私たちは将来、どんな服を着て出かけるようになるのでしょうか。
近未来において、もしかしたら「クルマを着て」、出かけることになるかも知れません。未来の移動手段の
コンセプト・デザイン が、スペインのバルセロナで発表されています。なぜ、クルマと呼んだかと言えば、発表したのが自動車メーカーのBMWだからです。
移動手段を着るという発想でデザインされた、未来の乗り物です。デザインしたのは、“
Istituto Europeo di Design in Barcelona ”の学生で、最終選考に残った5組の作品をBMWがプロトタイプとして製作しました。バルセロナ市内のストリートに展示されています。
VIDEO
大きなチューブを輪切りにしたようなカプセルに入れて展示されているのが、乗り物と服の融合、着ることの出来る移動手段のデザインです。コンセプト・デザインなので、このまま実際に走行が可能なわけではありません。しかし、服と移動手段を結びつけるとは、面白い考え方です。
もちろん環境への負荷を考慮して、全て電動かソーラーパワーが動力として想定されています。現状では、着ることが出来るほどの大きさ・重さで、必ずしも充分な出力が得られそうには思えませんが、最近の技術革新は目覚ましいものがあります。バッテリーなどにしても、今後更なる性能向上が見込まれています。
カーボンナノチューブのような、強度は鉄より強いのに、重さは何分の一というような新しい素材も開発されつつあります。EV、電気カー時代を見据え、研究開発が進むモーターなどにしても、小型化、高性能化が進むでしょう。将来、着たり、背負って運べるくらいの乗り物が出来たとしても不思議ではありません。
そもそも、一人しか乗らないのに、1トンも2トンもあるような車体で移動しているほうが、場合によっては無駄です。未来において、移動手段は着たり、携行出来るような大きさとなり、携帯する移動手段、ウェアラブル・ビークルが普及したとしてもおかしくはないでしょう。
VIDEO
2027年のBMWをイメージした“Svala”は、リカンベントかと思うようなフォルムです。マントを羽織って車椅子に座っているだけのようにも見えますが、れっきとした乗り物です。街角ではポールに駐車するシステムです。自動的にポールを上り、ソーラーパネルの羽根を広げ、駐車中に太陽光で充電しておいてくれます。
“B-Motion”は、まさに乗り物を着るスタイルです。バックパックになっているデジタルスケート部と身体にまとうドレス部分から成っています。色を変えたりすることも出来ますし、保護のため、必要に応じて膨らませることも出来ます。足元の部分は足の圧力によって反応して動きます。
“City Skiing”は、街中でクロスカントリースキーをするイメージです。スキー板にあたる部分には、ごく小さな車輪がついています。ウェアの部分には方向指示器もついていて、安全にも配慮しています。都市の中を移動しながら、クロスカントリーの練習をすることも出来ます。
“Comme des Voitures”は、インラインスケート型です。脊椎を保護するスーツ部はエネルギー発生装置にもなっており、ブーツ部にはセグウェイのような体重移動で走行するシステムが組み込まれています。有機ELによる表示機能を備えたマスクには、しゃべって指示すると、都市の情報を表示させることが出来ます。
“Flymag”は、車輪のついたカーディガンというコンセプトです。体重を左右に移動することで、コントロールしながら走行します。重心が低いので機敏な動きを可能にしており、折りたたんで、やはり背負うような形で収納するようになっています。
これらの作品をどう見るかについては意見が分かれそうです。いくら技術革新とは言っても、その実現可能性や、仮に実現したとしても、果たして実用性があるのかどうか、疑問符がつくものもあるでしょう。BMWがバルセロナのデザイン学校の学生を使って、実際にプロトタイプをまで製作した意図は何なのでしょうか。
ドイツの本社からもデザインや研究部門の社員が派遣されたと言います。単なるお祭りやイベントの余興として企画されたのではないようです。どの作品にもBMWのお馴染みのロゴマークが入れられており、同社の本気度がうかがえます。決してジョークや、ただのアイキャッチというわけではありません。
当然ながら、昨今の環境への意識の高まりから、温暖化ガスを排出しない、クリーンでサスティナブルなクルマを意識する部分はあったに違いありません。よりスムーズで、静かな移動手段として、また同時に、将来のクルマのパーソナル化という可能性を視野に入れた部分もあったのでしょう。
未来を思い描く楽しいプロジェクトであり、若い世代に自由な発想や創造性を求めるコンテストを否定するつもりはありません。新しい技術を開発したり、その革新を促すという意味でも、新しい移動手段のコンセプトを考えることは有益だとも思います。
しかしながら、実際には、わざわざハイテク技術を使うまでもなく、今ある自転車で充分、リカンベントやインラインスケート、スケートボード、あるいは折りたたみ自転車でいいのではないかという気がするのは私だけではないと思います。これらの作品に、何か滑稽感を感じるとしたら、そのあたりの大げさな感じでしょうか。
逆に言えば、真に新しい移動手段、着られる乗り物というコンセプトにふさわしい革新性、独創性、あるいは人々への訴求力という点で、今一つ迫力不足、アイディア不足の感が否めません。デザイン性という部分はともかく、目新しさや驚き、インパクトのあるコンセプトといった部分には欠けるでしょう。
歩行者専用地帯を移動出来る乗り物という捉え方もあるようです。しかし、スピードにもよりますが、電動の乗り物で、歩行者の溢れる歩道をかき分けて進むというのは現実的ではありません。むしろ、クルマの流入が規制された都市の中心部で、車道を走行するような用途が考えられそうです。
欧米などの都市の中には、都市の中心部へのクルマの流入を制限している、または、しようと考えるところが増えつつあります。クルマの渋滞で貴重な公共空間が占有されたり、排気ガスによる大気汚染や排熱などの弊害を避けるため、クルマより人間を中心にした都市環境にしていこうという考え方です。
都市部では、なるべく公共交通や自転車などを活用することで、温暖化ガスの排出を減らそうという動きとも合致しています。ロンドンのような大都市でも、ロードプライシング制度等によって、クルマの通行を制限しようとする都市政策が進んできています。
郊外や都市間の交通、物流などの面では、相変わらずクルマの機動力が必要だとしても、都市部では、クルマを制限するような方向に進む可能性があります。その制限された都市の中心部でも、自転車などに混ざって乗れる電動ビークルとして利用される可能性はありそうです。
健康の為に自分の足でペダルをこぎたい人もいれば、移動で疲れたくないという人もいるはずです。自転車程度のスピードであれば、人力であろうと、フル電動、あるいは電動アシストであろうと、混在する形で走行しても、問題にはならないでしょう。
クルマのスピードでは、衝突安全性もあり、大きく重くならざるを得ません。しかし、自転車と混在出来るくらいのスピードであれば、逆に衝突のダメージが一方的に大きいボディでは問題になります。そこで、持ち運ぶか、着られるくらいのクルマというコンセプトが出てきたのかも知れません。
重さや大きさを大幅に減らせば、動力も少なくて済みますし、クリーンな乗り物になります。渋滞を考えれば、都市部の移動は自転車程度のスピードで充分です。移動のパーソナル化の方向にも合致します。世界中が、こうした都市ばかりになるとは限りませんが、将来のモビリティのビジョンの一であるのは間違いありません。
考えてみれば、日本のトヨタやホンダも、パーソナルビークルというコンセプトで未来の乗り物を発表しています。一方で、ハイブリッドカーや電気自動車、燃料電池車などの開発を進めていますが、クルマメーカーとしては、将来に向け、いろいろな可能性を意識しておく必要があるのでしょう。
未来のパーソナルビークルが、果たしてフル電動の自転車や電動アシスト自転車、バッテリーカー、電動車椅子などと、どう差別化されていくのかはわかりません。ただ、都市部におけるクルマが、より自転車に近づくような形になっていく可能性は、クルマメーカーも感じているのかも知れません。
Amazon.co.jp ウィジェット
首都圏でも雪が積もりましたが、自転車に子供2人を乗せていた母親が、雪で滑って転倒し、子供1人が車にひかれて重傷だそうです。やはり、雪の時の自転車を甘く考えては危険ですね。