

Camioncyclette, www.christophemachet.comCamioncyclette, www.christophemachet.com

クルマでいえば、シャシー(車台)にボディを乗せる昔の方式に対して、シャシーとフレームが一体となった、現在のスケルトンとかモノコックと呼ばれる方式との違いのようなものでしょうか。カゴまでフレームと一体なので、カゴが荷物の重さでブレたりせず、荷物とフレームが一体化し、安定した走行が出来ます。

径の小さいタイヤで重心を下げ、内装式の変速機を採用、ブレーキはディスクブレーキにして強化しています。ハンドルと前カゴは連動しないため、ハンドルを切った状態になってもカゴが傾かないのも優れている部分でしょう。スタンドはセンタースタンドを採用しています。

これならば、ボトル飲料を配達するのにも使えそうですし、子供だって乗せられます。法律違反ですが、重量的には大人だって可能です。日本では少ないと思いますが、写真にあるように、チェーンソーを積んで、山へ行って薪にする木を切り出してくるのにも便利でしょう(笑)。

Camioncyclette, www.christophemachet.comCamioncyclette, www.christophemachet.com

それでいて、普通の自転車に前カゴをつけ、後ろの荷台にカゴを載せた場合と変わらない車幅です。野暮ったい外観なのは否めませんが、きわめて実用的です。下手にスタイリッシュっぽく見せているぶん荷物が積めず、使い勝手の悪いママチャリなどより、よっぽど優れたデザインと言えるのではないでしょうか。

重い荷物やたくさんの荷物を積むことが多いなら、きわめて現実的な選択肢です。今のところコンセプトモデルに過ぎませんが、市販されてもおかしくありません。まさに日本でこそ、その真価を発揮しそうな形であり、こうした自転車が、日本以外の国でデザインされたのが残念なくらいです。

日本のメーカーは何をやっているのかという話かもしれません。ママチャリは海外の格安製品に押され、開発費の投入は難しいのかも知れませんが、大きな潜在市場が眠っているかも知れないのに、フレームをカゴにしてしまうような斬新な発想が生まれてこないのが残念です。

Camioncyclette, www.christophemachet.com

格安の輸入品の影響もあって、日本では自転車の大多数がママチャリという状態です。ママチャリが便利な場合も多いと思いますが、実際には、もっと多様なニーズがママチャリの中に埋もれてしまっているに違いありません。ほとんどみな同じ形のママチャリばかりなのは、むしろ不自然ではないでしょうか。

運転しない人や、渋滞を避けるのが理由の人もいると思いますが、荷物が多くてもクルマを使わずに自転車を使う人が多いのはいいことだと思います。環境のことを考えても、普段の買い物くらいは自転車で済ませられるように、もっと荷物運搬をしやすくする自転車が出てきてもいいような気がします。


             iTunes Store(Japan)


また愚かな法務大臣がいたものです。ジョークにすらなっておらず、周囲も凍りついていたようです。よっぽど大臣になれたのが嬉しかったのでしょうけど、国会議員のレベルの低さに呆れますね。

関連記事

デル株式会社3輪にすると広がる使いみち
ヨーロッパでは、荷物を運ぶ為の自転車が当然のように使われる。

日本に足りない自転車の種類
二輪で、荷物を運びやすいよう設計されている自転車も存在する。

一度リセットしたほうがいい
子供を乗せるための専用設計の自転車は安全面にも優れている。

自転車で運べる物運べない物
実は自転車でも、もっとたくさんのものが運べるに違いないと思う。


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この記事へのコメント
乗り物は重心位置が低いほど走行中の安定度が増すのは常識ですが
なぜミニベロが子供乗せ自転車や買い物自転車として利用されないのか不思議に思っています。
日本で売られている子供乗せ自転車や籠がついたママチャリはほぼ全て26-27インチの
大径車輪のものですが、ロードバイクなどのように高速あるいは長距離を走行する目的でもないのに
大径車輪には利点があるように思えません。

小径のミニベロをベースにすれば、重心が下がりより安定し、また転倒した際の子供への
ダメージも相対的に小さくなります。
もう一点の不可思議は なぜ前輪に荷重がかかるような籠あるいはチャイルドシートなのか
と言う点です。ハンドルに荷重がかかるとふらつきやすく 転倒しがちで その際の立て直しも
やっかいです。

ジャイアントやルイガノのミニベロで籠がついたもの、あるいは籠を取り付けるキャリアが
ついたものがありますが、これがなかなか優れもので 加重は前輪ではなくて フレームに
かかるようになっています(実際にはヘッドチューブに取り付けられている) 。キックスタンドで
駐輪中に籠を押し下げるように荷重をかけてみても安定しているのです。
前輪に荷重がかかる籠に重たい荷物を入れると キックスタンドでは自転車は倒れようとします。
低速走行でも同様です。フレームに荷重がかかれば格段に安定してます。
この点に関しても国内自転車メーカーは思慮がありません。 まあ 優秀な人材は自転車メーカーには
あまり就職しないのかも知れませんが....
Posted by 隠居@川崎 at November 18, 2010 20:10
多様性を大切にする時代、目的別に特化した自転車も楽しいですね。
通勤快走、荷物運搬、幼児送迎、長距離散策、輪行、スポーツ走行。それぞれに相応しい自転車があるはずですが、ママチャリで強引に済ませてしまう文化から開放されるのは簡単でなさそうです。目的別の自転車を導入するためには、事業仕分けを何度もくぐらねばなりませぬ(笑)。まあ、クルマはミニバン1台で満足できるのに、自転車になると一人一台どころか目的別にまで展開するのは無理があるかしらん。けどそれが、ふだん使いのクルマ削減と安全性向上につながるのならば、とても良いことだと思うんですけどね。
レベルの高い為政者が現れ、ルール整頓、インフラ整備とあいまって、自転車文化革命が好循環をもたらしますように。
Posted by 七九爺 at November 18, 2010 21:42
確かに大口径車は重心的に危ないですよね。荷物を積むならミニベロが最適かもしれないですね。
Posted by moumou at November 18, 2010 22:22
隠居@川崎さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私も、業界の事情に詳しいわけではありませんが、やはりコストを優先する面があるのかも知れませんね。
つまり、量産されるママチャリタイプをベースにしたほうが安く出来るといった事情があるのではないでしょうか。
ユーザーも、あまりこだわらずに安いものを買うといった面があるのかも知れません。
確かに、日本で一般的なスタイルながらも、安全性に配慮した製品はありますね。
しかし、そうなると、どうしても価格が割高になってしまうので、売れないという面もあるのではないでしょうか。
メーカーも、ある程度価格を優先せざるを得ないですし、格安な輸入品と、それをベースにした自転車が売れ筋、中心になってしまっている面があるのでしょう。
別にメーカーを擁護するつもりはありませんが、せっかく安全性に優れた製品をつくっても、やはり売れないとなると、国内メーカーも商品展開しにくいのかも知れませんね。
Posted by cycleroad at November 19, 2010 22:28
七九爺さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、用途別にいろいろな自転車をそろえるのには無理があると思います。
でも、例えば、買い物の利便性が一番優先される人であれば、それに適した自転車を買って、他の用途にも使うという選択はあるでしょう。
どの用途にも無難なかわりに、どの用途にも中途半端な自転車を買うという選択肢ばかりでなく、一番使う用途を優先した自転車を買うという選択肢もあるかと思います。
安さだけを優先すると、どうしても格安ママチャリになってしまいますが、画一化したママチャリばかりの商品展開に満足することなく、もう少し、ユーザーも使い勝手を優先するようになると、自転車も多様化していくような気がします。
複数台持つのは容易ではないですが、もっといろいろな選び方が出てくれば、一台でも人それぞれ、もう少し違った自転車になってくるのではないでしょうか。
Posted by cycleroad at November 19, 2010 22:40
moumouさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうですね、荷物を運ぶ時に安定するよう、小径にするというデザインはよくあります。
ただ、普通のタイヤであっても、フレームの形によっては低重心のものも出来ると思いますし、走行性能との両立も可能かも知れません。
Posted by cycleroad at November 19, 2010 22:46
こんにちはです。

安定性を求めるなら、上で書かれているように小軽車で重心を低く〜が基本ですよね。

自分は荷物用の自転車と聞くと最初に
http://store.shopping.yahoo.co.jp/charinko/tr-203fn.html
こういうよくお婆ちゃんの乗っている自転車を思い浮かべました。
日常使う分であれば、これで十分な気もしますが、特殊な用途(重量物・人を運ぶ)であるのならば、それぞれの方向に発展していくことが望ましいです。
ただ、そのためには自転車用の道路を整備していくことも必要なんですけどね。
Posted by ろい at November 20, 2010 16:42
ろいさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
後ろ2輪の3輪車、時々見ますね。荷物を安定して運ぶという点で言えば、当然、昔ながらの、この3輪車という選択肢もあると思います。もっと使う人がいてもよさそうなものです。
ただ、3輪だと駐輪にも場所をとりますし、どうしても遅くて重たいイメージもあったりするのでしょうね。そして、何より値段が高いのが難点でしょう。
高齢の方は別として、買い物に使う自転車として、選択されることが少ないのは確かですから、やはり何かの理由があるのでしょう。
もっと荷物を運びやすく、多くの人に支持されるような自転車が出てきても良さそうなものですね。
Posted by cycleroad at November 20, 2010 22:11
運搬自転車なら porteur というカテゴリーが既にあります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Porteur_bicycle
Posted by 横着サイクリスト at November 22, 2010 15:37
横着サイクリストさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、運搬用の自転車には、いろいろなタイプが既にありますね。
ママチャリばかりでなく、運ぶものや生活スタイル、使い方によって、もう少しバラエティが出てきてもいいような気がします。
Posted by cycleroad at November 22, 2010 23:04
結構かっこいい自転車に思えます。
実用性とデザインを楽しんでつくる、フランスらしいものだと思います。
フランスでは、ブランドものより自分にあった個性的なものをより好みます。
ユニークを価値基準にしているので、既存の枠にとらわれないものが数々生まれます。
シトローエンやTGV、SNCF等のデザインに多いと思います。
安全性や機能性も高めるようにも考えてあるのですから、素晴らしいの一言です。
色遣いの黄色も綺麗です。
ポチ
Posted by 4288 at November 23, 2010 20:07
4288さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
なるほど、フランスっぽいのかも知れませんね。
なんとなく野暮ったく見える気もしますが、そのあたりも個性的ということなのでしょうか。
もちろん、デザインばかりが先鋭化すると、実用的でないものが出来上がってしまうのは、往々にしてあることだとは思います。
まだコンセプトモデルの段階のようですが、フランス人のセンス、実用感覚ですから、フランス人には受けるかも知れないですね。

Posted by cycleroad at November 24, 2010 23:33
低重心の自転車は安定だという意見が多いのですが、クランク位置を移動し究極的までに重心を下げた自転車、リカンベントがあります。

乗ってみるとわかるのですが、低重心にするとロールスピードが上がります。ハンドルを切った時に車体が倒れる速度が速いので、それをメリットとして捉えるとキビキビとした動き、デメリットとして捉えると過敏な動きとなります。

高速走行時にはホイールのジャイロ効果でハンドルが重いのでクイックなハンドリングは有利なのですが、低速時にはハンドルが過敏すぎてかなり不安定になります。

リカンベントでも背の低いタイプと背の高いタイプがあり、乗り比べるとこのロールスピードの違いは顕著にわかります。そこからさらに普通の自転車に乗り換えると、なんて安定なんだと感動すら覚えます。

こういう経験を踏まえると、皆さんの低重心の自転車は良いという意見には賛同しかねます。
Posted by 低重心の自転車 at December 25, 2016 11:05
重心が下がると、上がるのは操作性だと思います。

絶対に倒れない4輪車にとっては、操作性は上であればあるほどよいでしょう。しかし転倒してしまう2輪車にとっては良すぎる操作性は不安定要素となります。
荷物満載して操作が非常に重くなったら、重心を下げて操作性を上げるのは良いと思います。しかし荷物を載せない状態では良くなりすぎた操作性が走行中に転倒しやすいという非常に大きなデメリットとして出てきます。

このデメリットの存在が、小径の買い物自転車などが出てこない理由だと思いますね
Posted by 低重心の自転車 at December 25, 2016 11:51
低重心の自転車さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
低重心がすなわち安定だと単純に言えないことについては、私も同意します。
たしかに操作性の問題もあります。例えば自転車をごく低速で走らせようとすると、自然とサドルから腰を上げ、ペダルの上に立ってバランスをとろうとします。
自転車と身体のトータルでは重心が上がるわけですが、そのほうがバランスを取りやすくなることが実感としてわかっているからでしょう。
静止物と違って、車輪がある動体の場合は、いろいろな要素が関わってきますし、リカンベントと普通の自転車ではまた違ってくるでしょう。
必ずしも低重心の自転車がいいとは私も思っていません。
Posted by cycleroad at December 26, 2016 23:42
 
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