得してるようで損をしている
とある都市近郊に住む人の日記..。
某月某日
会社の帰り、駅についたら自転車が消えていた。おそらく、放置自転車として撤去されたものと思われる。仕方ないのでタクシーで帰る。返還の手続きは午後7時までだが、到底平日には間に合う時間ではない。頼んだ覚えはないが、移送手数料という名目で4千円もとられるらしい。罰金の意味で高いのだろう。
当分取りにいけそうにないが、その間不便だ。近所のホームセンターでも1万円そこそこで売っているのを見たことがあるし、特売の時はもっと安い。通販で買えば、さらに安いものもある。ネットオークションという手もある。中古で良ければ、移送手数料と同じか、下手すると安く手に入るかも知れない。
考えてみれば、わざわざ取りに行って4千円払うのもバカバカしい。知人の住む街の2倍以上というのも癪だ。いつだったか取りに行ったことがあるが、無愛想な職員が非難するような態度で実に不愉快だった。取りに行くまでのことを考えると、新しく買ってしまったほうが安いくらいだ。保管場所も遠いし面倒だ。
駅前の駐輪場は年一回の抽選だし、まだ先だ。他の駐輪場は遠くて不便だから、駅前に適当にとめるしかない。当然、また撤去されるかも知れないから、安いもので十分だろう。ちょうど錆びてきて、乗り心地も悪いから、買い替えるいい機会だ。あの自転車に愛着があるわけでもない..。
日記は架空ですが、おそらくこんな人は多いに違いありません。放置自転車は全国的な社会問題ですし、撤去される数も、日本全体では毎日相当の数に上るものと思われます。もっと手数料が高かったり、受付時間がもっと早く終わる所もあって、実際、撤去・移送しても保管場所へ取りに来ない人は多いと言います。
撤去しても撤去しても放置される、いたちごっこです。期限を過ぎても取りに来ない自転車は処分されるわけですが、それにも費用がかかります。途上国に無料で進呈するにも送料などがかかります。まだ使えるので廃棄するのも勿体ないと中古として安く再販する自治体もありますが、それがまた放置につながりかねません。
各自治体ごと移送手数料にも大きな差があります。場所によって事情は違うとしても、これだけ違うのが移送費用の問題だけなら、高い自治体はコスト削減に怠慢です。違法駐輪の抑止効果を念頭に高い移送手数料を設定しているならば、買い替えを促し、廃棄物を増やすことになるのも間違いないでしょう。
さて、これがヨーロッパの国、例えばデンマークあたりだったらどうなるでしょうか。デンマークにも迷惑駐輪が無いわけではありません。日本と比べると、駐輪場の整備も格段に進んでいますが、撤去や移送ということもあるようです。とあるデンマーク人の日記..。
2010年9月某日
今日、急な用事があってメトロの駅前に自転車をとめておいたら、勝手に移動されてしまった。少し離れた保管場所に取りに行くと、係のおじさんが、通行の迷惑になっていたので、勝手ながら移送させてもらいましたと言う。駐輪場を使わなかったので、こちらも悪いのは間違いない。
ところが、おじさんは受け答えが丁寧なばかりか、タイヤの空気圧を調整し、チェーンには注油までしてくれていた。ここのところ忙しくてメンテナンスを怠っていたのだ。この対応をされて悪い気はしないだろう。そう言えば、自転車をとめた場所に残されていたメモも親しみやすいものだった。
これは、最近コペンハーゲン市が始めたキャンペーンの一環のようだ。コペンハーゲンでは、自転車に乗る人が非常に多いから、駐輪場もあちこちにあるが、つい、駐輪ラック以外にとめてしまうこともある。メトロの駅前など、通行の邪魔になって問題視されている場所もある。
もちろん、駐輪場の足りていない場所もあるわけだから、そのあたりは当局の改善を望みたいが、だからと言って、自分だけ迷惑駐輪をする言い訳にはならない。少し遠くても駐輪ラックにとめるべきだ。私も市当局も、お互い手間を増やすことになるのだから、今度からは必ず駐輪場にとめるようにしよう。
こちらも日記は架空ですが、事実に基づいています。つまり、実際にこの9月、
コペンハーゲン市はこのようなキャンペーンを行っているのです。こんな対応ならば、次から気をつけようという気になる人も多いのではないでしょうか。少なくとも、自転車を買い替える気にさせるような対応ではありません。
過去にも記事で取り上げていますが、デンマークの場合、職場まで自転車で通う自転車通勤の人が多いですから、駅前に駐輪するニーズは日本ほど高くないでしょう。人口密度も違うでしょうし、駐輪場の整備具合も違い、単純には比較できないと思います。
ただ、同じ撤去・移送でも、市民の受ける印象が大きく違うのは間違いありません。迷惑駐輪する人が悪いのは確かですし、放置自転車を擁護するつもりはありません。単純に性善説とか性悪説の問題でもないでしょうし、このやり方が日本で上手くいく保証もありませんが、考えさせられる部分があるのではないでしょうか。
さらに別のコペンハーゲン市民の日記..。
2010年11月某日
今日、仕事帰りに自転車に乗ろうとしたら、ラベルがつけられていた。何かと思って読んでみると、
ちょっと自転車の状態が良くないようですね。
私たちの店では、安くてカッコいい自転車、用意してます。
よろしければ。
P.S チェーンにオイル注しときました。
Cykelbanditten
というものだった。“Cykelbanditten”という近所の自転車屋だ。確かに私の自転車はガタが来ている。言われなくてもわかっている。余計なお世話だ。でも、チェーンに油までさしといてくれるなんて、気がきいてる。しかも手書きのメモだ。セールスだが、悪い気はしないな。週末にでも、ちょっと店をのぞいてみようか。
これはいわゆる
ゲリラマーケティングとか、ワントゥワンマーケティングと呼ばれるような手法で、自転車店の販売戦略です。単にチラシをカゴに投げ込むような方法と比べて洗練されています。買い替えそうな人を選んで手書きのメモをつけ、さりげなく注油をしておくとは、人の心理を突くうまい手法と言えるでしょう。
でも日本では、ちょっと考えられません。その一番大きな理由は、自転車の安さです。量販店の格安自転車に、このような手法はとれません。格安のママチャリやシティサイクル、見かけだけのニセのスポーツバイクなど、日本では、このようなコストをかけていられない単価の安い自転車があふれています。
このことは、自転車店のマーケティング戦略どころか、普通のママチャリを売るような街の自転車屋さんを廃業に追い込む結果になっています。一方で売り上げを増やす格安販売の量販店は、修理やメンテナンスまで対応しないところも少なくありません。身近で修理してくれる場所が無くなり、使い捨てにされる放置自転車を増やすことになります。
手数料と比べて自転車が格安であることが、放置自転車の撤去・移送をいたちごっこにしているのも明らかです。そもそも格安の自転車は粗悪なものも多く、走行中に破損してケガをするような事例も多数報告されています。不法投棄などゴミ問題にもつながります。
EUでは、中国製自転車に高率の反ダンピング関税をかけることで、粗悪な自転車が流入するのを防いでいます。日本では関税ゼロです。今さら自転車に関税をかけるのは難しいと思いますが、日本では、このことがまさに悪貨が良貨を駆逐する状態にし、いろいろな問題をひき起こしているとも言えます。
日本の消費者は、安く自転車が買えてラッキーと感じているかも知れませんが、実はそのおかげで、放置自転車対策という形の社会コストが発生し、そのぶんを税金や手数料などの形で負担しているわけです。粗悪な自転車が原因のケガや事故のリスクも負わされることになります。
日本とデンマーク、人口密度や貿易政策から、自転車の走行環境や交通政策、歴史や自転車に対する人々の考え方まで、いろいろな面で違うでしょう。ただ、自転車の環境整備に影響を与えるという点でも、見逃せないのが自転車の価格と言えるのではないでしょうか。
もしかしたら日本人は、税金や手数料まで含めて考えると、デンマーク人と同じくらい自転車に費用をかけているのに、はるかに粗悪な自転車に乗らされていることになるのかも知れません。粗悪なぶん、自転車の楽しさや快適性も犠牲になります。実際、日記に書く自転車関連の記述も、両国では大きく違っていそうな気がします。
もしドラが1位ですか、売れているとは聞いていましたが..。こういう本が1位になるとは、ちょっと意外です。
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撤去と移送するだけで放置自転車対策として結果が出るだろうか。
手段そのものが目的となる時
放置自転車は問題だが、その対策が問題を拡大させていないか。
雪が降ろうが自転車をえらぶ
コペンハーゲンの人も都市の自転車政策も日本とはおおいに違う。
世界一の国に見習うべきこと
自転車だけでなくデンマークという国に学ぶべきことは少なくない。
Amazonの自転車関連グッズ
Amazonで自転車関連のグッズを見たり注文することが出来ます。
Posted by cycleroad at 23:30│
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こんにちは。
やっぱり安物だと、「また買えばいいかぁ」となってしまいますよね。
安物自転車は本来の自転車のあるべき"修理して使う道具"という概念を壊し、"使い捨て道具"という概念をもたらしてしまっているのかも知れません。
ママチャリはともかく、中国製のなんちゃってスポーツ自転車に関しては、ヨーロッパを見習って高い関税をかけるべきと感じました。
あと、自分ごとですが自転車のマナー向上ホームページを作ってみました。まだまだ改善すべき点があるのですが、良かったらご覧になってください。
http://sakurabunama.web.fc2.com/index.html
さすらいのクラ吹きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
格安のものを買い替えて使うのも、いい自転車を長く使うのとコスト的には変わらなかったとしても、いい自転車のほうが乗っていて快適で楽しいということもあると思います。
それを撤去されるからということで格安の自転車を選んでいるとしたら、不幸な悪循環だと思います。もちろん、撤去されないような駐輪をすべきなのは当然なのですが..。
FTAとかEPAが取りざたされる時代に、安すぎるからと言って自転車だけ関税をかけるのは、実際問題としてかなり困難だと思います。消費者が選別して、見向きもしなければいいのですが、現状ではそれも見込めません。
一番問題なのは、格安だと粗悪な場合が多いことで、突然破損して怪我をしたり、事故になってしまうことでしょう。安全基準に適合しない自転車を、排除するような形がとれないものなのかなと思います。
いいコンセプトですね。マナーについて書く人が増え、多くの人が、もっと自転車のマナー向上に関心を持ってくれるといいなと思います。
これらの日記からは、デンマークに憧れてしまいますね。現状日本の本質は、粗悪自転車の流入にあるのでしょうか、安かろう…に気付かずそれを求めてしまう側にあるのでしょうか。ニワトリとタマゴかな。ガラパゴス化して袋小路に向っているのかな。
リョウマ様に再登場願って洗濯して欲しいです。「憎しみからは何ちゃぁ生まれん」、放置と撤去のイタチゴッコにけりをつけ、皆にとってどうあるのが心地よく幸せを感じられるのかを共有したいですね。それにはWin-Winのビジネス創出も望まれるでしょうが、志を明確に、逆走退治含めて「ならぬものはならぬ」の徹底浸透努力がまだまだ要りそうに思います。
そうそう、エジプト考古学者の吉村作治さんが、朝日のオピニオンで半ページ以上も怒っておられました。歩道の無法者ら「危険な自転車を止めろ 免許制の導入で」と。歯がゆさに、酔いがさめてしまいました。
七九爺さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
自治体の対応も、さすがという感じですね。
粗悪な自転車の流入と、それを欲する消費者、どちらが原因なのかはわかりませんが、需要と供給のニーズがマッチしているのは間違いないですね。
確かに、放置と撤去のいたちごっこは、資源もエネルギーも税金も自転車代も無駄になるだけで、誰も得をしない悪循環ですから、誰かが一刀両断の元に解決してくれたら、こんなにいいことはないでしょう。
吉村作治氏は、以前にも何かのメディアで同様の意見を展開しているのを見た記憶があります。よほど腹に据えかねているのでしょう。ただ、免許制導入がその解決策として現実的かどうかには疑問がありますね。
朝日の話題が出たので、ご紹介
大阪交通news
http://d.hatena.ne.jp/delalte/
日本の新聞やテレビなどのメディア、マスコミは
自転車の批判には力を入れても
その何百倍もの殺傷性を持ち、法定速度・制限速度を守らず
側方間隔1.5メートル以上あけないスレスレ追い抜き危険運転、暴力運転が当たり前な日本人ドライバーについては何も言わぬ偏向ぶりです
違法駐輪についての記事は目にしても、違法駐車や路駐(事故を誘引する危険な行為です)についてなぜ批判せぬのかわかりません
以下のブログを見て、日本のメディアと行政の歪んだ自動車様思想に憤りを感じたものです
自転車など交通弱者を取り巻く環境について精力的に書かれています
大阪交通news
http://d.hatena.ne.jp/delalte/
たまさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
朝日新聞は購読していないので知りませんでしたが、このような記事があったのですね。
一部にマナーの悪い自転車利用者がいるのは事実ですが、それは何の世界も同じことで、例えばマナーの悪い乗客がいるから「電車の乗客は悪い。」という言い方はしないですよね。
無謀な暴走自転車利用者が悪いのは間違いありません。ただ、交通政策の不備を論じるならわかりますが、自転車を一括りにして暴走自転車とレッテルを張り、全ての利用者に対して免許制などというのは、感情的で的外れでしょう。こんな視野狭窄でヒステリックで偏った批判を掲載する編集者も編集者だと思います。
ただ、決して肩を持つつもりはありませんが、おそらく朝日新聞も、クルマの違法駐車や危険な運転の事実を擁護はしないでしょう。
もしかしたら、今さらクルマの違法ぶりや、暴走ぶりを記事にしても、新鮮味がないというか、当たり前すぎて記事にならないという面もあるかも知れません。
よもや、広告のスポンサーであるクルマメーカーの顔色を気にしてということはないと思いますが..。
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