自転車が関係する事故での死者です。ふだん忘れていることも多いですが、自転車に乗っていれば交通事故に遭って死亡することは当然ながらあるわけで、あらためて事故のリスクを考えさせられます。もちろん、この何倍もの方が負傷しているでしょうし、障害が残った人もあるに違いありません。朝日新聞の記事を引用します。
自転車運転、頭守ろう 米系メーカーがヘルメット配布
米系の大手自転車メーカーが、自転車用のヘルメットを無償で配り始めた。自転車の事故で亡くなる人の6割が頭部を打っているのに、乗車時にヘルメットをかぶる人は1割に満たないからだ。
東京都目黒区にあるウェブサービス会社「はてな」東京本店。昨年12月、「自転車通勤をしている方々へ」と新品の自転車用ヘルメット5個が届いた。スポーツタイプの自転車や関連商品の製造販売で世界的に有名な米スペシャライズド社の日本法人からだ。馬場誠社長(55)は「頭は命にかかわる。しっかり守って安全な運転を」と話す。
警察庁によると、2009年に自転車の関係する事故で亡くなった人は695人。数は減る傾向だが、自動車を含む交通事故全ての死者での割合は約14%で、年々高まっている。死者の63%が頭部に損傷を受けていることに注目した同社は、インターネットを使って約300人の自転車通勤者に調査した。すると、ヘルメット着用者は10%以下だった。
調査では、5人に1人が「通勤中に事故にあった」と回答。一方で、自動車も運転する人の約4割からは、「ヘルメットをかぶっている自転車の利用者のほうが視認しやすい」との答えも得た。
同社によると、欧米と比べて日本では自転車に乗るときにヘルメットをかぶる大人が少ない。理由を調査したところ、「面倒」「暑い」「髪形が崩れる」「格好悪い」が大半を占めた。日本で流通しているヘルメットの多くは欧米向けで、頭の横幅が広い日本人にフィットしにくい。このため大きいサイズを選ばざるを得す、結果として装着感が悪い――と同社はみる。
そこで同社は日本人の頭にあうヘルメットを開発。「まずは無料で配って『食わず嫌い』を解消し、習慣づけてもらおう」と考えた。昨年9月下旬から自転車通勤に熱心な企業から希望を募り、3社に45個を贈ることにした。
真っ先に応募したのが、はてな。01年の創業当初から環境活動に力を入れ、自転車通勤者に月2万円の手当を出している。十数人いる社員のほとんどが自転車通勤者だ。国土交通省などが自転車通勤を促すために創設した「エコ通勤優良事業所」にも認定された。
ヘルメットを受け取ったはてなの田中慎樹執行役員(36)は「学生時代、転倒してヘルメットに救われた。社員にも使ってもらい、安全でエコな自転車通勤の輪を広げてゆきたい」と話す。
スペシャライズド社は利用者からかぶり心地や安全への意識をアンケートし、今後の普及・販促に役立てる方針。一方、日本人向けのヘルメットを生産してきた「オージーケーカブト」(本社・大阪府)は、「ここ数年で利用者は増えている。周りの利用者を見て『意外に格好がいい』と考えて、ますます普及してくれれば」と期待する。(2011年1月17日 朝日新聞)
死亡者数が減る傾向にある理由としては、医療技術の進歩も大きいでしょう。逆に言えば、死亡は免れたものの、大ケガを負って後遺症に苦しむことになってしまった人も相当数に上るものと推測されます。毎年の死亡者数以上に、多くの悲劇が起きていることになるわけです。

死者の63%が頭部に損傷とありますが、重篤な後遺症も含め、頭部の保護が事故の被害を軽減し、死者や重傷者を減らす効果があることは論を待ちません。事故のリスクを完全になくすことは出来ませんから、もし遭った場合の被害を少なくすることは、きわめて合理的な行動です。
にもかかわらず、日本ではスポーツバイクに乗る人の一部を除けば、ヘルメットをかぶっていない人がほとんどです。自転車に乗っていて死亡事故に遭う可能性があることは誰でもわかっていますし、ヘルメットをかぶったほうが死亡のリスクが低くなることも自明です。
死亡率がヘルメットの着用だけに左右されるわけではありませんが、実際に、日本と違ってヘルメットの装着率の高いヨーロッパなどの国、着用を義務付けている国では、日本よりかなり低い死亡率になっています。自転車に乗っての不慮の事故で、年間これだけの人が亡くなるというのは、きわめて不幸な状態と言わざるをえません。
個人的には、ヘルメットをかぶりましょう、などと言うつもりはありません。親が子供にかぶせる努力義務があるのを除いて、法律で義務付けられているわけではありませんし、個人の自由です。かぶろうと思う人が、かぶればいいだけですし、かぶらない人を責めるつもりもありません。
ただ、基本的に国民の命や健康が損なわれることは、社会にとっての大きな損失です。ヘルメットによって尊い人命が失われるケースを減らし、医療費などの社会的コストが減らせることも事実です。後で悔やむ人を減らすためにも、ヘルメットの着用を推進することには意義があると思います。

法律で義務付けられているわけではない以上、かぶりたくない人に、無理やりヘルメットをかぶせるべきだとは思いません。でも、ヘルメットの着用を啓発したり、人々にヘルメットをかぶってもいいなと思わせる環境を整えることで、結果としてかぶる人が増えるのであれば言うことはありません。
現状では、何より周りが皆かぶっていないというのが大きな壁になっています。徐々にでも普及し、かぶっている人が増えてくれば、ヘルメット着用への抵抗も少なくなっていくと思います。逆に、周囲がかぶっているのに、自分だけかぶらないと格好が悪いくらいになれば、誰もが、かぶるようになるに違いありません。
そこまでいくのは大変ですが、もし普及してくれば、人数の面で日本は自転車大国ですから、潜在的な可能性を持つ魅力的な市場と考えるメーカーが出てくるのも不思議ではありません。スペシャライズド社のようなメーカーが販促活動を行うことで、徐々に増えていく可能性があります。
人々がヘルメットをかぶらない理由にはいろいろあるでしょうが、一度かぶってしまうと習慣になるということはあると思います。そうした意味で、スペシャライズド社が無料で配布するなどして、まず使ってもらおうという戦略は、地道ながらも効果があるかも知れません。
ヘルメットに、いろいろな選択肢が増えることも重要だと思われます。自転車用のヘルメットと言うと、どうしても写真のようなタイプという固定観念を持つ人が少なくありません。でも、こうしたタイプが自分には似合わないと感じている人も多いのではないでしょうか。
例えば、帽子だったら、野球帽や麦わら帽子、山高帽に毛糸の帽子、ハンチング帽から目出し帽まで、実にさまざまな種類があります。それほどは無理としても、ヘルメットにも、もう少しバリエーションが増え、自分の好みや似合うものを選べるようになると違ってくるかも知れません。
日本では需要が少ないため、店頭での品揃えが豊富とは言えませんが、最近ではいろいろな種類のヘルメットが出てきています。後頭部にLEDのテールランプを配置し、夜間の後方への視認性をよくするなどの工夫が施された製品もあります。
ここまで派手なものにニーズがあるかはともかく、なかには個性を強調したいという人もいるでしょう。少なくとも夜間の視認性は抜群です。とにかく目立ちたいという人には、こうした個性的なヘルメットを構成できるキットなんかがあってもいいかも知れません。


ヘルメットに一個一個、手書きのペイントを施し、作品としてヘルメットを製作しているアーティストもいます。他人と差別化し、自分だけの一品が欲しいという人には魅力的です。ものによっては、自分のヘルメットを持ち込んで描いてもらうことも出来ます。
有名デザイナーがデザインしたヘルメットもあります。こういう他との違いを打ち出すヘルメットが出てくると、カバンや靴などと同じように、オシャレをする感覚で、かぶる人が出てくるかも知れません。これまでのように実用面だけでなく、所有する満足感や収集の楽しみなどの面も出てくる可能性があります。
夏の日差しを避けるため、ひさしのついたヘルメットがあってもいいでしょう。夏、自転車に乗る時、何らかの日よけがついた帽子をかぶる人も多いと思います。それがヘルメットであってもいいはずです。この人は自作していますが、けっこうニーズはあるかも知れません。


こちらは、普通のヘルメットにファブリックを組み合わせることで、機能的にしています。日ざしを避けたり、首の後ろに日があたるのを防ぐことも出来ます。冬の寒い時用に、耳を覆うような形にすることも出来ます。ニューヨーク市のヘルメット普及政策の一環として依頼されたデザインだそうです。
ヘルメットと言うと、発泡スチロールが使われている場合が多いと思いますが、形状によってはダンポールのほうが衝突エネルギーの吸収に優れるという研究もあります。頭の形に合わせるのも容易で、二次元から切りだして組み立てて使え、軽くて価格も安いので、他にもいろいろメリットがあると言います。
素材ということで言えば、カーボンファイバーで出来たヘルメットもあります。衝撃吸収材は別として、表面のシェルが劣化や破損しにくいというメリットがあります。素材としても高級感があるので好む人もいると思います。こうした選択肢があってもいいでしょう。


こんなユーモアのある製品だったら、かぶってみたくなる人もあるかも知れません。これは、ロシアの広告会社が製作したもので、実際に商品になっているわけではありませんが、ユニークです。昼間だったら、周囲の視線をひきそうです。
フォールディングバイク、折りたたみ自転車で有名な“Dahon”社には、なんと折りたたみの出来るヘルメットもあります。これなら、バッグにも入ります。ヘルメットは自転車から降りた時の持ち運びが不便で、邪魔になるといった不満も解消出来るでしょう。
探せば、いろいろなヘルメットがあるものです。選択肢が増えてくれば、ヘルメットを選ぶのも楽しくなります。需要が少ないので選択肢が増えないという、ニワトリと卵のような部分もあると思いますが、日本でも需要が増えてくれば、ヘルメットの品揃えも充実してくるでしょう。
そして、洋服やカバン、アクセサリーなどを楽しむのと同じような感覚で、ヘルメットをかぶるのがファッションになってくれば、もっと普及していくと思います。事故による死者を減らすためにも、ヘルメットが、出来ればかぶりたくないものから、楽しむものに変わっていくことを期待したいものです。

卓球で最年少勝利更新ですか。しかし、小学生に負けるっていうのも悔しいでしょうね(笑)。
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