災害にも強い市民のための道
ここのところ、街では自転車に乗る人の姿が増えています。
以前からブームということもありますが、やはり震災を期に見直されている部分も少なくないのでしょう。地震当日、東京では電車が止まり、道路は身動きのとれない大渋滞となりました。結果、何百万人もの帰宅難民が発生し、自転車店の前にも急遽自転車を買い求めようとする人の行列が出来たと言います。
翌週から計画停電が始まったため、鉄道の運行本数が大幅に減り、通勤時間帯は各地で大混乱が続きました。これを受けて自転車通勤を始めた人も少なくなかったようです。自転車で行ってみれば、案外速いということで、その後も自転車を通勤に使っている人が多いものと思われます。
場所にもよるのでしょうが、幹線道路などでは、朝夕の自転車通勤の人が目立って増えました。これに伴い、にわかに自転車に乗り始めた人の中には、交通ルールを知らず、マナーをわきまえていない人もあって、トラブルや危険な状況も生まれています。
車道を逆走する人、歩道でスピードを出す人、ケータイを使いながら走行する人などもいて、事故も起きています。歩行者との事故の急増は、震災前からも問題となっていましたが、ここのところ震災後の自転車通勤が注目を集める一方で、マナーの悪さや事故の増加への懸念がさらに広がっています。
現在優先されるべき課題は被災地の復興です。ただ、これまで、乗っても最寄駅までだった人が都心まで自転車で行くようになり、都市の中心部での自転車の交通量が増加しています。事故防止の必要性からも、都市の自転車の走行空間の整備の必要性が高まっていると言えるでしょう。
ところで、最近自転車に乗る人が増えているのは、何も日本の都市だけではありません。これまでにも、たくさんの事例を取り上げてきましたが、世界の多くの都市でも自転車が見直され、その活用を推進しようという動きが広がっています。アメリカ西海岸の大都市、サンフランシスコもその一つです。
サンフランシスコと言えば、急な坂を上る名物のケーブルカーが思い浮かびます。確かに坂が多く、必ずしも自転車に乗るのに向いた街とは言えません。ところがこの街でも、自転車に乗る市民が増えています。それも、決して一部の限られた人だけが乗っているのではありません。
2006年から2010年の間に、58%も自転車に乗る市民が増えたと言います。もちろん、鉄道やクルマと比べると自転車の機動力は大きくないですから、市民がさまざまな形で移動する全体の距離に占める割合は、まだそれほど大きくありませんが、急激な伸びを示しています。
自転車レーンの整備も進んでいます。そのおかげで、2009年には、サンフランシスコ市民の10人に7人が一度は自転車に乗った計算になると言います。サンフランシスコ市の市長は2020年までに、市民の移動距離の20%を自転車によるものにするという意欲的な目標を掲げています。
NPO法人のサンフランシスコ自転車連合(S.F.B.C)では、“
Connecting the City , Crosstown Bikeways for Everyone !”というキャンペーンを展開しています。みんなのための自転車レーンで街をつなげようと、レーン整備の推進に力を入れているのです。
日本の場合は事故対策として、歩行者と自転車を分離しようという話になります。社会実験と称した数百メートルくらいのレーンも少なくありません。ごく限られた場所に僅かな距離が設置されているに過ぎず、もちろん、それぞれつながってもいません。自転車レーンは必要な場所だけ設置するものであるかのようです。
中には歩道に色を塗っただけのナンセンスな自転車レーンもあります。同じ自治体の中なのに、柵を設けたり、車道の端の路側帯を青く塗ってみたり、体裁も仕様もバラバラです。相変わらず歩道を走っている人もいれば、これ幸いと自転車レーンをジョギングする人もいて、ルールも秩序もあったものではありません。
サンフランシスコは考え方が違います。街をつなげるために自転車レーンを整備しています。自転車で通勤したり、買い物に行ったり、遊びに行ったりするための自転車レーンです。細切れにレーンがあっても意味がありません。当たり前のことですが、街をつないでいてこそ自転車レーンの意味があるのです。
サンフランシスコに住むため、暮らすための自転車レーンがあるという考え方です。そして8歳の子供から80歳のおばあさんまで安全で快適に移動できる自転車レーンを標榜しています。もちろん車道に設けられており、歩行者とはセパレートされています。安全のためにクルマとも分離されています。
安全で走りやすくデザインされた自転車レーンは、あなたの会社の上司であろうと、隣の家の子供であろうと、義理の母親であろうと、サンフランシスコの街中を自由に移動出来るとアピールしています。誰でも安全・快適に移動出来るというのも重要です。
多くの都市では、鉄道や地下鉄、路面電車などの路線網と、クルマやバスの通る道路網があります。どれも網の目のように接続され、利用者の利便性が図られています。歩道や地下通路、ペデストリアンデッキなど、歩いて移動するための通路もつながっているはずです。自転車レーンもネットワークにする必要があります。
もちろん、自転車を鉄道などと組み合わせて使ってもいいですが、自転車レーンも単独でネットワークになっていて初めて、自転車のポテンシャルが活かせます。一部だけ、危ないところだけ自転車レーンを設置したのでは、せっかく整備しても、レーンとしての価値は低いと言わざるを得ません。
駅の近くや、部の場所だけに設けられた自転車レーンでは交通網、都市インフラとは言えません。鉄道のネットワークや道路交通のネットワークとは別に、独立して自転車レーンをネットワーク化することで、都市の交通は重層的になります。それぞれが補完しあうことも可能になります。
イザという時は、帰宅難民の移動手段として、鉄道やバスの代替にもなるでしょう。場合によっては、車道が身動きのとれない大渋滞となる中、緊急車の通り道として活用することも考えられます。自転車レーンはネットワークとして構成するべきであり、交通インフラの一環として位置づけるべきです。
先日の統一地方選では、東京都知事選をはじめ、多くの首長や議会選挙の候補者たちが、災害に強い街をつくることを政策課題とし、公約として掲げていました。災害に強い街を構成する交通インフラ、非常時にも使える交通手段としても、自転車レーン整備の重要性は高まっていると思います。
全ての道路に設置する必要はありません。でも主要幹線道路に自転車レーンを整備するなどして、都市をつなげるネットワークにするべきです。自転車と歩行者の分離や、クルマからの安全性の確保だけを目的に、部分的に道路の形状を見直すのではなく、都市全体を見なければなりません。
S.F.B.Cは、より多くのサンフランシスコ市民が、もっと自転車で移動したいと思っているのは明白としており、レーン網をさらに強化していく姿勢です。日本では、これだけ多くの人が自転車に乗っているのに、自転車レーンの整備が進まないのが不思議なくらいです。
クルマでなく自転車を使うことが、省エネや温暖化対策に有効なのは言うまでもありません。さらに今回の震災で災害に強い、鉄道やバスが使えない時の交通手段としても注目されています。ガソリン価格の高騰や、今回のように供給が滞った場合にも強い味方となります。
自転車に乗る人が増えれば、市民の健康増進にも寄与します。自転車レーンは、単なる事故対策に留めるべきではなく、市民の都市生活のためのインフラと位置付けるべきです。誰もが安全快適に移動するためのもの、そして都市をつなぐネットワークであるというサンフランシスコの考え方は大いに見習うべきだと思います。
ゴールデンウィークは、普通の年なら絶対とれないような宿でも、場所によって空いているようですね。自粛せずにどこか出かけてみますか。
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Posted by cycleroad at 23:30│
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こんにちわです。
昨今のエコ&健康ブームや先月の震災によって、自転車が見直されてきているのは大いに結構だと思います。
で、昨年冬?の改正道路交通法で自転車専用レーンが指定されたり、もっと前から各自治体等で自転車専用道の交通実験等を行ってたりしてますが、一朝一夕には浸透しないのが実情ですね、、
http://jafmate.jp/safe/20101220_1469.php
私も身を持って悪名高い?亀戸の自転車道を走行したり、段差が付いてしまった多摩川サイクリングロードを走行してみたりしましたが、やはり道路をつくる前にモラルと言うか何かしらの教育や広報がまずは必要な気がします、、
http://youtu.be/Go7EbIRrgFE
http://youtu.be/YOyWG8X0zRw
Tomohiroさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
体裁というか整備の仕方もバラバラで、設置されている場所も少なく細切れの自転車レーンでは、使い勝手も悪いですし、注目もされませんし、浸透もしないということでしょう。
どうせやるなら、都市全体に整備することで、その価値は飛躍的に向上しますし、認知度も上がり、浸透もしやすいということはあると思います。
ハードの整備を整備するにしても、体裁もバラバラなら整備に対する考え方、あるいは自転車ゆ安全に対する考え方もバラバラです。
もっと広くコンセンサスをとることが必要なのは間違いなさそうですね。
海外の自転車先進国と言われている都市の考え方をベースに、必要なら日本独自に改善し国をあげてインフラ整備を行うべきだ。管理人さんも言われているが、自転車道もネットワーク化されていなければ本来の自転車道(都市と都市を結ぶ交通網)としての意味をなさない。
この際自転車も免許制を導入する。もちろん、自転車に乗車する時はヘルメットの着用も義務付ける。当たり前だが交通違反者には青キップ(反則金)を切る。四輪車や二輪車のような点数制ではなく回数制にする。(仮に)3回違反すれば強制的に(仮に)3〜5日程度のボランティア活動(被災地へ手助けに行く・老人保健施設などへ介護の手助けに行く・保育園などへ子供たちの相手に行く・自分がいつも通っている道路の清掃に行く・・・等)に従事する。反則金の支払いを拒否すればその時点で回数に関係なく即時に強制ボランティア活動に従事する。職場・学校・自宅には国(警察)からその旨の通知があるので隠せない。
一方で、舗装路はロードバイク・未舗装路はマウンテンバイクに乗った自転車警ら隊を組織する。パトロールを兼ねた、要は自転車の乗り方の見本となるモノ。
細かい事はさておき、これらは単なる個人的な意見なので他人がどう解釈しようが構わないが、これくらいの改革をする気持ちがなければ日本の自転車事情は恐らく変わらないだろう。
自転車のマナーも悪いが歩行者のマナーも非常に悪い。何時から歩行者は横断歩道の赤信号を無視しても良い事になったのか?道交法の第?条に示されているのか?幼稚園児や小学生に対して、どのように説明するのか?
答えられるか?
信号無視する歩行者。
passerby Ωさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
何の落ち度もない歩行者が事故に巻き込まれ、場合によっては泣き寝入りというような状態は、まことに憂慮すべき状態と言わざるを得ません。
人々の自転車に対する見方も厳しいものになりかねず、自転車走行環境の充実という面でも問題です。その意味でも、きちんとした自転車レーンの整備を行う意義は大きいと思います。
確かに、自転車の免許制といった問題はいろいろな議論があると思いますが、現状のさまざまな問題点を、このまま放置すべきではないとは思います。改革が必要でしょうね。
歩行者のマナーの悪さも含め、結局、公共の場でのモラルの低下が著しいということになるでしょうか。
よく指摘されるように、日本人のモラルが劣化している部分なのかも知れませんね。
日本も同様の整備を進めていくべきでしょうね。本当に日本は自転車道路整備について遅れすぎでしょう。
自転車の正しい走り方については、ハードの整備をしつつすればいいのですから。
地面に矢印を書いたり、標識にどう走ればいいのかを書いたりね。
どうも日本では自転車のモラルについて問われる方が不思議と極端に多いのですが
なぜか自動車の法定速度無視行為や、幅寄せやスレスレ追い抜き、クラクションについては甘い味方をする偏った方が多い。
下記の暴走行為が日常的になっているのが日本のドライバーなのですから、自動車にも厳しい目を向けるべきなのです。
・法定速度、制限速度以下で正しく走れない = あらゆる重大死亡事故の元凶
・制限速度ギリギリで正しく走っている自転車を見かけたら、ムキにって制限速度を超えた暴走行為で追いぬく
・3秒前ウィンカー守れない = 二輪巻き込み事故が年間多数起きているというのに一向に減らない
・駐車場所守れない(重大死亡事故の元凶となる路上駐車・違法駐車し放題で罪の意識もない)
・信号のない横断歩道で人が渡ろうとしているのに停止できない = 自動車という圧倒的な凶器をもって、交通弱者の命よりわずかな時間短縮を優先する悪魔的思想
・交差点等の右左折で安全確認のために徐行や停止すらできない。交通弱者である歩行者や自転車に対して異常接近、強引な割り込みをする(これで子供を大勢殺しているのに反省しない日本のドライバー)
・自転車含め二輪への暴力的かつ殺人未遂的なスレスレ追い抜き、幅寄せの日常化(側方間隔1.5メートル以上開けろと教習所で教わったはずだが・・・)
・「警笛鳴らせ」の標識がある場所以外でのクラクション使用(犯罪行為)
・直進自転車、自動二輪に対しての強引かつ危険な割り込み(特に自転車に対して病的なほどに軽薄な意識)
・制限速度以下で道交法を守り正しく安全運転をする善良なドライバーに対して「法律にしがみつき自分勝手」「トロトロ運転」と暴言を吐き煽り運転(車間距離不保持という重大死亡事故の元凶である犯罪行為)をする
・駐車場や側道から国道等に出る際、完全に歩道を跨いで塞いで、どこうともせず往来の妨害、事故誘引行動をやめない
・駐車場内や学校の敷地内ですら徐行できず子供を殺傷する
免許制免許制叫ばれている方がおりますが、免許制の代表格である自動車の現状を見ると自転車免許制の響きもむなしく感じます。
脱原発、CO2削減が叫ばれているなか、ドイツのように自動車の利用は厳しく制限し、自転車が活用しやすいよう
自転車が安全安心快適に走れる自転車用道路、自転車レーンの整備をすることが賢明といえるでしょうね。
サイクルロードさん、これからも海外の自転車利用環境整備が進んでいる国々を紹介していってください。
そうしてこそ日本でも一人一人、日本は自転車道路整備後進国であることを知り、
自転車道路整備先進国になろうという心になる方が増えることは間違いありません。
まずは自転車道路の整備、ハードの整備をしなければ何も始まらない、これは確信を持って言えることです。
日本はあまりに道路行政が自転車が安全快適に走れる道路環境の整備を怠慢しすぎており、
それは世界的に見ても恥ずかしいぐらいのレベルと言えます。
ハードをきちんと整備すれば、ヒトもそれに追いつく、そんなものです。
佐藤さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに、自転車レーンなんて出来ても、この自転車のマナーの悪さでは意味が無いとか、無駄になるだろうと言う人も多いですね。
しかし、私も以前から書いているのですが、ハードによって、マナーが向上するということはあると思います。
例えば、逆走すると、非常に走りにくい構造になっていれば、わざわざたいへんな思いをして逆走する人は減るはずです。自然と左側通行が守られるようになる可能性は高いと思います。
例えて言うなら、人通りの多い液などの通路で、自然と人の流れが出来ます。わざわざその流れに逆らって歩くのはたいへんなので、無意識に同じ方向の人の流れに沿うようになっていくという感じでしょうか。
今、一部で整備されているような、歩道に色を塗っただけのものでは、そうした効果は期待できません。
整備するなら、そうした効果まで計算して、走りやすいレーンを整備すべきだと思います。
その意味で、まずハードをというのは有効だと私も思います。
(続く)
(続き)
クルマの問題については、私も同感です。
過去の記事で、制限スピードを自動的に守らせる機械だとか、自然とスピードを落とさせる方法とか、横断歩道にバーチャルな遮断機を設置するアイディアとか、いろいろ取り上げているのですが、そうした記事を書いた背景には、列挙していただいたのと同じような考え方があります。
例えば、横断歩道での停止義務を守るドライバーはかなり少なくなっていると思います。
そうした違反行為が当たり前のようになってしまい、違法行為が事実上野放しになっています。
そのことが交通事故が依然として多い事態につながっているのは否めません。
見かけ上、交通死亡死者は減っていますが、それも統計の取り方や医療技術の向上などの要因もあると思います。
こうした実態について、多くの人は感覚がマヒして、当たり前のようになってしまっていますが、もっと問題視すべきだと私も思っています。
(続く)
(続き)
そうですね、これまでの道路行政の間違いを認め、それを改め、自転車インフラの整備に政府や自治体が取り組むためには、まず世論というか、市民コンセンサスが形成される必要があると思います。
ありがとうございます。私も、そうなっていけばいいなと思いながら記事を書いています。
もし何か、ご存知の事例、情報などありましたら教えてください。コメント欄にでも書き込んでいただければ幸いです。
駅で市が駐輪場とレンタサイクルのサービスを提供してる
高松はいいですよ。自転車レーンも相当な距離がありますし。
レンタサイクルの受付でウドンマップを配布してるのも
在り難いです。1時間こいでウドン、2時間こいでウドン、
と高松観光が楽しくなります。
末席さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
高松も市が自転車都市を表明して、力を入れているようですね。自転車だと屋島や栗林公園などに行くのにも便利そうです。
家族と一緒だったので、自転車ではないのですが、私も以前に何度も高松には行ったことがあります。
郊外のお店があるとは思えないような場所に、人気のうどん店があったりするのも面白いですよね。
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