アメリカ・シカゴに住むガブリエル・レビンソンさん(
Gabriel Levinson)です。3年前、彼は2つの趣味を合わせることを思いつきました。自転車にたくさんの本を積んで出かけるというアイディアです。自分が本を読むだけでなく、読書の素晴らしさを、広く青少年に伝えたいという気持ちがあったからです。
彼は、人間の最も大きな才能の1つが読み書きの能力だと考えています。そして、本を読むことを通して、その能力は人間に無現の可能性をもたらします。読むことによって世界は大きく広がり、読書から得られる先人の知恵や、自分以外の人の考え方や経験を知ることは、人生における大きな助けとなります。
しかし、経済的な理由なども含め、本を手に取ることが出来ない人、あるいは、その大切さに気付くことが出来ない人たちもいます。多くの人にとって、本から得られる知識や知恵は得難い教えとして、人生の中で大いに役立つはずです。広い意味での教育支援でもあるわけです。
公設図書館は、自治体の財政難のあおりで予算の削減に苦しんでいます。人々に読書の大切さを啓発したり、その機会を提供する機能は弱まっているわけですが、市民ボランティアの活動によって、その役割が補完されるケースが増えており、レビンソンさんの活動もその一つと言えます。
もちろん、その他のメディアから得られる情報も、日々の生活には有用でしょう。しかし、テレビや新聞から得られるものとは違う、人生を切り開く知恵や、そのヒントが本には詰まっています。そして、経済的に恵まれない人にとっても、本にアクセス出来ることは重要な意味を持つはずです。
レビンソンさんは天気が許す限り、毎週末公園に本を積んだ自転車で出かけます。そして出版社などから寄贈されたり、寄付によって購入した本を配っています。ほかの著名な非営利組織による青少年の教育プログラムにも触発され、この活動を2008年から行っているのです。
基本的に普通の公園や無料のイベント会場など、誰でも入場できるような場所しか行きません。入場料や入場に対するバリアがない場所で活動することが重要と考えているからです。また、クルマでなく自転車なら公園などにも入ることが出来ますし、自転車であることが彼にとって自由の象徴でもあると言います。
Bookbike.org
本を寄付してくれる出版社にとっては、より多くの読者、消費者を育成することにもなります。無料で手に入れた本がきっかけで、次は本を買おうと考える人も出てくるに違いありません。もちろん、こうした活動の社会的な意義に共感する人も少なくないでしょう。
自転車の本棚には「ご自由にどうぞ」と書いてあり、無料で配っているわけですが、中にはその活動の意義に共感して代金を払ってくれる人もいます。そうした寄付は、また本を仕入れる資金となります。読書好きで、読書がもたらすものの大きさを知っている人ならではの活動と言えるでしょう。
最初、彼はアイスクリーム売りが使う自転車の中古を買うつもりでしたが、適当な一台が見つかりませんでした。新車はあまりに高価だったので、自分で改造して300冊の本が積める3輪の自転車をつくりました。このブック自転車で、彼はこの3年間に4千冊の本を配ったそうです。
あまり恵まれた環境にいるとは思えない子供が、何度もお礼を言いながら、目を輝かせて本を持って帰ったりすることもあると言います。彼が、この活動の意義を実感する時です。もちろん無償の活動ではありますが、彼が他に代えがたい報酬を得ているような気がする時でもあると言います。
レビンソンさんは、このプロジェクトで、人々に読書のきっかけを届けるだけでなく、その過程を彼自身が充分に楽しんでいます。本が好きで、自転車が好き、二つが両立できる上に社会貢献にもなります。まさに趣味と実益を兼ねたサイクリングなのです。
最近のアンケート調査などによれば、日本では本を読まない人が増えているようです。一人あたりの読書時間の統計などを見ても減少傾向にあります。現代人は忙しいということもあるのでしょうが、1ヶ月に読む本の冊数がゼロという人が半数に上るという最近の調査もあります。
特に若い世代では、マンガなどしか読まず、ほとんど読書をしないという人が増えています。子供の興味もゲームやケータイなど、読書以外のものに向かっています。塾に通い、参考書は読んでも本は読まないという子供も増えているようです。他のことで忙しく、本を読む時間が無いというわけです。
テレビやインターネット、あるいはマンガやゲーム、映像メディアなどから得られる情報、知識もあることは否定しません。しかし、じっくり本を読むことでしか得られない先人の教えや人生の知恵があります。読書によって他の人の考え方を知ることは、教養としてだけでなく、人格の形成にも大きな影響を及ぼします。
昨今、日本で指摘されている公共の場でのモラルの低下や、自分のことしか考えない身勝手な人が増えていることの遠因になっている可能性もあるような気がします。やり方はともかく、人々に読書の意義を啓発したり、そのきっかけを提供する活動は、日本でも必要になってきているのかも知れません。
この震災では多くの図書館も被災したものと思われます。今は、他のことで大変な時期だと思いますけど、被災地の人たちがゆっくり読書に親しめるような環境が早く取り戻されるといいですね。
Posted by cycleroad at 23:30│
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