規制が可能性を狭めてしまう
電動自転車に乗っていた人が摘発されています。
電動アシスト自転車ではなく、ペダルをこがないでも進むフル電動の自転車です。読売新聞から引用します。
「電動自転車」実は原付き…知らず無免許容疑
無免許のうえ、強制保険にも入らず原付きバイクを運転したとして、静岡中央署は9日、静岡市葵区の無職男性(40)を道路交通法違反(無免許運転)と自動車損害賠償法違反(無保険)の疑いで静岡地検に書類送検した。
男性はインターネットを通じて普通の電動自転車を購入したつもりだったが、実際は運転免許が必要で、整備しないと日本の公道を走行できない中国製の「原付きバイク」だった。県警はよく確認して乗るよう注意を呼び掛けている。
発表によると、男性は2010年11月上旬、インターネットオークションに個人が出品した「電動自転車」を約5万円で購入した。
今年1月、男性は同区瀬名川の市道交差点でこの「電動自転車」に乗っていた際、別の自転車と出合い頭に接触する事故を起こした。同署が調べたところ、男性が乗っていたのは、右ハンドルにアクセルレバーがついていたほか、6速ギアもあり、最大時速が約25キロ・メートル出るなど、道路交通法上は原付きバイクに分類されることがわかった。
原付きバイクを公道で運転するには、運転免許が必要なのはもちろん、ナンバープレートやウインカーを設置し、自賠責保険にも加入しなければならない。男性は「ペダルがあったので電動自転車だと思い、購入した。原付きバイクなのではとの疑問も抱いたが、そのまま乗ってしまった」と話しているという。
静岡中央署の岩瀬栄・交通担当次長は「このような原付きバイクはインターネットなどで簡単に購入でき、知らずに乗っている人がいるかもしれない。公道を走行できるかどうかをしっかり確認してほしい」と注意を呼び掛けている。(2011年3月11日 読売新聞)
近頃、こうしたニュースが時々報じられます。電動アシスト自転車に見えて、実は原付バイクという製品が、ネット通販やネットオークションなどを通じて流通しているようです。記事にあるように、警察は注意を呼び掛けており、地域によっては摘発も強化されています。
無免許でなかったとしても、そのまま走行すれば違反になります。自転車ではなく原付バイクに当たるのに、ウィンカーなどの保安部品もありませんし、ナンバーも無ければ、自賠責にも加入していません。自転車のつもりで走行すれば、いろいろな違反に問われるのは明らかです。
このこと自体は法律違反ですし、警察が摘発するのも当然のことです。電動とは言え原付ですから、見た目が似ているからと、勝手に原動機付き自転車を普通の自転車のように乗ることは許されません。例え小さな違いであっても法律で決められている以上、許されないのは当たり前です。
もちろん、違反者を擁護するつもりはありません。ただ、こうしたフル電動の自転車、海外ではかなり売れている国もあります。例えば中国などでも、普通の自転車と混ざって多数の電動自転車が走っているのを見ることが出来ます。最近はクルマが増えている中国ですが、庶民の足として人気があるのです。
ほかの国でも、フル電動の自転車が走行しているところは増えつつあるようです。国によって法律が違うので、その扱いはいろいろです。電動オートバイの扱いであったり、自転車の扱いだったり、独自のカテゴリだったり、または出力等によって分けられたりしていますが、気軽に乗れる国も少なくないようです。
こちらはドイツのメーカーの製品です。見た目は太めのフレームの自転車のようであり、ペダルもついています。ところが動画で見ると、ペダルも回したりしていますが、電動のオートバイと言うべき製品です。フレームの中にバッテリーを組み込み、普通の自転車のように見えるのに、かなりのスピードで走行しています。
こんな製品も開発されているわけです。こうした高速の電動オートバイは別としても、普通の自転車に、バッテリーとモーターを装着し、電動でも走行できる自転車を製品化するメーカーは増えています。日本とは違い、電動自転車がそのままでも違法とはならない国も少なくないのです。
最近、クルマメーカーは、ハイブリッドカーや、次世代のクルマとして期待されているEV、電気自動車を開発・発売する動きを加速させています。ここで重要になる最近のバッテリーの性能の向上も目覚ましいものがありますが、こうした新しいタイプのバッテリーが自転車にも搭載され始めているわけです。
電気で走るクルマは、直接温暖化ガスを排出しないクリーンなクルマとして、今後の拡大が期待されています。しかし、クルマの大きなボディを動かすには多くのバッテリーが必要であり、そのバッテリーの重さがまたパワーを必要とすることになります。
それならば、逆に車体を軽くすることで、バッテリーの必要量を減らし、そのぶんまた車重を軽くするという考え方も成り立つでしょう。人間1人を運ぶならば、最低限自転車の大きさがあれば足りるということで、ある意味、電気カーのミニマム版としての電動自転車という考え方もあるものと思われます。
内燃機関のこれまでのクルマと比べ、EVの場合は必要なパーツが圧倒的に少なく、参入が容易と言われています。複雑なエンジンの開発が不要になり、極端に言えばバッテリーとモーターを買ってくれば製品化出来ます。世界中のベンチャーや異業種の企業がEVの開発に乗りだしています。
さらに、これが電動自転車であれば、開発の敷居が低いのは明らかです。今あらためて、電動自転車の商品化に関心が集まるのも理解できます。電動アシスト機構のような複雑なことをせずに済むフル電動の自転車に人気が集まるのが世界の流れということなのかも知れません。
環境負荷の軽減や省エネの観点から、広く普及する可能性を秘めています。EUは先ごろ2050年までの温室効果ガスの排出削減の行程表を発表しましたが、交通部門において、クルマの利用を減らすことの効果は小さくなく、そうした背景からも注目が高まっているのでしょう。
日本ではフル電動の自転車は原付バイク扱いなわけですが、ヨーロッパなどに見られるように、自転車に準じた扱いにする手はないでしょうか。原付バイク、もしくは電動オートバイよりも気軽に利用できる乗り物として、あるいは電動アシスト自転車と違って、こがなくても済む乗り物として受け入れられる余地があるでしょう。
温暖化対策以外にも、規制を緩和することで、通常の自転車や原付バイク、電動オートバイ、電動アシスト自転車とはまた別の新たな市場が形成されることも期待出来ます。参入の敷居も低いので、ベンチャーを生んだり、産業の活性化や景気の刺激につながる可能性もあります。
普通の自転車とペダルをこがずに済む自転車、現在の原付バイクのカテゴリーに入る製品と自転車を一緒に走行させるなんて、と反発する方もあるかも知れません。でも、歩道を走行させず、車道を通らせるならば、さほど問題にならないのではないでしょうか。
上海などでは、自転車レーンの中にフル電動の自転車も混在して走行しています。日本の感覚だと原付バイクが自転車レーンを走っているのですから、ずいぶんと乱暴な感じがしないでもありません。しかし、いわゆる原付バイクは別にしても、電動でもフレームが自転車と同じものなら、それほど違和感はありません。
言ってみれば、ペダルをこいでいるか、いないかの違いだけです。スピード的にもほとんど変わりません。こうした自転車に近い電動バイクであれば、混在していても問題は少ない気がします。見慣れれば、そんなに違和感も感じなくなるでしょう。
自転車にモーターをつけた電動自転車ならば、今まで障害や脚力などの理由から自転車に乗れなかった人、電動アシスト自転車も利用出来なかった人にも使える可能性をもたらします。坂道などを嫌って自転車を敬遠していた人でも、自転車に乗る人が増えるかも知れません。
歩道走行が当たり前のようになっている日本の場合、今の歩道走行をそのままに規制を緩和するのには無理があると思います。しかし、車道または車道上の自転車レーンの走行を前提として、出力の限られたものであれば、普通の自転車と共存させるという考えもあると思います。
自転車にも電動という選択肢が出来つつある国も多いのに、日本では原付バイク扱いなので、こうした製品のメリットがありません。隠れた人気があって、違法走行する人も増えつつあるようですが、現状では取り締まられることになります。
結果として、日本では普及していないわけですが、日本だけ頑なに規制を堅持するならば、ケータイなどと同じように、ガラパゴスになってしまう恐れがあります。むしろ日本の技術力で、航続距離の長いものなどを積極的に開発し、輸出してもいいくらいでしょう。
大きな括りで言うならば、自転車も電動アシスト自転車も、一定の出力に抑えたフル電動の自転車も、そう大きな違いはありません。自転車の選択肢の一つとして、電動アシストがあるのなら、フル電動もあっていい気がします。このことで、自転車全体の利用が進み、自転車環境の向上につながる可能性もあります。
個人的には、フル電動の自転車から入った人でも、その航続距離の短さ、充電の手間、車体の重さ、特にバッテリー切れ時の重さを経験すると、考え方が変わる人もあると思います。かえってスポーツバイクの方が車体も軽くて軽快に走れるし、航続距離も無関係、健康的だし、結局便利だと思うようになる人もあるでしょう。
折しも、交通基本法案が閣議決定されました。安全を考え、電動自転車を原付バイクと位置付ける今の規制が、必ずしも悪いとは言いませんが、あまりに従来の規制にこだわると、新しいカテゴリーの乗り物の普及の芽を摘み、産業の振興面でも不利になりかねません。
温暖化対策にヨーロッパは真剣に取り組んでいます。今後の世界的な枠組みの先行きは不明ですが、交通面で遅れをとらないためにも一考の余地があります。電動という選択肢を増やして、自転車の活用にはずみをつけるためにも、フル電動の解禁を考えてみてもいいのではないでしょうか。
東京でもかなり揺れました。東北地方は大変な状況になっているようです。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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こんにちは。
フル電動という選択肢があっていいと思いますが、現状だと原付扱いになるので、面倒で難しいですよね。
あと電動といえば、近年原付のエンジンをモーターにそのまま置き換えた電動版原付なるものが注目されつつあります。エンジンがないのでガソリンに依存すること無くオイル交換の必要もありません。また、原付特有のエンジン音もしないので快適でしょう(プリウスのように無音ゆえの問題もありそうですが)。
さすらいのクラ吹きさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃるように、電動の原付が出始めていますね。まだあまり売れていないように聞きますが..。無音の問題もそうですし、航続距離などの問題もありそうです。
フル電動の自転車が現状のように全て原付扱いだと、いわゆる電動の原付と同じなので、その意味は乏しいでしょうね。
出力などを限って、自転車扱いにするのであれば、検討の余地があるように思えます。
開発の敷居が低いのは既存のクルマメーカーにとって大変な脅威ですから、子分であるケーサツとメディアを使って潰しにかかるのは当然の成り行きでしょう、軽車両のカテゴリー再編など以ての外でしょ!些かアヤシイ中国製とて熟成を重ねれば事実上開発停止状態にある日本のマスプロ自転車メーカーは勿論のこと、ホンダ・カワサキ・ヤマハ・スズキをも転覆させるポテンシャルを秘めていると思います。
>電動の原付
EVのインフラ整備はまだ先のこと、プリウスの向こうを張って[電動アシスト+KERS]で航続距離を延ばす、といった工夫でもしないと「コンセントより先には行けない!」。御指摘の通り現行の道交法では原付電動化にメリットは感じられず、前記事にあった「フルサイズのクルマ以外を道路から排除する」口実にされかねません。
自転車に関わる仕事をしている者です。フル電動自転車については色々な意見もあるでしょうが、現在の日本の道路状況では使用は難しいでしょうね。自転車レーンを歩道に作るような国ですから(山手通り)。あれだと自転車は信号を守れないですよ。そののりでフル電動自転車を乗ると危険ですね。また、日本国内で流通している殆どのフル電動自転車が中国製の安いだけの粗悪品ばかりなので、そういう製品を選ぶ使用者のモラルも低く歩道の爆走などにつながります。行政側による使用環境の整備と取り締まり、使う側のマナー向上が必要ですね。あと、製品も修理などのアフターを考えていない設計のものの排除も必要ですかね。
alaris540さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに既存製品の市場の規制緩和につながる改正は、なかなか簡単ではないでしょうね。どういう形かはともかく、既得権益を持つ団体の圧力ということもあるでしょう。
私個人としては、フル電動の自転車を使いたいとは思っていません。
また必ずしも、その規制緩和を望むわけではありませんが、グローバルな市場や、世界での交通政策というようなことも視野に入れておくのは無駄ではないと思います。
なんの分野でもそうだと思いますが、過剰な保護を受けた業界は結局競争力を失ったり、あるいは市場がガラパゴス化したり、ということも往々にしてあります。
一つの問題提起として取り上げましたが、考えてみる価値はあるような気がします。
自転車修理屋さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃるように、自転車レーンを歩道に作るような国というのはありますね。私も本文中で、車道走行に限ってと書きましたが、現状では、歩道走行が当たり前と思っている人が大半です。
歩行者がいてもスピードを出したり、ケータイを使いながら、音楽プレーヤーを使いながら、などルールが徹底されていない状態です。その状態で解禁するのが困難なのは、私もそう思います。
確かに、現状の格安ママチャリと同じように格安で粗悪なものが出回れば、安全性にも問題が出てくるのも必至だと思います。
そのあたりも勘案すると、少なくとも現状では難しいと、私も思います。ただ、世界的な動向も含め将来的な、あるいは総合的な交通政策の中での位置づけを考えてみる意味はあるような気がします。
単に法規に従えば済むだけなのでは?
電気自転車は原付という区分で、何もおかしいところは無いと思いますが。
ただし、当局や販売側もちゃんとPRする必要がありますね。
AstorPiazzollaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
もちろんそうなのですが、ウィンカーをつけたりなど手間がかかるので、原付として乗る意味は薄く、実際そうしている人は限りなく少ないでしょう。それならば、最初から電動の原付にします。
低出力の電気自転車について、欧米やアジアでは、自転車のカテゴリーとしているところもあるので、日本ではどうなのだろうという話です。
ご無沙汰です。
久しく、拝見しました。
二輪・四輪の運転免許が無い。足が悪く普通の自転車に乗るのが困難。このような人達にとっては大変便利な乗り物になり得るのではないだろうか?近所のスーパーまで食料品などの買い出しに行く場合など非常に有用性があると思われる。私も”条件付で”将来的には自転車のカテゴリーの中の一つの選択肢としてあっても良いと思う。
「電動シニアカー」ご存知の方も居るかと。これ、フル電動の三・四輪車。と言う事は、EV車。・・・ではなく、道交法では「身体障害者用の車いす」で”歩行者”扱い。歩道無し、路側帯無しの道路では車道の右側を走って来る。歩行者なので道交法違反にはならない。でも、何故か恐怖を感じない。仮に、これが20km/hで走ってきたら非常に恐ろしい。フル電動自転車、スピードが出て危険と言うのであれば物理的にスピードを制限すれば良い。スピードを制限しても、最終的には使用する人次第だが。
私の居住している自治体、自転車道を新たに設置しているがその道路幅が自転車1.5台分くらいと非常に中途半端。対して歩道は自転車2.5台分くらいはある。正直こんな自転車道は不要。自転車同士の対向が安全に行えない。ママチャリに乗っている殆どの人間が横の広い歩道を走っている。単なる税金の無駄遣いである。
通行人Ωさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
高齢者がクルマの免許を返上すると、買い物にも行けなくなって死活問題になったりすることもあると言います。
そうした点から言っても、高齢化社会に向けて、考えてみる余地はあるように思いますね。
スピード制限、出力の制限は必要になるでしょう。自転車と同じくらいの速さなら、違和感はないと思います。
中途半端な自転車レーンはありますね。自転車の対向については、本来の左側通行を徹底して、自転車レーン内で対向することはないようにするのが理想的だと思います。
現状は歩道走行する人が多くて、左側通行の原則が守られていないというのが背景にあって、なかなか難しいというのがあるのでしょうけど..。
時速20キロを越えなければ保安部品は要りません。
しかしながら、電動アシストなどは時速25キロで歩道をかっ飛ばしていることも多々あると思います。
日本の法律では電動モーターで走る二輪のものについては当てはまりません。今の時代になっても、そんなもんです。
後々何か起きたときのためにでしょうが、何も起こらなければ律儀に原付き登録せずにアシストの振りをしても良いですよね。
原付き登録をしたらしたで、なんか納得いかない事があるかもしれませんよ。
隠れて乗ろうフル電動さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
電動アシストが歩道を猛スピードで走行している状況がありますし、比較的低出力の電動自転車まで原付登録するのは、私も、規制が実態にそぐわない面があると思います。
原付と一緒にするのは、電動自転車のメリットを封じてしまうことになるでしょう。
電動自転車と普通の自転車が混在して走っている国もありますし、考える余地はあると思います。
ただ、その前提として自転車の歩道走行の問題がネックになるでしょう。
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